慢性膀胱炎の治療
慢性膀胱炎の治療には次の6つの方法があります。
●内服治療
●解熱鎮痛剤坐薬
●神経ブロック
●膀胱内薬剤注入
●膀胱水圧拡張術
●手術治療
内服治療
慢性膀胱炎の内服治療で使用される薬剤には下記のような種類があります。
・抗生剤
・頻尿改善剤(ブラダロン・ポラキス・バップフォ)
・精神科薬剤(セルシン・デパス・トフラニール・デプロメール)
・胃潰瘍薬剤(プロテカジン)
・αーブロッカー(エブランチル)
・抗アレルギー剤(IPD)
慢性膀胱炎の治療として細菌性膀胱炎を疑われ抗生剤を長期間投与されるのが一般的です。そして治りが悪いと頻尿改善剤、精神科薬剤が処方されます。さらに一歩踏み込んで、プロテカジン・エブランチル・IPDを処方する医師がいれば、かなり研究熱心な医師です。
解熱鎮痛剤坐薬
残尿感・頻尿は膀胱の痛み感覚の転換と考えることが出来ます。そのために何らかの形で痛みを和らげることが出来れば、残尿感や頻尿が軽減するのです。内服の痛み止め(消炎鎮痛剤)を飲んでいただいてもなかなか症状が軽快しませんが、痛み止めの坐薬(肛門から挿入する弾丸のような軟膏の固まり)を使用すると、直接膀胱に効くようで残尿感や頻尿の症状が軽快します。この坐薬だけで症状が軽快して、その後まったく薬を使用しなくても日常生活が普通に戻った方がおられます。
神経ブロック
慢性膀胱炎の経過が長いと、仙骨部の副交感神経が過緊張状態に陥り、神経回路が下り坂をブレーキが利かなくなった自動車のような状態になります。私が得意とする仙骨神経ブロックは、この状態にブレーキを掛け神経興奮の悪循環を断つには最適の治療です。
膀胱内薬剤注入
DMSO(ジメチルスルフォキシド)
ヒアルロン酸
膀胱水圧拡張術
仙骨神経ブロックを事前に行い、膀胱に水圧をかけて少しずつ膀胱容量を拡大させる治療法です。写真で示す患者さんはいつもは100ml~200mlしか尿をためられない方ですが、仙骨神経ブロックのお陰で500ml注入時点でもまだ頑張れる状態です。水圧をかける時の液体は生理的食塩水ですが、その中に薬剤の注入する場合もあります。この一連の治療は外来治療です。来院してから帰宅するまで2時間以内です。
500ml注入膀胱
手術治療
●膀胱三角部レーザー光線焼灼術
過敏になっている膀胱三角部を少しでも鈍感にするための治療です。膀胱の感覚は膀胱三角部に比較的多く集中しています。もちろん膀胱全体に膀胱の感覚センサーは広がっていますが、膀胱全部を焼灼することはできません。そこで少なくとも膀胱三角部だけでも治療すれば、膀胱感覚の最大公約数的な治療になる訳です。
膀胱三角部レーザー光線焼灼術は、膀胱三角部を静めるための治療ですから、更年期型慢性膀胱炎にも若年型慢性膀胱炎のどちらの治療にも補助的に利用できる効果的な治療です。
実例写真 21歳女性患者さんの膀胱三角部レーザー光線焼灼直後の所見です。膀胱三角部を5箇所焼いています。クレーター状の凹みは1ヶ月経過すると正常の粘膜になります。
●膀胱頚部切開術
若年型慢性膀胱炎の主要原因は膀胱頚部の拡張障害(膀胱排尿筋尿道括約筋協調障害・膀胱内尿道口狭窄)と私は考えております。開きの悪い膀胱頚部を電気メスで切開すれば、排尿障害は改善され、慢性膀胱炎は治ります。
治療の難しさ
私が治療した慢性膀胱炎の患者さんは100%治っています、と言いたいところですがそんなわけはありません。治療した患者さんの内、5割の患者さんが非常に良く治り4割の患者さんの症状が軽快しています。残り1割の患者さんの症状は変わらないか不満を訴えておられます。その理由は三つあると思います。
第1の理由
膀胱感覚の「尿意」は本来、膀胱に尿が溜まることによって起きる膀胱伸展の「痛み」です。尿が溜まるたびに膀胱が痛いのでは、生き物として尿をするのが嫌になり最後には水分を取らなくなってしまいます。すると生き物としては致命的ですから、膀胱伸展の「痛み」を脳中枢の神経回路で「尿意」に変換して意識させるのです。この「神経回路」がキーポイントです。
排尿障害が潜在化すると、排尿のたび毎に膀胱収縮による圧力が膀胱壁に直接跳ね返ってきます(作用反作用の法則)。毎日その刺激を受けていると膀胱も辛くなり少しでも楽な方向に逃げようとします。そのために少ない尿で排尿させようと膀胱システムがフル稼働します。それが膀胱の過敏になり頻繁な尿意すなわち「頻尿」や「残尿感」になるのです。
「神経回路」が長期間負荷を受け続けると誤作動を起こし始め、膀胱伸展痛が尿意に変換しなくなり、本来の「痛み」、「しびれ」や膀胱以外(尿道・会陰部・下腹部・腰・大腿など)の症状を作り上げてしまうのです。さらに経過が長くなると、この「神経回路」の誤動作は修復しにくくなります。ですから手術で排尿障害を改善しても脳中枢の「神経回路」が修復されない限り症状は改善しないのです。
治療として「神経回路」の誤動作を和らげるために精神安定剤・抗うつ剤・漢方薬が作用します。排尿障害を治療しなくてもこれらの薬がある程度効き目があるのはこの「神経回路」の存在のためです。
また、膀胱・前立腺の過敏を和らげるために解頻尿改善剤・解熱鎮痛剤座薬・サプリメント・低周波治療・仙骨神経ブロック・温熱治療・膀胱内薬剤注入(ヘパリン・DMSO)・膀胱三角部レーザー照射などがあります。
第2の理由
第1の理由で頻尿が継続すると膀胱は膨らまなくなります。ちょうど病気で寝てしまった老人がしばらくすると足腰が弱くなって歩けなくなるのと似ています。いわゆる筋肉の廃用性萎縮・関節の拘縮です。膀胱が膨らむのを忘れてしまったと言ったらよいでしょうか。膀胱にとっては膨らまずに縮こまっている方が楽です。
そうすると、膀胱が硬くなり本当に膨らみません。膀胱容量の極端な低下です。例えば尿が100ml溜まると、膀胱は硬いのでそれ以上膨らまなくなります。すると膀胱内圧力はぐんぐん高くなり500ml以上溜まった時と同じ圧力になりますから強い尿意になり頻回にオシッコに行くようになるのです。
治療として仙骨神経ブロックまたは硬膜外神経ブロック麻酔下で行う膀胱拡大矯正術の定期的治療があります。
第3の理由
以上の「神経回路の誤動作」「膀胱・前立腺の過敏」「膀胱容量の低下」と先日説明した「隠れ排尿障害」の4つの要素が複雑に絡み合い、非細菌性慢性前立腺炎と言われる症候群の患者さんの多様な症状に結び付いていると考えられます。
私が治療し治った4割の患者さんは「隠れ排尿障害」要素の比重が高く他の要素が低かったからでしょう。症状が軽快した3割の患者さんは「隠れ排尿障害」要素の比重が比較的高く他の要素も同じくらいに高いので「軽快」程度の治り方だったのでしょう。
3割の無効患者さんは出発点である「隠れ排尿障害」要素は比重が低く、他の要素に主役を奪われ、排尿障害の治療をしても症状の改善を得られなかったのだと考えます。ただし、慢性膀胱炎に対する考え方は私独自の考え方です。正しいか否かは後の世でわかるのだと思います。
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