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慢性前立腺炎の検査・診断

 慢性前立腺炎で通常行われる検査は、前立腺マッサージ後の尿検査か前立腺液塗沫検査です。この検査で白血球や細菌を確認すると、慢性前立腺炎と診断します。
 ところがこの検査結果と症状に相関関係がないのです。前立腺マッサージ後検査で改善しているからといって、症状はまったく変わらないことが通例です。
 私からすると、前立腺マッサージ後検査は、本当に細菌が原因の急性前立腺炎や慢性前立腺炎の患者さんには有用かも知れませんが、非細菌性慢性前立腺炎の患者さんには無意味な検査だと思われます。
 ところが泌尿器科医は細菌感染の証拠が証明されるまで、しつこく前立腺マッサージ検査をしつこく何度も何度も行っているのが現状です。何度も検査して細菌感染の証拠がでなければ、細菌感染が原因ではないと、何故みんな考えないのでしょう。

 アメリカの最近の報告によると、前立腺マッサージ後の健常者の前立腺液と慢性前立腺炎患者さんの前立腺液を比較したところ、健常者の前立腺液の方が白血球陽性の確率が高かったと云います。前立腺マッサージ後の前立腺液の白血球の存在を慢性前立腺炎診断のより所にしている泌尿器科専門医は真っ青です。

高橋クリニックで行っている慢性前立腺炎の患者さんに行う検査は、次の5つです。

●超音波検査:
膀胱頚部硬化症の存在と膀胱粘膜の肥厚を見ます。
●ウロフロメトリー(尿流量測定検査):
尿流測定検査、簡単にいえばおしっこの勢いを見る検査方法です。
●残尿測定:
排尿直後に超音波を利用して残尿量を測定します。
●尿一般検査:
どこでも行うもっとも基本的な検査です。尿の汚れを見ます。
●内視鏡検査:
膀胱尿道鏡検査です。この検査で重要な所見が得られます。しかし、一般的に慢性前立腺炎は炎症だからと考えて、この検査を嫌う医師が非常に多いのです。そのためにハッキリした原因もつかめずに、意味もなく効かない抗生剤をダラダラと処方し続けることになるのです。
【注】
現在、内視鏡検査を除く4つの検査、超音波エコー検査・尿流量測定ウロフロメトリー検査・残尿量測定検査・尿一般検査で十分に診断できるので、内視鏡検査は通常行っていません。ブログに掲載されている内視鏡写真は、ほとんどが手術直前の写真です。

 他の医療機関で「慢性前立腺炎」と診断された患者さんのほとんどの方にこの一連の検査で排尿障害を証明することができます。慢性前立腺炎は前立腺の炎症性疾患ですから、感覚的な症状はあっても、排尿障害などの機能的・物理的・器質的所見があってはならないのです。もしも機能的・物理的・器質的所見が存在するならば、それは慢性前立腺炎の症状に似た(ここが重要!)、別の病気と考えるのが論理的・科学的思考と私は考えます。

★高橋クリニックでは、前立腺マッサージによる前立腺液検査を行いません。前立腺液に細菌が存在していても白血球が存在しても、それは炎症の結果であって、前立腺の炎症の原因とは思えないからです(炎症とは?を参照)。そしてすでに他の医療機関でさんざんその検査は行われていて、その検査結果は患者さんの症状とは相関していないことは、患者さんご本人が十分ご存知だからです。

●超音波検査
 超音波検査で膀胱頚部硬化症の場合、内尿道口に高輝度(ハイエコー)の所見を認めます。高輝度はその部分が硬いか組織が集中していると考えられます。ですから高輝度の所見があれば、膀胱頚部硬化症を疑う訳です。
 また、膀胱頚部が膀胱内に突出している構造になっていると、排尿時の膀胱収縮時に尿道が圧迫されて排尿障害になります。高輝度の所見がなくても排尿障害の原因になります。

●尿流量測定ウロフロメトリー検査
 患者さんご本人が排尿障害を訴えていなくても、ルーチン検査でこのウロフロメトリー(尿流量測定検査)を行います。患者さんのほとんどの訴えが会陰部の痛みや頻尿・残尿感ですが、この検査で初めて排尿障害を指摘されて、患者さんは驚かれます。

●残尿量測定検査
 上記のウロフロメトリー検査後に超音波検査で残尿を測定します。排尿直後に残尿はゼロの筈ですから、残尿がわずかでも存在すれば間接的に排尿障害が証明されます。簡単な検査ですが、大切な情報です。しかし、この簡単な検査を皆さん行っていないのです。
 これまでの三つの検査で、排尿障害の有無はほぼ100%確認できます。後は、内視鏡検査が確定診断になります。

●尿一般検査
 どこの内科や泌尿器科でも行われるのがこの尿一般検査です。尿の汚れを見る検査ですが、注意しなければならないのは、この検査は泌尿器科の病気を全て完全に反映していないと云うことです。尿検査が正常であっても尿路感染症が存在しないとは証明できません。あくまでも参考程度の検査として捉えてください。ですから、
   「尿検査が正常」=「尿路感染症はなし」=「気のせい」
ではありません。このことを医師も患者さんも正しく理解しなければなりません。

●内視鏡検査
 慢性前立腺炎の患者さんの内視鏡検査で、私が確立した特徴的な所見として、次の五つを挙げることができます。慢性前立腺炎患者さんの全てに、この五つの所見が全て揃っているわけではありません。でも写真をご覧になって分かるように、これだけの所見があるにもかかわらず、慢性前立腺炎と診断され治療経過が長い患者さんのほとんどが、残念ながら内視鏡検査を受けていません。手抜き診断と思われても仕方がありませんね。
 内視鏡検査を行わない、あるいは拒否する理由があります。慢性前立腺炎の炎症がひどくなるという全く根拠のない誤解によるものです。それが患者さんのみならず、医師に至っては情けないの一言です。
 例えば、呼吸器科の医師が原因不明の気管支炎あるいは肺炎の患者さんを診断する時に、気管支鏡を考えないでしょうか?
 例えば、潰瘍性大腸炎の疑いで苦しむ患者さんを目の前にして、大腸内視鏡検査を否定する消化器科専門医がいるでしょうか?
 例えば、長期の前立腺肥大症の患者さんには必ず慢性前立腺炎を合併していますが、手術前に内視鏡検査を行わない泌尿器科医がいるでしょうか?
 全て否です。それなのに、非細菌性慢性前立腺炎を診る多くの医師は、炎症が増悪すると言って内視鏡検査を行わないのです。
 内視鏡検査を歴史上初めて行った医師は泌尿器科医なのです。難治性の下部尿路疾患(膀胱・前立腺・尿道の病気)を扱う泌尿器科医は、必ず内視鏡検査を行わなければなりません。もし、この検査を行わないのであれば、それは泌尿器科医として怠慢であり、苦しむ患者さんに対して罪です。

 ●膀胱頚部硬化症の所見
 ●後部尿道炎の所見
 ●尿道球部炎症の所見
 ●膀胱三角部炎の所見
 ●膀胱肉柱形成の所見

 内視鏡検査に当たって注意することがあります。必ず十分な麻酔をすることです。私は必ず仙骨神経ブロック・硬膜外神経ブロック・脊椎麻酔のいずれかを行ってこの検査を行います。一般的な泌尿器科外来ではこの内視鏡検査の時には尿道粘膜局所麻酔のみです。局所麻酔だけですと検査中の痛みが十分に取れません。すると内視鏡検査の際に患者さんは痛がり、膀胱頚部がすぼまってしまい、痛がってすぼまっているのか膀胱頚部硬化症ですぼまっているのか判断できません。一般的にすぼまっている所見を観察して、医師は「痛がっているのだろう」と勝手に解釈をして正常と判断してしまいます。ですから必ず十分な麻酔が必要です。

●膀胱頚部硬化症の所見
膀胱の出口と尿道の移行部を「膀胱頚部」と呼びます。排尿の時に、膀胱頚部は柔軟に開いたり閉じたりします。ところが慢性前立腺炎の患者さんの膀胱頚部は柔軟性がなく、常にすぼまっているのです。ちょうど「きんちゃく」のようにギュッとすぼまっているのです。私は膀胱鏡検査の時には、仙骨神経ブロックという麻酔で観察します。麻酔がかかっていれば、正常の膀胱頚部は常にゆるんで開いていなければなりません。ところがすぼまっているのです。麻酔がかかった状態ですぼまっているのですから、排尿する時には、十分に開いていないことが容易に想像できます。
【写真上段】おむすび型の膀胱頚部です。横径が3mmしかありません。
【写真中段】すき間型の膀胱頚部です。縦径が3mmしかありません。
【写真下段】別の患者さんのすき間型の膀胱頚部の所見です。近くに寄って観察すると、ポリープが幾つも確認できます。これは排尿障害によってできるジェット流を整流させるために生じる生体反応です。
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Bar in the sky
また膀胱頚部硬化症の内視鏡検査の所見としてBar in the skyの所見が認められます。特に機能性膀胱頚部硬化症の時に見ることができます。
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●後部尿道炎の所見
前立腺の中を通る尿道(前立腺部尿道)の粘膜が異様に汚れた所見を示します。
「後部尿道炎」なる病名が存在しないと説明なさる医師もおられるので補足します。尿道括約筋から内尿道口(膀胱頚部)にかけてを解剖学的に後部尿道といいます。別名、前立腺部尿道ともいえます。慢性前立腺炎患者さんの内視鏡検査でこの部分の粘膜が汚れていることが多くあります。少なくとも私が在籍した慈恵医大泌尿器科では、原因はともかくとして、この所見を後部尿道炎として捉えていました。もしもこの病名をつけなければ、この所見をただ単に「汚れている」「きたない」「粘膜異常」などと表記するだけ、それ以上論議の対象になりません。あえて「後部尿道炎」という病名を声高に主張することで「慢性前立腺炎」という病気の真理が見えてくると思いませんか?
 頭の良い医師は、今ある周知の病気や治療法を深めることには非常に長けています。私のように頭がソコソコの医師は「ひらめき」に情熱を燃やします。病名を無理やり自作してでも病気を治したいと思うのは罪でしょうか?
【写真上段】所々黒色小結石が点在し粘膜もポリープ状になっている。
【写真中段】血管が豊富で容易に出血し、精丘(精液が噴出する出口の膨らみ)にポリープが確認できる。
【写真下段】一見イソギンチャク?と思えるほど粘膜が多数のポリープで覆われている。ここまでの患者さんはめずらしいです。
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ちなみに前立腺肥大症の後部尿道の粘膜は綺麗で、後部尿道炎の所見は認めません。

●尿道球部炎症の所見
 尿道が90度(直角)に曲がる部分を尿道球部といいます。この部分に膀胱頚部硬化症で細くなりジェット流になった尿が球部に直接当るので、赤く炎症を起こしています。仙骨神経ブロックで麻酔を行い、粘膜表面麻酔剤を使わずに観察しています。粘膜表面麻酔剤を使用すると、尿道粘膜が発赤しありのままの尿道粘膜所見が観察できなくなるからです。
【写真】尿道球部の発赤3例です。真中の症例は軽度の尿道狭窄の所見もあります。
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【最近の話題から】
ジェット流と乱流
膀胱頚部を十分に開放せずに排尿すると、膀胱頚部(膀胱出口)から前立腺~尿道球部(尿道括約筋を越えた直角に曲がっている部分)にかけて、尿のジェット流・乱流が生じます。
尿のジェット流・乱流は、前立腺を含めた後部尿道に物理的負担(正確には水力学的負担)をかけます。その結果、後部尿道に炎症性ポリープや血管増生などの後部尿道炎を作ることになります。

最近、美浜原発事故で蒸気噴出事故がありました。原子炉で熱せられた一次熱交換水から受けたエネルギーを二次熱交換水が蒸気になり、蒸気タービンを動かし発電機を回転させる仕組みです。この二次熱交換水の冷却後(150℃以上)の配水管が破損した事故です。事故を起こした配水管は、その手前が水流調節のために狭くなっており、ジェット流・乱流ができます。ジェット流が直接当たる配管金属の厚みが、本来の10mmが1.4mmまでに薄くなっており(86%の減肉現象)、それが今回の破裂事故になったと推測されています。
人間の膀胱頚部で生じるジェット流・乱流とは規模が全くことなりますが、後部尿道に発生する水力学的負担を無視することができないことが容易に想像できるでしょう。

東京新聞2004年8月11日記事 rapture040811.jpg


●膀胱三角部炎の所見
女性の慢性膀胱炎ほどハッキリした膀胱三角部炎の所見を呈する患者さんは少ないです。しかし、膀胱三角部の粘膜がわずかにでも変性していれば、膀胱三角部炎と判断します。
「膀胱三角部炎」なる病名は存在しないと説明される医師がおられるので補足します。一般的に病名がないほど膀胱三角部の粘膜所見を軽視している表れです。その結果、「気のせい」などの診断がつくのです。バイオプシー(生検)で採取した組織を染色して400倍~1000倍に拡大し、病理細胞診断を議論するのに、その何千倍も大きな構造物の粘膜所見に名称がないと説明することに矛盾と疑問を感じます。少なくとも私が在籍した慈恵医大泌尿器科には「膀胱三角部炎」なる病名は存在しました。
【写真】25歳男性の膀胱頚部硬化症患者さんの膀胱鏡検査所見です。膀胱三角部の血管が増生しています。
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●膀胱肉柱形成の所見
膀胱肉柱形成は前立腺肥大症の極期の時に、膀胱の疲弊状態(膀胱が排尿障害で弱っている)の時に観察することが出来ます。しかし、前立腺肥大症がない若者にこの膀胱肉柱形成が確認できた場合は、排尿障害が存在すると判断します。超音波検査でも膀胱肉柱形成は確認できます。

●前立腺マッサージ
 過去に前立腺マッサージについて質問があったので、ここで説明します。慢性前立腺炎でない私も実際に前立腺マッサージをやられたらきっと痛いと思います。直腸から軽く前立腺を触れるだけなら痛みはありません。もし軽く触れただけで痛みがあるのであれば、それは急性前立腺炎であって慢性前立腺炎ではありません。
 前立腺マッサージは前立腺組織を頭に描きながら8の字に強くマッサージするのです。検査をする医師の方は前立腺液を少しでも多く、それも組織奥深いところから採取しようと思いますから指に力が入りますし、「慢性前立腺炎」と患者さんに確信してもらうためにも強く痛くマッサージするのだと思います。
 前立腺マッサージ後の前立腺液中の白血球や細菌の存在確認が慢性前立腺炎の証明だと信じられていますが、本当にそうでしょうか?以前にアメリカの文献で、慢性前立腺炎患者さんグループと前立腺症状のない健康な男性グループの前立腺マッサージ後の両者の前立腺液を調べた結果、何と健康な男性グループに、前立腺液に白血球が多く認められたと報告されています。すると、前立腺液の汚れを慢性前立腺炎の根拠にしていたことはかなり意味がなくなる可能性が出てきます。

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