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賛同医師からのメールと手技の説明

今回のテーマは医師向け(医家向け)です。専門用語が出て内容が分かりにくいところがありますが、ご容赦下さい。

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はじめまして、○○県で泌尿器科をしているものです。
先生のホームページをみて、見よう見まねで施行してみました。

やったばっかりですのでまだ効果は聞いておりません。
水圧拡張3回目に追加で三角部切開してみました。
今後も先生の術式を試してみたいと考えております。
正確な術式を教えて頂けるとのことで、メールさせて頂きました。

よろしくお願いします。

○○○○病院 泌尿器科
○○○○
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お答えいたします。

術式にご興味いただきありがとうございます。
木曜日・土曜日を除く、午後4時から7時の間にお電話を下さい。
比較的に外来が空いている時間ですから、お話ができると思います。
術中のポイントをお教えします。
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この先生と直接お話ししました。お電話ありがとうございました。
口伝では伝えにくい個所もありますから、ここで細かなテクニックを解説します。

膀胱三角部は解剖学的に膀胱の一部ですが、発生学的には尿管の一部です。ですから膀胱刺激症状といっても、膀胱本来の症状もあれば、膀胱三角部の尿管刺激症状もある訳です。
以前より、膀胱三角部には伸展レセプターが存在し、それが膀胱知覚のセンサーということに生理学的には信じられています。間質性膀胱炎・過活動膀胱などで膀胱が過敏である=膀胱三角部センサーの異常興奮であるにもかかわらず、膀胱水圧拡張術では硬くて伸びにくい膀胱三角部には影響が及ばず、伸びやすくセンサーの少ない膀胱体部のみを膨らませることになるので、一時的に膀胱容量を増やすことができるかも知れませんが、治療効果としては無意味でしょう。膀胱三角部の手術に関しては、慢性前立腺炎のブログの中で詳細に解説しています。このコーナーと合わせて参考にご覧下さい。

しかし、膀胱水圧拡張術が間質性膀胱炎のスタンダードな治療として確立している以上、立場上、私のように自由自在に振舞えない先生にとっては、ひと手間(膀胱三角部減張切開手術)加えることが、現時点では最良の選択だと思います。

以下に、実例を上げ術式について解説します。(手術を行なう泌尿器科医に対しての解説です。したがって手術の写真でご気分が悪くなるような方は、ご覧にならない方がよいでしょう。)
患者さんは63歳のご婦人です。
平成18年12月から日中20回以上の頻尿と夜間7回の頻尿で地元の大学病院を受診、間質性膀胱炎と診断されました。
平成19年7月に尿意が強くなると下腹部の痛みが出現するようになり、地元の病院から東京の私立大学病院を紹介され、その年の11月に膀胱水圧拡張術を受けました。
しかし症状は悪化するばかりで平成20年9月に高橋クリニックを受診しました。

それまで服用していた薬は、IPD・トリプタノール・アタラックス・ロキソニン・ソレトンです。日中の頻尿は60回~70回、夜間は7回の頻尿です。
水分制限(一時期は1日5㍑飲水していたそうです。)を1日1㍑以下にしていただき、エブランチルの服用したところ、うなるような腹痛はおさまりましたが頻尿はそのままで、手術を強く希望されました。
Ic22470f63133d2膀胱出口の側面3D画像です。
上下の膀胱括約筋が正対しなければなりませんが、緑の破線矢印で示すように互いに交差しています。下の膀胱括約筋が尿道側に迷入しているようにも見えます。膀胱三角部と膀胱括約筋との乖離部分が膀胱頚部硬化症の部分になります。
膀胱出口は排尿中の観察ではないにもかかわらず、開いているように見えます。これは、膀胱出口周囲が盛上がった(平滑筋過形成:赤い矢印)ために、見かけ上、開いているように見えるだけです。

Ic22470f63術前の膀胱鏡検査所見です。
お決まりの「点状出血」は膀胱のいたるところに確認できます。

Ic22470f632いわゆる「ハンナー潰瘍」と「コイル状血管」を認めます。
易出血性で膀胱容量は麻酔下で150mlで、膀胱は萎縮しています。
Ic22470f633膀胱出口は直径5mmのループ電極と比較すると、麻酔下で2mm以下です。
私はオリンパスのTURisレゼクトスコープで12度の光学視管を使用しています。設定はUES-40sで切開300ワット、凝固100ワットです。このTURis用の大型ループ電極は治験中のものです。まだ市販されていません。
Ic22470f634まず膀胱三角部の前後の緊張を解除するために、膀胱出口と膀胱三角部の連結個所つまり膀胱出口の6時の位置を切除する必要があります。
ループ電極全体が膀胱出口に隠れるようにして切除します。
Ic22470f6351回の切除では、膀胱括約筋(手前に見えるハレーション部分)が残っていてまだ緊張していますから、そのまま2回目の切除を行ないます。
Ic22470f6362回目の6時の切除でも、膀胱括約筋の緊張部分は残っていますが、膀胱出口全体からみると、かなり緊張がゆるみました。
Ic22470f63123d22さらに術前の3D画像結果を根拠にして、この患者さんには膀胱出口12時・2時・10時と切除を進めていきます。
右の3D画像は膀胱側から観察した膀胱出口の立体画像です。赤い矢印で指し示す部分は、膀胱平滑筋過形成の個所です。この部分が膀胱出口の開放を障害しているので切除します。12時・2時・10時に位置します。
3D画像検査ができない一般の先生は、根拠がないので膀胱出口6時の切除で留めておくのが賢明でしょう。
Ic22470f637次に、膀胱三角部の左右の緊張を解除するために、膀胱三角部の正中を切開します。
尿管口間ヒダの中心から手前の膀胱出口に向かって真直ぐ切開するのが基本です。しかし膀胱三角部が二等辺三角形でない場合もあり、尿管口間ヒダの正中と膀胱出口の正中が垂直線にならない場合があります。その際には、膀胱出口の正中から膀胱三角部に向かって逆方向に切開を進めます。今回の患者さんは膀胱三角部が水平でない(画面の左上から右下に傾斜している)ので、膀胱出口6時の位置から逆方向に切開しました。
まずは、6時切除部分の正中(6時)に針型電極で切開します。写真でご覧のように膀胱出口の組織はまだ十分に硬いです(切開して良かったと思う一瞬です)。
Ic22470f638切開を徐々に進めていきます。その際には左右の尿管口を気にしながらオリエンテーションを意識します。
この手術には従来の電気メスではなく、TURisが最適です。膀胱三角部を切開するので漏れ電流による閉鎖神経通電のアクシデントのリスクが術者にはストレスになります。TURisでは漏れ電流がほとんどありません。
通常の電気メスで手術を行なう場合には、一気に切開せずにパルス的に切開するのが安全です。自動車のポンピング・ブレーキの要領で、フットスイッチを軽快に踏むのです。私が通常の電気メスで切開している頃は、3回踏んで確認しては3回踏んで確認のリズムで切開していました。慢性前立腺炎(膀胱頚部硬化症)患者さんの若い男性の場合、漏れ電流が陰部神経を通電しますから、術後EDを回避したく特に気をつけていました。当時の設定はERBE-ICC300シリーズで切開130ワット、切開70ワットです。、
Ic22470f639ついには尿管口間ヒダまで到達します。切開創の谷間から膀胱後壁が垣間見える感じまで切開します。
Ic22470f6310術中の膀胱鏡検査による膀胱三角部の切開創です。
今回は一直線になりましたが、斜めの場合もカーブを描く場合もあります。患者さんの膀胱三角部と膀胱出口の位置関係によって必ずしもイメージ通りにはなりません。術者の美意識からすれば一直線が理想的ですが、自然界の産物で一直線のものは無いことから考えれば、結果は自然(神?)が誘導した最良の贈り物と考えるようにしています。
Ic22470f6311手術直後の膀胱出口です。
術前と比較して20倍以上に拡がりました。ご婦人の膀胱出口がこのぐらい開いていると、術後の尿失禁を心配されるでしょうが、膀胱括約筋の切開だけでは尿失禁にはなりません。尿道括約筋の切開で初めて尿失禁は出現します。
その証拠に、この患者さんは手術翌日午前中にカテーテル抜去したのですが、残念ながら午後には尿閉になってしまい、1週間のカテーテル留置になりました。その後のカテーテル抜去後の自然排尿はOKでした。

今流行の「ハンナー潰瘍の凝固術」は、効果がないと私は考えています。私に賛同してくれて、この術式を行なう医師は友人(鹿児島の倉内先生)以外にいませんが、無理をせずに症例を選んで先生のできる範囲でどうぞお試し下さい。

【術後経過】
術後2週間で患者さんが来院されました。
頻尿は23回(以前は60回~70回)、夜間頻尿3回(以前は7回)です。手術して間もなくですが、症状が軽快しています。完全に落着くまで3ヶ月です。

【補足】
膀胱腫瘍の術後BCG注入療法における後遺症、膀胱萎縮・膀胱疼痛の件に関して、追加の意見を述べます。
間質性膀胱炎は排尿障害が引き金になって起こる「自己免疫の暴走」の一面もあります。BCG膀胱内注入後に起こる後遺症の膀胱萎縮・膀胱疼痛も、BCG注入による膀胱粘膜炎症が引き金になった「人為的に作った自己免疫の暴走」と捉えることができます。患者さんの自己免疫をある程度抑えることにより、後遺症が軽度のものになるでしょう。
BCG注入直後から、炎症情報は脊髄に流れ、あるいは免疫システムに探知されます。2ルートからの情報は直ちに免疫システム実行部隊に伝えられ、最終殲滅目標=膀胱となります。波状攻撃で幾重にも攻撃にさらされた膀胱は、次第に膀胱平滑筋の断裂萎縮、線維過形成で応戦するもかなう訳もなく膀胱は萎縮し痛くなるのです。
さて方法としては、術後1週間後にステロイドのケナコルトAを筋注あるいは生食で溶いて静注して下さい。最初の月は毎週か2週間に1回のペースで投与して下さい。BCG注入後の結核感染の可能性も否定できないので、注入直後は控えた方がよいでしょうし、膀胱粘膜炎症反応がなければ、BCG治療の意味を持ちませんから、BCG注入後1週間が妥当でしょう。
免疫抑制剤のステロイドを使用することで周囲から反発が必ずあります。免疫抑制で膀胱腫瘍が進行する、免疫抑制剤で尿路感染症になるなどです。医学も含めて物事を表面的にしか理解できない人間はとても多いのが現状です。(表面的にしか理解できないからこそ人間なのですが・・・あらゆる分野において歴史が証明しています)

開業医になり、ドクター・ショッピングされている多くの患者さんとお話をするうちに知ったのですが、一般的に多くの泌尿器科医は、泌尿器科範疇の病気の捉え方・考え方・その治療・手術に関して、とても大雑把です。検査などは、尿検査だけで異常がないと判ると、大学病院の教授クラスでも簡単に「気のせい」「精神科に行け!」と診断するお粗末さです。ストレスがあったとしても誰が好き好んで泌尿器科の病気になると思いますか?病気があるからストレスになるのです。泌尿器科の繊細な病気に対して大雑把な目で見るのですから、患者さんもたまったものではありません。「癌だけが病気か!」と患者さんが訴えたい気持ちがよく分かります。人間という小宇宙が作った病気の謎をもっと繊細に対応しなければなりません。繊細とは「顕微鏡で覗け」とか「遺伝子レベルまで調べろ」というものではありません。病気に対する捉え方・考え方・判断の仕方を膠着せずに、柔軟に繊細に運用するべきだと考えます。

【ひとり言】
「間質性膀胱炎は膀胱容量が小さくなり頻尿と疼痛を伴う、だから膀胱を無理矢理膨らませて膀胱の神経線維と平滑筋を断裂させれば問題は解決する」このような短絡的な発想を根拠に、最高医療機関である大学病院などで真面目に行なわれている膀胱水圧拡張術に誰も疑問を持たないのが不思議です。
「小さいから大きくすれば治る」的な発想は小学生の発想です。難関とされる医学部を卒業し、難しい国家試験をくぐり、研修医を経て専門医になった医師たちが、まともに考えた結果だとは思いたくもない。絶えず劣等感に埋もれた経験の私の理論が、必ずしも正しいとは思いません。若い人の中から『へ~!』と驚くような発想の持ち主が、そろそろ現れてもよさそうなのに・・・と思う今日この頃です。

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コメント

 あけましておんめでとうございます。

 この医師とは静岡の先生でしょうか?
【回答】
大分前の記事でうる覚えですが、確かそうだったと記憶しています。

投稿: 患者 | 2012/01/01 16:44

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