« 患者さんからのレポート#14 | トップページ | 「過ぎたるは及ばざる如し」 水は不可欠な存在だが、過剰な飲水は毒  »

間質性膀胱炎の手術治療 2008年日本泌尿器科学会での発表報告

以前に予告した学会発表を本日、2008年4月25日(金)横浜のパシフィコ横浜で発表してきました。
発表内容をこのブログで、発表したのとほとんど同じに報告しましょう。口語体ですから、少し不自然かも知れません。スライドが40枚を超えていますので、このブログに全てを掲載するまで時間がかかりますから、気長にお読み下さい。

 

20081さて、このセッションの座長は、私の1年後輩の慈恵医大の清田浩准教授でした。
私が研修医2年生の時に清田先生は研修医1年生でした。私は当時偉そうに清田先生を指導していましたが、今や立場は逆転し、・・・清田先生はこの世界(感染症)の重鎮です。
本題を発表内容に戻しましょう。

 

20082頻尿治療の選択肢の一つとして、5年前から内視鏡手術を実施しています。
今回、代表的な4例を報告します。

 

20083患者さんは、いずれもご婦人の方です。
過去に「間質性膀胱炎」と診断を受け、「膀胱水圧拡張術」を全員受けています。

20084初めの方は、60歳の方です。
1日最大61回の頻尿と1日3回の陰部の激痛です。
都立病院、国立大学病院、私立医科大学病院の各々の泌尿器科で「間質性膀胱炎」と診断を受け「膀胱水圧拡張術」を施行されています。

 

20085初診時に、軽微な排尿障害を認めました。

 

20086患者さんの強い希望で、ご覧の内視鏡手術を行ないました。
20087この手術で危惧されるのが、術後の尿失禁でしょう。
解剖図で示すように、膀胱頚部と尿道括約筋は、手術には十分安全な距離です。
20088膀胱頚部が十分に開閉できるように、切開します。

 

20089手術前後の膀胱頚部の所見です。

 

200810当初、膀胱三角部は感覚器の集合体と考えていました。
膀胱頚部6時を切除し、膀胱三角部の前後の緊張を緩めます。
次に、正中切開で膀胱三角部の左右の緊張を緩めます。

 

200811手術前後の膀胱三角部です。

 

2008122年6ヵ月後の現在、頻尿は5回になりました。
1日3回起きる陰部の激痛は、手術後1ヶ月で消失しました。

 

200813次の方は、41歳の方です。
1日最大30回の頻尿と陰部の持続性の痛みです。

 

200814初診時に、軽微な排尿障害を認め、内視鏡手術になりました。

 

200815手術前後の膀胱頚部です。

 

200816手術前後の膀胱三角部です。

 

20081730回あった頻尿は8階に落着きました。
持続性の痛みも術後1ヵ月で消失しました。

 

2008183例目の方は、70歳の方です。
1日最大58回の頻尿と陰部の痛みです。

 

200819初回の手術では、頻尿が不安定でした。
患者さんの強い希望で2回手術を行ないました。

 

200820現在、頻尿は19回に落着きました。
陰部の痛みも2回目の手術後に消失しました。

 

2008214例目の方は58歳の方です。
1日最大78回の頻尿です。当院で最多の頻尿の患者さんです。
恥骨から右大腿部の痛みが強い方です。

 

20082278回あった頻尿は19回に減少しました。
4回目の手術で、「ヤッと」しつこい痛みが消失しました。
この患者さんの経験で、膀胱頚部に「関連痛のトリガー・ポイント」の存在を悟りました。

 

200823さて、今回の症例報告だけでは、「極端な頻尿」が手術で治る根拠が、今ひとつです。
そこで、「頻尿の本質」と「手術」に関して、私なりの考察を行ないます。

 

200824「排尿障害」に関して着目したのが、3D超音波診断装置です。
高価でしたが、GE社のボルソンEを購入しました。

 

200825正常の膀胱立体画像と解剖図を比較検討します。
左の立体画像は、排尿障害のない55歳男性のものです。

 

200826かじりかけのドーナツのように見えるのが、膀胱括約筋(緑に着色)です。
筋肉のいない部分が膀胱頚部(黒く着色)です。
尿管間ヒダの内側に膀胱三角部(赤に着色)があります。

 

200827頻尿で来院されるご婦人全員に、この検査をおこないました。
すると、ほとんどの方に膀胱頚部の形態異常を認めたのです。
コブ型、クチバシ型、ブリッジ型、眼瞼下垂型、中央にない偏位型などです。

 

200828この膀胱の立体画像をながめている内に、「排尿器官」としての膀胱に音を出す「楽器」としての裏の顔があるのでは?と、思うようになりました。

 

200829排尿サイクルは「蓄尿・排尿・リセット」の繰り返しです。
排尿サイクルに呼応して、膀胱底(膀胱括約筋+膀胱三角部+膀胱頚部)は動きます。その動きは電気的信号として中枢神経に伝達されます。
荒唐無稽な仮説ですが、・・・この電気的信号は、無機質な情報としてではなく、鑑賞に堪えうる情報すなわち「膀胱のメロディー」として中枢神経は聴いているのではないか?と考えたのです。

 

200830「膀胱のメロディー」すなわち「排尿サイン」として中枢神経(脳・脊髄)は認識しているのだろうと思えたのです。

 

200831ところが、排尿の際に何かの原因で膀胱頚部が十分に開かないと、流体力学の根拠により膀胱頚部周辺に振動が生じます。

 

200832振動は、立体画像でご覧にいれた膀胱頚部の形態異常すなわち頚部硬化を来たします。
硬くなった膀胱頚部はさらに強く振動するようになります。
その振動は、膀胱三角部をも振動させ、膀胱三角部は硬くなるのです。
これらの現象で、膀胱底の動きは悪くなり、次第に膀胱のメロディーに変化が出ます。

 

200833抑揚のなくなった膀胱からの電気的信号はメロディーではありません。
メロディーとして聴こえなければ、排尿サインとして中枢神経は認識できません。
中枢神経は膀胱に対して排尿催促のスイッチをテレビゲームの子どものように連打します。それが頻尿になるのです。

 

200834この治療は、膀胱のメロディーを再び復活させればよいのです。
そのためには硬くなり動かなくなった膀胱底を動かせればよいことになります。
硬くなった膀胱頚部を切開し、動きの悪い膀胱三角部を切開すればOKです。

 

200835膀胱メロディーの復活が、すなわち頻尿の改善です。
背景:クロード・ワイズバッシュの作品よりチェロとバイオリンの三重奏

 

200836この一連の手術は、「壊れた楽器の修理」に他なりません。

 

200837オリンパスのTURis(チューリス)システムは、体内への電気メスからの漏れ電流がないので、私が行なう膀胱三角部の深くの切開や尿道括約筋近くの切開には安全で最適です。

 

200838ポイントは「硬い膀胱底」の存在です。

 

200839内視鏡手術で頻尿が治る症例を報告しました。
泌尿器科医が本来持っている内視鏡手術の「技術」で、「難治性頻尿」が治せる可能性を示唆しました。

 

200840ご清聴ありがとうございます。

 

以上が発表内容です。いかがでしたか?内容が難しかったですか?それとも飛んでいる内容でしたか?

 

【感想】 今回の発表内容を何百回も吟味している間に、「膀胱のメロディー」というとんでもない概念が私の悪い頭にひらめきました。その線で話を展開させました。
当日、4人の患者さんの「喜びのお顔」もスライドで供覧しましたが、個人情報の関係でここでは割愛しました。
全部で41枚のスライドです。私の発表の持ち時間は6分で、かなりの早口で話しましたから聴衆に理解されているか疑問です。

 

3分間の質問時間で3人の医師から質問を受けました。一人の医師は、常識的な考え方からの質問で、私の回答に『???』という表情でした。
質問者の一人の医師、佐賀市の南里泌尿器科医院の南里正晴先生と会場の外で談笑しました。以前から、このブログをご覧になり、この発表を聞きたくてわざわざ佐賀からいらしたということでした。手術法や麻酔法についてコメントしました。

 

今回の発表の引き金は、慢性前立腺炎治療で有名な横浜の木村先生のHPでのコメントに触発されてのことです。その木村先生にもお会いしました。慢性前立腺炎や間質性膀胱炎の内視鏡手術をお薦めしましたが、お忙しく手が回らないとのことで、丁重にお断りになりました。
55歳過ぎの一開業医が学会で発表しなければならない「情けなさ」と「悲しさ」があります。環境にも経済的にも恵まれた大学病院や国立病院の医師・研究者の学会発表から、今の最先端の知識を得て臨床に生かすのが在野に降りた開業医の位置です。川の流れでいえば下流に存在するのが開業医です。その「逆の流れ」を私に強いるのも可笑しなものです。インターネットの世界で静かにさせていただきたかった・・・(愚痴)。
また、年に1~2回の学会発表しかなかった「昔」と違って、インターネットを通じて今や毎日でも発表することができます。ブログでは発表に対する質問をすることも可能です。私は自分の氏名と住所・電話番号・メールアドレスまで明らかにしていて、現実の社会の中で生きている存在です。バーチャルな存在ではありません。

 

以前に私が慢性前立腺炎で手術した内科医のY先生も会場にいらしていました。私の手術後、術後膀胱頚部硬化症になり、地元で再度内視鏡手術を行ない、排尿障害は軽快したのですが関連痛が未だ取れないとのこと。今回の発表で、私の診断と治療が格段に進歩したと感心され、7月に関連痛のトリガーポイント手術を受けることになりました。

 

慈恵医大の恩師、私のボス、東京医大の三木誠名誉教授と学会場でお会いしました。今回の発表にも登場したオリンパスの電気メスTURisを開発した有名な先生です。「高橋が手術して治らなかった患者さんが私の病院に来ているよ。」とチョッと皮肉を言われました。昔はもっと恐かった先生でした。三木先生が書かれた内視鏡手術書(英語版Practical Urologic Endoscopy医学書院)のイラストを私が描いたのを懐かしく思います。

 

以前に臨床試験でお世話になったアステラス製薬の研究スタッフ2人も会場に参加し、発表内容の感想を語ってくれました。彼らは内容を理解していました。

 

Kurautidr私の考えや治療に賛同してくれているのが、同級生の医師、倉内洋文先生(倉内泌尿器科クリニック:鹿児島県鹿屋市大手町TEL:0994-44-7060)です。学会場で久しぶりに歓談しました。九州の患者さんは彼に紹介しています。

 

バーチャルな世界の住人の私は、現実の世界でアクションをおこしましょう。次回は、日本泌尿器科学会東部総会に発表するつもりです。「Female LUTS 超音波3D画像による診断」というテーマを考えています。
一年後の来年の日本泌尿器科学会総会は、テーマとして「慢性前立腺炎の関連痛治療 トリガーポイント手術」を考えています。

|

« 患者さんからのレポート#14 | トップページ | 「過ぎたるは及ばざる如し」 水は不可欠な存在だが、過剰な飲水は毒  »

コメント

はじめまして。
私は北海道稚内市に住む27歳(女)のものです。
半年前くらいから、頻尿と下腹部の痛みに悩まされて、内科、泌尿器科、婦人科、などを受診しましたがすべて原因不明。
そうこうしてるうちに、頻尿はどんどんひどくなり、陰部の痛みがひどくなって、家事も思うようにできない日々でした。
今年の6月に札幌の泌尿器科で、間質性膀胱炎と初めて病名がつき、すぐに「膀胱拡張水圧術」を受けました。
100ミリリットルしか入らなかった膀胱を350までひろげてもらいました。
手術後1週間までは、痛みがありハイペンという薬を1日3回飲んでる生活でしたが、その後症状が落ち着き、痛み止めをやめていました。
ちなみにその時はデトルシトールという薬は毎日2回飲んでいました。(これは今もです。)
だいぶましになったなと思ってる矢先、最近1週間前くらいからまた陰部の痛みがひどくなってきました。
頻尿はそんなにひどくありませんが、下腹部の痛み(膀胱のあたり)と外陰部のヒリヒリとした灼熱感のようなものが1日中続き、また痛み止めのハイペンを使っています。
痛み止めを毎日使うのも胃や肝臓を悪くするのでは?と不安ですし、そもそも私が手術をしてもらった病院の先生は間質性膀胱炎という病気がどういったものかという説明も十分にしてくれませんでした。
高橋先生の病院に行ってみたいとも思いましたが、私には1歳の息子がいるのでなかなか簡単には行けることができない現状です。
札幌でこの病気に詳しい先生がいるかどうかを知りたく、先生にメールをしました。
どうか知っていたら、教えていただけないでしょうか・・・。
よろしくお願いします。

【高橋クリニックからの回答】
貴方が受けた治療は、間質性膀胱炎に関してごく標準的な治療で、しかもそれが最先端です。ですから、どこの医療機関を受診しても、残念ながら五十歩百歩でしょう。
私の治療は、現時点で異端な治療なります。

投稿: 高見 | 2008/07/06 08:12

酒でごまかしている間質性膀胱炎4年選手の45歳です。皆さんと同じ様に何十件もの泌尿器科に足を運び、無駄な時間とお金を費やし、時には逆切れされ罵倒を浴び苦虫を噛む思いもしました。何でこんな病気になってしまったのでしょう。やっと探した病院で水圧拡張術をし、典型的な間質性膀胱炎と判断されました。しかし、水圧は私には向いてなかったみたいで術後2週間で元に戻ってしまいました。色々自分なりに調べ、マイナートランキを処方して欲しいと言いましたが治験検体のごとく相変わらずのアルピニ-オンリーでした。まだ解明されていないのなら巷で効くと言われていて、ましてや患者が希望する薬を処方してくれてもいいじゃない!少しでも可能性があるのなら使ってみたいと言うのが解明されてない病気を抱えてる患者の気持ちです!ッ頑張って研究されてる先生方には失礼ですが、この痛みを毎日毎日我慢している患者の辛さが本当にどこまで理解できていますか?私はいま、頚椎で処方されているデパスをわざとお酒と共に飲んでいます。いけない事とは知りながら、そうでもしなきゃ夜も寝れません。とは言え朝までの4時間位の睡眠時間でさえ4回はトイレに行くようですが。早く効く薬、処置を見つけてください。お願いします。

【高橋クリニックからの回答】
水分を制限して下さい。
エブランチルを処方していただいて下さい。

投稿: りりまま | 2008/09/08 02:06

はじめまして。
膀胱炎で悩んでいる主婦48歳です。
7年ほど前から主人と性交渉をするたびに膀胱炎を起こしました。
当初は急性膀胱炎と診断され、抗生剤の服用でなおりましたが、最近は菌が検出されず、薬を飲んでも長期間、頻尿、下腹部痛に悩まされています。
以前は漢方薬のチョレイトウがよくききましたが今はあまり効いた気がしません。何ヶ月かするとだいぶよくなりますが、また性交渉すると同じことの繰り返しです。間質性膀胱炎ではないかと悩みますが、性交渉以外では発症しません。

【回答】
膀胱三角部過敏症でしょう。
間質性膀胱炎に限らず、排尿障害があると膀胱三角部が刺激を受けやすくなり、このような症状になります。
膣の真裏に膀胱三角部が位置しているので、性行為で物理的に刺激を受けて、膀胱三角部が興奮するのです。

投稿: うた | 2010/09/25 21:39

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 間質性膀胱炎の手術治療 2008年日本泌尿器科学会での発表報告:

« 患者さんからのレポート#14 | トップページ | 「過ぎたるは及ばざる如し」 水は不可欠な存在だが、過剰な飲水は毒  »