マスト細胞(肥満細胞)の存在意義
間質性膀胱炎の特徴的な組織像で、マスト細胞の存在が上げられます。
マスト細胞は肥満細胞と呼ばれるアレルギー反応に重要な役目を担っているとされる細胞ですが、未だにその全てが解明されている訳ではありません。細胞の表面に無数のレセプターがあり、IgE抗体に強く反する構造になっています。
マスト細胞がアレルギー反応に関与していることから、マスト細胞の存在が多い間質性膀胱炎は、アレルギー性疾患と推測されていると思われます。この考えは、間質性膀胱炎の専門家の間ではとても有力視されています。
マスト細胞は、皮膚や粘膜などに広く存在し、その数、実に10の12乗個、約1兆個という膨大な数です。また、自己増殖能力があり、必要に応じて骨髄から供給を受けているとされています。しかし、非日常的なアレルギー反応のためだけに1兆個もの数が必要だろうか?という疑問も専門家の間に起こっています。
今までは、【マスト細胞の働き=アレルギー反応】
と思われていましたが、実は、【マスト細胞の働き≒アレルギー反応】
だろうというのです。
【=】も【≒】も大差ないとお思いでしょう?実は大有りなのです。マスト細胞がアレルギー反応にしか関与していないと思われていたのが、実は他の生理現象にも関与していたとなると、間質性膀胱炎がアレルギー反応であるという根拠が薄らぐのです。
●マスト細胞が分泌する物質には次のようなものが上げられます。
1.ヒスタミン
アレルギー反応に関与する代表的刺激成分。血管透過性を高め、いろいろな血液中の成分を漏れ出させる作用があります。風邪薬にはヒスタミンの作用を抑える抗ヒスタミン剤が一般的に含まれています。また膀胱などの内臓の平滑筋を収縮させる作用もあります。
2.ヘパリン
血液をサラサラにする成分。赤血球・白血球やリンパ球が血小板の作用で固まらないようにしています。血液透析の際に、血液が固まらないように回路の中に注入される薬剤として有名。
3.プロスタグランディン
炎症物質としては有名な成分。血管拡張作用と赤血球柔軟作用があります。消炎鎮痛剤は、この成分を抑制する働きで、痛みを抑えます。消炎鎮痛剤で急性胃炎や胃潰瘍の副作用が有名ですが、プロスタグランディンの働きを抑えることで毛細血管の流れを悪くして胃粘膜細胞の血液栄養供給が低下するからです。
4.サイトカイン
アレルギー反応や免疫システムに関与する様々な細胞(リンパ球)の働きの強さと期間を調節し、情報交換を媒介するための成分です。物質的には、ホルモン様低分子タンパク質です。
IL(インターロイキン)-3:造血前駆細胞の促進
IL-4:B細胞の活性化
IL-5:B細胞の分化増殖、好酸球の分化増殖
IL-6:B細胞の分化増殖、発熱
IL-10:マクロファージ活性の抑制
IL-13:B細胞の分化増殖
I-309:好中球・マクロファージ・血管平滑筋細胞の遊走と活性化
GM-CSF(マクロファージコロニー刺激因子)
TNF-α(腫瘍壊死因子):好中球遊走、細胞接着因子活性化
5.ケモカイン
白血球やリンパ球の遊走を促す作用のある成分がケモカインと呼ばれ、サイトカインに分類される場合もあります。
CXCL-8(旧名IL-8):好中球遊走・活性化
これだけ複雑な成分を分泌するマスト細胞が、蕁麻疹などの非日常のアレルギー反応のためだけに体の中に約1兆個も待ち構えていると考えるのに無理があると思えませんか?何の疑問を持たずにバカの一つ覚えのように【マスト細胞=アレルギー反応】という思考の医師がとても滑稽に思えて仕方がありません。
この複雑な成分を分泌するマスト細胞は、非日常的な蕁麻疹などのアレルギー反応ばかりでなく、体の粘膜・皮膚の感染防御や線維化などの日常的な生体反応・生活反応にも関与していることがだんだん分かってきました。マスト細胞は、アレルギー物質に限らず、細菌や物理的刺激に対しても反応するらしいのです。つまり、様々な生体反応に対応する増幅装置としての役目を担っているのでしょう。簡単に言えば、チョッとした事件でも大騒ぎする「お騒がせさん」的な存在なのかも知れません。
マスト細胞がアレルギー反応に関与しているのは、マスト細胞の一面でしかないのかも知れません。もっと多方面の様々な顔(怪人二十面相のように)を持っているのに、今の生命科学では分からないだけです。その中途半端な根拠の上に立っているが間質性膀胱炎です。
私が研修医の頃(26年前)から、間質性膀胱炎は原因不明のアレルギー疾患という認識でした。26年以上も前からアレルギー疾患と思われていて、未だに明確な病態と治療が完成しない病気が存在すること自体、不思議でしょう?恐らくは、その認識が間違っているとしか考えられません。昔から(現在もそうですが)、原因不明の病気が出現すると、その病気は、自己免疫疾患・アレルギー・未知の病原体へと専門家の意思が安易に向かう傾向にあります。思考の呪縛のようなものです。
ここまで知ると、間質性膀胱炎が原因不明のアレルギー疾患という常識に、チョッと疑問を感じませんか?
【マスト細胞の存在=アレルギー】という思い込みが、【間質性膀胱炎=アレルギー】という間違った認識を作っているのかも知れません。アレルギー疾患として捉えているから、アレルゲンを含んだ食事制限を患者さんに強いるのはナンセンスでは?と思ってしまいます。
IPDなどの抗アレルギー剤が、間質性膀胱炎の治療薬として効果があるからアレルギー疾患だというのも疑問です。マスト細胞が関与していて、抗アレルギー剤が効くのは当たり前だからです。
●マスト細胞の分泌成分で間質性膀胱炎の症状を和らげる対症療法が見えてきます。
IPD
間質性膀胱炎の患者さんに頻繁に処方される抗アレルギー剤です。IPDにはIgE抗体・IL-4・IL-5産生抑制作用があります。マスト細胞を刺激するIgE抗体とマスト細胞が分泌するサイトカインを抑制しますから、効果があるのでしょう。
消炎鎮痛剤
ロキソニンを始めとする消炎鎮痛剤が頻尿を抑える作用があるのは有名です。消炎鎮痛剤は、マスト細胞が産生するプロスタグランディンを抑制するので効くのでしょう。
抗ヒスタミン剤
感冒薬として処方されるポララミンやセレスタミンなどの抗ヒスタミン剤は、マスト細胞の産生するヒスタミンを阻止しますから効くのでしょう。
ヘパリン
赤血球・白血球などの血液中の血球成分を凝固から守り、粘膜下組織中で自由に暴れ回れるようしてくれるのが、ヘパリンの作用です。しかし、この作用は炎症反応の初期の反応ですから、慢性期の反応を抑制してくれます。膀胱内ヘパリン注入が効果があるのは、この作用のお陰でしょう。
【参考文献】
間質性膀胱炎 日本間質性膀胱炎研究会編 医学図書出版㈱
わかりやすい免疫疾患 p63-68 日本医師会雑誌特別号(1)
サイトカイン・増殖因子 用語ライブラリー 羊土社
Molecular Medicine 2005 10 マスト細胞とアレルギー 中山書店
http://www.tmin.ac.jp/medical/06/immune3.html
http://www.live-net.co.jp/livenet/listhtml/Medical/MCE1.html
http://www.nch.go.jp/imal/TOPICS/MBP.htm
http://allabout.co.jp/health/atopy/closeup/CU20050330A/
http://homepage3.nifty.com/vet/CONTENTS/saibousin/yougosyuyou.html
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