カテゴリー「初期の考え方」の記事

慢性膀胱炎の治療

慢性膀胱炎の治療には次の6つの方法があります。

●内服治療
●解熱鎮痛剤坐薬
●神経ブロック
●膀胱内薬剤注入
●膀胱水圧拡張術
●手術治療

内服治療
 慢性膀胱炎の内服治療で使用される薬剤には下記のような種類があります。
・抗生剤
・頻尿改善剤(ブラダロン・ポラキス・バップフォ)
・精神科薬剤(セルシン・デパス・トフラニール・デプロメール)
・胃潰瘍薬剤(プロテカジン)
・αーブロッカー(エブランチル)
・抗アレルギー剤(IPD)

 慢性膀胱炎の治療として細菌性膀胱炎を疑われ抗生剤を長期間投与されるのが一般的です。そして治りが悪いと頻尿改善剤、精神科薬剤が処方されます。さらに一歩踏み込んで、プロテカジン・エブランチル・IPDを処方する医師がいれば、かなり研究熱心な医師です。

解熱鎮痛剤坐薬
 残尿感・頻尿は膀胱の痛み感覚の転換と考えることが出来ます。そのために何らかの形で痛みを和らげることが出来れば、残尿感や頻尿が軽減するのです。内服の痛み止め(消炎鎮痛剤)を飲んでいただいてもなかなか症状が軽快しませんが、痛み止めの坐薬(肛門から挿入する弾丸のような軟膏の固まり)を使用すると、直接膀胱に効くようで残尿感や頻尿の症状が軽快します。この坐薬だけで症状が軽快して、その後まったく薬を使用しなくても日常生活が普通に戻った方がおられます。  
                
神経ブロック
 慢性膀胱炎の経過が長いと、仙骨部の副交感神経が過緊張状態に陥り、神経回路が下り坂をブレーキが利かなくなった自動車のような状態になります。私が得意とする仙骨神経ブロックは、この状態にブレーキを掛け神経興奮の悪循環を断つには最適の治療です。

膀胱内薬剤注入
DMSO(ジメチルスルフォキシド)
ヒアルロン酸

膀胱水圧拡張術
仙骨神経ブロックを事前に行い、膀胱に水圧をかけて少しずつ膀胱容量を拡大させる治療法です。写真で示す患者さんはいつもは100ml~200mlしか尿をためられない方ですが、仙骨神経ブロックのお陰で500ml注入時点でもまだ頑張れる状態です。水圧をかける時の液体は生理的食塩水ですが、その中に薬剤の注入する場合もあります。この一連の治療は外来治療です。来院してから帰宅するまで2時間以内です。
500ml注入膀胱 kakudai500.jpg

手術治療
●膀胱三角部レーザー光線焼灼術
 過敏になっている膀胱三角部を少しでも鈍感にするための治療です。膀胱の感覚は膀胱三角部に比較的多く集中しています。もちろん膀胱全体に膀胱の感覚センサーは広がっていますが、膀胱全部を焼灼することはできません。そこで少なくとも膀胱三角部だけでも治療すれば、膀胱感覚の最大公約数的な治療になる訳です。
 膀胱三角部レーザー光線焼灼術は、膀胱三角部を静めるための治療ですから、更年期型慢性膀胱炎にも若年型慢性膀胱炎のどちらの治療にも補助的に利用できる効果的な治療です。
実例写真 21歳女性患者さんの膀胱三角部レーザー光線焼灼直後の所見です。膀胱三角部を5箇所焼いています。クレーター状の凹みは1ヶ月経過すると正常の粘膜になります。
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●膀胱頚部切開術
 若年型慢性膀胱炎の主要原因は膀胱頚部の拡張障害(膀胱排尿筋尿道括約筋協調障害・膀胱内尿道口狭窄)と私は考えております。開きの悪い膀胱頚部を電気メスで切開すれば、排尿障害は改善され、慢性膀胱炎は治ります。

治療の難しさ
 私が治療した慢性膀胱炎の患者さんは100%治っています、と言いたいところですがそんなわけはありません。治療した患者さんの内、5割の患者さんが非常に良く治り4割の患者さんの症状が軽快しています。残り1割の患者さんの症状は変わらないか不満を訴えておられます。その理由は三つあると思います。

第1の理由
膀胱感覚の「尿意」は本来、膀胱に尿が溜まることによって起きる膀胱伸展の「痛み」です。尿が溜まるたびに膀胱が痛いのでは、生き物として尿をするのが嫌になり最後には水分を取らなくなってしまいます。すると生き物としては致命的ですから、膀胱伸展の「痛み」を脳中枢の神経回路で「尿意」に変換して意識させるのです。この「神経回路」がキーポイントです。
 排尿障害が潜在化すると、排尿のたび毎に膀胱収縮による圧力が膀胱壁に直接跳ね返ってきます(作用反作用の法則)。毎日その刺激を受けていると膀胱も辛くなり少しでも楽な方向に逃げようとします。そのために少ない尿で排尿させようと膀胱システムがフル稼働します。それが膀胱の過敏になり頻繁な尿意すなわち「頻尿」や「残尿感」になるのです。
 「神経回路」が長期間負荷を受け続けると誤作動を起こし始め、膀胱伸展痛が尿意に変換しなくなり、本来の「痛み」、「しびれ」や膀胱以外(尿道・会陰部・下腹部・腰・大腿など)の症状を作り上げてしまうのです。さらに経過が長くなると、この「神経回路」の誤動作は修復しにくくなります。ですから手術で排尿障害を改善しても脳中枢の「神経回路」が修復されない限り症状は改善しないのです。
 治療として「神経回路」の誤動作を和らげるために精神安定剤・抗うつ剤・漢方薬が作用します。排尿障害を治療しなくてもこれらの薬がある程度効き目があるのはこの「神経回路」の存在のためです。
 また、膀胱・前立腺の過敏を和らげるために解頻尿改善剤・解熱鎮痛剤座薬・サプリメント・低周波治療・仙骨神経ブロック・温熱治療・膀胱内薬剤注入(ヘパリン・DMSO)・膀胱三角部レーザー照射などがあります。

第2の理由
第1の理由で頻尿が継続すると膀胱は膨らまなくなります。ちょうど病気で寝てしまった老人がしばらくすると足腰が弱くなって歩けなくなるのと似ています。いわゆる筋肉の廃用性萎縮・関節の拘縮です。膀胱が膨らむのを忘れてしまったと言ったらよいでしょうか。膀胱にとっては膨らまずに縮こまっている方が楽です。
 そうすると、膀胱が硬くなり本当に膨らみません。膀胱容量の極端な低下です。例えば尿が100ml溜まると、膀胱は硬いのでそれ以上膨らまなくなります。すると膀胱内圧力はぐんぐん高くなり500ml以上溜まった時と同じ圧力になりますから強い尿意になり頻回にオシッコに行くようになるのです。
 治療として仙骨神経ブロックまたは硬膜外神経ブロック麻酔下で行う膀胱拡大矯正術の定期的治療があります。
 
第3の理由
以上の「神経回路の誤動作」「膀胱・前立腺の過敏」「膀胱容量の低下」と先日説明した「隠れ排尿障害」の4つの要素が複雑に絡み合い、非細菌性慢性前立腺炎と言われる症候群の患者さんの多様な症状に結び付いていると考えられます。
 私が治療し治った4割の患者さんは「隠れ排尿障害」要素の比重が高く他の要素が低かったからでしょう。症状が軽快した3割の患者さんは「隠れ排尿障害」要素の比重が比較的高く他の要素も同じくらいに高いので「軽快」程度の治り方だったのでしょう。
 3割の無効患者さんは出発点である「隠れ排尿障害」要素は比重が低く、他の要素に主役を奪われ、排尿障害の治療をしても症状の改善を得られなかったのだと考えます。ただし、慢性膀胱炎に対する考え方は私独自の考え方です。正しいか否かは後の世でわかるのだと思います。

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慢性膀胱炎の検査と診断

慢性膀胱炎の検査には、次の五つの項目があります。

●尿検査
●超音波検査
●尿流量測定ウロフロメトリー検査
●残尿測定検査
●膀胱鏡・尿道鏡検査

尿検査
 尿には様々な物質や成分が含まれています。異常な成分として、タンパク・赤血球・白血球・細菌・カビ・円柱などが上げられます。慢性膀胱炎の場合には、今までお話した通り正常の方がほとんどです。ですから、この尿検査だけでは病気の診断には不十分です。

超音波検査
 痛くない検査として有名な超音波検査で、膀胱内の結石・腫瘍などを確認することができます。慢性膀胱炎の場合には、膀胱粘膜が厚くなります。特に膀胱三角部の粘膜の厚みが増加した所見と、粘膜下に浮腫が認められます。ただ、超音波検査の経験があり正常と診断されたとしても、漫然と検査をする医師が存在しますから、その診断の信憑性は疑問です。
●写真:膀胱粘膜の肥厚と粘膜下の浮腫が確認できます。

尿流量測定ウロフロメトリー検査
 慢性膀胱炎の検査で他の病院で行われないのが、この尿流測定検査です。通称「ウロフロ uro-flow-metry」と呼びます。簡単に言うとおしっこの勢いを診る検査です。一般的に前立腺肥大症の男性患者さんの排尿障害の診断に利用されています。

●写真:治療前と治療後の尿流測定検査結果です。縦軸が尿流速度(ml/秒)で横軸が排尿時間(秒)です。スタートスイッチを押してから排尿開始までの時間も重要になります。
 排尿障害がある場合、尿流曲線のグラフの山は高さが低く、裾野が広く、頂がなくギザギザの山脈になります。治療後は、山の高さが高く大きな山型のグラフになります。
治療前 ccpreuroflw.jpg

治療後 ccposturoflw.jpg

残尿測定検査
 排尿後に、超音波検査で膀胱に尿が残っていないか(残尿)を確認し、残っていればその量を測定します。尿流測定検査とこの残尿測定検査の2つで排尿障害の存在を証明できます。
●写真:治療前の残尿は38ml、治療後の残尿は4mlです。

膀胱鏡検査
 内視鏡検査を初めて行ったのが泌尿器科医であったことをご存知ですか?内視鏡検査=泌尿器科専門医なのです。しかるに、最近の泌尿器科専門医はこの膀胱鏡検査を行いません。検査を行わないから、慢性膀胱炎の所見が確認できずに「心因性頻尿」などと誤診してしまうのです。
●写真:若年型慢性膀胱炎に多い膀胱粘膜白苔変性が主体の膀胱白板症3例です。また、膀胱内尿道口狭窄によって二次的に生じる炎症性ポリープ3例です。
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尿道鏡検査
 尿道鏡検査は尿道の長い(約20cm)男性のための検査で、尿道の短い(4cm前後)女性には意味がないと思われていました。しかし女性にも全て尿道鏡検査を行うと、今まで見えていなかった事実が次第に見えて来ました。
●写真:内尿道口の開きが十分でないと、膀胱からの尿流がジェット流になります。ジェット流の環境では乱流が生じます。その乱流を整流化させるために、生体反応としてポリープ状の尿道粘膜の変性が起き、写真のようにたくさんのポリープができます。このようなポリープが確認できれば、例え内尿道口が正常に見えても普段の排尿時には十分に開いていないと云えます。
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【最近の話題から】
ジェット流と乱流
膀胱頚部を十分に開放せずに排尿すると、膀胱頚部(膀胱出口・内尿道口)から尿道にかけて、尿のジェット流・乱流が生じます。
尿のジェット流・乱流は、尿道に物理的負担(正確には水力学的負担)をかけます。その結果、膀胱出口・内尿道口・尿道に内視鏡検査でご覧になった炎症性ポリープや血管増生などの尿道炎を作ることになります。

最近、美浜原発事故で蒸気噴出事故がありました。原子炉で熱せられた一次熱交換水から受けたエネルギーを二次熱交換水が蒸気になり、蒸気タービンを動かし発電機を回転させる仕組みです。この二次熱交換水の冷却後(150℃以上)の配水管が破損した事故です。事故を起こした配水管は、その手前が水流調節のために狭くなっており、ジェット流・乱流ができます。ジェット流が直接当たる配管金属の厚みが、本来の10mmが1.4mmまでに薄くなっており(86%の減肉現象)、それが今回の破裂事故になったと推測されています。
人間の膀胱頚部で生じるジェット流・乱流とは規模が全くことなりますが、膀胱出口・尿道に発生する水力学的負担を無視することができないことが容易に想像できるでしょう。

東京新聞2004年8月11日記事 rapture040811.jpg

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慢性膀胱炎と間質性膀胱炎の関係

間質性膀胱炎の教科書的定義
医学書院 標準泌尿器科学(第6版)211ページでは、間質性膀胱炎について
「感染症ではない。自己免疫疾患または膠原病といわれている。正確な原因はわからない。」
何とも情けない定義です。
自己免疫疾患・膠原病と疑われているにしては、血液検査でこれらの病気を強く示唆する所見は得られません。原因が分からないと、自己免疫疾患・膠原病としてしまう現代医学の悪しき慣習による定義と思っていただいてよいでしょう。

医歯薬出版株式会社 エッセンシャル泌尿器科学(第6版)60ページでは、間質性膀胱炎について
「中年女性に多く、粘膜下層、間質に慢性炎症を認める疾患である。原因は不明であるが、遺伝、アレルギー、リンパ系のうっ滞などが疑われている。近年では自己免疫疾患とする説が有力である。炎症が高度のものでは膀胱の萎縮をきたす。欧米には比較的多い疾患であるが、わが国ではきわめてまれな疾患である。」
日本ではまれな病気と位置付けされていますが、実際は想像以上に悩んでる女性の多いことが判明してきました。

最近では、間質性膀胱炎の患者さんの訴えをまとめた書籍が出版されています。
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慢性膀胱炎と間質性膀胱炎との間には・・・
無菌性あるいは非細菌性の慢性膀胱炎の終着駅の一つが間質性膀胱炎だというのが私の自論・仮説です。
慢性膀胱炎の原因が排尿障害であるという自論を展開していますが、その排尿障害の終点が二つの形に分かれます。
一つは神経因性膀胱で二つ目が間質性膀胱炎です。どちらも排尿障害の結果もたらせられる膀胱の拡張性と萎縮性の両極端の退行変性障害と考えると理解しやすくなります。そして慢性膀胱炎も間質性膀胱炎も排尿障害を早期に治さないと、どちらの病気も治らないことになります。

               排尿障害
                ↓↓↓
            無菌性慢性膀胱炎
             ↓↓        ↓↓ 
     神経・筋肉の過伸展  細胞間のコラーゲン増加
           ↓↓↓       ↓↓↓ 
       神経・筋肉の断裂   膀胱伸展性の低下
           ↓↓↓       ↓↓↓
       神経・筋肉の麻痺   膀胱容積の縮小
           ↓↓↓       ↓↓↓ 
         神経因性膀胱   間質性膀胱炎
           ↓↓↓       ↓↓↓ 
           残尿増大     極端な頻尿
           ↓↓↓       ↓↓↓ 
       細菌性慢性膀胱炎  日常生活への支障

今までのように間質性膀胱炎を突然ふって湧いたような独立した原因不明の病気として捉えると、ただ単に対症療法に終始してしまいます。例えば、膀胱が硬く小さく萎縮したから拡張する、頻尿は膀胱粘膜が過敏だから過敏さを抑える薬を内服したり膀胱注入する、などです。しかし、これでは間質性膀胱炎の根本治療ではないので、患者さんが満足するには程遠い治療になります。
膀胱が退行変性を起こす原因すなわち排尿障害を早急に見つけ出して治療することこそ、間質性膀胱炎の本当の治療であると私は考えています。

【ひとり言】
検査・治療する医師も泌尿器科学会や教科書的な紋切り型の知識のみで判断するのではなく、一つ一つ自分の頭で考え試行錯誤しながら患者さん正対しなければなりません。人間の体や病気、またその仕組みはそんな単純なものではない筈です。尿検査で異常ないから「気のせい」などと簡単に診断する医師は、自分が初めて医師になった時の無増の医学知識の前の謙虚さを忘れているのでしょう。金をかけた装置や設備を利用した遺伝子分析・遺伝子治療の知識だけが学問ではない筈です。相対性理論のアインシュタインで有名な理論物理学のように、自分の頭だけで行える無限の思考による理論医学も存在するのです。

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慢性膀胱炎の原因

【本当の原因】
外来診療の多数派である細菌感染のない慢性膀胱炎の患者さんは全て神経症やノイローゼなのでしょうか。そんな馬鹿な話はない筈です。私は多くの慢性膀胱炎は細菌感染が関与していないと断言します。では、慢性膀胱炎の本当の原因は何でしょうか?

長年数多くの慢性膀胱炎の患者さんを拝見していますと、その原因がまず年齢で分けるられることに気付きます。
つまり、
●若年型:20歳前後から40歳代
●更年期型:50歳代から高齢者
です。膀胱鏡検査で膀胱の中を拝見すると、どちらの年齢層も「膀胱三角部炎」の所見が見られます。

膀胱三角部とは膀胱の中で二つの尿管口と膀胱の出口を結んだ三角形の部分を云います。この部分は膀胱の感覚神経が比較的多く集まる場所です。言い換えると、膀胱の「尿量知覚センサー」のような場所です。この膀胱三角部が炎症を起こすと、センサーの働きが過敏になり残尿感や頻尿などの症状を誘発するのです。
膀胱鏡検査で観察できる若年型の膀胱三角部炎は毛細血管増生・顆粒状変性・白苔(はくたい)変性が見られます。更年期型は濾胞(ろほう)状変性・嚢胞(のうほう)状変性・リン酸塩沈着結痂が見られます。

【更年期型慢性膀胱炎の原因】
更年期型慢性膀胱炎は女性ホルモンの低下による、膀胱粘膜萎縮が原因と考えられます。ですから女性ホルモンの補充療法を治療として行うことにより、膀胱粘膜は潤い、みずみずしくなり、若返るので症状が改善します。

【若年型慢性膀胱炎の原因】
しかし、若年型はそう簡単に原因が分かりませんでした。「分かりませんでした」と過去形で表現したのは、今はその原因が分かったからです。いや、恐らくこれが原因だろうと思えて仕方がありません。泌尿器科学会にも発表していませんから、私の自論として参考にお読み下さい。

膀胱鏡検査で膀胱三角部炎の所見を認めたものの、それは結果であって、何故そのようになるのか原因が分かりませんでした。膀胱三角部炎で過敏になった膀胱三角部をレーザー光線で部分的に焼灼することで、患者さんの苦しみを軽快させることは容易にでき、患者さんには感謝されたのですが、何かシックリ来ないのです。原因が見えてこないからです。
それまで、私も教科書の定義通り何らかの細菌感染が原因か、体質で慢性膀胱炎になるのだろうと漠然と思っていました。しかし、明らかに基礎疾患がない健康な20歳前後の頻尿・残尿感に苦しむ女性を何人も見る度に、『これではいけない!何かおかしい』と自問自答していました。

【慢性膀胱炎と排尿障害】
慢性膀胱炎の患者さんは、世代的には20歳前後から40歳代の女性の方がほとんどです。症状の多くは、頻尿・残尿感などの尿路症状ですが、おしっこが出にくいと訴えて来院される患者さんは少数派です。たまに、おしっこが以前から出にくいのだが、泌尿器科専門医に症状を訴えても、「若い女性でおしっこが出にくい訳がない!気のせいだ!」と言われてあきらめていた患者さんがほとんどです。

そのように訴えられた慢性膀胱炎の患者さんに尿流測定検査と残尿測定を行っていただくと、明らかな排尿障害と残尿が認められたのです。「慢性前立腺炎のページ」で説明したように、慢性前立腺炎のような軽微な炎症疾患にもかかわらず排尿障害が存在し、その排尿障害を治療すると慢性前立腺炎の症状が軽快したのをヒントに排尿障害の検査を慢性膀胱炎の女性患者さんにも行うようになりました。

慢性膀胱炎の患者さんには全例、排尿障害を捜す検査(尿流測定検査・残尿測定検査)を行うことにしました。するとどうでしょう!全員と言っていいくらいに排尿障害が見つかるのです。慢性膀胱炎のような軽微の炎症では物理的・機能的な排尿障害があってはならないのです。慢性膀胱炎と呼ばれる病気は、実は排尿障害の症状だということが分かってきました。
尿流量測定ウロフロメトリー検査 ccpreuroflw.jpg


【慢性膀胱炎と炎症性ポリープ】
そこで、内視鏡検査を行うと、もっと明解な答えが得られました。膀胱と尿道の移行部、膀胱頚部と呼ばれる膀胱の出口の開きが悪いか、狭い(すぼまっている)のです。そして、女性の膀胱鏡検査では一般的に行わない尿道鏡で観察すると、膀胱頚部にポリープが多発している患者さんを多く見かけます(写真)。今までは無価値な「炎症性ポリープ」と診断し、私も含め、炎症性ポリープの存在意義を深く考えもしなかった泌尿器科専門医でした。しかし慢性前立腺炎の項目で説明したように、生体反応で意味のない反応はない筈だという私の信念の元、この炎症性ポリープは尿のジェット流を生じる排尿障害の二次的変化であると、私は仮説を立てて論理を構成していくと、矛盾なく病状が説明できるようになりました。
 「炎症性ポリープ=尿ジェット流=膀胱頚部開口障害=排尿障害」という図式です。
 また、炎症性ポリープの存在がなくても、膀胱三角部炎や膀胱肉柱形成の存在が確認できれば、間接的に膀胱頚部開口障害があると断定しても誤りではないことが、治療成績で判明しました。
炎症性ポリープ 
polyp.jpg

 排尿障害から慢性膀胱炎に至る流れを簡単に図式で表すと下図のようになります。

【排尿障害から慢性膀胱炎への流れ】

              膀胱内尿道口狭窄
                 ↓↓↓
                 排尿障害
                 ↓↓↓
             慢性的な物理的刺激
                  ↓↓↓
            膀胱の慢性的物理的障害
                  ↓↓↓
               膀胱三角部炎
                 ↓↓↓
               膀胱の知覚過敏
                 ↓↓↓
            慢性膀胱炎様症状(無菌性)
                 ↓↓↓
   大脳中枢・脳幹部中枢・脊髄中枢の興奮の持続と過敏
                 ↓↓↓
              多彩な症状と難治性
                 ↓↓↓
     「慢性膀胱炎・神経性頻尿・心因性頻尿・気のせい」
                と診断される

【最近の話題から】
ジェット流と乱流
膀胱頚部を十分に開放せずに排尿すると、膀胱頚部(膀胱出口・内尿道口)から尿道にかけて、尿のジェット流・乱流が生じます。
尿のジェット流・乱流は、膀胱出口・尿道に物理的負担(正確には水力学的負担)をかけます。その結果、内尿道口・尿道に炎症性ポリープや血管増生などを作ることになります。

最近、美浜原発事故で蒸気噴出事故がありました。原子炉で熱せられた一次熱交換水から受けたエネルギーを二次熱交換水が蒸気になり、蒸気タービンを動かし発電機を回転させる仕組みです。この二次熱交換水の冷却後(150℃以上)の配水管が破損した事故です。事故を起こした配水管は、その手前が水流調節のために狭くなっており、ジェット流・乱流ができます。ジェット流が直接当たる配管金属の厚みが、本来の10mmが1.4mmまでに薄くなっており(86%の減肉現象)、それが今回の破裂事故になったと推測されています。
人間の膀胱頚部で生じるジェット流・乱流とは規模が全くことなりますが、膀胱出口・尿道に発生する水力学的負担を無視することができないことが容易に想像できるでしょう。

東京新聞2004年8月11日記事 rapture040811.jpg

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非細菌性慢性膀胱炎の分類

非細菌性慢性膀胱炎
雑菌が原因でない慢性膀胱炎です。原因となる基礎疾患がありませんから、原因不明で恐らく「気のせい」あるいは「精神的」「心因性」と診断されてしまう膀胱炎です。一番多いタイプの慢性膀胱炎です。
●若年型慢性膀胱炎
●中高年型慢性膀胱炎


若年型慢性膀胱炎
10代後半から30代後半までに起きる慢性膀胱炎です。このタイプが非細菌性慢性膀胱炎の一番多い膀胱炎です。写真の白苔変性の慢性膀胱炎はこのタイプです。
私見では、患者さんが気が付かない排尿障害が慢性膀胱炎の原因と考えています。
下の写真は、膀胱粘膜白苔変性の慢性膀胱炎の内視鏡所見です。膀胱出口から膀胱三角部にかけて白い苔(こけ)状の粘膜変性が確認できます。この方も尿検査には異常なく、「気のせい」と診断されていた女性です。
white_belag.jpg

下の写真は、内視鏡で観察された膀胱出口の多数のポリープです。慢性膀胱炎の患者さんには炎症性ポリープと呼ばれるこのようなポリープの存在を観察できます。従来は特に意味のない存在としか認識されていませんでしたが、私はこのポリープの存在を排尿障害の証拠と認識しています。
polyp.jpg

中高年型慢性膀胱炎
更年期(45歳~55歳)を過ぎてから起きる非細菌性慢性膀胱炎です。女性ホルモン低下が主な原因です。写真の濾胞変性の慢性膀胱炎はこのタイプです。
下の写真は、膀胱粘膜濾胞変性の慢性膀胱炎の内視鏡所見です。膀胱粘膜が凸凹しているのが観察できます。こんな状態でも尿検査は異常なしです。
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細菌性膀胱炎

急性膀胱炎(細菌性)
一般的に知られている急性膀胱炎は若い女性がかかる細菌性急性膀胱炎です。
90%以上の女性がセックスが原因の急性膀胱炎です。
症状は血尿・排尿痛・残尿感・頻尿です。
検査は尿検査で簡単に判定できます。尿中に白血球・赤血球・細菌が検出されますから、診断は容易です。
治療は、ニューキノロン剤・セフェム剤・ペニシリン剤などの抗生剤の内服です。原因の細菌を殺すことが出来れば抗生剤は何でもOKです。3日も内服すれば症状は嘘のように軽快します。

慢性膀胱炎(細菌性) 
必ず細菌感染を起こしやすい基礎疾患が存在します。例えば、
・脳梗塞・脳出血で膀胱の働きが低下した神経因性膀胱
・腎結石や膀胱結石
・膀胱結核
・癌の放射線治療後の後遺症である放射線性膀胱炎
・子宮癌や直腸癌が膀胱に浸潤している
・糖尿病で寝たきり状態
などの重篤な基礎疾患です。
このような患者さんはすでに基礎疾患が分かっているので、慢性膀胱炎症状で苦しむことはありません。なぜって?それは基礎疾患の方がはるかに苦しいからです。

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膀胱炎とは?

【概念】
何ならかの原因で膀胱粘膜が炎症を来たす病気を膀胱炎といいます。
膀胱炎は細菌性と非細菌性の大まかに2つに大別されます。(細菌性だけではないのです!
●細菌性膀胱炎
1.急性細菌性膀胱炎
2.慢性細菌性膀胱炎
●非細菌性膀胱炎
1.ウィルス性急性膀胱炎
2.非細菌性慢性膀胱炎
  ①若年型慢性膀胱炎
  ②中高年型慢性膀胱炎
3.アレルギー性膀胱炎
4.間質性膀胱炎

女性患者さんが精神的にも肉体的にも長期に渡って苦しむのが、非細菌性慢性膀胱炎と間質性膀胱炎の2つです。
このページでは、これら2つの膀胱炎について重点的に解説したいと思います。他の細菌性膀胱炎(急性・慢性)やウィルス性急性膀胱炎、アレルギー性膀胱炎は原因が明白で治療が容易なので、簡単に解説します。

【慢性膀胱炎の教科書的定義】
 慢性膀胱炎の定義に関しては、医学書のほとんどが細菌性慢性膀胱炎のことしか定義されていません。
例えば、医学書院 標準泌尿器科学(第6版)211ページでは、
無菌性膀胱炎:細菌感染によらない難治性の膀胱炎である。原因は不詳である。
この定義によると、尿検査が正常で細菌感染が認められない慢性膀胱炎様症状は、「気のせい・心因性・精神的」と診断されても仕方がないことになります。

【間質性膀胱炎の教科書的定義】 
同じく医学書院 標準泌尿器科学(第6版)211ページでは、
間質性膀胱炎:感染症ではない。自己免疫疾患または膠原病といわれている。正確な原因はわからない。
何とも情けない定義です。
 医歯薬出版株式会社 エッセンシャル泌尿器科学(第6版)60ページでは、
「中年女性に多く、粘膜下層、間質に慢性炎症を認める疾患である。原因は不明であるが、遺伝、アレルギー、リンパ系のうっ滞などが疑われている。近年では自己免疫疾患とする説が有力である。炎症が高度のものでは膀胱の萎縮をきたす。欧米には比較的多い疾患であるが、わが国ではきわめてまれな疾患である。」
日本ではまれな病気と位置付けされていますが、臨床の現場では想像以上に多いと私は考えています。

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