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神経因性膀胱の誤解

排尿障害の原因の一つとして、神経因性膀胱という病気があります。膀胱の支配神経が「お馬鹿さん」になって、膀胱機能の一部あるいは全てが低下した状態を指す病名です。
膀胱には次の各種機能があります。
(注:教科書的にはもっと難しく説明されていますが、一般の人が理解できないのであれば、説明されていないのと同じです。大雑把で不正確ではありますが、私なりに理解第一をモットーに噛み砕いて説明します。)

【膀胱機能】
1.蓄尿機能(尿を静かに溜めることにできる能力)
2.尿量知覚機能(一定量蓄尿したら、溜まったと!感じる能力=初発尿意)
3.初発尿意時からの蓄尿維持機能(尿意を感じてから、常識的な範囲の時間まで尿を溜められる能力)
4.排尿機能(蓄尿した尿を一滴残らず素早く排尿できる能力)
5.排尿後充足感(排尿後にスッキリと感じる能力)

上記の一つあるいは程度の差はあっても複数の機能が低下・廃絶した場合に、本来の膀胱の働きは完遂されず、排尿障害を来たします。これを総称して神経因性膀胱と呼びます。

【神経因性膀胱の分類】
膀胱内圧検査(チストメトリー)結果などでこの神経因性膀胱を分類すると次のように分けられます。
1.弛緩性膀胱(膀胱が収縮出来ずに緩みっ放し)
2.無抑制膀胱(一定量は蓄尿できるが、膀胱が時々身勝手に収縮する。排尿までには至らない。)
3.過活動性膀胱(尿意がとても強く、膀胱収縮を抑えることが出来ずに排尿してしまう。)
4.排尿筋括約筋協調不全(膀胱が収縮しようとするのに、膀胱頚部・尿道括約筋が十分に開かずに満足な排尿ができない)

しかしこれらの分類は、ダメになった膀胱・尿道の現在の状態を示しているだけであって、なぜこのような状態になったかを示している訳ではありません。確かに、脳血管障害・神経筋疾患や末期の糖尿病などが膀胱・尿道の神経・筋肉の機能低下の原因になったことは理解できますが、これら分類された膀胱・尿道の病態=排尿障害の原因になるには、かなりの論理的飛躍がそこには存在します。

例えば、「弛緩性膀胱」を例にとってみましょう。これは、「膀胱の排尿筋が収縮を忘れて緩んでいるので、尿を出すことができないでいる膀胱」を意味します。この定義を読まれて、なるほど!と思われるでしょう? 私も研修医の頃からつい最近まで、このように信じて疑いませんでした。言葉の一つ一つに何の疑問も論理の矛盾を感じません。ところがよ~く考えてみるとおかしなことに気付きます。

【実験】
膀胱が弛緩していると本当に尿が出せなくなるのでしょうか? 
jikken身近にあるものを例に上げて説明しましょう。ここで最近の点滴パックをご覧に入れます。大昔の点滴容器は、点滴ビンでした。次第にプラスチック容器に変わり、現在ではほとんどの点滴容器がビニール製の点滴パックになっています。点滴パックには利点があります。
第一に、使用済みの点滴パックはペッシャンコにつぶれて容積が少なくなり破棄するのに非常に便利であること。
次に、エアー針を刺さなくても点滴が可能なことです。従来のガラスビンタイプやプラスチックタイプでは、点滴ルートの針の他に、エアー針を刺さないと点滴液が出て来なかったのです。

jikken3さて実験です。生理的食塩水250ml入り点滴パック(青色に着色)に点滴セットを刺し、全開で点滴を流します。点滴パック内の青色の生理的食塩水は見る見るうちに少なくなり、5分もすると空っぽになります。

jikken2通常の流し方だと水滴が見える速度(1分間に60滴)で30分以上かけて落とすのですが、実験のために全開で落としました。当たり前の現象です。

jikken4ここで注意していただきたいのは、誰も点滴パックに触れて圧力をかけていません。大気圧だけで点滴パックの中身の青い液体は全て流出しました。点滴パックには筋肉も外から圧迫する臓器もありません。
ところが、神経因性膀胱の排尿障害で残尿を認めたり、出が悪いと、膀胱に力がないと診断する医師が数多く存在します。「力のない」点滴パックが1滴も残らず生理的食塩水を外に出しているのに、膨らむのが大嫌いな筋肉で出来た膀胱が腹腔内臓器に圧迫され、さらに腹筋で腹圧をかけられているにもかかわらず、液体である尿を出し切れないのを「膀胱に力がないから」と結論付ける医師の科学的根拠のない奇想天外・夢物語的発想には、ただた驚くばかりです。

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コメント

8月中旬から排尿時に痛みがあり、総合病院で検査をしてあまりの痛さに入院しましたが(1週間)
一度よくなりましたが、9月の末からまた痛み出し、今は間接どう尿しています。背中も痛く痛み止めを飲めば少しいいですが、たくさん動くと痛みが激しくなります。尿は黄色よりも赤に近い色です。膀胱炎の菌も出でいます。担当の医師は、
どう尿するしかない、といいますがどうでしょうか?お時間ございましたら教えてください。

【高橋クリニックからの回答】
間欠導尿は、排尿障害が強く、残尿量が多い場合の対処療法です。残尿量はどのくらいなのですか?

投稿: 上田 | 2006/10/04 22:43

こんにちは。ここに書かれている(神経因性膀胱の分類)についていくつか質問があります。お答え頂けると嬉しいです。
質問(1)2.無抑制膀胱(一定量は蓄尿できるが、膀胱が時々身勝手に収縮する。排尿までには至らない。)とありますが、膀胱が収縮しても膀胱の中身である尿を外に出さないという意味でしょうか?(その場合強い尿意と切迫感を感じますか?)それとも少量の尿漏れはしてもそれ以上は排尿せず膀胱に尿が残る状態でしょうか?
【高橋クリニックからの回答】
この分類は、膀胱内圧検査で診断できる病態です。患者さんは自覚していません。膀胱内圧検査を行なうと、膀胱が意味もなく無秩序に収縮・弛緩を繰り返す状態です。尿意も自覚しませんし尿失禁による排尿もしません。残尿の有無は問いません。

質問(2)3.過活動性膀胱(尿意がとても強く、膀胱収縮を抑えることが出来ずに排尿してしまう。)とありますが、こちらは(膀胱に尿を残さない状態の)尿失禁のことでしょうか?
【高橋クリニックからの回答】
突然の強い尿意を抑えきれずに、トイレに入る前にもらしてしまうような状態をいいます。これも残尿の有無は問いません。

せっかくわかりやすく書いて下さったのに文章の理解力がなく申し訳ありません。よろしくお願い致します。

投稿: ウロウロ | 2006/10/11 19:06

早速のお返事と丁寧なご説明ありがとうございます。よく解りました。
ありがとうございました。

投稿: ウロウロ | 2006/10/12 18:11

高橋先生
 はじめまして。神経因性膀胱の誤解という記事を拝見しまして、質問させていただきたくメールしました。

 私の息子8歳は、4年前に神経因性膀胱と診断され、現在、自力排尿+自己導尿+プラキス服用を続けています。
 鎖肛という病気を持って生まれ、もともと排便障害はあるのですが、排尿に関しては1~2歳当時は尿漏れもなくドライタイムがあったと思います。
 2~3歳のおむつトレーニング時期に、尿意を感じず、まとまった尿も出せず頻繁に尿漏れが起きる症状が発覚しました。
 病院の検査で脊髄末端神経停留が発見され手術を受けましたが、1年経っても排尿感覚は戻らず、膀胱壁は厚いまま伸縮が戻ることもなかったため、6歳から自己導尿を開始しました。主治医には、一生導尿が必要で、頻繁な尿漏れについてはポラキスで改善しなければ、数年先には膀胱手術が必要になると伺っています。

 今は、一日3回の導尿と自力排尿2回、ポラキス服用をしていますが、腹圧によると思われる尿漏れが頻繁にあるため、尿パットを手放せず生活しており、これが本人の大きなストレスになっているところです。(医師には、服用効果を上げるため自力排尿を止めるように言われているのですが、学校生活の中で完全に止めるのは息子には難しいようです)

 このような中、最近息子が"以前より尿意を感じる"と話すようになりました。尿意は意識し続けないとすぐ忘れてしまうぐらい弱いもののようですが、数日に1回程度、おしっこ!と言ってトイレに行く姿が見られるようになりました。
 
 今後の息子の治療方法について、可能でしたら高橋先生のご意見をいただけないでしょうか?
 膀胱手術を受けると、ドライタイムが伸び生活は楽になる一方で、完全に自己排尿が出来なくなると説明を受けており、息子はひどく抵抗感を持っています。
 将来的に膀胱伸縮機能が復活し、神経因性膀胱が治る可能性はあるのでしょうか?
 
 ご指導とご意見をどうぞ宜しくお願い致します。
【回答】
膀胱出口の緊張を緩めるα-ブロッカー(エブランチル)が適応と考えます。
  

投稿: maki | 2014/02/25 13:10

高橋先生

 ご回答ありがとうございました。
 
 次回の定期診察の際に、教えていただいた薬について、主治医に問い合わせしたいと思います。

投稿: maki | 2014/03/12 11:34

はじめまして。41歳女性です。
今年の3月に子宮広汎摘出術を受けてから、自尿が全くゼロです。
エブランチルものんでおりますが、まだ効果を実感できません。
時間をみて、自己導尿で尿をとっておりますが、自分で膀胱が収縮させて菌を外に押し出せないためか、自己導尿ではおしっこが濁って臭くなります。
普段は30分トイレにこもってどんなに腹圧かけてみても、でないのに、大きめの便が肛門を通る瞬間にだけ、わずかですがおしっこがでやすくなることもまれにあります。(何かスイッチでもあるみたいに)。
主治医先生は「手術で神経とっているかみしれないし、神経のダメージあるけど、一回でもでたことあるならいつかでるよ。」といわれましたが、どんなに頑張っても一滴もまずでないのに…。
先生の手術でおしっこでるようになりますか?
【回答】
はい。

投稿: もも | 2014/05/16 10:48

高橋先生、お返事有難うございました。
では、神経因性膀胱でも、先生の膀胱出口付近の手術で、内尿道括約筋(平滑筋)と外尿道括約筋(横紋筋)の尿道部分も開いて排尿可能になるということでしょうか?
【回答】
内尿道括約筋がダメージを受けているから、排尿障害になるのです。
外尿道括約筋がダメージを受けているのであれば、大便もできなくなります。」

内尿道括約筋の神経がすでにダメージうけていれば手術しても難しいことはありますか?
【回答】
ダメになっている内尿道括約筋を切除するのが私の治療法です。

投稿: モモ | 2014/05/17 18:10

もう10年以上前から出そうと思ってもオシッコがでません。毎回5分以上いきまないと出てくれません。尿意がある時も変わりません。何軒かの泌尿器科を受信しました。
エコー、触診もしていただきましたが、前立腺の大きさは正常と言われました。結局α1ブロッカー等を処方されるが、改善しません。現在はザルティアとユリーフを飲んでいますが、全然駄目です。
今まで服用した中でウブレチドとユリーフを飲むと多少出が早いようでした。
47歳の男性です。お酒をよく飲みます。
これから夏になり出がさらに悪くなります。
【回答】
排便(大便)する時にオシッコが出ませんか?
もしも出るとすれば、不思議ではありませんか?
尿を出そうとするときに出なくて、排便をする時に尿が出るという事実を・・・。
この現象は膀胱頚部硬化症の患者さん特有の現象です。
前立腺の大きさとは無関係です。
ユリーフ単独で治療が良いでしょう。
ウブレチドは逆に足を引っ張ります。

投稿: なかなか出ない | 2015/05/06 11:29

早速のお返事、有難うございます。
おっしゃる通り排便時は必ず出ます。
時間がなく、早くオシッコを出したい時は
便を出す為にいきみます。便を出す事で
オシッコが絶対出てくれるからです。
洋式トイレで座れば、立ってするより早く出せる
場合が多いです。それでも駄目な場合は、やはり
便を出すしかありません。

投稿: なかなか出ない | 2015/05/07 15:05

ウブレチド5mg錠は危険なお薬なのでしょうか?
膀胱頸部硬化症というものは治らないのでしょうか?
よろしくお願いします。
【回答】
ウブレチドは膀胱の内臓筋(排尿筋)の力を高め排出を促す薬剤です。
この薬剤が、駆出させる力を強くするだけなら、排尿は改善します。
ところが、駆出させる力ばかりでなく、膀胱出口の閉じようとする筋肉の力も強くしてしまったら、おしくらまんじゅう状態になり病状は悪化します。
膀胱頚部硬化症は膀胱出口が硬くなっている状態ですから、ウブレチドで悪化する可能性が高くなるのです。

投稿: なかなか出ない | 2015/05/12 16:18

お返事有難うございます。
よくわかりました。

投稿: なかなか出ない | 2015/05/15 13:43

ウブレチドをやめて、ユリーフ4mg1日2回を続けています。あまり併用時と変わりません。ユリーフを飲まないよりは飲んだほうが出るような気はするのですが、よくわかりません。夏は尿意を感じる頻度が高まります。しかしなかなか出ないのはかわらず、出てもさほど量はでません。もっと良い薬があれば教えてください。薬物療法ではこれが限界なのでしょうか?
【回答】
ザルティアなどもあります。

投稿: なかなか出ない | 2015/07/26 10:41

ダメです。ザルティアを3週間服用していますが、私には合わないようです。ユリーフの方がまだましでした。新薬が発売されるまでは、ユリーフで我慢するしかないのかな?

投稿: なかなか出ない | 2015/08/27 15:52

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