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慢性前立腺炎の誤解

【誤解の背景】
 慢性前立腺炎のうち、細菌性慢性前立腺炎は10%で、その他の90%は非細菌性慢性前立腺炎であることはかなり知られた事実です。アメリカや日本の文献でも広く認められるところです。
 しかし、非細菌性慢性前立腺炎が90%も占めていることが分かっているにもかかわらず、治療と言えば抗生剤を漫然と何ヶ月も長期間患者さんに処方する細菌性慢性前立腺炎の治療が主流です。そして前立腺マッサージによる前立腺液の白血球が消失した時点で病気が治ったとし、症状が取れないのは神経質あるいは心因性と医師が診断するワンパターンの経過をとります。
 患者さんにとっては初診時も白血球が消失した時点も症状が変化していないにもかかわらず、医師は何の疑問も持たずにそのような説明をします。また抗生剤の途中からセルニルトン、漢方薬などに切り替え体質改善などと夢物語を患者さんに説明するのがほとんどだと思います。

さて、誤解には次の5つの誤解が原因となっています。
●原因による誤解
●炎症定義の誤認による誤解
●症状による誤解
●検査による誤解
●医師の勉強不足による誤解
●治療による誤解
これから、その一つ一つを検証して行きましょう。

【原因による誤解】
 ドクターショッピングされる多くの慢性前立腺炎の患者さんを診て気付いたことですが、それまで患者さんが受けた検査と言えば尿検査・前立腺マッサージによる前立腺液検査くらいです。丁寧に検査する医療機関でも造影剤を使った排泄性尿路撮影・超音波検査で終わりです。これら検査は細菌が原因の急性・慢性前立腺炎の時に行う検査に他なりません。
 もしも目の前の患者さんが前立腺炎と同じ症状をもつ「違う」病気であれば、その検査は見当はずれの検査になります。症状が同じだからと言って病気が同じとは限らないのです。疑う病気によって検査は異なります。例えば咳を訴えていらした患者さんの肺炎を疑えば痰の細菌培養検査を行って細菌を同定して抗生剤治療を行いますし、肺癌を疑えば痰の病理細胞診断を行わないと発見できません。同じ咳症状でも行う検査は異なります。
 こんな疑問を持ったので、慢性前立腺炎の患者さんに今までとは違うアプローチの検査をしようと、全ての患者さんにウロフロメトリー(尿流測定検査、オシッコの勢いを判定する検査)、直後の超音波による残尿測定、自然の尿道粘膜を観察したいので粘膜表面麻酔剤を使用しない(その代わり仙骨神経ブロックを使用)内視鏡検査(膀胱尿道鏡)で検査したところ、排尿障害、残尿の存在、膀胱粘膜肉柱形成、膀胱三角部炎、後部尿道炎、器質性膀胱頚部硬化症あるいは機能性膀胱頚部硬化症(排尿筋括約筋協調障害)の所見を認めました。
 慢性前立腺炎と言われる患者さんの本当の原因は排尿障害であって、炎症症状(頻尿・排尿痛・会陰部痛・射精痛・下腹部痛・しびれ)は偽りの表面上の症状と考えるようになりました。急性前立腺炎の腫脹した急性期を除いて前立腺炎には排尿障害は存在しません。排尿障害が存在したら、その病気は前立腺炎ではありません。私はこれを隠れ排尿障害と呼びます。この考えを根拠にレーザー光線・電気メスを使用した内視鏡手術を行い、現在成果を上げています。

【炎症定義の誤認による誤解】
炎症の定義についてご説明しましょう。
「身体が内的環境・外的環境から受ける化学的・物理的・生物的様々の刺激に対する病理学的生命反応を総称」して炎症といいます。例えば、
●骨折による炎症
●火傷による炎症
●硫酸などの化学薬品による炎症
●蕁麻疹などのアレルギー反応による炎症
●細菌・ウィルス感染による炎症
慢性前立腺炎で問題になる細菌やウィルス感染だけが炎症の原因ではありません。なのに慢性前立腺炎の原因をなかなか見つからない細菌に求める現実は、この炎症の定義を知らない医師の誤解によるところが多いように思えてなりません。

【症状による誤解】
 慢性前立腺炎の患者さんは、残尿感・頻尿・排尿痛などの下部尿路症状の他に、会陰部痛・大腿痛・大腿しびれ・足の痛み・足のしびれなどの多彩な症状を訴えます。このような症状を聞いた医師は、なかなか治らない患者さんの病気を「心因性」「精神的」「ストレス性」「気のせい」と誤解し、その後、患者さんを「心療内科」や「精神科」に回すことで、本来なれば泌尿器科医として真剣にこの病気の検査や治療に取り組まなければならないことを放棄したところに悲劇の発端があるのです。
 非細菌性慢性前立腺炎の多彩な症状の理由については、慢性前立腺炎の症状のページでご説明していますが、患者さんの訴えを真剣に聞こうとしない医師に誤解の元があるのです。

         脳中枢→下半身の感覚として認識
  脊髄神経 ↑↑↑
脊髄中枢(情報過多前立腺・膀胱の情報
  知覚神経  ↑
   下半身の筋肉・体表感覚

上は症状の誤解の仕組みを簡単に図示したものです。前立腺・膀胱には本来感覚はありません。自律神経を介して脊髄中枢には前立腺・膀胱の情報が集まります。何かの原因で前立腺・膀胱の情報が過多になると、脊髄中枢での情報処理の能力がパンクしてしまいます。すると、下半身の感覚を脳中枢に伝達する上向性脊髄神経が、誤って前立腺・膀胱の情報を脳中枢に伝達してしまいます。その結果、慢性前立腺炎・慢性膀胱炎の患者さんは下半身の多彩な症状を訴えるのです。

【検査による誤解】
慢性前立腺炎の検査は尿検査・前立腺マッサージ後の前立腺液検査・精液検査です。
これら検査で細菌が確定されれば細菌性慢性前立腺炎、細菌は認めず白血球が検出されれば非細菌性慢性前立腺炎、細菌も白血球も検出されなければ前立腺疼痛症候群・前立腺症・骨盤内うっ滞症候群・骨盤疼痛症候群・陰部神経症などの物々しい名称の病名が付き診断は確定します。
でもよ~く考えてみてください。おかしいとは思いませんか?これらの検査は全て前立腺を含めた下部尿路の細菌感染症を証明するための検査です。頭から細菌証明だけの検査なのです。細菌感染でない場合の病気を追求し調べる検査は行われていないのです。

また、ウェブサイトで次のような記事がありました。
More Bacteria in Controls than Patients!
A September 2003 study by some of the world's top prostatitis researchers produced the shocking finding that normal men have slightly more bacteria in their semen than men with chronic prostatitis (pelvic myoneuropathy). It also showed the traditional Stamey 4-glass test to be invalid for diagnosis of this disorder, and that inflammation cannot be localized to any particular area of the lower GU tract.
慢性前立腺炎の患者さんから採取した精液よりも健常な男性の精液の方に細菌が多く検出されたという記事です。これでは今まで行われた慢性前立腺炎患者さんの証明検査の意味が否定されたようなものです。

もしも細菌性慢性前立腺炎に酷似した症状で、感染症とは全く異なる病気である時には証明できません。他の観点から検査を調べてみたら異なる病気が見つかるかも知れないのに、ほとんどの泌尿器科医が行わないのです。そして尿検査と前立腺マッサージ後の精液検査で異常を認めなければ、例え症状があっても慢性前立腺炎という病気ではなく、「心の病気だ!」と豪語する医師もいるくらいです。こういう思い込みの著しい医師には非細菌性慢性前立腺炎になれば苦しみがよく分かると思います。

【医師の勉強不足による誤解】
症状と病名は常に1対1ではありません。
例えば、咳の患者さんを診たら常に「肺炎」と診断する医師がいたとしたら、その医師はその実力を疑われても仕方がありません。咳の出る病気には他に、気管支炎・喘息・結核・気管支拡張症・肺気腫・神経症・肺癌などがあります。上腹部を痛がる患者さんを診たら常に「胃潰瘍」と診断する医師がいたとしても同じです。上腹部の痛みの出る病気には他に、慢性胃炎・急性胃炎・十二指腸潰瘍・膵炎・胆嚢炎・虫垂炎・大腸憩室炎・アニサキス症・胃癌などがあります。
ところが多くの泌尿器科医は、尿路細菌感染のない慢性前立腺炎症状の患者さんを診ると、常に非細菌性慢性前立腺炎と診断するのです。細菌性慢性前立腺炎や非細菌性慢性前立腺炎と診断された多くの患者さんを拝見すると、それまでに簡単な尿検査と前立腺マッサージ後の前立腺液検査しか行っていません。これでは診察前から膀胱刺激症状を主体とする慢性前立腺炎症状には、細菌性慢性前立腺炎・非細菌性慢性前立腺炎と診断が決まっていると云われても仕方がありません。
賢い小学生に、この2つの検査を行って異常が出れば「細菌性慢性前立腺炎」、正常であれば「非細菌性慢性前立腺炎」と診断しなさいと教えれば、表向きはベテランの泌尿器科医と同じ診断能力になってしまいます。これほど治りの悪い患者さんが存在していて、この診断法だけでは努力不足・勉強不足と私にコケにされても当然でしょう。

【治療による誤解】
非細菌性慢性前立腺炎と診断されても、クラビット・ガチフロ・ジスロマックなどの抗生剤が効いたから細菌が原因だと思われる患者さんや医師がおられます。抗生剤の効果があれば、本当に細菌が原因なのでしょうか?
抗生剤は読んで字の如く、生物を抗する薬です。抗される生物とは細菌ばかりではありません。私たち人間も抗される生物なのです。それが極端に発現したのが副作用と呼ばれる現象です。慢性前立腺炎の過敏な症状は、生物として活発に生きている私たちの証明に他なりません。抗生剤の作用で、その活発な現象=過敏な症状が抑えられるので症状が薄らぐのです。存在しない細菌が死滅するからではないのです。

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コメント

私も、少し冷えると頻尿となり、下腹部になにか「たまる」ような感じがするので、地元の泌尿器科にいきました。やはり抗生剤、そしてしばらくしてから漢方薬をわたされました。【細菌は出ていないのにです。】
そのうち、暖かくなって、あまり「たまる」感じがないようになったので、通院をやめました。
ただ、通院時に、レントゲン写真で゙、右足の付け根のところに、影があり、「血管の石灰化」かもしれないといわれたことがあります。
いずれにしても、根本的な治療はどうすればいいのでしょうか、教えてください。

投稿: えいいち | 2006/03/24 18:14

難治性の慢性前立腺炎は排尿障害が本当の原因だと、私は信じています。
http://hinyoukika.cocolog-nifty.com/cp/
をご覧下さい。

投稿: 高橋クリニックからの回答 | 2006/03/25 22:04

お願いします。45歳の男です、平成25年の1月に肛門から玉にかけて激痛があり、椅子にも座れなくなり、ものすごく尿意があり、トイレから、帰るなり、また、激しい尿意に襲われ、EDにもなりました。ある病院で膀胱拡張検査をしました、、その時に出血があったので、間質性膀胱炎と診断されました。膀胱拡張検査をするまで、おしっこは100ccも出ない時がほとんどでした、今は、おしっこは、1日8回位で200ccは出ますが、下腹部痛と、股の付け根痛、背中痛、胸痛、陰茎の根本が痒く、今は、CT検査や、内視鏡カメラの検査では、異常なしです、私は、間質性膀胱炎でははく。慢性前立腺炎なのでしょうか?特に下腹の真ん中痛がつらいです。
【回答】
間質性膀胱炎も慢性前立腺炎も原因は同じ排尿障害です。
排尿障害を治療すれば、症状は改善します。

投稿: たいかい | 2015/06/11 15:06

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