超音波エコー検査の2D画像と3D画像を比較していくうちに、「?」と気がつくことがありました。
大きな前立腺肥大症が、2D画像では同じように見えても、3D画像では2つのタイプが存在するように見えるのです。
超音波エコー検査機器の特性(機器内のソフト特性)でそのように見えるのかも知れません。たまたま、同じものが、何かの条件で違った所見として捉えられるのかも知れません。超音波エコー診断装置で3D・4Dの複雑なソフトというフィルターを通過してきた情報ですが、思わぬ発見をしたのです。
機器による幻覚かもしれませんが、機器にだまされたと思って信じ、仮説を立て考察してみました。
【タイプ1】
74歳の男性患者さんです。地元の社会保険病院の泌尿器科で、10年前から前立腺肥大症で治療を受けています。ハルナールを服用していますが、日中9回、夜間4回の頻尿があります。
前立腺ガン腫瘍マーカーであるPSAが25と高値になったので、過去に3回も前立腺針生検を行なっていますが、いずれも異常なしの結果です。
セカンド・オピニオンで来院されました。
超音波エコー検査2D画像では、膀胱に突出した前立腺肥大症を認めます。大きさは約70ccで正常(20cc前後)の3倍以上の体積です。明らかに大きな前立腺肥大症です。
側面像でくびれている部分が膀胱出口で白く見えるのが前立腺結石です。
超音波エコー検査3D画像の膀胱側から観察した所見です。膀胱出口の小さな穴が確認でき、その周囲を盛上がった前立腺が確認できます。
超音波エコー検査3D画像で、上の画像の裏側から観察した所見です。
不思議に見えませんか?洞窟のように伽藍堂です。所どころに観察できる塊は前立腺結石です。洞窟の奥が行止まりになっていて、わずかながらスリットが入っています。それが膀胱出口でしょう。
2D画像で確認できる前立腺は、3D画像では透明になり、そのスペースが空虚な洞窟として描出されます。
3D正面像で盛上がっていたのは、前立腺肥大症そのものではなく、膀胱粘膜?なのです。
【タイプ2】
74歳の前立腺肥大症の男性患者さんの2D画像です。
2D画像からは、【タイプ1】の患者さんと同様に、前立腺肥大症が膀胱内に突出している所見が確認できます。
前立腺の大きさは約77ccと巨大です。
3D画像の正面像です。
【タイプ1】の正面像と比較して「?」ではありませんか?
正面から観察しているのに、膀胱粘膜で覆われた所見ではなく、洞窟、洞穴のように空虚なスペースが直接観察できます。
この画像からは次のことが分かります。
この大きな空洞が前立腺そのものとすれば、膀胱三角部まで巻き込んでいます。すると左右の尿管口は圧迫されますから、腎臓から膀胱への尿の流れが悪くなる筈です。
患者さんは、案の定、他の医療機関で水腎症を指摘されています。排尿障害があるから水腎症になったと診断されて、1日4回の自己導尿を強いられています。しかしよくよく考えてみると、自己導尿を行い残尿を減少させても、前立腺肥大症による尿管口の物理的圧迫ですから、水腎症は治らないことになります。
以前に前立腺肥大症について説明に使用したMRIの患者さんの前立腺肥大症は、このタイプでしょう。当時は3D4D超音波エコー機器がなかったので、この検査で確認することはできませんでした。
【考察】
【タイプ1】の患者さんの3D画像をここで改めて詳細に観察すると、前立腺の突出した周囲が凹んで見えます。緑に着色した部分です。ここは凹んでいるのではなく、実は前立腺で3D上は透明に見えている部分なのです。
上の写真の裏側から観察すると、前立腺の部分が正面の行止まりの周囲を回り込むように見えます。上の写真の凹んで見える部分に当たります。
これら一連の写真から、前立腺と膀胱との勢力争いが見えます。
前立腺肥大症で前立腺が次第に大きくなると、前立腺は膀胱に向かって成長します。膀胱は前立腺の浸入を抑えようと膀胱出口周囲の膀胱平滑筋が発達してきます(赤い矢印)。そして前立腺の中心線に向かって覆いかぶさるように伸展発達します(黄色い矢印)。
・・・と単純に画像を理解していましたが・・・よくよく考えてみると、前立腺は元来膀胱の直下に位置していますから、膀胱平滑筋が前立腺に覆いかぶさっているのは当たり前です。膀胱平滑筋が伸展発達したとして考えるのには違和感を覚えます。
右の画像は、排尿障害のない男性の正常像(実は55歳の私のものです)です。前立腺は腫れていないので、膀胱下からの前立腺の隆起がほとんどありません。膀胱出口もこじんまりと小さく観察できます。膀胱出口は膀胱尿道移行部ですから、3D画像では、この程度の穴として観察できます。(実際は閉じていますが、尿道の厚さ分だけ透明に穴として観察できるのです。)
心理学のテストと同じで、見方を変える必要はあります。すると異なる本当の姿が見えてきます。
前立腺が見える部分(赤い実線)は、膀胱平滑筋が裂けて前立腺が顔を露出して透けて見えるのだと考えると納得がいきます。そのように考えると、この画像からは膀胱出口周囲の膀胱平滑筋は3分の2は裂けたのだといえます。赤い点線の部分は、これから裂けつつあるくぼみなのかも知れません。
緑の矢印の部分は、膀胱平滑筋の縦走筋でしょう。縦走筋は膀胱出口を開くためにあるのですが、膀胱出口周囲の3分の2は切られてしまったと考えると、この患者さんの縦走筋による膀胱出口の開かせる能力は、一般の男性の3分の1以下(33%以下)ということになります。
また、膀胱平滑筋が裂け、前立腺が露出している周囲の盛上がりが気になります。これは膀胱平滑筋が裂けてその断端が団子状に固まった姿かも知れません。膀胱平滑筋が裂けていない周囲の膀胱平滑筋が平坦であることからも想像に間違いはないでしょう。そのような膀胱平滑筋の盛上がりは、機能的には何の役目も果たさないです。
さて、これでは膀胱の本来の力だけでは排尿は十分にできません。そのため腹圧をかけて力んで何とか排尿することになるのです。膀胱出口周囲にわずかばかり残されている膀胱平滑筋は孤軍奮闘頑張っているので、一見してマッチョです。最後のあがきにも見えます。
このように前立腺の膀胱内成長を抑えるように膀胱平滑筋が発達したのが【タイプ1】で、前立腺の膀胱内成長を容易に許してしまったのが、膀胱平滑筋の発達が前立腺周囲にとどまる【タイプ2】なのです。
イラストの青い大きな円が膀胱、緑のだ円が前立腺肥大症です。赤い部分が発達した膀胱平滑筋です。
タイプ1では前立腺の上に膀胱平滑筋が覆って、前立腺の浸入する力(緑の矢印)と膀胱平滑筋の抑え込む力(赤の矢印)が均衡状態です。
タイプ2では膀胱平滑筋が前立腺に道をゆずるように前立腺が膀胱に浸入(緑の矢印)しています。
イラストから患者さんの症状を予想すると次のようになります。
タイプ1は、発達した膀胱平滑筋が前立腺を覆っていますから、排尿時に容易に開いてくれるとは思えません。そのため「出が悪かったり」、「すぐに出なかったり」の症状があるでしょう。
タイプ2は、膀胱出口に前立腺が顔を出しているので、排尿はそれ程苦もなくできるでしょう。しかし膀胱出口周囲に発達した膀胱平滑筋とのバランスで、排尿中に膀胱出口の振動のため、膀胱三角部が刺激されて頻尿・残尿感・夜間頻尿の症状があるでしょう。
上のイラストをジッと見ていたら、右のイラストのようにも考えられることが分かりました。
つまり、タイプ1とタイプ2はそれぞれ独立した形態ではなく、タイプ1からタイプ2へ移行した、あるいは悪化したとも考えられるのです。その移行期をタイプ1.5として表現しました。
今回、タイプ1で紹介した実例は、亀裂が入っていることにより、タイプ1.5と表現した方が的確かも知れません。
★観点の違いにより、次のように名称を考えました。
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観点の違い 3D画像 解剖学的観点 膀胱平滑筋から
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タイプ 1: キャップ帽型 正常解剖型 浸入阻止型
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タイプ 2: ドーナツ型 貫通型 開放型
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★予想可能な臨床的違いは、次のようでしょう。
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臨床的違い α-ブロッカー PSA値
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タイプ 1: α1dが効く 高い 前立腺ガンと誤診
結果、何回も針生検
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タイプ 2: α1aが効く 正常
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★予想可能な臨床症状の違いは、次のようでしょう。
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臨床症状の違い 臨床症状 前立腺大きさ
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タイプ 1: ポタポタ・出難い 小さい 慢性前立腺炎と誤診
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タイプ 2: 頻尿・残尿感 大きい
会陰部痛 小さい場合は慢性前立腺炎と誤診
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ではタイプ1とタイプ2とでは、どちらが重症なのか?は、現時点では不明です。これから、このような観点で観察すればハッキリするでしょう。
【実例】
77歳前立腺肥大症の男性です。前立腺の大きさは61ccです。
【タイプ1】です。
【実例】
68歳前立腺肥大症の男性です。前立腺の大きさは33ccです。
【タイプ1】です。
【実例】
63歳前立腺肥大症の男性です。前立腺の大きさは33ccです。
【タイプ2】です。
【実例】
50歳前立腺肥大症の男性です。
前立腺の大きさは37ccです。
【タイプ2】です。
【実例】
71歳男性です。夜間5回の頻尿です。日中は10回です。
前立腺の大きさは59ccです。
【タイプ1】です。
上記の画面から深部にピントを合致させた所見です。
膀胱平滑筋が尿道に沿って二枚貝のように前立腺内に浸入しているのが判別できます。
いかがですか?前立腺肥大症のタイプが容易に判別できるでしょう。大学病院の泌尿器科医でさえ知りえない事実をあなたは理解し会得したのです。
外観だけでは支離滅裂・一貫性がないように思える現象も、ひとたび理由が分かれば、その姿形に規則が見えるのです。
その昔、お釈迦様が「ハッ?!」と悟りを開いた一瞬は、このような想いだったのかも知れません。
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