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初めてのご婦人の膀胱頚部硬化症内視鏡手術

Ic22f12691私が初めてご婦人の膀胱頚部硬化症手術を着手したのは、平成15年7月8日です。患者さんは23歳の若いご婦人でした。
この患者さんは平成14年6月に初めて診察しました。当時22歳です。
3年前の19歳の頃から頻尿で、来院時は1日21回、夜間は起きませんが、就寝前に4回ほどトイレに行きたくなります。1回の排尿量は40ml~240ml、平均で120mlです。
それまでに泌尿器科開業医を2軒、大学病院婦人科を1軒、ウィメンズ・クリニックを1軒受診し、治療を受けていますが、一向に治りません。当時であれば間質性膀胱炎か神経性頻尿と診断されたのでしょう。「過活動膀胱」という病名は一般的ではありませんでした。
当時の私の診断能力も大したことがなく、超音波エコー検査で膀胱粘膜の浮腫らしき状態を確認した程度でした。

Ic22f12691800pse【補足】
過去のデータを現在の私の能力で解析すると、右の注釈のようになります。
今から見れば、明らかに膀胱頚部硬化症です。膀胱三角部が肥厚している訳ですから、頻尿があって当たり前です。その原因は膀胱出口の硬化にあります。しかし、この解析ができるようになったのは、平成19年8月の3D超音波エコー検査を導入し、さらに1年半以上経過した平成21年になってからです。3D画像から2D画像を比較検討した結果、解析できるようになったので、この時点では無理でした。

平成14年7月に仙骨神経ブロックで内視鏡検査を行い、膀胱三角部に血管増生(慢性膀胱炎の所見)と白苔変性(慢性膀胱炎の所見)を認め、さらに肉柱形成(この時点で排尿障害を疑わなければ・・・)が観察できました。
膀胱容量が少ないので、間質性膀胱炎の治療である膀胱水圧拡張術を行い(今では否定的に考えている膀胱水圧拡張術でしたが、当時は私も頻繁に実施していました・・・)、膀胱を600mlまで拡張しました。

膀胱水圧拡張の効果があって、頻尿は1日10回~11回に減少したのです。しかし、患者さんがまだ満足できないので、次に膀胱三角部のレーザー照射治療を試みました。
平成14年8月に膀胱三角部にレーザー光線2068ジュールのエネルギーで照射しました。同時に膀胱水圧拡張700ml実施しました。結果頻尿は1日8回まで減少しましたが、その後も症状は不安定で患者さんの希望されるまま、膀胱水圧拡張術を平成14年9月・11月・12月、平成15年1月・4月・6月の6回実施しました。
しかし、だんだんと膀胱水圧拡張術の効果持続期間が短くなるので、私も行き詰まりを感じ、新たな治療法を模索するようになりました。

当時、男性の慢性前立腺炎の原因が排尿障害にあるということが分かり始めた頃でした。排尿障害を治療すると、完全ではないにしろ症状がかなりの手ごたえで軽減するのです。そこで、もしかするとご婦人の間質性膀胱炎にも排尿障害が隠れているのでは?と考え始めたのです。
Ic22f12691flowそこで、このご婦人に尿流量測定検査(ウロフロメトリー)を実施しました。ご婦人にこの検査を実施するのは医師になって初めての経験です。
通常、排尿曲線は大きな1個の放物線を描くものです。ところが、この患者さんは三つの山(三峰性)からなる排尿曲線を形成しています。つまり、1回の排尿で3回息んだことになるのです。「息む」ということは、息まなければ尿流が持続できないということでもあります。つまり膀胱出口が十分に開かないのです。
ある種のひらめきで行った尿流量測定検査(ウロフロメトリー)が「ピンポン」だったのです。

男性の排尿障害は膀胱出口を手術すればOKです。逆向性射精に気をつけさえすれば、手術は容易でした。ところが、ご婦人の場合にはある難問が立ちはだかりました。膀胱出口と尿道括約筋が一体となっていて、膀胱出口を切開・切除すれば、尿道括約筋をも切開するかも知れないのです。膀胱出口を手術で広げたのはいいが、垂れ流し状態(真性尿失禁)を手術の後遺症で作ってしまっては、元も子もありません。それからというもの『女性の排尿障害は手術で治せないのか?・・・』といつもいつも考えていました。手術の専門書にも記載がありません。解剖学の専門書を調べても解決策は思い浮かびません。

Sphincteranatomy名だたる解剖学専門書を開くのですが、答えが見つかりません。そんなある日、大学の医局に在籍した頃に購入した「臨床解剖学ノート」というフランスの手術用の解剖学書を読んでいたら、右のような図が掲載されていたのです。「!」・・・心の中で『これだ!』と感激しました。何と膀胱平滑筋と尿道括約筋がハッキリ区別して描かれているではありませんか!今までの解剖書には区別なく一体で描かれていたのが、区別されている!驚きです。

よく考えてみたら当たり前だということがわかりました。膀胱平滑筋は内臓の筋肉です。尿道括約筋は横紋筋すなわち私たちの意思で動く骨格筋なのです。つまり内臓の筋肉と骨格筋が一体化している訳がありません。例えるとおなかの腹直筋とその直下にある内臓である胃袋とが一体化している訳がないのと同じです。

膀胱出口を内視鏡手術できることは分かりましたが、私はもちろんのこと世界中で実施した泌尿器科医は皆無でしょう。参考にできる文献も先駆者も存在しないのです。さてさて、困りました。
この若い23歳のご婦人に正直に以下のように説明しました。
1.あなたには検査の結果、排尿障害が証明された。
2.おそらく、この排尿障害が頻尿の原因であろう。
3.男性の慢性前立腺炎は、排尿障害の治療で改善している。
4.男性であれば、容易に膀胱出口を切開できるが、ご婦人の場合、膀胱出口と尿道括約筋の解剖学的特性のため、切開すれば、一般的には尿失禁を作ると思われている。私も今までそのように考えていた。
5.しかし、解剖学専門書で詳細に調べたら、後遺症を作らずに内視鏡手術が可能であることが分かった。
6.私も初めての手術であるし、世界でもこのような手術を行っている医師を知らない。
7.あとは、貴方が私に賭けていただくしかない。
8.手術でなければ、今まで通りの治療を定期的に受けていただく。

驚くなかれ患者さんは内視鏡手術を受けることを選択したのです。

Ic22f12691op平成15年7月8日ご婦人の膀胱頚部硬化症内視鏡手術を初めて実施しました。
理論的には自信がありましたし、手術テクニックは男性の内視鏡手術を同じです。あとは私の勇気です。患者さんは勇気を出して手術に応じたのですから、私も答えなくてはなりません。
右の写真は患者さんの膀胱出口の所見です。内視鏡の器械が押し広げているので、膀胱出口が広く見えますが、実際は直径2mmしかありません。
正面に見える器械は、ナイフ型の電気メスです。長さが3mmしかありません。

Ic22f12691op2手術直後の所見です。
膀胱出口の12時の位置を約5mmほど切開しました。この切開で膀胱出口の緊張はずいぶんとゆるみました。

Ic22f12691flow2内視鏡手術2ヵ月後の尿流量測定検査(ウロフロメトリー)です。
まだギザギザの排尿曲線ですが、1回尿量が300mlと明らかに増えました。患者さんはこんなに気持ち良く排尿できたのは初めてだと喜びを隠せませんでした。

Ic22f12691flow3内視鏡手術3カ月後の尿流量測定検査(ウロフロメトリー)です。
ギザギザもとれ、ほぼ左右対称のきれいな放物線の排尿曲線です。
平成15年12月13日の最終診察時には、1日の排尿回数は5回!と全く正常になりました。気が付いたら5時間も尿をしていないこともあるそうです。

初めてのご婦人の膀胱頚部硬化症内視鏡手術は成功でした。道のりは長かったです。これ以降、ご婦人の間質性膀胱炎や過活動膀胱・神経性頻尿・神経因性膀胱で悩まれている方に、膀胱頚部硬化症を見つけα-ブロッカーの保存的治療と内視鏡手術の2本立てで治療に当たっています。しかし、この方法は世間にまだまだ認知されていません。いつになったら日の目を見るのでしょうか?・・・コツコツと精進しながら待つしか方法がありません。

【あとがき】
現在の当院の患者番号は24300を超えています。私は2万4千人以上の人間とこの20年お話をしたことになります。小さなクリニックですから、過去のカルテをストックする場所に段々余裕がなくなりました。ここ数年、過去6年以上来院されない方のカルテは、業者に依頼して順次処分してもらっています。もちろん個人情報を厳守したシステムで日通が実施しています。
夜、院長室(名ばかりだけの院長室です。実際はスタッフルーム兼カルテ倉庫兼備品室です。)で平成15年度最終診察のカルテを処分するためセレクトしていました。9割は処分するのですが、1割のカルテは手術された患者さんだったり、非常に珍しい病気の患者さんだったりで、残します。その時に、この患者さんのカルテを発見したのです。ご婦人の膀胱頚部硬化症を手術するのが初めてであった記念すべき患者さんでしたから、カルテを見ながらあらためて当時を思いだし、手術記録を引張り出し、ビデオ録画を探し出し、今回のブログにしました。
この患者さんの勇気に敬意を表して詳細に記録しました。このご婦人も現在は30歳です。健康に暮らされていることを祈っています。

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コメント

慢性の膀胱炎で悩んでおります。
そちらの医院の名前と場所をお聞かせ下さい。

【回答】
高橋クリニックです。
東京都大田区中馬込です。
このブログを読めば、クリニックの所在は分かる筈です。
また、ここには実名らしき名前は記載しないでください。

投稿: | 2010/04/25 22:20

高橋先生は、巧みな技術をお弟子さんに伝授させるお考えはおありでしょうか?
【回答】
私のブログに興味を持たれているのは、間質性膀胱炎で苦しまれている患者さんだけです。
一般の泌尿器科医は誰一人として興味を持っていません。

投稿: | 2014/09/22 22:40

高橋先生おはようございます。
お世話になっております。
1か月分のお薬がもうすぐ無くなってしまうので来週病院へお伺いします。
その時尿は溜めていった方が良いのでしょうか?
【回答】
いいえ。」

超音波エコーはせず、診察をしていただくのでしょうか?
【回答】
はい。」

お時間ある時お返事宜しくお願い致します。
エラーでコメントが重複してしまっていたら申し訳ありません。

投稿: コモモ | 2014/09/26 08:08

先生こんばんは。
質問の件お忙しい中どうも有り難うございます。
解りました。
来週どうぞ宜しくお願い致します。

投稿: コモモ | 2014/09/26 17:46

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