排尿障害を診断する検査として、尿流量測定ウロフロメトリー検査はとても重要な検査です。通称ウロフロと呼ばれています。
【正常なウロフロ】 (日常診療のための泌尿器科診断学㈱インターメディカから複写、以下同じ)
正常なウロフロの排尿曲線は、上向きに凸の放物線に近い曲線です。一番高い部分を境にほぼ左右対称のシンメトリーです。
これ以外の排尿曲線は何らかの排尿障害があると考えます。
【いろいろな尿流曲線】 患者さんの排尿状態を定性的にも定量的にも評価できる簡単な検査にもかかわらず、この検査を行なわない泌尿器科医がとても多く、そのために排尿障害で苦しんでいる患者さんが不当評価=誤診されてしまうのです。
B型排尿曲線 しかし、尿流量測定ウロフロメトリー検査を行なっても適正に評価されないことがあります。
右のイラストは、排尿曲線のB型と呼ばれる曲線を示しています。このB型曲線は、ご覧のように小刻みな波の集合体が大きな波を形成しています。
B型とは、Bladder Neck SclerosisBNS膀胱頚部硬化症の頭文字のBです。
B型曲線の説明文は、右のようです。
膀胱頚部硬化症や慢性前立腺炎に多く認められる曲線だと記してあるでしょう。
つまり、排尿障害が病気の本質である膀胱頚部硬化症の排尿曲線と、炎症が病気の本質と思われている慢性前立腺炎の排尿曲線が同じであることに不思議な感じを受けませんか?
排尿曲線が同じであれば、同じタイプの排尿障害と考えるべきでしょう。同じタイプの排尿障害が同じ病気ではないと考える方に無理があると思えませんか?そうなのです。教科書的にも膀胱頚部硬化症=慢性前立腺炎を暗示しているにも関わらず、誰一人としてそのように病気を見ていないのです。(この曲線の論文は、出典が1981年泌尿器科紀要からです。)
慢性膀胱炎・間質性膀胱炎のご婦人も、この膀胱頚部硬化症型の排尿曲線になります。
尿流量測定ウロフロメトリー検査の分類が、前立腺を中心にしていることから、尿流量測定ウロフロメトリー検査=男性のための検査と思われているかも知れません。けっしてそのようなことはありません。
しかし、実際にご婦人のウロフロ検査を行なう医師が少ないので、そのように誤解するのも無理からぬことです。
排尿障害を調べるために、自分でできる方法として排尿量を排尿時間で割ると平均排尿速度が計算できます。しかし、平均排尿速度がどんなに良くても、このようなスパイク状の排尿曲線を知ることができません。平均排尿速度が良いから、排尿障害はないと思わないで下さい。
【患者さんの感想】 レポート25の会員 NO、・・・87です。
高橋先生お世話になっております。
ウロフロメトリーの記載を拝見させて頂きました。
僕も 排尿障害が病気の本質である、膀胱頚部硬化症の排尿曲線と、炎症が病気の本質と思われている、慢性前立腺炎の排尿曲線が同じであることに、素人ながら不思議な感じを受けます。
非細菌性慢性前立腺炎という病気は、僕は無いと思います。きっと高橋先生のホームページを泌尿器科医の医師は見ていると思います。 素人に生意気な事を言われたくないと思うと思いますが、僕は高橋先生の考えと同じです。興奮して、思わずメールしてしまいました。高橋先生がよろしければ、ブログに記載して下さい。
PS、 メールアドレスがかわりましが、会員NO、・・・87の○○○○です。
今後とも お世話になると思いますが、どうかよろしくお願い致します。
【参考】 排尿曲線のノコギリのようなスパイク状の波は、スパイク一つ一つが腹圧をかけている証拠です。繰返し何回も腹圧をかけないと排尿できないという膀胱頚部硬化症や慢性前立腺炎の病態を表現しています。
ちなみに、感想を寄せていただいた患者さんは、どんなにひどい排尿曲線かな?とお思いでしょう。実は右に示すようにほぼ正常の排尿曲線でした。このような患者さんの場合、残尿量測定検査で排尿障害を確認します。実際、排尿曲線は正常でも、残尿量は63mlでした。
【正常型】
これは正常の排尿を示す排尿曲線です。
上向きに凸の放物線に近い曲線です。
尿量200ml以上で最大排尿速度25ml/秒以上かつ平均排尿速度15ml/秒以上を正常型とします。(この値は、男性用の正常値ですから、女性の場合はもっと良くなければなりません。)
波形が同じでも、排尿速度がどれか一つでも正常値に満たなければ、排尿障害と判断します。
この基準をいい加減に判断するので、排尿障害があっても異常なしと誤診するのです。
N型とはNormal正常の頭文字のNです。
正常型の排尿曲線です。
実は51歳の時の私の排尿曲線です。勢いがいいでしょう。
立ち上がりの急な角度、ノッチはありますがギザギザ曲線とはいえない波です。
頂点を境にほぼ対称(シンメトリー)です。
49歳ご婦人の正常型の排尿曲線です。
私の排尿曲線よりも数段上です。
一般的に、ご婦人の排尿曲線は、尿道が男性の20cmに対して4cmとはるかに短いので、男性の排尿曲線よりも尿の勢いが良くなるのです。
【前立腺肥大症・尿道狭窄型】
前立腺肥大症や尿道狭窄による排尿障害の場合に見られる排尿曲線です。
尿道が硬くて開かないので、このような排尿曲線になります。腹圧をかけても排尿速度は上がりません。ですから膀胱頚部硬化症型のように鋭いスパイク曲線にはならないのです。
膀胱頚部硬化症も器質化すると、前立腺肥大症型と同じ排尿曲線になります。
O型は、Obstraction閉塞性の頭文字Oを意味します。
【神経因性膀胱型】
膀胱の力がなくなった神経因性膀胱などの排尿障害の排尿曲線です。膀胱出口は前立腺肥大症よりも開くのですが、持続して腹圧をかけることができないので大きな山の排尿曲線が一旦は終了してしまいます。
前立腺肥大症型と区別がつきにくいことがあります。
A型は、Akinetic無力性の頭文字Aを意味します。
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下記に、最近2ヶ月以内に慢性膀胱炎・間質性膀胱炎症状で初診・再診で来院された患者さん60名(作業が大変なので少しずつ掲載します)の初診時のウロフロ検査の結果を示します。間質性膀胱炎患者さんの全員が、このノコギリ様スパイク状の排尿曲線(膀胱頚部硬化症型)になるとは限りません。
慢性膀胱炎・間質性膀胱炎患者さんの排尿曲線は、ほとんどが膀胱頚部硬化症型ですが、女性なのに前立腺肥大症型(台形型)が結構な割で存在します。
また、膀胱頚部硬化症型と前立腺肥大症型を足して2で割ったような混合型も存在します。つまり台形でノコギリスパイク型です。
正常型でも尿の勢いがない場合は、不完全な正常型とします。
5人に1人は正常型の排尿曲線です。
初診時の超音波検査所見と排尿曲線を対比すると何か見えてくるかも知れません。
そこで、膀胱出口を真横から観察した超音波検査所見も提示して考えてみましょう。患者さんの中には、男性の前立腺肥大症のように膀胱出口が見える女性もおられます。慢性前立腺炎の同じテーマの写真と比べると興味深いと思います。 ●年齢
●病歴
●過去の病名
●症状
●排尿曲線の型
●初診時検査直後の残尿量
●超音波検査所見
の順に記載します。ただし、十分な情報がない場合もあります。
頻尿(1日10回以上)の場合は、頻尿を症状として自覚していることを示します。
また、(頻尿1日10回以上)の場合は、若い時から頻尿で頻尿が当然だと思い、症状として自覚していないことを示します。
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【実例】
★28歳女性
病歴:2年
過去の病名:間質性膀胱炎
症状:残尿感、頻尿(1日10回)
排尿曲線:正常型
残尿26ml
超音波検査所見:
膀胱出口の膀胱内突出中等度
膀胱出口周囲の静脈瘤あり
膀胱出口の硬化像あり
★59歳女性
病歴:
過去の病名:気のせい
症状:頻尿(1日30回以上、夜間6回)、排尿痛(尿道・膣)、下肢のモヤモヤ感
排尿曲線:正常型
残尿87ml
超音波検査所見:
膀胱出口の膀胱内突出軽度
膀胱出口周囲の静脈瘤あり
膀胱出口の硬化像著明
★29歳女性
病歴:12年
過去の病名:心因性頻尿
症状:尿意切迫(30分に1回)、頻尿(1日20回以上)
排尿曲線:前立腺肥大症型
残尿5ml
超音波検査所見:
膀胱出口の膀胱内突出軽度
膀胱出口の硬化像あり
膀胱出口周囲の静脈瘤あり
尿道結石あり
★37歳女性
病歴:1ヶ月
過去の病名:慢性膀胱炎
排尿曲線:不完全な正常型
残尿108ml
超音波検査所見:
膀胱出口の膀胱内突出中等度
膀胱出口周囲の静脈瘤あり
★34歳女性
病歴:4か月
症状:頻尿(1日10回)、排尿痛
排尿曲線:正常型
残尿129ml
超音波検査所見:
膀胱出口の膀胱内突出なし
膀胱出口周囲の静脈瘤あり
★44歳女性
病歴:5年
症状:頻尿(1日17回)、残尿感
排尿曲線:正常型
残尿27ml
超音波検査所見:
膀胱出口の硬化像あり
膀胱出口周囲の静脈瘤あり
尿道結石あり
★65歳女性
病歴:2日
症状:下腹部不快感
排尿曲線:前立腺肥大症型
残尿10ml
超音波検査所見:
膀胱出口の膀胱内突出中等度
膀胱出口周囲の静脈瘤あり
尿道結石
★57歳女性
病歴:7年
過去の病名:急性膀胱炎(毎月1回~2回)
症状:頻尿(1日15回以上)
排尿曲線:膀胱頚部硬化症型
残尿15ml
超音波検査所見:
膀胱出口の膀胱内突出軽度
膀胱出口の硬化像あり
膀胱出口周囲の静脈瘤あり
★52歳女性
病歴:20年
過去の病名:間質性膀胱炎(膀胱水圧拡張術)、異常なし
症状:尿漏れ感覚、下腹部痛、頻尿(1日16回、夜間1回)
排尿曲線:膀胱頚部硬化症型
残尿:5ml
超音波検査所見:
膀胱出口の膀胱内突出軽度
膀胱出口周囲の静脈瘤あり
★39歳女性
病歴:36年
過去の病名:心因性頻尿、慢性膀胱炎、気のせい
症状:頻尿(1日40回~50回、夜間6回)
排尿曲線:
前立腺肥大症型、1回尿50ml以下で正確に判断できず
超音波検査所見:
膀胱内の尿がわずかのため不明瞭
★56歳女性
病歴:5ヶ月
過去の病名:慢性膀胱炎?(25歳で精査するも病名なし、硝酸銀の膀胱注入を受ける)、心因性頻尿、過活動膀胱
排尿曲線:不完全な正常型
残尿71ml
超音波検査所見:
膀胱出口の膀胱内突出軽度
膀胱出口の硬化像あり
膀胱出口周囲の静脈瘤あり
★63歳女性
病歴:7ヶ月年
過去の病名:急性虫垂炎手術、3年に1回の急性膀胱炎、間質性膀胱炎
症状:頻尿(1日10回以上、夜間2回)、尿道痛、右下腹部痛、左手シビレ、左右の膝下のシビレ、首の痛み、肩甲骨の痛み、明るい場所で涙が多分泌
排尿曲線:神経因性膀胱型
残尿120ml
超音波検査所見:
膀胱出口の膀胱内突出軽度
膀胱出口の硬化像あり
膀胱出口周囲の静脈瘤あり
★35歳女性
病歴:1年
過去の病名:急性膀胱炎
症状:頻尿(1日15回以上)、残尿感、膣の痛み、尿道痛
排尿曲線:前立腺肥大症型
残尿15ml
超音波検査所見:
膀胱出口の膀胱内突出軽度
膀胱出口周囲の静脈瘤あり
膀胱出口の硬化像あり
★27歳女性
病歴:6年
過去の病名:間質性膀胱炎
症状:頻尿(1日15回以上)、下腹部痛、尿道不快感
排尿曲線:前立腺肥大症型
残尿8ml
超音波検査所見:
膀胱出口の膀胱内突出中等度
膀胱出口周囲の静脈瘤あり
膀胱出口の硬化像あり
★51歳女性
病歴:4年
症状:頻尿(1日20回)、尿漏れ
排尿曲線:正常型
残尿なし
超音波検査所見:
膀胱出口の膀胱内突出軽度
膀胱出口周囲の静脈瘤あり
膀胱出口の硬化像あり
★58歳女性
病歴:4年
過去の病名:繰り返す膀胱炎、繰り返す腎盂腎炎
症状:下腹部痛、残尿感、頻尿(1日10回、夜間2回)、尿失禁(月に5回)
排尿曲線:膀胱頚部硬化症型
残尿225ml
超音波検査所見:
膀胱出口の膀胱内突出なし
膀胱出口周囲の静脈瘤あり
★41歳女性
病歴:3年
過去の病名:気のせい、分からない、間質性膀胱炎
症状:頻尿(1日25回、夜間5回)、陰部の痛み、排尿痛
排尿曲線:膀胱頚部硬化症型
残尿26ml
超音波検査所見:
膀胱出口の膀胱内突出軽度
膀胱出口周囲の静脈瘤あり
尿道結石あり
★41歳女性
病歴:1ヶ月
症状:尿意切迫、のどの不快感、全身倦怠感、陰部のかゆみ
排尿曲線:膀胱頚部硬化症型
残尿7ml
超音波検査所見:
膀胱出口の膀胱内突出高度
膀胱出口周囲の静脈瘤あり
★44歳女性
病歴:2年
過去の病名:慢性膀胱炎
症状:尿意切迫
排尿曲線:膀胱頚部硬化症型
残尿23ml
超音波検査所見:
膀胱出口の膀胱内突出中等度
膀胱出口の硬化像あり
膀胱出口周囲の静脈瘤あり
尿道結石あり
★38歳女性
病歴:4ヶ月
過去の病名:間質性膀胱炎、分からない
症状:恥骨の痛み、膣の痛み、(頻尿1日10回以上)
排尿曲線:前立腺肥大症型
残尿40ml
超音波検査所見:
膀胱出口の膀胱内突出なし
膀胱出口周囲の静脈瘤あり
膀胱出口の硬化像あり
★52歳女性
病歴:30年
過去の病名:急性膀胱炎(年に3回以上)
症状:頻尿(1日15回以上)、尿意切迫
排尿曲線:不完全な正常型
残尿58ml
超音波検査所見:
膀胱出口の膀胱内突出軽度
尿道結石
膀胱出口の硬化像
膀胱出口周囲の静脈瘤あり
★37歳女性
病歴:3ヶ月
過去の病名:急性膀胱炎
排尿曲線:前立腺肥大症型
残尿16ml
超音波検査所見:
膀胱出口の膀胱内突出軽度
膀胱出口周囲の静脈瘤あり
尿道結石
膀胱出口の硬化像あり
★71歳女性
病歴:7年
過去の病名:慢性膀胱炎、腎盂腎炎
症状:尿が出にくい、尿の混濁
排尿曲線:神経因性膀胱型
残尿212ml
超音波検査所見:
膀胱出口の膀胱内突出高度
膀胱出口周囲の静脈瘤あり
★48歳女性
病歴:4年
過去の病名:急性膀胱炎
症状:残尿感、息み時間が長い、(頻尿1日10回)
排尿曲線:不完全な正常型
残尿28ml
超音波検査所見:
膀胱出口の膀胱内突出軽度
膀胱出口周囲の静脈瘤あり
膀胱出口の硬化像あり
★60歳女性
病歴:3年
過去の病名:間質性膀胱炎
過去の治療:膀胱水圧拡張術2回
症状:頻尿(1日60回、夜間10回)
排尿曲線:正常型
残尿64ml
超音波検査所見:
膀胱出口の膀胱内突出軽度
膀胱出口の硬化像あり
膀胱三角部の肥厚
★40歳女性
病歴:20年
過去の病名:神経性頻尿
症状:頻尿(1日15回以上)、就寝前に5分後と6回
排尿曲線:膀胱頚部硬化症型
残尿143ml
超音波検査所見:
膀胱出口の膀胱内突出軽度
膀胱出口周囲の静脈瘤あり
★24歳女性
病歴:5ヶ月
過去の病名:慢性膀胱炎
症状:尿意切迫
排尿曲線:前立腺肥大症型
75ml
超音波検査所見:
膀胱出口の膀胱内突出中等度
膀胱出口周囲の静脈瘤あり
★28歳女性
病歴:6ヶ月
過去の病名:異常なし
症状:下腹部痛、夜間尿意切迫(月1回)、早朝の排尿障害
排尿曲線:膀胱頚部硬化症型
残尿18ml
超音波検査所見:
膀胱出口の膀胱内突出軽度
膀胱出口の硬化像あり
膀胱出口周囲の静脈瘤あり
★38歳女性
病歴:7年
過去の病名:神経性頻尿
症状:頻尿(1日10回)
排尿曲線:前立腺肥大症型
残尿34ml
超音波検査所見:
膀胱出口の膀胱内突出なし
膀胱出口周囲の静脈瘤あり
膀胱出口の硬化像あり
★25歳女性
病歴:1年
過去の病名:神経性頻尿。ビダール苔癬
症状:頻尿(1日10回以上)
排尿曲線:前立腺肥大症型
残尿11ml
超音波検査所見:
膀胱出口の膀胱内突出高度
膀胱出口周囲の静脈瘤あり
★33歳女性
病歴:15年
過去の病名:気のせい
症状:頻尿(1日15回)
排尿曲線:前立腺肥大症型
32ml
超音波検査所見:
膀胱出口の膀胱内突出軽度
膀胱出口周囲の静脈瘤あり
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