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毎日が新たな発見?!

私たちの日常生活の中には、新しい発見や発明のヒントが見え隠れしています。ただ、漠然と見ている私たちには何も見えないだけです。例えば、これから100年の間に新しい発見や発明がなされないとは考えられません。何も大規模な装置を利用してだけの発見や発明ばかりではないでしょう。恐らくキラ星の如く無数のヒントが目の前に出ているのですが、残念ながら凡人の私たちには見えないのです。

日々の患者さんとの会話、検査結果や薬の効果などにも、きっとヒントが隠れているのでしょう。神様が私に「ホレッ!ホラッ!コレだぞ!」と目の前にヒントをぶら下げてくれるのに、悲しいかな私が気がつかないのです。たまに「オッ?」とひらめくことがあるのですが、忙しく時間に追われ次々と患者さんを診て行く内に、ヒラメキは消滅してしまうのです。残念!メモをしておけば良かった!悲しい・・・。

そんな私が最近「?」と思うことがあります。
難治性の間質性膀胱炎と診断され、陰部や恥骨の痛みが激痛で、頻尿が1日30回以上、1時間で2~3回以上の頻尿を訴える重症患者さんの治療に際して気がつことがあったのです。
Caudaltech手術ですから当然、前処置として麻酔を行ないます。私が多用する麻酔は、仙骨神経ブロックです。仙骨裂孔という仙骨の隙間に麻酔の注射を行い、麻酔効果を得ようとする方法です。
私の手術はご存知のように、
Caudalxp膀胱三角部・膀胱出口の内視鏡手術ですから、極端な話し、脊髄仙骨部2番~4番麻酔だけでも手術は充分に可能です。しかし、膀胱出口の感覚が脊髄胸椎部9番~12から脊髄腰椎部1番~2番まで拡がっていることがあるので、その付近まで麻酔がある程度効くように麻酔剤の量を調節し注射します。
【写真】仙骨腔に10mlの麻酔薬・造影剤混合液を注入した直後の写真です。S2・S3・S4の脊髄神経の枝が描写されています。この神経の枝が、膀胱三角部を支配しているのです。

頻尿が1日20回前後の、痛みの少ない患者さんの場合、今までの方法(仙骨部2番~4番重点)で手術は問題ありませんでした。しかし、激痛があり頻尿が1日30回以上の重症患者さんでは、通常の麻酔(仙骨神経ブロック)だけでは充分ではないというエピソードを何回か経験しました。腰椎部が少し程度の麻酔の効きでは、患者さんが痛がって手術が続けられないのです。1例目の患者さんでは、麻酔の効きが悪く「?」と思いながら、手術を終えました。2例目の患者さんでは、手術を続行できず、膀胱三角部が手つかずの状態で断念せざるを得ませんでした。3例目の患者さんでは、仙骨神経ブロックを施したにもかかわらず、手術をする前から尿が少したまると陰部を痛がり、排尿すると楽になるので、高い位置の硬膜外神経ブロックを追加しました。お陰で、手術中全く痛みがなく、手術後の経過も順調です。

上記の事例から重症間質性膀胱炎の場合は、膀胱三角部を神経支配する脊髄仙骨部の過敏さよりも、膀胱出口を神経支配する脊髄腰椎部の過敏さが、病気の辛さの主流であると推測できます。つまり、膀胱出口の過敏さが、病気の辛さの本質ではないかと考えられるのです。
もう一つ推測できるのは、先天的に膀胱三角部の神経支配が仙骨部ばかりだけではなく腰椎部まで拡がっているご婦人が、重症の間質性膀胱炎になるのでは?というものです。
どちらの説ももちろん私の仮説ですから、一般的な医学的常識ではありません。
間質性膀胱炎で苦しまれている患者さんの治療歴をお聞きすると、過去に仙骨神経ブロックを行なっているご婦人が何人もおられます。解剖学的・生理学的観点から、膀胱=脊髄仙骨部支配=仙骨部2番~4番というイメージが私たち医師にはありますから、当然のように仙骨神経ブロックを治療として採用します。しかし重症患者さんの場合、事実効かないのです。科学的根拠(解剖学・生理学)に基づいた治療ですから、治療する側の医師は患者さんが精神的に過敏になっていると誤解し、積極的な治療をあきらめます。しかし、私の考えた仮説が事実とすれば、腰椎の硬膜外神経ブロックを治療の選択肢として採用できます。現在流布している科学的根拠といっても、現在他に思いつかない根拠ですから、いつでもひっくり返されてしまう程度の根拠でもあります。
Derumatome_1今日、5月22日ですが、患者さんとお話をしていて「!」と感じたことを思い出しました。生理の日の陰部の痒みを抑える軟膏のテレビ・コマーシャルを見た時に「!」と思い付いたのです。陰部の痒みの原因は生理血だと思われているのでしょうが、本当は生理で充血した子宮の痛みの関連痛が、陰部の痒みの正体ではないでしょうか。
Derumatome2_1【図】の中で、S2・S3と示している皮膚の部分は、脊髄仙骨部の2番・3番ということです。陰部の痒みの感じる部分は脊髄仙骨部2番・3番の神経支配だということです。脊髄仙骨部2番・3番が神経支配する臓器は、子宮頚部と膀胱三角部です。生理の時に子宮頚部が充血して、その刺激が陰部の痒みという関連痛症状として感じてもおかしくはない訳です。また、間質性膀胱炎の膀胱三角部過敏症でも陰部の痒みを関連痛症状として感じても不思議ではないことになります。
以上のことを知っていれば、慢性膀胱炎・間質性膀胱炎の膀胱三角部過敏のご婦人が、生理中に陰部がひどく痒くなるのも気のせいではないことが理解できます。生理血で陰部の皮膚・粘膜が痒くなると短絡的に結論を出す医師の浅慮に、私自信も笑えません。
何気なく見ているテレビ・コマーシャルから、このような発見が出来るのです。皆さん!自分の周囲を見回して、発見・発明のヒントが隠れていないか探しましょう。私も毎日レーダーのようにアンテナを張って観察しています。

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