針生検

PSA値141で悩む患者さん

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健診の血液検査で、PSA値が何と141も高かかったので、医療関係者の娘さんとご一緒に60歳代の患者さんが心配そうな面持ちで来院されました。
エコー検査の所見は、写真で示すように、前立腺の外腺に相当な体積(3.44㏄)で前立腺ガンを確認できます。赤い矢印➡が前立腺ガンで青い矢印➡が精嚢腺です。
触診でも右葉〜中央にかけて硬結が触れます。間違いなく前立腺ガンです。触診の硬さからすると、グリソンスコア7〜8でしよう。

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患者さんは、針生検は受けたくないが、手術か放射線治療を選択したいという雰囲気です。しかし、針生検を受けないと、希望する治療法は選べません。私が唱える、「針生検が逆に前立腺ガンに火をつけて、悪性度が増すかもしれない」という理論にも納得しているので、決断がつかないのです。
グラフで示すように、前立腺針生検直後から悪性度の高い前立腺ガンの患者さんの生存率は極端に低下します。前立腺針生検するまでに、隠れていた悪性度の高い患者さんがすでに多く亡くなっていあたというデータはありません。どう考えても前立腺針生検が引き金になっていたのでしょう。

そこで、患者さんに提案をしました。針生検の2日前と前日の2日間だけエストラサイト(女性ホルモン+抗ガン剤)を1カプセル服用して、針生検によるガンの興奮を一時的に抑えること。術後、毎週1回1カプセル服用して、その後のガンの興奮を抑え込もうというものです。患者さんは、私の提案を承諾して頂けました。


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針生検で発見できなかった前立腺ガンの患者さん

患者さんは50代の男性です。
平成29年11月にPSA値が26(正常値4.0)と高く、地元のがんセンターで前立腺針生検(10本)を実施したのですが、ガン細胞が発見されませんでした。その後の主治医対応に納得がいかないので、高橋クリニックに訪問されました。
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触診では、前立腺が大きく前立腺全体が前立腺肥大症の雰囲気です。
しかし、前立腺の右上部(膀胱より、精嚢腺側)に硬結が触れます。私の人差し指がギリギリ届く範囲の距離です。自分の指の長さが短いのが診断能力の限界を感じる瞬間です。

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そこで、エコー検査で観察すると、前立腺は114cc(正常値20cc)と5倍以上の大きな前立腺肥大症でした。さらに丁寧に観察すると、前立腺の膀胱よりの精嚢腺手前にガンと思われる陰影が確認できました。この写真の赤い矢印の部分がガン組織です。
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恐らく、前の主治医が事前に十分に下調べもせずに、PSAの値だけで大雑把に針生検した結果だったのでしょう。前立腺肥大症であれば、前立腺針生検の本数を増やさなければ、発見の確率は低くなります。前立腺20㏄で10本ならば針1本当たりの単位体積は2.0㏄ですが、前立腺114㏄だと1本当たり11.4㏄になってしまいます。同じ単位体積にするには、57本もの針生検をしなければ一致しません。しかし、現実的には無理です。なぜなら、本数を重ねる毎に前立腺がグチャグチャになってしまうからです。
この患者さんのガン発見のためには、エコー所見を参考に、イラストのように針を5センチ程先に刺入させ、その場所からパンチ刺入すればガン組織を採取できるでしょう。

エコー所見では、陰影が丸味のある形状をしていますから、悪性度は低いものと思われます。先ずはプロスタールを処方しました。前立腺肥大症が小さくなると同時にガン組織も小さくなるでしょう。

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前立腺針生検の精度

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「針生検」という言葉はよく耳にされると思いますが、ほとんどの人がその道具を見られたことはないと思います。
この写真が針生検の針です。二重構造になっていて、内刀と外刀に分かれています。先ず先端の部分を前立腺にチョッとだけ刺します。スイッチを入れると、内刀が2センチ程前立腺の中に刺入します。次に時間差で外側の外刀部分が刺入します。その時に内刀の凹み部分にハマった前立腺組織を外刀が削り取って針の中に納めるのです。

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この写真は、PSA値6.57の62歳男性の患者さんです。
矢印の部分が前立腺ガンです。前立腺尖部に小さな組織の塊りが確認できます。
厚さは最大で2.7㎜しかありません。

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この写真は、PSA値11.9の56歳男性の患者さんです。
矢印が前立腺ガンです。前立腺右側に小さな組織の塊りが確認できます。
厚さは最大で4.6㎜しかありません。

この2人の針生検をする際に、この写真のイメージを頭に入れながら針生検をしなければ、ガン組織を採取することが出来ません。なぜなら、針生検の際に、先端の部分を前立腺組織に5ミリ程刺します。そしてスイッチを入れて、時間差で内刀→外刀の順で針がスライドします。ここに盲点があるのです。前立腺組織に5ミリ刺した時点で、この2人のガン組織を貫通してしまいます。その後、ガン組織を超えて正常部分の組織を採取しても全く意味がありません。
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イラストのように大雑把に針生検するのでは、10本〜20本刺しても、前立腺ガン組織を見つけることが出来ません。前立腺ガンは、主に外腺にできるのに、当てずっぽうで前立腺の中心組織を狙って刺しているのです。事前に組織の位置と深さを念頭に針生検をしなければなりません。このような場合、始めの針先端の刺入時に1ミリ位のチョッとだけ刺すようにすれば、ガン組織を採取することが出来ます。本当にサジ加減です。PSA高値だからと言って、触診もエコー検査もしないで針生検した場合は、前立腺ガン組織を傷付け刺激するだけで放置してしまいます。傷付けたガン細胞が、ジッと沈黙を貫くとは思えません。もっと頭をフルに使って繊細に検査すべきです。

今回のテーマは、ある製薬会社のMRさんとの会話の中で思いつきました。

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前立腺針生検の本数

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前立腺針生検は、通常8本~12本実施されるのが一般的です。
昔は、経直腸式か経会陰式で実施されていましたが、今では、その両方で行われています。
つまた、生検の本数が多ければ多いほど前立腺ガンの発見率が上がるとされています。
6本で22・7%。12本では28・3%,18本で30・7%と報告されています。

前立腺針生検を何回か実施された患者さんもよく訪れます。患者さんによっては、4回目の前立腺針生検でやっと前立腺ガンが発見された人もいます。
文献的には、前立腺ガンが存在していて、1回目の生検でがんの診断ができる確率は75%、2回目で90%程度、3回目で95%となっています。

これらのデータは、針生検の本数を多くすればするほど、前立腺ガンを発見できるので、積極的に前立腺針生検をしましょう。早期に前立腺を発見できれば、命が助かるといのが本音でしょう。

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この表は、前立腺ガンのステージ別の5年生存率と、5年相対生存率の比較です。前立腺ガンとしての実測5年生存率は90%を切っています。しかし、患者さんの年齢別の生存率を補正すると、ステージ❶〜❸の5年相対生存率は100%です。つまり、前立腺ガンの治療した患者さんの生存率と、前立腺ガンが発見されなかった人の生存率が同じとういことです。
この表の言いたいことは、前立腺ガンの治療によって、ガンによって亡くなることはない?と言いたいのでしょう。

しかし、前立腺ガンを発見するための針生検をしなければ、前立腺ガンは刺激されずに、静かにジッと前立腺の中で余生を送り潜んでいたかも知れません。その結果、前立腺ガンに怯えることなく、天寿を全うできたかも知れません。PSA検査で針生検を勧められ、前立腺ガンを発見されたために、逆に前立腺ガンで亡くなる人がいるでしょう。前立腺ガンが発見されなかったら、天寿を全うできたかも知れません。ステージ❶で14.4%、ステージ❷で11%、ステージ❸で16.1%の人が、前立腺ガンで亡くなる事もなかったかも知れません。

以上のお話しは、私の奇想天外の考えです。データを表面的に観察すれば、従来の考え方になります。それは、データを収集した人たちのあらかじめ自分たちの論理に沿ったデータですから、仕方がないでしょう。しかし、客観性追求し様々な観点から考えれば、私が提示した論理にもなります。判断するのは読者です。

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乳がん検診から視えてきた事

東京都医師会雑誌の4・5月合併号に記事に興味ある内容が掲載されていました。
2009年アメリカ政府部会によって次のコメントがされました。
「40代の女性にはマンモグラフィ検診は勧められない」
この結果、大規模な疫学調査がアメリカで実施されました。
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マンモグラフィを利用した乳がん検診をすることで、アメリカでは乳がん死亡率が年々減っています。
このデータからは、乳がん検診の有用性が当然のように示唆されました。誰が視ても異存は出ない結果です。

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針生検のヒット率

前立腺の大きさを直径35mm(3.5cm)のほぼ球体として考えると、超音波エコー検査で長軸×短軸×横径×0.52=前立腺体積として計算できますから、35×35×35×0.52=22.3ccとなり前立腺の正常の大きさ20cc前後になりました。この直径35mmの前立腺をモデルにして、前立腺針生検のヒット率なるものを考えてみましょう。

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メール相談 高齢者の針生検

83才の父のことでご相談があります。
10年位前から頻尿の症状がありましたがここ1年前から特にひどくなり最近は日に数十回はトイレに行くようになり排尿困難もあるため近医を受診しました。エコー検査の結果前立腺がかなり腫大しており膀胱憩室も認められるとのことで導尿し800ccの排尿がありました。尿の出を良くするためと膀胱憩室を焼灼する必要があるとのことで総合病院の泌尿器科を紹介され現在入院中です。
こちらの病院で再度エコーとCTを実施した結果前立腺の肥大はそれほどでもなく憩室の焼灼の必要もないが腎う腎炎をおこしているので(CRP15.7)その治療をする、腎炎が治れば尿の出もよくなる、ただPSAが16.0と高いので前立腺がんの疑いがあるが炎症のための高値の可能性もあるので炎症がおさまってから再検する 結果によっては針生検をするとのことでした。
高齢のためなるべく低侵襲の検査、治療を望んでいます。HPを拝見して針生検にご慎重な先生のご意見を承りたいのですが?

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針生検で前立腺癌が見つかってしまった場合

ご承知のように、今まで、このブログの中で前立腺針生検に対して否定的な見解を多数述べました。

今流行りの人間ドックや健康診断でPSA検査をたまたま興味本位に選択し、たまたまPSA値が高く出て、まるでレールをひかれたように当然の針生検を受け、そしてその結果、偶然にも前立腺癌の見つかる人が少なからず存在します。
突き付けられた結果を見て、インターネットで情報収集している間に私のブログを読み、『えっ!!!』と慌てられる患者さんが多くいます。

今回ご紹介する患者さんもその中のお一人です。

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4回目の前立腺針生検への躊躇

50代の男性がPSAが高く、相談に来院されました。
PSA値のデータの推移は下記のようです。
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平成18年 9月  7.2 ng/mL
平成19年 1月 10.6 ng/mL
平成19年11月 11.3 ng/mL
平成21年 8月 5.8 ng/mL
平成21年11月 11.5 ng/mL
平成22年 5月 14.1 ng/mL
平成22年10月 16.0 ng/mL
平成23年 4月 19.2 ng/mL
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さて、この間に前立腺針生検を主治医のすすめで3回も受けましたが、前立腺癌は発見されません。回数を追うごとに、採取する組織の数は増えるのですが、前立腺癌は発見されません。

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前立腺針生検

Lectureevidencepca31前立腺癌検診でPSA値が高いと、常識的に前立腺針生検になります。そして、前立腺癌細胞が発見されると前立腺癌の治療が始まる訳です。診察・検査・治療のこの流れは、常識的で全く非の打ちどころがありません。・・・ただし、前立腺針生検が無害に限りです。針生検は私が研修医になる以前(30年以上も前)から存在する検査法で、前立腺癌の予後には全く影響がないとされている検査法です。私も大学病院や関連病院に在籍した頃には、たくさんの針生検を行っていました。同じ医局の他の先生よりも上手だったことを覚えています。

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