患者さんからのご連絡で、毎日新聞の記事に私の考えと合致する内容の記事が掲載されたそうです。ご紹介ありがとうございます。
下記にその記事を要約しました。
詳細は下記のサイトをご覧ください。
毎日新聞
高齢男性に多い前立腺がん。早く見つければ治療後の見通しは良いが、一般に病状の進行は緩やかなため、不利益も伴う治療をすべきか悩ましいところだ。2回目は、前立腺がんの早期発見に役立つPSA検査についてまとめた。【渡辺諒】
死亡率低下、証拠不十分 病状進行遅く、効果不透明
長野県安曇野市の無職、工藤元彦さん(77)は約10年前に受けたPSA検査と、その後の精密検査を後悔し続けている。きっかけは夏風邪。2~3週間たっても治らず、市販の風邪薬を飲むと尿が出なくなり、救急病院へ。そこで受けたPSA検査で「異常」と出た。
この検査は、前立腺がんの可能性を調べる検診の一種で、……。国立がん研究センターによると、がんや炎症で前立腺の組織が壊れると、PSAと呼ばれる特異なたんぱく質(腫瘍マーカー)が血液中に漏れ出てくる。PSAの血中濃度が1ミリリットル当たり0~4ナノグラム(ナノは10億分の1)は正常だが、同4~10ナノグラムだと25~40%の割合でがんが見つかる。……。
PSA検査の結果を知った工藤さんは、前立腺12カ所に針を刺し、組織を採って調べる精密検査(針生検)を受けた。すると、1カ所からがん細胞が見つかり、医師から手術か放射線治療、PSAの値を定期的に調べる監視療法のいずれかを勧められた。「手術を選んだ友人が尿漏れに苦しんでいる」「前立腺がんは成長が遅い」ことを思い出し、工藤さんは結局、監視療法を選んだ。
その後、少しずつPSAの値が上昇し、腰痛にも悩まされるように。「前立腺がんは骨に転移しやすい」と聞いたため、病院で磁気共鳴画像化装置(MRI)を使用した画像検査を繰り返し受けたが、がんは前立腺にとどまったまま。工藤さんは「結局、尿が出なくなったのもがんと関係がなかった。高齢者は早期にがんを発見して心配するよりも、知らずに過ごした方が精神的に健康だ」と話す。
早期の発見には有用
PSA検査は、複数ある腫瘍マーカーのうち、「前立腺がんを早期発見するのに最も有用」(同センター)という。日本泌尿器科学会はガイドライン(指針)で、50代から受けるよう勧めている。学会の代議員で、黒沢病院(群馬県高崎市)の伊藤一人院長は「検査で前立腺がんの死亡率が下がったというデータもあり、一度は受けておくべきだ」と強調する。……。
一方、問題は、早期発見による利益と不利益のバランスだ。米国予防医学専門委員会によると、55歳以上で自覚症状のない1000人がPSA検査を受けた場合、異常値となった240人のうち精密検査で100人にがんが見つかるが、前立腺がんによる死亡を避けられるのは1~2人。60人以上は……医療行為などによって、尿失禁や勃起不全の合併症を経験する。前立腺がんは進行が比較的遅く、寿命に影響しないことも多い……不利益が利益を上回るケースもある。
過剰医療をなくそうと70以上もの専門学会が参加している米国のキャンペーン「Choosing Wisely」(賢い選択)でも、米国泌尿器科学会が「リスクについて医師と話し合った後に検査を検討すべきで、日常的に受けるべきではない」と呼び掛けている。米国ではPSA検査について、医師と患者が対等に話し合い、結果についての責任も両者が負う「シェアード・ディシジョン・メイキング」という考え方が浸透している。大阪大の祖父江友孝教授(がん疫学)は「一般的に検診を肯定的に捉える風潮が強いが、検査を受けることで発生する不利益も考えてほしい」と話す。
日本でも厚生労働省の研究班がまとめた指針によると、個人の判断で受診することは妨げないものの、市区町村が行うがん検診への導入は勧められないという。がん検診の最も重要な点は、検査によってそのがんによる死亡率を下げることだが、国立がん研究センター検診研究部の中山富雄部長は「PSA検査には『下げる』と『下げない』と両方のデータがあるため証拠が不十分で、現時点で結論が出せない」と指摘する。
8割超の市区町村がPSA検査を導入している中で、熊本市や東京都八王子市のように厚労省研究班の指針を順守し、PSA検査を提供していない自治体もある。大阪府は府内の市町村に対し、指針に基づく検診だけを実施するよう通知することも検討している。
多い選択肢 十分理解を
利益と不利益をきちんと理解してからPSA検査を受けるべきか判断すべきだが、検査して「異常」となった場合にはどんな精密検査や治療が必要になるのか。
がんかどうか確定するには精密検査の針生検が必要だが、年齢や前立腺の大きさ、MRIの画像検査の結果次第で針生検を一度中止し、半年から1年後にPSA検査を再び行ってから決めることもできる。……。
治療としては、がんの転移があれば、薬剤で男性ホルモンを下げてがん細胞の増殖を抑える。一方、がんが前立腺内にとどまっている場合は、▽手術▽放射線▽監視療法--の3種。ただ、手術でがんを取り除こうとすると、前立腺周辺の神経や括約筋にダメージが加わり、……。放射線治療でも、排尿困難や頻尿、血尿、便秘の症状が出る可能性もある。
監視療法は、がんが前立腺内にとどまり、PSAの値も血中濃度が1ミリリットル当たり10ナノグラム未満といった低リスクの患者に対して行われ、3カ月ごとにPSA検査を、1年後に針生検を受け、がんの進行を見極めていく。しかし、針生検にも感染症や排尿障害が出る恐れがある。
国立病院機構大阪医療センター泌尿器科の西村健作科長は「前立腺がんは治療の選択肢が多岐にわたるため、長所と短所を説明するのに十分な診療時間が必要だ。患者は3種の治療内容と有効性、合併症などを偏りなく理解したうえで、納得できる治療を選んでほしい」と話した。
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