子宮頚癌・広汎子宮全摘手術の後遺症:神経因性膀胱の治療
様々な手術で、たまたま膀胱に関した神経を損傷すると「神経因性膀胱」という病態になり、自力で排尿するのが困難になります。
一般的に、神経因性膀胱は治らない病気ですから、一生、自己導尿の指導を受けます。しかし、神経因性膀胱そのものは治すことはできませんが、治療により健常者と同じように振る舞えることは可能です。
今回ご紹介する患者さんも、子宮頚癌の手術(広汎子宮全摘術)で膀胱の神経を損傷されて排尿障害を訴えた患者さんです。
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こんにちは。
11月30日に手術を受けた〇〇〇〇市の〇〇〇〇です。
経過報告を兼ねてメールさせていただきました。
その後、とても順調です!!!
2回目のカテーテルを抜いたあと3日ぐらい出血がありましたがそれ以降はなくて、おしっこは勢いよく出る時と、出にくい時がありましたが、最近になってだいぶ安定してきました。
一時かなりあった尿漏れも、今は溜まっているときにちょっと、ぐらいになり、このままいけばなくなりそうです。
おしっこはトイレに座ってから少し時間が経って出てくる感じです。「うんちをするときの感じで」という先生の言葉を思い出して、少し前傾すると出てきて、そのあとはけっこう勢いよく出る時もあります。
朝いちばんはやはりたくさん溜まっているせいか、少し出にくい感じですが、昼間調子いいときはじゃ~っと出て、これまでの人生で未体験の快感(笑)です。
おしっこが普通に出てくれるのって、本当に有難いなぁ・・・と痛感しています。
尿意も少し戻ってきたみたいです。
朝、トイレに行きたくて目が覚めるようになりました(夜中にトイレで起きることはほとんどありません)。日中は相変わらず時計を見て2時間おきぐらいにトイレに行ってますが、1時間半を超えると「溜まってきた」感があり、少し漏れやすくなります。
とにかく、日常生活で「おしっこ」のことをいつも考えている状態(考えざるを得ない状態)から解放されて幸せです!
手術前から考えると、もう本当に雲泥の差です。あの頃は、おしっこしてトイレから出てくる頃には、エネルギーを使い果たしてぐったり疲れてしまってました。
外出時のトイレでは、前傾したりあれこれやっている間にセンサーが作動し、何回も水が流れてしまい(電気が消えて真っ暗になっちゃったこともあります)、そうじゃなくてもえらい時間がかかっているので、外で待っていた人ににらまれたり、すごく長い列ができていたり・・・・そんなこんなでトイレに行くのが怖くなってました。
じつは、手術前のウロフロメトリのときは、あの頃にしてはとても状態がよかったので、「こんなにおしっこがちゃんと出ていると、普段の状態を把握してもらえないかも・・・」と思ったのを覚えています。
検査の前日から比べると、たぶん1.5倍ぐらいの勢いで、時間もかなり短めでした。
結果を見た先生に「これは、かーなーりー(強調、笑)ひどいよー」と言われ、ええっ??これでもそうなんだ・・・とびっくりしました。
あのまま先生に出会うことなく、別の泌尿器科に行っても「これはもうしょうがないですね」とか言われて、排尿障害が進んでいってたら、と思うとぞっとします。
それから更年期の症状は大豆イソフラボンでばっちり収まってきました!
おしっこがどんどん出なくなって、頭痛・のぼせ・倦怠感・不眠etcが一挙に出てきたころが悪夢のようで、今ではたまに、あれ?ちょっとのぼせてる?と思う程度になりました。
先生には時間外に2回も処置していただき、深く感謝しています。
特に二回目は、もしかしたら落ち着いて何回かトライすれば大丈夫だったかもしれないのに、私がパニックになっちゃっていたのが原因だったような気がします。
私にとって先生は救いの神さまですが、そのせいで大切な用事をつぶしてしまい、申し訳ありませんでした。
時間外の対応を含む患者のフォローもさることながら、医学界的にコンセンサスとしては未だ認められていない手術を敢行する勇気と覚悟、無料相談を常時受け付けて情報をオープンにしてシェアする姿勢、それを何でもない事のようにこなしちゃう先生、すごいです。痺れます。
なんだかすごく長くなってしまいました。
先生のおかげで、今年は私にとってこれまでで最高の年になりました。
本当にありがとうございます。
年明けに1か月検診に伺う予定です。
ではでは、よいお年をお迎えください。
〇〇〇〇
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【考察】
上記に示したグラフは、この患者さんの尿流量測定検査(ウロフロメトリー)の結果です。
約600mlの尿を5分(300秒)かけて排尿しています。排尿曲線の山は全部で大小合わせて58個です。これは、5分の間に58回息んだことを示しています。健常者であれば、1回の息みで少なくても平均毎秒15ml以上の速度で排尿できますから、600mlであれば40秒で排尿が終わる計算になります。私が「か~な~り、ひどいよ」と告げた根拠です。
一般的に泌尿器科医は、「神経因性膀胱」というものは治らず、そのQOL(生活充実度合い)はカテーテルの留置か自己導尿で管理するものと信じています。しかし、これは大きな誤解であり、この誤解のためにたくさんの患者さんがしなくてもよい苦労を強いられています。
例えば、足の骨折をしてやむなく足を切断した人がいたとしましょう。1年たっても10年たっても足は治りません。そのままであれば、歩行障害のために生活のQOLがかなり低下します。しかし、ひとたび義足を装着すれば、その人は歩行はもちろんのこと、走ることさえ可能になります。場合によっては健常者よりも身体能力が高くなる人も出てきます。
つまり、「神経因性膀胱」も同様で、病気そのものを治すことはできませんが、この患者さんのように生活のQOLを健常者と同じようにすることは可能です。
排尿機能、特に膀胱出口について泌尿器科医が誤解しているところに問題があります。膀胱出口は膀胱括約筋と尿道括約筋によって制御されています。膀胱括約筋は内臓の筋肉=平滑筋で構成されていて、神経支配は陰部神経を中心とする自律神経がコントロールしています。
ところが、尿道括約筋は骨格筋=横紋筋であり、神経支配は運動神経がコントロールしています。この患者さんのように骨盤内の外科的手術で傷ついた神経は排尿の自律神経であり、コントロールできなくなったのは膀胱括約筋であって、運動神経で支配されている尿道括約筋ではありません。したがって、尿道括約筋は無傷で機能する訳ですから、膀胱括約筋の麻痺で開放しなくなった膀胱出口を内視鏡手術で人工的にオープンしてあげれば済むことです。
イメージして下さい。膀胱括約筋が「自動ドア」で尿道括約筋が「手動ドア」です。正常であるならば、手動ドアを開けると連動して自動ドアが開くのです。しかし骨盤内手術のために自動ドアのコントロールパネルが故障してしまい、手動ドアを開けても自動ドアが連動して開きません。連動しない自動ドアのためにみんな困っています。ここで私が登場です。手動ドアを開けて、ピッタリと閉じている自動ドアの戸の部分を人が通れるくらいに穴を開けます。するとどうでしょう、手動ドアを開けるだけで人が通れるようになりました。自動ドアのコントロールパネルは手つかずですが、これで人が出入り出来る目的は達しました。こんな簡単なことを「神経因性膀胱」の専門医らは、「この病気は治らないから・・・」とさじを投げているのが現状なのです。
実際、一般的に実施されている前立腺肥大症の内視鏡手術(経尿道的前立腺手術TUR-P)の場合、執刀医は前立腺とともに膀胱出口の膀胱括約筋を無意識に削っている場合が多く、逆にその方が術後排尿状態が改善します。名人と呼ばれる泌尿器科医は、前立腺肥大症の内視鏡手術であれば、膀胱括約筋には決して触れずに前立腺しか削らないので、かえって排尿機能が改善しないことがあります。皮肉な現象です。教科書通りの手術をするので失敗するという見本です。
【追記】
内視鏡手術の6週間後の尿流量測定検査(ウロフロメトリー)の結果です。
初診時の排尿曲線と比較すると、同じ人間ではないくらいオシッコの勢いは良くなっています。
425ml(術前600ml)の排尿があり、24秒(術前5分=300秒)で済ませています。その間に6回(術前58回)の息みが認められます。
前回最大流量率(排尿速度) 7.9mL/秒が32.6mL/秒に、平均流量率(排尿速度) 2.3mL/秒が17.6mL/秒に著名改善です。
神経因性膀胱は治らないと考える医師に見せたいくらいです。
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コメント
これはすごい。もっとこの手術法がひろまり、多くの医師が実施することで新たな発見が見られ、泌尿器科界にとっても大きな利益になるように思うのですが・・・。ことなかれ主義、周りとの協調がテーマの日本人にはなかなか伝わらなく残念です。
【回答】
お読みいただき、ありがとうございます。
投稿: | 2012/09/06 15:19
高橋先生よろしくお願い致します。大阪からメールをしています。診察を希望しています。私はメールでアピールをしているのではなく、遠方から行きますので今までの診察時間中に長々と先生にお話しを聞いて頂くよりも少しでも現在までの経過をお伝えしたかったのです。先日も血尿と膀胱付近が破れたのかと言うような疝痛が1月に2度起きています。トラムセットと言う鎮痛薬を出されただけでした。新幹線での移動も実は痛みが来るかもと思い緊張します。しかし治さなくてはなりません。疝痛、血尿、痛みで転げまわる、鎮痛薬でその場を凌ぐ、ショックで放心してしばらく何も出来ない、そんなことを繰り返していられません。早く伺いたいと思います。何卒よろしくお願い致します。
投稿: | 2013/01/17 13:45
高橋先生、先日はありがとうございました。先生の指導通りに利尿作用のある漢方薬を中止して今までよりもっと頻回に自己導尿で排尿して自分の膀胱がどれだけ回復してくれるか頑張ってみようと思っています。考えが甘いかもしれませんが、もしかしたら小さな「点」のような穿孔が塞がってくれるかもしれません。尿浸潤性腹膜炎は命に関わることにはならないのでしょうか。
【回答】
心配無用です。』
腹膜に影響はありますか?大量に腹膜に溢流すると危険ですか?
【回答】
心配無用です。』
今後疝痛が起こってしまった時が不安です。対処方法はありますか?
【回答】
漏れた尿が腹水で薄まれば痛みは落ち着きます。
痛みが出た時に、痛みの部分をブルブルと軽く振動させて尿を拡散させれば薄くなって痛みは落ち着くでしょう。』
子宮頸がんの手術以降6年経過しましたが、この3年卵巣欠落症による自律神経失調症の悪化と並行して特にこの1年は膀胱の疝痛が頻発しています。私の場合に当てはまらないかも知れませんが女性ホルモンを補充することで膀胱へのいい影響は期待できますか。
【回答】
明確にはお答えできません。』
先生からの返信をお待ちしています。お手数をおかけして申し訳ありません。よろしくお願い致します。
投稿: | 2013/01/23 22:07
高橋先生、回答頂きありがとうございます。「心配無用」と言う回答に救われた気持ちです。膀胱に疝痛が来たらトラムセットを使ってもいいですか?この2,3日1日の排尿量がカテーテルを使っても400ml位しかでません。1000mlは水分を摂っていますがそんな時もありますか?
【回答】
あります。』
市販の尿糖、尿たんぱく試験紙で検査すると尿たんぱくだけが高値です。プラスのマークが3つ並んでいる緑色の判定結果です。尿の色は麦茶のように濃いですが濁ってはいません。発熱も倦怠感もありませんが検査を受けた方がいいですか?
【回答】
必要ないでしょう。』
今後の治療にエブランチルは使った方がいいですか?
【回答】
使用した方が良いでしょう。』
ご指導をよろしくお願い致します。先週の金曜日以降疝痛は起こっていません。
投稿: | 2013/01/24 18:38
高橋先生、回答を下さりありがとうございました!
投稿: | 2013/01/25 22:24
高橋先生、お世話になっております。ご指導をお願い致します。この1週間排尿量の平均が400mlぐらいです。体の不調はありません。口の中が極端に乾いたりもしませんが、1回の排尿量が少ないです。尿の色は薄黄色で綺麗です。
空気が寒波で乾燥しすぎると自律神経が上手く作用せず、半身浴をしたら冬でもいつもは汗をダラダラかくのにそれも少ししか出ません。
関係はありますか?
神経因性膀胱炎(神経の損傷)、リンパ浮腫で排尿に苦しんでいました。婦人科の医師に相談したところ子宮頸がん術後、排尿困難になりその後「おしっこの出が悪い、浮腫で足がしんどいならラシックスを飲んで」と6年間処方せれ膀胱が過伸展、非薄化、放射性膀胱炎、水腎症(平成23年11月に突然、血尿、疝痛でその時に水腎症と診断されました。ラシックスを処方した病院とは別の病院です。)水腎症は自己導尿で何とか改善が間に合いました。
膀胱の破裂にもなってしまいましたが、これは診療としては間違いですか?もしミスならばどの文献を読めば確認できますか?禁忌には記載ありません。先生、どうぞご指導をお願い致します。ラシックスを処方されなければ、と悔やまれてなりません。先生からの返信をお待ちしています。
【回答】
下記のブログを参考にしてください。
http://hinyoukika.cocolog-nifty.com/cc/2013/01/post-cc5b.html
投稿: | 2013/01/28 23:53
子宮頸がんで広汎子宮全摘術後、排尿障害を抱えた患者様を治療された記事を読みました。
私は2013年5月に広汎子宮全摘術を受けた後、自尿が全く出なくなりました。私のように全く自尿が出ない者でも、記事にある患者様と同じ治療を受ければ、自尿が出るようになりますか?
【回答】
はい。』
もし自尿が出る可能性があるのなら、診察に伺いたいと思っていますが、遠方在住(岐阜県)ですので、まずはメールでご質問させていただく失礼をお許し下さい。
投稿: | 2013/07/18 15:36