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検査の考え方の盲点

慢性膀胱炎・間質性膀胱炎・心因性頻尿と診断されるご婦人には、わずかながらではありますが、必ず排尿障害が存在します。ここで述べる排尿障害は、尿の勢いが悪いか残尿があることを云います。
すでに慢性膀胱炎・間質性膀胱炎・心因性頻尿と診断されたが、なかなか治らずにドクターショッピングされる患者さんが多く私のクリニックに来院されますが、その中には、運良く?尿流量測定ウロフロメトリー検査や残尿量測定検査を行われていた方がおられます。その過去の結果をお聞きすると、
「勢いは悪いがタマタマなのでしょう。」
「緊張したから出なかったのでしょう。」
「一生懸命に出しました?」
「この程度は問題ないでしょう。」
などと、検査結果に異常が出ているのにもかかわらず、その結果に対して医師は評価を出そうとしいないのです。検査は異常が出た時が勝負なのです。なのに千載一遇の折角のチャンスを無駄にしている医師の何と多いことか!これでは患者さんの本当の姿を見つけることは出来ません。
麻酔を行った膀胱鏡検査で膀胱粘膜に点状出血を見つけて、鬼の首を取ったように「間質性膀胱炎だ!」と自慢げに診断する医師の姿は滑稽です。膀胱鏡検査すら行わない医師はもってのほかですが、膀胱鏡検査だけでは膀胱の真の姿をすべてが診断できる訳ではないのです。「点状出血は重要な所見だが、あるかないかの排尿障害の所見は目をつぶってもOKでしょう」とでもいうのでしょうか? 
私から言わせてもらえば、点状出血とは現在の具合の悪い膀胱の姿を肉眼的に観察しただけのことです。頻尿や膀胱痛といった症状と同じ意味にも取れます。具合が悪くなった膀胱の原因ではないのです。医師としては、原因を追究しなければならないのに、【点状出血=間質性膀胱炎】で終わりの印象が強く感じるのは私だけでしょうか?
間質性膀胱炎ではない患者さん(前立腺肥大症や膀胱排尿筋内尿道括約筋協調不全など)の内視鏡手術の際に、手術用還流液でパンパンに膨れた膀胱の膀胱粘膜に点状出血を認めることはよく経験することです。排尿障害で膀胱が楽をしようと長い間膨らむのを忘れた結果、膀胱粘膜や膀胱表在の血管が固く伸展しなくなり、プチプチ切れて出血するのは当たり前の現象です。頻尿や膀胱痛が強い患者さんの膀胱は、すでに十分膨らまなくなり、さらに硬くなり点状出血するのは容易に想像できるでしょう?
泌尿器科が行う検査は、目的に応じて尿検査・レントゲン検査・細菌培養・血液検査・超音波エコー検査・尿流量測定ウロフロメトリー検査・残尿量測定検査・膀胱内圧検査・膀胱鏡検査などいろいろあります。貴方はこれらの検査のどの検査を行いましたか?もしも尿検査だけで異常なしと診断されているとしたら、貴方はいかにいい加減な診断をされたかお分かりでしょう。

「勢いは悪いがタマタマなのでしょう。」
検査結果に異常が出ることは確率的には少ないことなのです。ですから異常所見は大切に扱わなければなりません。常にタマタマであることを期待するのが本当の医師の姿だと思います。例えば、胃カメラで潰瘍が見つかり、治りが悪いのでバイオプシー(生検)を行いますが、1回目では異常が出なかったとしましょう。すると主治医は癌細胞が出てくるまで何度でも日を改めて胃カメラとバイオプシーを行おうとします。1回目の検査で異常がないからといって決して諦めません。その逆に、1回目のバイオプシーで癌細胞が発見された時には、タマタマだろうとは思わないでしょう。

「緊張したから出なかったのでしょう。」
体に全く異常がなければ、常に正常であって、決して検査では異常は出ません。それは緊張しようが緊張しまいが、常に正常なのです。もしも緊張してオシッコが出にくいとすれば、私から言わせれば、緊張したぐらいで出にくくなる何か異常が隠されていると考えるのです。

「一生懸命に出しました?」
尿に関して常に敏感で悩み疲れ、恥ずかしいのをガマンして診察に訪れた患者さんに対して、一生懸命に出さない訳がないではありませんか!こういうことを言う医師は、自分がいつも一生懸命に仕事をしていないのに違いありません。

「この程度は問題ないでしょう。」
この程度とは、どの程度なのかを医師は明言しません。
例えば、ある患者さんが尿流量測定ウロフロメトリー検査で正常の人よりも10%程度オシッコの勢いが悪いとしましょう。高々10%程度です。医師がこの程度と言われる程度です。膀胱は常に全力で与えられた使命(排尿)を果たそうとします。膀胱は臓器ですからですから当たり前のことです。ところが、検査結果では10%程度勢いが悪かったかも知れませんが、膀胱は100%以上、もしかすると200%の力を振り絞って出した結果かも知れません。それは様々な検査を行ってもなかなか分かりませんが、膀胱の気持ちになって考えてみるのです。この尿流量測定ウロフロメトリー検査後に残尿量測定検査を行えば、膀胱の気持ちが分かることがあります。明らかな残尿が見つかれば、膀胱が頑張っても残尿を0にすることが出来なかったことを示します。残念ながら、残尿の0の時点での膀胱の苦しみを認識する手立てはありませんが...。
さて、1日8回排尿をしたとして、10年間この状態が続いたとしましょう。すると、【8回×365日×10年=29200回】も膀胱が200%もの力を振り絞ることになります。貴方が膀胱そのもので、10年間に2万9千2百回も全力疾走を続けたら普通でいられますか?間質性膀胱炎という状態になったとしてもおかしくはありませんね?
1回の検査結果の「この程度」という言葉の中には、このような盲点が隠されていて、医師は気がついていないのです。人間は医師も含めて目先のことのホンの一瞬・ホンの刹那のことしか理解できません。でも病気の中には長時間にわたって経過して初めて症状や病気として発現するものもある筈です。医師は素人ではないのですから、長いスパンのことも考慮して診断しなければなりません。膀胱鏡検査で点状出血を見つけておしまいの診察では、チョッと賢い小学生にも可能な診断法です。
このような適当な診断で被害を被るのは、慢性膀胱炎・間質性膀胱炎・心因性頻尿と診断された患者さんなのです。

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