« 2019年5月 | トップページ | 2019年7月 »

前立腺ガンを心配する患者さんに「ひと言」

PSA値が高く前立腺ガンを地元に医師に疑われ、当院に飛行機や新幹線を使って来院する患者さんがたくさんおられます。その患者さんの中で実際に前立腺ガンを確認できたのが、12%でした。2年間にPSA値が高い人が500人来院して、その内60人に、触診と超音波エコー検査で前立腺ガンを確認できました。440人には前立腺ガンは確認できませんでした。ただし、絶対にガンがないとは言い切れませんから、半年に一度、あるいは1年に一度のペースで定期検査に来ていただいています。前立腺ガンの倍加速度(細胞の数が2倍になるまでの期間)が、2年~30年とされていますから、年に1回の定期検査でも十分と思われます。

前立腺ガンの5年生存率や10年生存率をその他の癌と比較してみましょう。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 【癌ステージ②:5年生存率、10年生存率 】

前立腺癌:99%(100%)、80.6%(100%)

食道がん:52.2%、27.5% 

胃 がん  :58.7%、43.4%

肝臓がん:32%、13.2%

肺 がん  :48.8%、22.9% 

膵臓がん:15.9%、7.4% 

大腸がん:81%、64.2%
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 【5年生存率は2008年~2010年。10年生存率は2002年~2005年のデータ】

ちなみに前立腺ガンの(100%)は、健常者の生存率と比較して全く同じ=100%と言うことです。

この表を見て、どう思われますか?他のガンと比較すると、前立腺ガンは断トツに良性ですよね?まして健常者の寿命とほぼ同じなのです。これから考えれば、前立腺ガンを積極的に治療する必要があるのだろうか?と思われます。

Kanngaeppところが一度PSA値が高く前立腺ガンを疑われたら、その後ズ~と『前立腺ガン(悲)、前立腺ガン(涙)、前立腺ガン(悩)』と悩まれる続ける患者さんが多くおられるのです。そこで私は患者さんに次のような事をお話しします。

「人間は思ったものにしかなれないのです。高層ビルを作りたいと思ったから、資金を集め設計し建築会社に依頼して建物が建てられるのです。例えば、私は医師になろうと思ったから医師になれたのであって、誰かが私に相談もなく医師にした訳ではありません。要するに、この世界はヒトが『思った事しか現実化』になれないのです。ですから、逆の悪い意味でガンの事ばかりを考えていると、現実化して癌ができてしまいますよ。ネガティブな事ばかり考えているとネガティブな現象が起き、ポジティブな事を考えていればポジティブな現象になりますよ。」

 

 

 

 

 

 

| | コメント (1)

PSA検査評価の誤解

前立腺ガンの腫瘍マーカーであるPSA検査によって多くの前立腺ガンの患者さんが発見されることは事実です。しかしながら、寿命に影響しないステージ1の患者さんまで発見されて、多くの患者さんがガンノイローゼになり精神的に落ち込んでいます。その後の人生が暗〜くなってしまうのです。

Psasys1前立腺は分泌組織で腺構造です。その腺構造の外側に前立腺細胞があります。前立腺細胞はPSAというタンパク分解酵素を生産して腺腔構造に貯めるのです。PSAは射精の時に精液に混じり、ドロドロの精液をサラサラにして妊娠し易くします。ところが、何らかの原因でPSAが腺腔構造から漏れ出る→血液に混じる→PSA検査で注目されることがあります。

その漏れ出る原因として、次の5項目が挙げられます。

Psasys2❶排尿機能障害:膀胱の出口が十分に開かないで排尿すると、腹圧が直接的に前立腺に負担となり、その結果、前立腺が絞られますからPSAが腺腔から漏れ出ます。病気としては、前立腺肥大症、膀胱頸部硬化症、神経因性膀胱などがあります。

Psasys6❷慢性炎症:排尿障害などで前立腺に物理的負担が排尿のたび毎にかかるので、当然として慢性的傷害性炎症が発生し、一部の前立腺細胞は死滅します。死滅細胞が欠落した跡に新たな細胞が補充されるまでの間に、そこからPSAが漏れてしまうのです。一般的に炎症だからと言って抗生剤を2週間ほど処方され、再度PSA検査行い、高いと前立腺ガンの疑いが強いと診断されます。しかし、たった2週間くらいで、欠損部に新たな細胞が補充されるでしょうか?……疑問です。

Psasys3❸先天性瘻孔:前立腺細胞の接合部が生れながら不完全で亀裂=瘻孔ができ、そこからPSAが漏れてしまうのです。全ての人類がみんな完璧でみんな同じとは限りません。PSA検査の観点からみれば、ある意味で先天性PSA値異常症です。

Psasys4❹針生検の後遺症:上記の三点が原因でPSA値が高くなり、前立腺ガンを疑われ針生検をされた患者さんがたくさんおられます。針生検後の経過観察で定期的にPSA検査が行われます。すると時間とともに次第にPSA値が高くなるのです。主治医は、また針生検をしましょうと強要するのです。ところが、針生検で前立腺の中に当然傷ができます。傷が必ずしもきれいに治るとは限りません。そこからPSAが漏れても不思議ではありません。さらに1回の針生検で10本〜16本も傷つけられるのですから、針生検の後では、必ずPSA値は次第に上昇するに決まっています。

Psasys5❺前立腺ガン:腺腔構造の壁の一部にガン細胞ができると、周囲の多数の腺細胞との接合が不完全ですから、そこからPSAが漏れてしまうのです。これだけが前立腺ガンのPSA値の上昇なのです。

以上のように、さまざまな原因でPSA値は高くなるのです。PSA値が高い場合は、前立腺の直腸触診とエコー検査で前立腺ガンを確認できなければ、寿命に影響しないステージ①あるいは上記の原因❶❷❸❹であると考えて、無闇に針生検をしてはいけないのです。そうすれば多くの犠牲者を出さなくて済みます。 逆に針生検をすることで、隠れていたラテント癌を傷つけ刺激して、最終的には悪性度の高い前立腺ガンを作るキッカケを医師が創ってしまうのです。神さまは人生のあらゆる所にトラップ・罠を仕掛けているのです。私たち医師は自分たちのために医療を行うのではなく、患者さんの人生をクオリティーの高いものにしてあげるべく、創意工夫努力しなければならないのです。

【備考】内容についてのご質問やご相談は、コメントもしくはお電話(03-3771-8000午前中のみ)でご連絡ください。

| | コメント (1)

去勢抵抗性前立腺ガンCRPCの対応

前立腺ガンの一般的な治療は、男性ホルモンを徹底的に抑えるホルモン治療です。通常、脳下垂体から下垂体前葉を刺激するLHRHホルモン関連(アゴニスト・アンタゴニスト)を注射するのです。すると、次第に睾丸が刺激ホルモンに対して抵抗を示し男性ホルモンを作らなくなります。結果、男性ホルモンがほぼゼロになるのです。

前立腺ガンは、男性ホルモンに依存して増殖しますから、男性ホルモンがゼロだと、ガン細胞は次々に死滅していきます、……しかしながら、この治療を5年ほど続けると、ガン細胞にも新しいアイデアが湧くのです。『そうだ!巡って来る男性ホルモンをじっと待って頼らないで、自分で男性ホルモンを作ればいいんだ!』とガン細胞が自らの力で男性ホルモンを作るのです。

それが、去勢抵抗性前立腺ガンなのです。では、このような状況にならないように治療すればいいのです。現在の治療は、徹底的にガン細胞を殺そうとするからいけないのです。

Cell2細胞は一般的に細胞周期と言われる時期があり、細胞分裂の時期は細胞周期の5分の1つまり20%になります。がん細胞は分裂を繰り返せば繰り返すほど、突然変異して悪性度が増加するのです。しかし、その分裂時期がガン細胞にとっては恐らく弱点の時期です。抗がん剤やホルモン剤が届きやすいのは、毛細血管に接しているガンの表面に位置するガン細胞です。ですから、1日1回の抗がん剤投与で、表面に位置するガン細胞が20%の分裂期の細胞だけ死滅するでしょう。この程度の死滅量であれば、深部に位置するガン細胞たちは気がつかないので、悪性度が増加する機会を防ぐことになります。

Cellmass前立腺ガンの細胞分裂は、文献的には45日に1回のペースです。ですから、少なくても45日に1回の投与でガン細胞に気付かれなくガン細胞の増加は抑えられるでしょう。しかし、それではガンを小さくすることは出来ませんから、投与頻度を上げればいいのです。30日に1回、14日に1回、7日に1回と投与すれば、ガンに気付かれずにガンは確実に小さくなります。そこで実際にガンが小さい患者さんには2週間に1回、ガンの体積の大きい患者さんには1週間に1回、クスリを投与すると確実に小さくなります。病状が落ち着いてきた患者さんには1ヶ月に1回1カプセルの方もおられます。

一般的に前立腺ガンの治療は、男性ホルモンをブロック抑えるクスリが使用されています。確かに男性ホルモンに依存する前立腺ガンは、ブロックされることで死滅します。しかし、生き残った男性ホルモンの依存度の高い前立腺ガンは、『イライラ💢、……何とかしなければならない!』と思うに決まっています。それが、前立腺ガン自らが男性ホルモンを作る去勢抵抗性前立腺ガンの由来なのです。

そこで、男性ホルモンをブロックしないで、そのままにして前立腺ガンにダメージを与えるクスリを使用すればいいのです。それが、女性ホルモンと抗がん剤の合剤である「エストラサイト」なのです。女性ホルモンの受容体=レセプター=スイッチは前立腺ガン細胞の表面にも存在します。女性ホルモンがガン細胞の表面に接すると、レセプターを介してガン細胞内に侵入してガン細胞にダメージを与えるのです。抗がん剤も同様です。男性ホルモンをブロックすることで、ガン細胞に飢餓感を与えずに死滅できるので、去勢抵抗性前立腺ガンを作る余裕をなくすことができます。

通常エストラサイトは、毎日4カプセル投与ですが、それを私は1週間〜2週間に1回1カプセルしか処方しません。正式投与量の1/28〜1/56です。それでもガンは確実に小さくなります。また投与量が極端に少ないので、クスリの副作用もわずかです。一石二鳥です。もちろん作用は正式投与量に比較すれば、速度は遅いですが、副作用は極端に少なく去勢抵抗性前立腺ガンの発生も遅延します。

前立腺ガンに効果のある抗がん剤を発見して、有効血中濃度を決め投与することは間違ってはいません。しかし、その発想工程はガン細胞の生き物としての個性を無視して物として扱っています。ガン細胞は人間の細胞で出来ている訳ですから、患者さんが頑固であれば、ガン細胞も頑固に決まっています。クドければ細胞もクドい、研究熱心であれば細胞も研究熱心、短気であれば細胞も短気に決まっています。患者さんの個性を見ることで治療法をより繊細に対処しなければなりません。

これほど工夫しても、患者さんによっては去勢抵抗性前立腺ガンになるのです。その場合は、治療薬を工夫して、イクスタンジを選択します。 イクスタンジは前立腺ガン細胞内で作られた男性ホルモンをブロックする作用があるのです。前立腺肥大症の治療薬であるプロスタールで治る患者さんもおられます。

| | コメント (2)

« 2019年5月 | トップページ | 2019年7月 »