平滑筋のスイッチ
前立腺肥大症・慢性前立腺炎・過活動膀胱・間質性膀胱炎などの治療に使用される薬剤のほとんどが、平滑筋に影響する薬理作用を持っています。
平滑筋は、すべての内臓を構成する筋肉です。体を動かす時に使う筋肉は骨格筋(横紋筋)です。内臓の筋肉とはいえ、筋肉ですから、収縮と弛緩を繰り返します。収縮=緊張、弛緩=リラックスの状態です。その動きの典型的なものが胃や大腸の蠕動運動です。これらの動きは、骨格筋に比べてとても複雑です。その理由は、たくさんの平滑筋細胞がお互い密接に連絡しあって情報交換をしているからです。一部の平滑筋は自律神経(交感神経・副交感神経)と連絡しており、そこから得た情報を隣接する平滑筋に次々と伝達するのです。まるで、伝言ゲームのようです。
自律神経に関わらないのが、一酸化窒素NOです。一酸化窒素が平滑筋にそばに存在すると、受容体を介さないで無条件で平滑筋内に侵入します。一酸化窒素は、平滑筋をリラックスさせる作用があるのですが、平滑筋の中で、直ぐに消滅してしまいます。
何の受容体かは不明ですが、大豆イソフラボンの受容体、正露丸の受容体、タガメットがブロックする受容体(H2レセプター)なども、長年の臨床経験上ある筈です。
交感神経に反応するのが、膀胱・前立腺の平滑筋のα₁−受容体、β₃−受容体です。
副交感神経に反応するのが、平滑筋のM−受容体です。
交感神経が興奮すると、膀胱出口・前立腺にあるα₁−受容体を刺激し、オシッコを出にくくします。さらに、膀胱三角部にあるβ₃−受容体を刺激し、尿を我慢させます。受容体は平滑筋に変化を促す【スイッチ=受容体】です。逆に副交感神経が興奮すると、膀胱体部の平滑筋にあるM−受容体を刺激して膀胱を収縮させます。
この仕組みを考慮して病気の治療を考えると、次のようです。
排尿障害が病気の原因ですから、膀胱出口・前立腺をリラックスさせるために、α₁−受容体をブロックするクスリとして、ユリーフ・ハルナール・フリバスを使用するのです。
また、膀胱三角部をリラックスさせるために、β₃−受容体刺激剤のベタニスを使用するのです。
さらに、膀胱体部をリラックスさせるために、M−受容体をブロックするクスリとして、ベシケア・ステーブラ・ウリトス・トビエースを使用します。
ただし、平滑筋の数々の受容体の分布は、患者さんの膀胱や前立腺の位置によって異なるので、その組合せの影響で、とても効くヒトもいれば、まったく効かないヒトもいます。
平滑筋の緊張をリラックスさせることで、膀胱や前立腺の過敏な症状が軽減できるのかと言えば、平滑筋は筋肉としての動力装置でもありますが、実はセンサー・感覚器でもあるのです。
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コメント
1月に膀胱頸部の手術をしていただいた者です。いまだ膀胱三角部のあたりがヒリヒリし、下腹部を手で押すと痛いのがわかります。ベタニス、イソフラボン、トラムセットとロキソニンを飲んでいます。三角部が痛い時にロキソニンを飲むと落ち着いて、下腹部を押しても痛さが消えます。
★回答
なんで、わざわざ下腹部を押すのですか?」
三角部にはベタニス、イソフラボン。神経回路にはトラムセットが効くのは、先生のブログの解説から理解しています。今現状ロキソニンが効くということは、膀胱内部がどのような状態と理解すればよろしいですか。
★回答
手術後の傷の痛みでしょう。」
また、ベタニス、イソフラボンの長期服用により三角部の症状改善、二度目の手術なしでの改善は期待出来ますか。解説をお願いします。
★回答
はい。
投稿: S | 2018/06/07 20:51
先生のブログのインフォームドコンセントに3ヶ月程度で回復する人と、1年程度回復に時間がかかる人がいるとありますが、この違いは何ですか。
【回答】
患者さんの個性です。」
また、1年程度で回復した人はその後安定していますか。解説お願いします。
【回答】
安定します。
投稿: s | 2018/06/20 22:09
術後3ヶ月で回復する人と術後1年程度かかる人の差は個性だということですが、考えられる要因は何ですか。分かれば安心できます。ぜひ教えてほしいです。神経回路が固定化していて再度手術が必要ということはありませんか。
★回答
その患者さんのセンサーの完成度の高さ、修復能力、神経回路の完成度の高さです。
投稿: S | 2018/07/08 15:46