前立腺肥大症の症状

追っかけ漏れ

Bcf68c1909f04569baec95aa6478d057 テレビのCMなどで、男性がトイレから出て来た直後にズボンにオシッコのシミが付くことがあります。「尿漏れ」、「追っかけ漏れ」と呼ばれています。尿漏れパッドの購入をススメていますね。

医学用語では「遺尿enuresis」と言います。これは尿失禁の現象ではなく、オシッコ直後に尿道に残った(遺留)尿が、体の動きで尿道が圧迫されて漏れ出て来る現象なのです。泌尿器科学会では、体質的であると考えられていますが、実は明確な理由があるのです。

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初めのイラストは男性の下部尿路(膀胱・前立腺・尿道)を表しています。排尿の前には尿道(青色のライン)全体は必ず閉じています。排尿の際には(2枚目のイラスト)、膀胱出口と前立腺が、それぞれ膀胱括約筋と尿道括約筋によって開きます。

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尿の勢いによって尿道全体も直径が大きく太くなります(青いライン)。しかし、尿道は尿の勢いだけに依存しているばかりでなく、排尿の際に反射的に尿道の緊張が緩んで、尿道が太くなるのです。そして、排尿が終わると、膀胱出口から尿道口の尿道全体が収縮閉じて、尿道内の尿を無くすのです。

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排尿機能障害があると、本人が自覚あるいは自覚していないに関わらず、尿道は必死になって太くして、尿流抵抗を極限まで下げるのです。ところが、排尿が終わっても尿道は『まだまだ終わっていないよ!』と誤解して、尿道を閉じないで太いまま継続するのです。当然、尿道内に尿が残ってしまいます。これが「遺尿」です。排尿が終わってペニスを一生懸命に振っても、ペニスの根元から前立腺にかけての尿道球部は振れませんから、尿道球部にタップリの尿が残って(赤いスペース)しまうのです(3枚目のイラスト)。この現象は、排尿機能障害の患者さんに形成される条件反射と言えます。ある意味で、ネガティブな条件反射です。

膀胱の排尿が終わる時間と尿道が閉じる時間とが、ほぼ一致するのが、正常です。しかし、排尿障害があると、両者に時間が次第に延長して、さらに時間差が出てきます。経過が長ければ長いほど、この時間差のギャップが開いて来るのです。それが、遺尿という現象になるのです。

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「遺尿」の対策としては、排尿後にミルキング(Milking牛の乳しぼり)を行えば良いのです。ミルキングとは、会陰部(陰嚢〜肛門の間)を手を使って、圧迫しながら前方に押して、尿道球部に残った遺尿をペニスの方向にしぼり出すのです(4枚目のイラスト)。その直後にペニスを振ることで移動した遺尿を外に出すことが出来ます。この操作を2〜3回行えば、尿道球部の遺尿は無くなります。結果、下着などにオシッコのシミが出来なくなります。

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「遺尿」現象は、排尿機能障害が原因で起こった条件反射ですから、排尿機能障害の治療薬であるα1ブロッカーを服用すれば多少とも改善します。なぜ完全に改善しないかと言えば、一度作られた条件反射は生涯残るからです。

 

 

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痛みで苦しむ徳島の患者さん

私の著書を読み、徳島県から男性患者さんが娘さんと二人で来院されました。陰部と会陰部の強い痛みと肛門の痛みで苦しんでいた患者さんです。

平成30年11月に血尿認められ、地元の内科医で膀胱炎と診断され抗生剤を処方されました。その後、陰部・会陰部の痛みが出てきて、次第に強くなり、12月には救急車で搬送されました。救急病院で精密検査を行いましたが、「異常なし」でした。

その後、地元の市民病院で痛みの原因を調べたところ、超音波エコー検査で膀胱腫瘍(癌)の初期が偶然にも発見され、平成31年1月に手術(経尿道的膀胱腫瘍切除)を行いました。

Pain37115m72ところが、膀胱腫瘍を治療したにもかかわらず、問題の痛みが治りません。主治医に相談しても「分かりません」「貴方の気のせいです」「慢性前立腺炎でしょう?」と冷たく対応されてしまいました。この悩み解決のために、内科、肛門科、泌尿器科合わせて10軒以上も診察・検査したが、痛みの原因は分りませんでした。

たまたま友人に紹介された私の著書を書店で取り寄せ、本の内容と自分の病状が一致したことに驚き、3回も読んでしましました。そして当院に来院されました。

Pain37115m72pp早速、超音波エコー検査を行いました。パット見て分かりにくい所見です。膀胱出口に白く硬化像が確認できます。

一番気になる所見が、膀胱縦走筋と前立腺結石の区別がつきにくい所です。一つの塊に見えます。当然、排尿機能障害の結果です。また、膀胱括約筋も白く肥大しています。これもまた排尿機能障害の結果です。当然、膀胱三角部が肥大・変形しますから、膀胱三角部が過敏になり、この患者さんの苦しみである原因不明の痛みになったのです。

排尿障害治療薬と頻尿治療薬で治療を開始しました。1ヶ月後に症状が軽快したかどうか、連絡を楽しみです。

【備考」

この患者さんが来院したのが4月23日(火)でした。4月25日(木)に電話があり、痛みが50%になったという喜びの電話でした。何と!クスリを服用して3日目には症状が改善したのでした!

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頻尿は、冷え性だから…

Hie37071m80先日、80代のご夫婦がお越しになりました。

ご主人がオシッコが近くて困っていると言うのです。日中は1時間半に1回(1日12回)、夜間4回の頻尿があるのです。過去に治してもらおうと、地元の公立病院泌尿器科を受診しました。いろいろと検査を行い、前立は大きくなかったので、結果、「頻尿の原因は冷え性ですね!」と診断され、お薬も処方されなかったそうです。

お話をお聞きして、『ひどい医者だなぁ』と思いました。一般内科の医師がそのように判断するのであれば、仕方がないかなぁ?と思われますが、泌尿器科の「専門医」が何をバカなことを言っているんだと情けなくなりました

早速、超音波エコー検査を行いました。確かに前立腺は19㏄と正常範囲です。おそらく前立腺の大きさが正常なので「異常ない」と判断して、「冷え性が原因です」と診断したのでしょう。

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しかし、超音波エコー検査画像を拡大して精密に観察すると、異常所見が明白に観察できます。

①膀胱縦走筋が膀胱出口の方向に向いていません。(赤い→)そして膀胱縦走筋は先端が先細りになるのが正常なのに、先端が開いて変形しています。(黒い↔)

②膀胱縦走筋の変形=膀胱三角部の増大(赤い部分)しますから、膀胱三角部は過敏になり頻尿になるのです。

③膀胱括約筋の白さの面積も広がっています。つまり、排尿機能障害のために膀胱括約筋が発達したと言うことになるのです。

④前立腺結石も確認できます。前立腺結石=排尿機能障害です。

以上の結果から、排尿機能障害が原因の頻尿だったのです。

 

 

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陰部の痛みを「歳のせい・気のせい」と言われ高齢者

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以前からオシッコが近い70歳過ぎのご高齢の患者さんです。ご家族3人でお越しになりました。
昨年の夏頃から陰部がピリピリ痛くて仕方がありません。そこで、診療所や病院を3軒受診しましたが、前立腺肥大症の診断で、ハルナールとセルニルトンを処方されましたが、症状は改善しません。
最近では、肛門まで痛くなり、肛門科を受診しましたが、いぼ痔があるだけで、特に問題なしと診断されたのです。
泌尿器科の医師は、「歳のせい・気のせい」とまで言われてしまいました。
早速、超音波エコー検査を行いました。この写真だけでは分かりにくいので、下にコメントを記しました。

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すぐに分かることは、膀胱括約筋ふが四方に分裂していることです。これは、排尿障害によって、膀胱括約筋に物理的負荷がかかった結果です。そのため、膀胱三角部が厚くなり、膀胱刺激症状がいくつも作られても不思議ではありません。陰部のピリピリ感も肛門の痛みも膀胱刺激症状の一つと考えられます。
前立腺も大きさは31㏄と若干大きいだけです。治療薬としては、
①ユリーフ
排尿障害を改善させるため
②アボルブ
前立腺を柔らかくすることで、前立腺から膀胱三角部への緊張がゆるませるため
③ベタニス
膀胱三角部の緊張をゆるませるため

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透析仲間 前立腺肥大症?

透析クリニックで、同じ時間に透析する患者さんが20人近くもいます。
ロッカーで同じ時間に着替える人も何人かいます。挨拶をしますが、無愛想に返事する人も、また無視する人もいます。病気が病気だけに皆んな暗〜いのです。その中で、会話を交えるご高齢の方がいます。何回か会話を交わしている際に、私が泌尿器科医師であることを告げました。

その方は、腎不全以外にも病気があって、慈恵医大の関連病院の東急病院で治療していたので、慈恵医大出身の私に親近感を覚えたらしいのです。先日、1年前から両鼠径部と肛門がとても痒くて治らないと訴えたのです。透析患者さんが皮膚が痒くなることはよくある事です。ステロイド軟膏やゲンタシン軟膏を塗ってはいるが、全然変わらないのです。そこで、「排尿に関係なく、前立腺の病気があっても痒みが出ますよ。」と告げると、診てもらいたいと言って別れました。以前にも慢性腎不全でオシッコが一滴も出ない患者さんで頻尿を訴える方がいました。この男性も同じでしょう。

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その翌日、私の通っている透析クリニックの主治医が書いた紹介状を持って、その方が来院しました。ビックリです。お話しをお聞きし、まずはエコー検査を実施しました。「!!!」2度目のビックリです。何と膀胱に尿がパンパンに溜まっているのです。慢性腎不全で尿が出ないはずなのに尿が溜まっているのです。そう、まるで尿閉状態です。

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早速カテーテルを挿入して膀胱内の尿を排出しました。全部で何と750ml以上で、採取した尿は写真のように、まるでカフェオーレのようです。濃縮した白血球がタップリ含まれた、いわゆる膿尿=腐った尿で向こう側が見えません。随分前(恐らく1年位前から?)から膀胱内に同じ尿が溜まっていたと考えられます。

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前立腺のエコー所見では、前立腺の中葉部分が突出しており、膀胱の敏感な膀胱三角部を常時圧迫しています。しかし、頻尿がないので、その代わり下半身の痒み症状になったのでしょう。
喜ばしい事が起きました。膀胱内の尿を全部排出したら、何と痒みが全て消失したのです。3度目のビックリです。
この現象は、原因は前立腺肥大症ですが、慢性前立腺炎症状です。

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この患者さんから帰り際に言われた言葉が、……
「先生は、透析クリニックでお会いする時は、ショボくれて元気がないけれど、診療中は人が変わったみたいに活発で元気ですね?」「医師とはいえ私も病人ですから、趣味同然の診療中は水を得た魚の様に元気ですよ。」と答えました。
『……そうなんだ、……私は診療している時だけが元気で居られるんだ!』と心の中で思いました。

透析クリニックの私の主治医が、私の報告書をお読みになってビックリの感想でした。

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陰嚢の痒みと前立腺肥大症 「陰嚢掻痒症」

臨床の現場では、時に原因が分からない病気に遭遇することがあります。
その例として、陰嚢掻痒症(いんのうそうようしょう)があります。別名、陰部掻痒症・陰門掻痒症です。女性の場合もあります。何しろ男女の区別なく、ハッキリした皮膚に所見もなく、外性器・肛門が痒くなる病気です。皮膚の所見は掻きこわしの所見だけです。
皮膚科は視診がとても重要です。皮膚にできた皮疹・湿疹・丘疹・発疹などを観察して、病気を診断するのです。なのに、皮膚が全く正常で、それでいて異常にかゆいのです。これでは皮膚科医も困るでしょう。原因が分からないので、取り合えず対症療法として痒み止めの軟膏や抗ヒスタミン剤を処方しますが難治性で再発を繰返すようです。
さて、ある時、皮膚科の病気に関して調べ物をしていたら、たまたま陰嚢掻痒症なる言葉を見つけ、詳細に読むと原因が前立腺肥大症・尿道狭窄となっているではありませんか!一般的な泌尿器科医にはこのような知識はありません。(私だけがないのか?・・・少し心配になりますが・・・)
皮膚科の先生は、恐らく前立腺肥大症のような排尿障害は尿の切れが悪く、陰嚢に尿が付着してかゆくなるのだろう思っているのではないでしょうか。しかしこれは誤解でしょう。なぜなら、陰嚢が尿でかぶれて痒みが生じるのであれば、赤ちゃんのオムツかぶれのように陰嚢皮膚が赤くただれていなければなりません。ところが陰嚢掻痒症の場合、ほとんど方が原因不明とされるように陰嚢皮膚は正常です。
220_1では、なぜ痒くなるのでしょう。その原因を考えるのに関連痛という生理学的生体反応を知ると容易に理解できます。
生理学では、痒み=微細な痛み感覚として考えます。ですから陰嚢のかゆみ=陰嚢の痛みとして理解できます。もう少し正確に表現すれば、陰嚢の皮膚のかゆみ=陰嚢の皮膚の微細な痛みということになります。すでに説明したように、関連痛は現在痛みのある場所・部分とは異なる、離れた他の臓器・器官の刺激が、投影されて感じる痛みのことを指しています。しかし、そこには一定の法則があります。関連痛を感じている皮膚と同じ脊髄中枢の位置でコントロールされている臓器・器官の病的刺激の投影であるということです。
陰嚢の皮膚を支配している脊髄中枢は脊髄仙骨部2番~4番です。脊髄仙骨部2番~4番中枢で支配されている臓器は、膀胱・前立腺・尿道・直腸・子宮頚部(女性のみ)です。ですから、膀胱・前立腺・尿道・直腸の病的刺激で陰嚢は関連痛が生じることになります。陰嚢のかゆみ(関連痛)を訴える患者さんに遭遇(診察)した場合、これらの臓器・器官の病気を選択肢として考えなければならないことになります。
中高年の男性で陰嚢の痒みを訴えて来院した場合には、皮膚の病気のことばかり考えずに、陰嚢掻痒症→排尿障害→前立腺肥大症を念頭に置かなければなりません。尿の出が悪かったり、多少頻尿があっても「年のせいだ」と軽く考え、陰嚢の痒みだけが辛いと思っているあなた、泌尿器科医を受診して前立腺を調べて下さい。必ず排尿障害があります。
19286m76scrbph【写真】の患者さんは76歳男性です。夜間2回の頻尿と陰部のしめり感を訴え、近くの病院から紹介されて来ました。ご覧のように陰嚢部の痒みで皮膚を掻き壊しています。排尿障害を改善させれば、この痒みもおさまります。

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