炎症性ポリープと膀胱癌

患者さんは日本に在住の20代の中国人女性です。
たまたま中国に里帰りした時に、頻尿・残尿感などの膀胱炎症状で上海の有名な病院を受診、内視鏡検査を実施したところ、膀胱出口に小さなポリープが発見されました。（診療情報参照）
主治医は、「前癌状態のポリープ」と診断し、平成22年10月入院内視鏡手術になりました。手術後、膀胱癌の予防にと抗癌剤を3カ月間に5回膀胱注入されました。患者さんの一番の訴えである頻尿はますます悪化し、1日20回、さらに夜間に3回もトイレで目が覚めるまでに悪化しました。
高橋クリニックを受診した頃には、頻尿の他に下腹部の痛みと緊張感、仙骨部の痛みが主な症状でした。

尿流量測定検査（ウロフロメトリー）では、途切れ途切れの神経因性膀胱型の排尿曲線で、強い排尿障害を認めました。
自尿が213mlに対して184mlも残尿が残っていたのです。

超音波エコー検査では、膀胱出口付近は男性の前立腺肥大症のように膀胱側に突出した所見が認められます。
また、膀胱出口周囲に硬化像（白く見える部分）が認められます。膀胱頚部硬化症の所見です。

α‐ブロッカーの治療により、下腹部の痛みは70％程度に、仙骨部の痛みは30％に軽減しました。1日20回以上の頻尿は9回にまで減少して大喜びです。

【備考】
炎症性ポリープという存在があります。【右の写真は3人別々の女性の所見】
以前に流体力学の観点から「炎症性ポリープ」について詳説しました。
この患者さんのポリープは、診療情報の写真で見る限り、ほんの小さな「炎症性ポリープ」です。それを「前癌状態」と誤診して、抗癌剤を注入するなどの医療過誤をされた可能性があります。だいたい20代の女性に膀胱癌を疑う医師の方がおかしいのです。しかし、患者さんによると、医療水準の高い上海では、同様な理由で抗癌剤注入をされる人がたくさんいるらしいのです。

この中国人の主治医に限らず、一般的に世の中では排尿機能障害を軽んじていることが多いようです。排尿機能検査を行えば、このご婦人の排尿機能障害は容易に診断できたはずです。しかし、排尿機能障害が頻尿をはじめとする様々な症状（痛みなども）の原因と考え及ばないので、尿路感染症・間質性膀胱炎や膀胱疼痛症などと誤診され、患者さんが誤った治療の被害者になることが多いのも事実です。

間質性膀胱炎の患者さんを検査で排尿機能障害が認められた場合でも、間質性膀胱炎の結果だと誤診しているのです。逆なのです。排尿機能障害が間質性膀胱炎を作っていると考えるべきです。少なくとも泌尿器科医は、検査結果の一つ一つを慎重に吟味し結論を出すように心がけましょう。