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メール相談 慢性膀胱炎編#2 その後

「メール相談 慢性膀胱炎編#2」の患者さんのその後の経過をお話しましょう。

手術を予定して1月13日に来院されました。ところが膣炎を起こしており、膣から膿性のオリモノが大量に排出していました。無菌の状態で手術を行いたい執刀医にとっては、膿が出ている状態は敬遠したくなります。患者さんとお話をして、膣炎を婦人科で治療してから手術しましょうと、手術を延期しました。

「お忙しいところ申しわけありません。カルテNO.○○○73の○○○○です。
1/13の手術中止後、産婦人科に行き膣分泌物の細菌検査をしました。産婦人科の先生から検査報告書を高橋先生の方に渡しなさいと言われたので、一応メールで結果をお知らせしようと思いメールさせていただきました。どこまで書けばいいのかわからないので、報告書そのままを書きます。

<固定検査>         <菌量>
1.Candida albicans     (2+)
2.E.coli            (2+)
3.Enterococcus faecalis  (2+)
4.Corynebacterium sp.  (1+)
5.Gardnerella vaginalis   (1+)
6.デーデルラインカン菌(常在菌)(2+) 

1.カンジタ アルビカンス
各種領域にあいて、表在性真菌症、深在性真菌症をおこす。間擦疹、乳児寄生性紅斑、指間びらん症、爪囲爪炎、特に免疫不全患者において口腔カンジタ症、尿路カンジタ症、膣炎、肺炎、眼内炎、などの日和見感染をおこす。 11.99%(生殖器)
2.イ コリィ 大腸菌
ヒトの感染症では最も普通にみられる病原菌で、UTI、菌血症で最も高頻度にいられる起因菌です。新生児髄膜炎や呼吸器感染症などの感染症の起因菌である場合が多く、感染型の食中毒をおこす。 8.76%(生殖器)
3.エンテロコッカス フェカーリス
腸管内の常在菌で尿路感染症、創傷感染症、及び腹部内膿瘍の起因菌として認められる。毒素因子を持つことが考えられている。本質的に多剤耐性を示し、抵抗力の低下した患者に対して重篤な感染症をおこすことがある。 7.56%(生殖器)
4.コリネバクテリューム属
皮膚・口腔咽頭および鼻粘膜の常在菌。高齢者などの易感染者において呼吸器感染症などの報告がある。 3.23%(生殖器)
5.ガードネレラ バギナリス
膣常在菌である。細菌性膣症の有無に関わらず女性の直腸に存在する。 16.42%(生殖器)

以上のような事が書いてありました。
産婦人科の先生は「カビだ」と言ってますが、以前カンジタ膣炎になってしまった時は陰部が痒かったのでわかりますが、今回は全く痒みがなく(痒みがない事はいいました)、以前と症状が全く違うのでまた疑問を感じてしまってます。現在、「確かにちょっと膣炎っぽいね」って事で、洗浄と膣剤を入れに通院しています。他には特に何も言われてません。27日の手術予定日までに間に合うかどうかもわかりません。

質問があるのですが、膣と膀胱(または尿道?)がくっついているかいないかを調べるにはどんな検査をするのですか? どうも気になったもので…。失礼します。」

「お忙しいところ申しわけありません。
カルテNO.○○○73の○○県の○○○○です。
お電話しようかとも思いましたが、言う事がまとまらなくなりそうだったので、メールをさせていただきました。
1ヶ月以上前から続いている膿のようなおりもの?が今だに治まりません。陰部の痛みも不安定に続いています。
しびれを切らして15日(火)に産婦人科を変えて受診しましたが、またも「カビ」による膣炎と診断されました。
「膣になにか変わったことはなかったですか?」と失礼ながらも婦人科の先生に尋ねたのですが、「なにもないですよ」とのこと。(どんなふうに膣を診て「なにもない」と診断したのかはわかりませんが…)
またも膣剤を入れて今現在様子を見ているのですが、28日の手術の事を考えるとさすがに心配になってきました。ここまで治まらないと、ほんとは膣炎じではないんじゃないかと疑ってきてしまいます。
1月13日に高橋先生が言った「膣と膀胱がくっついていたら…」という言葉をふと思い出し離れません。

婦人科専門じゃないのはわかっていますが、高橋先生でしたらどんな考えになるのでしょうか?他に疑いのある病気とか思い当たる事はありますでしょうか?出来ればご意見をお願いします。
あと、1月13日にクリニックに来院した時、出来る範囲で内診をしていただきましたが、膀胱憩室?と思われるものは膣の入り口から何センチぐらい奥のところにあるのですか?すみませんが教えてください。 失礼します。」

以上の経過から、治りの悪い膣炎は、膀胱憩室が原因で膣が刺激されて膿の排出をしている可能性があると考えました。憩室ではなく膿瘍(のうよう)の可能性が高いと考えたのです。そのためには、膀胱頚部の切開ばかりでなく、膿瘍にも治療しなければ、この患者さんは治らないだろうと思い始めました。
生理などのこともあり、結局延びに延び、2005年4月8日に手術になりました。

16173f30opこの写真は、ナイフ形電気メスで膨瘤した膀胱粘膜に穴を開ける瞬間です。この一瞬は勇気が要ります。なぜなら膨瘤しているからその真下び膿瘍があると常識的に考えられますが、もし私が思いもよらない他の理由で膨瘤していたとしたらと考えると恐ろしい!電気メスの後の粘膜が2箇所傷が付いています。これはためらい傷です。本来尿管口がある位置の凹みに電気メスを穿刺しましたが、何の反応もないので、尿管口の穿刺を断念しました。そして一番膨瘤している頂点にこれから挑もうとしているところです。

16173f30op2刃渡り3mmの電気メスを3mm、5mmと進めて行くうちに目的の膿瘍の壁は開きました! 
直後、白い「もや」が陽炎のように排出します。「もや」の正体は膿です。憩室ではなく膿瘍だったのです。
予想通りで、ほっと一安心です。

16173f30op3穴を十分に広げてから、電気メスの先端を穴から離すと、写真のように勢いよく膿が吹き出てきます。
噴出す膿の「もや」は、まるでオーロラのように幻想的です。
膀胱内に溜まった還流液を吸引しながら観察しています。

16173f30op4さらに膣から膿瘍を圧迫すると、ご覧のように膿のかたまりが溶岩のように噴出します。
指を使って膿瘍内の膿を十分に排出させます。
出来れば結石も出てくれたらなぁと思いながら、一生懸命にしごきます。

16173f30calcli膿瘍の中の膿がなくなった段階で、膿瘍の中のスペースを観察すると結石を見つけることができました。
手術用のループ鉗子を使って膿瘍の内壁から結石を注意しながら剥がす操作をしました。
すると、ヒョイッと穴から飛び出てきました。

16173f30op6内視鏡から出る流水の力で膿瘍のスペースから結石が勢いよく噴出する瞬間です。
一瞬の映像なので、結石がぶれていますが幽霊ではありません。
視野から一瞬結石を見失うので緊張します。

16173f30op5一瞬ではありますが、結石を見失いました。
しかし、容易に結石を見つけました。
これは膀胱内に落ちた結石を採取しているシーンです。
結石をこぼさないように、丁寧にループ鉗子に乗っけている場面です。

16173f30cal手術後、採取した結石を測定しました。
色調は黄色で表面は平滑です。
大きさは4mm×3mm×2.5mmのでした。
この結石は性状から、尿路結石です。
尿路結石であることからすると、この膿瘍は尿管末端の拡張した「成れの果て」でしょう。

16173f30deve結果的に膀胱壁に直径5mmの大きさの穴を開け、膀胱と膿瘍スペースの尿の出入りを自由にしました。
これで、このスペースに膿がたまることはないでしょう。
この写真では、スペース内にまだ血塊を認めます。

16173f30op7膿瘍の中の空間を十分に洗浄しました。
当然、血塊も除去しました。
過去において恐らく尿管であっただろう膿瘍の内壁がきれいに観察できます。
もうここには膿はたまらないでしょう。
長年苦労した尿管に敬意を表します。

16173f30op8この患者さんの病気の大本は、排尿障害です。
膀胱頚部の開きが悪いので炎症を繰り返し、もしかすると膀胱尿管逆流症にもなり、左尿管口が閉塞したのかも知れません。
この写真は、膀胱頚部を尿道から観察した所見です。直径6mmのループ型電気メスと比較して、膀胱頚部の内腔が2mmほどしかないことが容易に判断できます。

16173f30op9電気メスで膀胱頚部を切開して開いた所見です。
直径6mmの電気メスのループが余裕で通ります。
横径で6mm、縦径で12mmに拡大しました。


採取した膿の細菌培養結果:
E.coli(大腸菌)
S.epidermidis(表皮ブドウ球菌)

採取した結石分析の結果:
リン酸カルシウム96%
炭酸カルシウム  4%

手術後の尿流量測定ウロフロメトリー検査結果:
cc16173urfl29 16173f30opuro
左のグラフは初診時で、右のグラフは今回の手術5日目です。
初診時は、227mlの尿量を70秒掛けてゆっくり排尿しています。ダラダラといつまでも終わらないのが、グラフの性状で容易に判断できます。しかも、この時の残尿量測定検査では224mlの尿が残っていました。
手術5日目のグラフでは、137mlの尿量を16秒で終了しています。残尿量測定検査では、わずか10mlです。

【手術後のお便りめーる】
「高橋先生こんばんは。お忙しいところ失礼します。
4月8日に手術を受けたNO.○○○73○○県の○○○○です。そのせつは本当にお世話になりました。ありがとうございました。
手術後、麻酔の副作用による頭痛は12日に痛み出してからきっちり1週間で治まり、20日から出勤出来るようになりました。今現在の状態ですが、尿と一緒にかさぶたのようなものが時々出ますが、尿がピンクになったりティッシュに血が付くような事はありません。
尿意が来る時と排尿する時・排尿した後に傷がしみるような痛みがあります。(術前に経験していた痛みの種類ではないです) 残尿感や尿意頻拍はある時とない時があります。1日の排尿回数は4.5回と安定してきました。
手術してからまだ1ヶ月も経ってないので、出血に気をつけてこのまま様子を見ながら過ごして行こうと思います。
また何かあったらメールさせていただきます。よろしくお願いします。 失礼します。」

【その後の御礼のメール】

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コメント

はじめまして。63歳、女性です。
尿の出る所の痛みと尿を出すときに時間がかかることに悩んでいます。10代後半から程度の差はありますがその症状は続いています。半年前に慢性膀胱炎と診断され、それから薬だけの治療にかかっています。ひどい時にはどろどろしたものが尿と一緒に出ましたが、泌尿科で抗生物質をもらい少しずつそのどろどろしたものはなくなりました。泌尿科の先生にかかる前に他の病気(血液関係)で通院している病院の先生にも相談したことがあり、その先生からも薬を頂いたり、水分摂取とトイレを我慢しないようにとご指導頂きました。そうするように気をつけていますが、少しそれを怠ったり疲れたり汗をかきすぎたりすると、尿が出る前と出た後に尿が出る所が痛くなります。泌尿科から抗生物質など薬を頂く治療が続いていますが、また痛くなると薬をもらうといったことがずっと続いているので、根本的に直らないのかと非常に不安に感じています。また、採尿だけの検査で慢性膀胱炎と診断されていますが、それも本当にそうなのかこのHPを拝見して不安になってきました(高橋先生の病院では検査を十分した上で診断されているようでしたので)。お忙しいなか恐れ入りますが、ぜひご指導頂けたら幸いです。

【高橋クリニックからの回答】
直ぐに出ないのは、排尿障害があるからでしょう。
α-ブロッカーのお薬を服用すると軽快します。

投稿: かっぱ寿司 | 2007/06/10 23:21

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