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Slow FoodならぬSlow Diseaseという病気

最近、Slow Foodなる言葉をよく耳にします。伝統的な食事やチーズ・ワイン・納豆などの発酵食品を示す言葉と思っていたら、実は「食事くらいゆっくり食べましょうよ。」という考え方だそうです。世界中どこでも画一的な均一なファーストフードがとれる現代で、食材に限らず、食生活を中心としたライフスタイルを見つめ直そうという運動のようです。

さて、ここで上記のSlow Food と意味合いは異なりますが、病気にも Slow Diseaseという概念を提唱したいと思います。対照的な病気にFast Diseaseという概念の存在があります。

Fast Diseaseという概念は、病気の原因と結果が短時間で1次的な病気を指します。例えば、細菌やウィルスが原因で肺炎になる、転倒して足を骨折する、癌細胞ができ胃癌になる等などです。原因の直接的な作用で比較的短時間に症状が出現する病気のグループです。ほとんどが器質的病気で、簡単な検査で容易に原因を発見することができます。医学教科書に掲載されている病気のほとんどが、この種の病気です。医師のみならず素人の人にも容易に理解・診断できる病気です。

Slow Diseaseという概念 は、病気の原因と結果の時間的経過が非常に長く、結果に至るまで様々な要因が介在する、2次的3次的な病気を指します。そこに介在する要因の一つ一つは取るに足らない程度の事象ですが、病気としての症状が発現した時点で、原因が分かりにくい病気になります。

例えば、ヘリコバクタ・ピロリ菌(HP菌)が常在菌として胃の粘膜に棲んでいます。しかし、胃の中は強酸である塩酸の胃液が充満しています。HP菌は自分の周囲に弱アルカリであるアンモニアを産生して、塩酸を中和して水とアンモニウム塩にしてしまい、塩酸から自らを守っています。ところがHP菌の産生するアンモニアが胃粘膜に障害を与え、長年かかって胃潰瘍や胃癌の原因となるのです。随分前から胃液の中で行き続ける謎のHP菌の存在は知られていましたが、胃潰瘍の原因として脚光を浴びて治療標的とされるようになったのは5年前ぐらいからです。ここまでは経過が長いのですが、この病気は原因と結果が明白なのでFast Diseaseとして考えることが出来ます。

ところが、このHP菌が難治性の蕁麻疹の原因ではないかという疑惑があります。経過が長いのでHP菌を殺菌しようと免疫システムが働きますが、胃粘膜という特殊な環境で十分に殺菌できません。しかし、免疫抗体はたくさん作られてしまうので、行き場がなくなり皮膚を攻撃して、原因不明の蕁麻疹になるというのです。複雑な要因が絡んでくるこの例こそ、Slow Diseaseの例として考えていいでしょう。

さて、このブログで問題の難治性の慢性膀胱炎や間質性膀胱炎は、細菌やウィルスが検出されないので原因不明の難病です。ところが難病の割には、難病指定されていない不思議な病気です。診察した有名な医師でさえ「一生この病気と付き合って行きなさい。」「気にしないように」「規則正しい生活を」「体を冷やさないように」「長時間座らないように」「食生活に気をつけて」などと全く論理的根拠もなく無神経に告知・指示するのが多い病気でもあります。医師の指示通りに一生懸命に努力しても、決して治らない病気です。医師の指示を守っても治らないということは、医師の指示が見当違いだということです。

慢性膀胱炎・間質性膀胱炎と診断されて、抗生剤の長期間投与や繰り返し投与を受ける患者さんが非常に多い現実に、科学的医学的根拠のないことを誰一人気付かないのが不思議です。急性膀胱炎というFast Disease の病名に惑わされ、非細菌性慢性膀胱炎・間質性膀胱炎をその延長疾患と誤解するので、Fast Diseaseの治療から抜けられなくなり、患者さんを肉体的にも精神的にも苦しめることになるのです。「また来たョ!何べんも気のせいだと言っているのに!しょうがない患者だなぁ!」と思う医師がしょうがない医師なのです。慢性膀胱炎・間質性膀胱炎は単純なFast Diseaseではなく、たくさんの要因がタップリ時間をかけて複雑に転回して発症するSlow Diseaseなのです。

ではここで、典型的な間質性膀胱炎の女性患者さんを例に挙げ、非細菌慢性膀胱炎・間質性膀胱炎がSlow Diseaseとして至るまでの道のりを説明しましょう。以前のブログで、デジタル的な図式(フローチャート)をお示ししましたから、今回はアナログ式、箇条書きに説明しましょう。

3年前から頻尿と突然襲って来る尿道の激痛で苦しんでいる60歳のAさんは、泌尿器科を転々としています。病院で行われる尿検査、超音波エコー検査、MRI検査、尿路造影検査の全てにおいて異常なく、都立○○病院で「間質性膀胱炎」と診断され、膀胱水圧拡張術を行いました。その後も頻尿に改善なく、日中は1時間に3回、夜は10回トイレで目を覚まします。今年の5月に某有名大学病院の有名医師を受診し、やはり「間質性膀胱炎」の診断で、膀胱水圧拡張術を行いました。しかし、結果は思わしくなく、思い余って主治医に「IPDを飲んだらどうでしょうか?」と何気なく質問すると、烈火のごとく叱られ、「なぜ貴方に私が指図されなければならないのか!もう貴方を診たくない!来るな!」と言われたそうです。待合室で涙ぐんでいると、看護婦さんに「投書してもいいのよ」と励まされる始末です。小さい頃から、人よりもおしっこが近く、授業の休み時間のたびにおトイレに行っていましたが、ご自分も周囲も生まれつきだと思っていました。現在は外出も出来ません。

難治性の慢性膀胱炎・間質性膀胱炎は排尿障害が本当の原因だと、私は信じていますから、そこを重点的に説明します。
【1】
オシッコの時に息むと、外尿道括約筋が開きます。
【2】
外尿道括約筋が開くと同時に、膀胱出口が、自律神経の働きで自動的に開く筈なのですが、何かの原因で膀胱出口が十分に開きません。開きにくいので、緊張するとおしっこが出にくくなるのです
【3】
膀胱収縮して膀胱出口に水圧がかかりますが、十分に開いていないので、膀胱出口に必要以上の圧力がかかることになります。
boo-system
【4】
膀胱出口は中心に穴が開いた薄い膜構造になっています。ちょうど発声するための声帯構造に似ています。そこに流体としての尿が流れ込む訳ですから、気管からの気流に振動する声帯と同じように膀胱出口は振動します。
【5】
この振動を毎日何回も繰り返されるわけですから、振動するために出来ている声帯と違って膀胱出口はたまったものではありません。その振動に耐えられるように、膀胱出口の周囲が丈夫になろうとします。つまり粘膜や筋肉内部に線維化が始まり、厚くなる(肥厚)のです。
【6】
膀胱出口周囲が肥厚すると、膀胱出口の開きはますます悪くなり、硬い膀胱出口となり、いわゆる膀胱頚部硬化症になります。
【7】
膀胱頚部硬化症になると、膀胱出口は硬いままですから、尿流がジェット流になります。ジェット流は、尿道の全行程を位相を少しずつずらしながら尿道口から排出されます。そのため、まとまった太い尿線ではなく、分裂したり噴水状におしっこが出るので、便器を汚すことしきりです。「尿線が割れるでしょう?」と患者さんに質問すると、医師に伝えていないご自分の症状を指摘されて大そう驚かれます。
【8】
膀胱三角部と膀胱出口は平面状に連絡していますから、膀胱出口周囲の肥厚は膀胱三角部の肥厚に波及します。
【9】
膀胱三角部の平滑筋内には伸展レセプターという感覚器が多数存在しています。これは膀胱の伸展で尿量をチェックするセンサーの働きをするところです。膀胱出口周囲の肥厚で膀胱三角部も硬くなり、伸展レセプターのほとんどが常にスイッチが入っている状態になります。
【10】
すると、膀胱三角部の情報は、電気エネルギーとなり自律神経求心路を上向し、脊髄に到達しさらに脳中枢に情報が流れて行きます。膀胱三角部の肥厚によってできた誤った絶え間ない情報は、頻尿尿意頻拍感覚の原因になります。
【11】
膀胱三角部伸展レセプター→自律神経ニューロン→脊髄神経ニューロン→脳中枢という神経伝達の流れを本流とすれば、わずかながらですが何本かの支流の流れが存在します。生命は、事故や緊急事態に備えて、支流の流れを前もって設置しています。もしも本流が何かの事故で途切れてしまった時には、本流が1本しか存在しなければ、情報の流れは全く脳中枢には伝わりません。ところが細いながらも何本かの支流を準備しておけば、本流が完全に途絶えたとしても、支流を通じて脳中枢に不完全ながらも情報を流すことができます。膀胱三角部の情報に限らず、あらゆる神経に関してこのシステムは存在します。
【12】
この患者さんの場合でいえば、膀胱三角部からの自律神経ニューロンは、尿道部の脊髄神経ニューロンに支流として接続していました。そのため、膀胱三角部の情報が多いと、尿道部痛として感じるようになるのです。この現象を関連痛といいます。
【13】
この関連痛は、尿道部痛だけではありません。膀胱三角部からの自律神経ニューロンが接続している脊髄の場所近くに存在する、複数の感覚器からの脊髄神経ニューロンと支流として接続している可能性があります。この患者さんの場合は、恥骨部の脊髄神経ニューロンが近くにあったのですが、人によっては、恥骨、膣、小陰唇、太もも、足の裏、坐骨、臀部、背中の感覚などいろいろです。下半身の様々な症状のために患者さんは神経症やノイローゼのように思われることがしばしばです。

いかがですか?排尿障害が原因で難治性慢性膀胱炎・間質性膀胱炎症状が発症するまで、長い時間と様々な要因が複雑に絡んでいることがご理解いただけましたか。非細菌性慢性膀胱炎・間質性膀胱炎がSlow Diseaseであることがお分かりいただけたことと思います。

さて、実例の患者さんは、日帰り内視鏡手術を行いました。手術後1週間ですが、頻尿は1日50回→30回に減少しました。また、夜間頻尿は10回→5回に減りとても喜んでおられます。あの苦しめた突然の尿道痛は手術後一度も経験していません。さらに2ヵ月後では、頻尿は30回→24回に減少、夜間頻尿は5回→3回に減りました。3ヵ月後の報告はさらに改善しました。日中の頻尿は12回に夜間頻尿は2回になりました。日常生活に支障がなく平穏な生活を送っているとのこと。また、くちびるや手の甲の荒れがなくたったことも嬉しいおまけです。この患者さんは今まで症状が治らないことを大学病院の主治医に訴えると、「制限した食べ物を隠れて食べているんだろう!」と罵倒されていました。でも手術を行って随分改善しました。食事制限は全くなく、現在自由に好きなものを好きなだけ召し上がっています。見当違いの生活指導を行いながら、症状が改善しないのを患者さんの責任にしているこの有名医師こそ、責任を取るべきでしょう。
目の前に見えている症状だけを見ていると、ハッキリ病名のついた「間質性膀胱炎」という訳の分からない病気になりますが、その本質を把握してきっちりと治療すれば、完治も夢ではありません。

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