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見えてきた排尿障害の仕組み

過去にたくさんの排尿障害の仕組みを考察してきました。
検査所見の存在に対して、疑問点が常にありました。排尿障害の患者さんには、男女問わず、膀胱出口が硬く盛り上がっていました。その理由については、排尿障害のために膀胱出口が排尿時に振動するので、次第に膀胱出口が盛り上がると考えていました。でも実際に、内視鏡手術の際に膀胱出口を切開・切除すると、そこは必ず平滑筋組織です。もしも振動エネルギーで盛り上がっているのであれば、線維組織のはずです。つまり、盛り上がった膀胱出口の組織は、膀胱括約筋の二次的な姿なのです。排尿障害の患者さんの膀胱括約筋は、必ずマッチョなのです。

マッチョになるためには、振動エネルギーではなく、筋トレによるものだと考えられます。筋トレ?……膀胱括約筋の筋トレ相手は、排尿時に収縮する膀胱出口周囲の縦走筋です。つまり何らかの理由で、排尿時に膀胱括約筋が柔らかく弛緩しないので、縦走筋に引っ張られる際に鍛えられたのでしょう。

そう考えると、α1-ブロッカーであるユリーフやハルナールなどの即効性の理由が理解できます。α1-ブロッカーは、前立腺や尿道の緊張を緩めるのではなく、膀胱括約筋=内尿道括約筋の緊張を緩めるので、膀胱出口が開きやすくなるのです。
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膀胱の構造は、大きく分けて膀胱体部、膀胱三角部、膀胱出口(膀胱頸部)に分けられます。筋肉の観点から見ると、膀胱体部は二層構造で、内側が輪状筋、外側が縦走筋です。輪状筋は、膀胱の横方向の直径を小さくするように収縮させます。縦走筋は膀胱の外側に存在し、膀胱の天辺の部分が膀胱出口に向かうように収縮させます。この2つの筋肉の働きで、膀胱は膨らんだり縮んだりするのです。膀胱出口は複雑で、膀胱出口ギリギリまで輪状筋と縦走筋が到達し、その内側に膀胱括約筋=内尿道括約筋が位置します。先ほど説明したように、排尿障害のある人は、膀胱出口周囲の膀胱括約筋が発達・肥厚しています。これは、縦走筋と膀胱括約筋の排尿時の動きがシンクロせずに、逆にバランスが悪く、縦走筋が収縮する時に膀胱括約筋が緩まないで対抗している証拠です。

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この画像は、3Dエコー検査で観察した膀胱出口の所見です。
見て分かるように、膀胱出口を中心とした同心円状ではありません。
これを分かりやすく説明したのが、次のイラストです。

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イラストで見えるように、輪状筋は、膀胱三角部を挟んでブーメランの様な形をしています。
何故この様な形状をしているかは、それなりの理由があります。
発生段階で、尿管の原基を囲むように輪状筋が発達したからです。そして、尿管の原基から膀胱三角部が形成したのです。

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3Dエコー画像を元に、下部尿路の基本的構造を左のイラスト側面像で示しました。
膀胱出口周囲に存在する赤い部分が、どちらも膀胱括約筋です。膀胱内側の肌色の部分が輪状筋で、外側の空色の部分が縦走筋です。

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健常であれば、右のイラストで示すように排尿時に、両方の膀胱括約筋が緩んで、縦方向に収縮した縦走筋の意のままに膀胱出口は開き、オシッコがスムーズに出るのです。

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排尿障害の患者さんは、どう言う訳か膀胱三角部も含め、排尿時に弛緩しないでギューっと収縮します。縦走筋が収縮して膀胱出口を開こうとしても十分に開かないのです。
この経過が長期間に渡ると、膀胱括約筋が縦走筋と筋トレしていることになり、イラストのように次第にマッチョになります。排尿障害の患者さんをエコー検査で観察すると、膀胱出口前部の膀胱括約筋と膀胱三角部の膀胱括約筋が厚くなり、膀胱側に突出しています。

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この膀胱括約筋の肥厚は、イラストで表現したように、まるで膀胱出口を鍵でロックした状態になるのです。
この状態が何十年も続けば、縦走筋や輪状筋は疲れ果てて、男女関係なく神経因性膀胱と診断されます。排尿時の圧力が前立腺を刺激して、前立腺肥大症になります。膀胱三角部が突出すると、中葉肥大型と判断される形状です。
排尿障害の患者さんの内視鏡手術の際には、この固くなった膀胱括約筋の切開・切除が重要になります。ところが、前立腺肥大症だと、「肥大症」とい言葉に翻弄されて前立腺しか手術しないので、手術後も排尿障害が続くのです。

以上のように排尿障害し続くと、何故に頻尿・残尿感・尿意切迫感などの症状が発現するのでしようか?実は、膀胱三角部の括約筋は、圧力センサーでもあるのです。通常は蓄尿で膀胱内圧が高まると、その圧力が膀胱三角部の圧力センサーを刺激して尿意を感じるのです。ところが、膀胱三角部が肥厚したために膀胱三角部の組織密度が高まり、膀胱内圧の反応閾値に関係なく、圧力センサーが過剰に反応してしまうのです。

治療としては、膀胱括約筋の緊張を緩めて上げれば良いのです。そのために、ユリーフ・ハルナール・フリバスなどのα1-ブロッカーの処方です。ご婦人の場合は、エブランチルしか処方できません。
次に膀胱三角部に特異的に作用するベタニスなどのβ3刺激剤が有効になります。
また、膀胱内圧を下げることで、膀胱三角部の圧力センサーを二次的に刺激しないように、輪状筋の過敏性収縮を抑えることです。そのために、ベシケア・ステーブラ・トビエースなどの抗コリン剤が必要になります。


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コメント

55歳の男性ですが、5.6年前に血液検査でPSAの値が4.0を超えたので総合病院に再度検査に行き同様にPSAの値が4.0を超えたため若いのにおかしいということでいきなり針生検の検査予約をさせられましたが、今考えると幸運にも針生検をすることなく(総合病院の看護士さんがセカンドオピニオンを勧めた)近所の泌尿器科でアボルブとハルナールを処方して頂き今年の初め頃までPSAの値が2.0前後を推移して来ました。今年に入ってからの定期血液検査と超音波検査でPSA値が3.0(服用中はPSA値が半分になると思いますが)ぐらいになったためMRIの検査をしましたが癌の所見はなくただ単に前立腺が薬の服用にも関わらず大きくなったものとの判断で内視鏡検査もしました。結果、前立腺は大きくなっていて(50cc)膀胱に顔を出している前立腺なので尿が細い排尿障害があります。レーザー手術(PVP)を考えてみてはと言われました。この手術をするにあたって特に問題はないでしょうか?
★回答
問題ありません。」

あと、手術を検討している最中に急性前立腺炎になりました。腫れが引いてから少し排尿障害が緩和されたような気がします。素人なりに考えたのは急性前立腺炎で前立腺が腫れて引く際に膀胱に飛び出していた前立腺が引っ込んだみたいなことはありますか?
★回答
ありません。
元々の排尿障害が前立腺を大きく=前立腺肥大症なり、膀胱に飛び出すのです。
そして、排尿障害が、急性前立腺炎を作るのです。

投稿: くろうさぎ | 2018/10/20 14:25

お忙しいのに申し訳けございません。主人(70歳)のPSAのご相談をお願い致します。
27年10月 8、3 健診にて泌尿器科で受診 前立腺肥大でアボルブを投与され
28年1月 3、8 28年7月 2、93
29年3月 5、06 29年7月 4、25
30年1月 4、26 30年8月 6、58
と上昇してしまいました。
10月11日 MRI を撮り 本日
22日 肛門近くが怪しいとの事で90%癌なので治療をしたほうがよいと リュープロレリン酢酸塩 3、75㎎ を4週間ごとの注射をしました。
ビカルタミドOD錠 80㎎ 1錠
を処方されました。
癌は消滅する。 癌でなくてもこの治療は心配ないと言われましたが大丈夫でしょうか
心配でご意見をお聞きかせ
いただきたく宜しくお願い申し上げます。
【回答】
大丈夫です。

投稿: k k | 2018/10/23 00:24

高橋先生

早速の回答ありがとうございました。
レーザー手術(PVP)は問題ないということでしたが、自分が心配していたのは針生検と同じく前立腺を削る(傷つける)ので前立腺癌に移行しやすくなるのではと多少の不安を考えていたのですが高橋先生が問題ないということでしたので手術を受ける方向で動こうと思います。
ありがとうございました。
【回答】
前立腺肥大症の手術前には、必ず前立腺針生検をされます。
摘出した前立腺を病理検査を行い、術後に診断されます。

投稿: くろうさぎ | 2018/10/25 15:34

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