前立腺ガンの発見数(罹患数)の推移
国立がん研究センターの1975年から2013年までの前立腺ガンの罹患数(発見数黒い線グラフ)と死亡数(赤い線グラフ)の推移をグラフにしました。
❶前回、前立腺ガンの死亡者数の増加について解説しました。増加の要因は、PSA検診・検査の普及と、前立腺肥大症の治療がプロスタールからハルナールに取って代わった事が原因だろうと思われます。
罹患数の増加の要因もPSA検診・検査が深く関わっている事が、グラフから予想できます。特に、泌尿器科学が先導して行った前立腺癌撲滅キャンペーンが、強力に働きかけたと思われます。
ここで、問題になるのが、罹患数と死亡者数の乖離現象です。定点で比較すると、下記の通りになります。
【年代】・【罹患数】・【死亡数】・比率(罹患数/死亡者)
1975年・・・ 2412・・・1267・・・1.9倍
2003年・・・40062・・・8418・・・4.8倍
2011年・・・78728・・10823・・・7.3倍
❷PSA検診・検査が普及すればする程、無駄な寿命に影響しない前立腺ガンの発見が増えているように見えます。前立腺ガンの治療法が飛躍的に進歩している訳ではありませんから、罹患数と死亡者数の開きは、単に発見しなくてもいい前立腺ガンを見つけてしまったという事になります。
❸この背景には、近年の前立腺肥大症の増加が原因です。私が研修医の頃には、80歳までに2割の男性が前立腺肥大症になっていました。ところが最近では、80歳の男性の8割が前立腺肥大症になるのです。前立腺肥大症では、前立腺の密度が高く、さらに排尿障害が生じるので、当然PSA値が高くなります。PSA値が高い→前立腺ガンの疑い→針生検というルーチンで、寿命に影響しないラテント癌(潜伏ガン)が発見されてしまうのです。これが罹患数と死亡者数のギャップの原因です。
❹PSA検査を導入した健診・人間ドック・地域検診が前立腺ガンの患者さんを増やしたことになります。健診によって『俺は前立腺ガンなんだ❗️❗️❗️』と精神的に追い詰めたことになります。健康を維持するために受けた健診によって精神的不健康に、生活のQOLを低めたことになります。医師のやることは、もしPSA値が高ければ、前立腺肥大症・排尿障害を認め、かつ触診とエコー検査でステージⅡ・Ⅲ・Ⅳが否定出来れば、針生検を実施してはなりません。その際、念のために半年〜1年毎に定期的にチェックすれば良いでしょう。
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コメント
はじめまして、横浜市在住55歳です。つい先日生検で前立腺がんと診断され、今後全身骨シンチとCTで転移の検査をした後、摘出手術を奨められています。手術が必要な状況かどうか高橋先生の見解をお聞かせいただけると幸いです。
経緯・検査結果は以下の通りです。
①2017年4月 定期健診にてPSA高値(4.3)を指摘 過去4年のPSA値 1.9→2.7→2.7→4.3(今年)
②7月泌尿器科を受診 触診の結果前立腺肥大は年相応で問題無し、再度PSA検査を行い結果は同じ4.3、生検を奨められる
★回答
前立腺肥大症でPSAが高かったのでしよう。」
③総合病院で、MRI検査の後、11月11日に生検実施 結果 16本中4本が陽性、いずれも高分化型でグリソンスコアは4つとも3+3の6
★回答
6であれば、放置してもよかった癌です。」
自覚症状としては、3年ほど前から夜間頻尿や尿の切れの悪さを感じており、何度かハルナールは処方してもらいましたがあまり改善されませんでした。尿が出ないというよりは1回の量が少なく、すぐに尿意を感じる割には放尿してもスッキリしない感じです。
★回答
排尿障害による症状です。
その結果、PSAが高くなったのでしよう。
見つけなても良い癌が発見されたと考えます。
投稿: 横浜市T | 2017/11/28 12:43
早速のご回答ありがとうございます。
一度診察を受けに伺わせていただきます。
土曜日でも予約無しで大丈夫でしょうか。
【回答】
OKです。
投稿: 横浜市T | 2017/11/28 15:58
お世話になっております。
本日検査の最終結果確認と治療方針の相談に行ってきました。
周辺臓器への浸食や骨転移は無く、私的にはNCCN分類で超低リスクに相当し。経過観察も選択肢の一つと考えていましたが、
先生からは、
経過観察はあり得ない。進行しない潜在ガンである可能性は限りなく低い。55才で前立腺がんが見つかることは珍しい、進行も早いはずだ。との見解で、全摘手術を強く薦められました。
とても納得できない説明に感じましたが、高橋先生の見解をお聞かせいただけないでしょうか。
ちなみにグリソンスコアは3+3の6でしたが、この病院では1とか2は出さないとのこと。
生検16本中4本陽性で25%ではと聞いてみましたが3未満ではないので超低リスクには相当しない、とのことでした。
こんな説明を一緒に聞いた家内はとても不安がっております。
★回答
グリソンスコアの悪性度に無関係にステージⅠ・Ⅱ・Ⅲは、5年生存率は同じです。
グリソンスコア6であれば、まず、手術の必要はないでしょう。
定期的にホルモン治療すれば良いでしょう。
投稿: 横浜市T | 2017/12/26 18:20
お世話になっております。
処方いただいたプロスタールとユリーフを1日1錠づつ飲み始めて1か月、PSAを測定したところ、4.3→3.1に下がっていました。
頻尿も日によって違いますが、大体日中5-7回、夜間0-1回で落ち着いてきました。
高橋先生の診立ての通り、前立腺肥大が原因でPSA値が上がり、前立腺肥大が改善したことでPSA値が下がった、ということですよね。
このまま薬を飲み続ければ、さらにPSA値は下がるでしょうか?その場合でも総合病院の泌尿器科医は手術を勧めるのでしょうか?
★回答
今の主治医は、前立腺の大きさも排尿障害を認識していませんから、黙っていれば、分からずに様子を見ましょうと言うだけです。
さらに、PSA値は下がります。
投稿: 横浜市T | 2018/01/12 13:58