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医師をも悩ませる前立腺ガン

有名大学出身の外科の先生が来院されました。
実はPSA値が高く、針生検を先日実施し、病理結果は来週分かるという事でした。
針生検後に私のブログをお読みになり、意見をお聴きに来院されました。患者さんとして同業者の医師が何人も訪れます。本質を見ることの出来る医師からは、現在の泌尿器科学の前立腺ガンの常識に疑問を持たれたのでしょう。

MRI検査では前立腺右葉に疑う所見があり、事前の触診なしに即針生検されてしまいました。持参された針生検の際のエコー画像では、前立腺ガンの所見は不明瞭でした。
お話しをお聞きし、早速診察・検査を行いました。

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超音波エコー検査では、明らかな前立腺肥大症です。大きさは50ccと正常の2倍以上です。さらに
❶膀胱粘膜が凸凹で排尿障害による肉柱形成所見
❷膀胱括約筋の先端分裂
❸前立腺結石
❹前立腺の膀胱内突出
以上は、全て排尿障害による変形です。
これだけでもPSA値は高くなりますが・・・。

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さらに詳細に超音波エコー所見を見てみます。
前立腺の正面像が僅かながら左右非対称です。膨らみの場所(赤い矢印)が前立腺外腺の右側にあり、前立腺ガンと思われます。
陰影の膨らみの形状が全体的に丸みを帯びています。
悪性度の低いグリソンスコア6以下とグリソンスコア7では、細胞分裂が比較的遅くて発育がユックリなので、細胞同士が調整しながら発育するために形が丸みを帯びます。

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疑わしい陰影を縦に観察した前立腺の側面像にも陰影(赤い矢印)が確認出来ます。
やはり全体的に丸みを帯びています。
この所見から、おそらくこの前立腺ガンはグリソンスコア6〜7と思われます。

今度は触診させていただきました。
触診でも前立腺右葉に硬結が触れます。これで前立腺ガンに間違いないでしょう。あとは、針生検の結果待ちです。その後の治療は、この先生自身に委ねました。

なぜかと言えば、同業の医師としては医療に関して各々ポリシーがあります。
病気の原因をトコトン追求して、現時点で最良の治療手段を選択したい医師もおられます。また、私のように、原因追及をある程度までに押さえておき、寝ている子を起こさないで自然体に治療する医師もおられます。患者さんと同じで、考え方はマチマチです。しかし、どのような決断をなさろうと、医師であるこの患者さんの判断が常にベストで正しいとお伝えしました。
胃ガンの場合でしたら、即手術になりますが、前立腺ガンの場合は、治療と結果が確立されていないから、医師であっても悩ませるのです。これは、泌尿器科医師の責任です。

ただ、次の治療を選択するまで間がありますから、刺激してしまった癌細胞を興奮させないようにプロスタールを処方しました。また、排尿障害がある前立腺の形状でしたので、ユリーフを処方して、排尿時の前立腺の物理的負荷で傷ついた前立腺ガンを興奮させないようにしました。

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プロスタールの実力

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PSA値が8~10と高く、前立腺癌を疑われ、前立腺針生検すすめられた80歳の患者さんです。
前立腺針生検を拒否して、インターネットで当院を見つけ来院しました。
超音波エコー検査で前立腺の大きさが68ccと通常の3倍以上の大きさです。普通は、20ccですから、これではPSA値が高くても不思議ではありません。ところが、よ~く見ると、前立腺の右葉端に小さな陰影(赤い矢印➡)が認められます。触診をすると、前立腺右端に硬結が触れました。間違いなく前立腺癌です。
そこで、前立腺を小さくするためと、前立腺癌の治療のためにプロスタール2錠毎日で処方しました。

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前立腺が大きくPSA値が高い人に対しては、まずは前立腺を小さくすることがやらなければならないことです。一般の泌尿器科医は、PSA値が低くマスクされるという理由で、実行しません。この治療でPSA値が低くなるのであれば、その程度の前立腺ガンと考えても良いのではないでしょうか?
しかも80歳過ぎの患者さんに、前立腺針生検を強要する医師は、患者さんの人生のことを何にも考えていません。自分の父親だったら、そこまで強要するでしょうか?
私が研修医の頃からあったプロスタールは、毎日2錠で前立腺肥大症に、毎日4錠で前立腺癌に保険適応が承認されている都合の良い薬剤です。良性に近い高分化型や中分化型であれば、前立腺肥大症として治療しても効果が出ます。

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3カ月後、患者さんがお見えになり、前立腺の状態を再検査して欲しいと希望があったので検査を行いました。すると、3カ月しか経っていないのに前立腺の大きさが何と35ccでした。約2分の1でした。
しかも、前立腺癌の陰影が認められません。触診でも硬結は触れませんでした。高分化型の前立腺癌を前立腺針生検をしないで治療したことになります。
プロスタールが、前立腺肥大症の治療薬としてファースト・チョイスとして処方されていた時代は、これほど多くの前立腺ガン患者さんはいませんでした。なぜなら、プロスタールが高分化型や中分化型の前立腺ガンを死滅させていたからなのです。ところが、前立腺肥大症の排尿障害を効果的に治すハルナールの出現でプロスタールが使われなくなりました。さらに、プロスタールなどの抗男性ホルモン剤がPSA値を下げてしまい、前立腺ガンの発見が遅れてしまうからという文献が過大評価されたからです。
プロスタールの売上げの減少に反比例して前立腺ガンが増加する印象でした。研究者たちのバカな思い込みが作った、これが前立腺ガン患者さん増加現象の本質かも知れません。

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頻尿の芸能人

Img_0649愛のメモリで有名な歌手の松崎しげる氏67歳が、バラエティ番組で頻尿で苦しんでいることを告白していました。1日25回の頻尿です。多い時には1時間に4回トイレに行っていました。インタビューが途中で何回も中断されていました。

精密検査をすると、前立腺肥大症で大きさは45グラム(正常が20g=20cc)でした。しかし、番組は疑問を感じる方向に向かって進んでいきました。
MRI検査や脳波検査の結果、前頭葉の血流が低下していることが判明しました。その結果、松崎しげるさんは、認知症予備群と診断されたのです。認知症の人には頻尿が多いという方向で話しは進み、最後には、認知症予防体操を行なっている松崎しげるさんの姿で締めくくられました。

Img_0650私からすると、本末転倒です。長期間排尿障害で体に負担がかかると、中枢神経に負担がかかります。特に情報処理の海馬に慢性的に負担をかけるのです。正常の範囲内の生理的負担ではありませんから、海馬は疲弊・萎縮して結果、認知症になるのです。
また、MRI画像では正確な前立腺の大きさを測ることが出来ません。45グラムという値も怪しいものです。もっと大きい可能性が高いと思われます。

以上のことから、まずは、前立腺肥大症と排尿障害の治療を先行し、積極的に実施すべきです。前立腺の大きさが45ccは、泌尿器科医にとっては、それほど大きくありません。そのため、簡単な頻尿治療薬か、αブロッカーを処方するだけでしよう。しかし頻尿が治らないと、「気のせい」、「心のストレス」、遂には、「認知症」のせいにしたのでしよう。認知症の治療だけでは、松崎しげるさんは今後も苦しむでしょうね。


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エコー所見とPET所見

前立腺ガンで長いこと治療している患者さんが、骨転移が不安でPET検査を希望されました。
そこで、患者さんの地元でPET検査を行なっている病院に紹介状を書きました。
その結果、ご心配だった転移は認めませんでした。
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PET前の超音波エコー検査所見です。
赤い矢印➡で囲んだ部分が前立腺癌です。
前立腺の外腺の右(写真では左)に前立腺癌を確認できます。

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PET検査の初見です。
前立腺の右(写真では左)に前立腺癌と思われる部分に集積像(ピンクの部分)が確認できます。
超音波エコー検査所見と比較して、PET所見の方が大きく大げさに見えます。
恐らくPET用の造影物質が集積するので、実際よりも大きく見えるのでしょう。それからすると、前立腺ガンの早期発見には、この大袈裟に見えるこのPET検査が良いのかも知れませんね。

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PSA値が高いまま無事に6年間

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平成23年10月に来院した73歳の男性患者さんです。
PSA値が8.4と高く、虎の門病院で前立腺針生検を勧められましたが拒否して、当院に来院しました。
前立腺触診や超音波エコー検査では、前立腺癌とおぼしき所見は全くないので、定期的に検査することにしました。
平成24年、25年、26年、28年、29年の今年10月にチェックしました。現在79歳です。その間、PSA値が9.0を超える時もありましたが、前立腺癌の所見はまったく確認できませんでした。
写真は、一番最近の超音波エコー検査所見です。前立腺肥大症と排尿障害の証拠は認められますが、前立腺癌の陰影は認められません。触診も異常ありませんでした。
PSA値が高いと言われて針生検を勧められも、6年経過しています。前立腺癌の予後は、まずは5年ですから、この観点からも、この患者さんには前立腺癌が無いかラテント癌と考えて良いでしょう。
これからも毎年1回のペースで定期的検査で過ごせるでしょうね。

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過剰診療(過ぎたるは及ばざるが如し診療)

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PSA値が高くなると、医師から前立腺針生検を勧められる患者さんがとても多くなりました。多くの患者さんを拝見すると、前立腺針生検には、実はメリット、デメリットがあることが分かります。
このグラフを使って解説しましょう。【参考 臨床泌尿器科 増刊号 1996年】

【メリット】
前立腺針生検により、癌細胞の組織象(=悪性度)が判別できます。上のグラフは、癌組織の悪性度別の予後(生存率)を表したものです。
5年生存率で比較すると、高分化(正常の前立腺細胞に近い顔をした良性型)が95%に対して、低分化(正常の前立腺細胞とほど遠い顔をした悪性型)が30%と、かなり生存率が低くなっているのです。したがって、悪性度の高い癌組織を早期に発見して、積極的に治療しなければならないと、普通に考えたら分かりますよね。……でも、ここに盲点があるのです。

【デメリット】
上のグラフをよ~く観察してみると、低分化(悪性型)のあまりにも急激な生存率の低下(=死亡率の上昇)は、不自然に思えませんか?
その疑問を解くために、このグラフ使って解説します。
各悪性度の死亡数を合計し、死亡率を計算すると、38.5%の前立腺癌の患者さんが5年でお亡くなりになっています。
①高分化(良性型)5年:161人×5%=8人、10年:161人×15%=24人
②中文化(中等度悪性型)5年:550人×30%=165人、10年:550人×50%=275人
③低分化(悪性型)5年:320人×70%=224人、10年:320人×80%=256人
④5年死亡数合計397人、5年間死亡率397人÷1031人=38.5%
⑤10年死亡数合計555人、10年間死亡率555人÷1031人=53.8%

ところが、厚生労働省発表の2015年統計の前立腺癌では、
罹患数: 93,400人
死亡数: 12,200人です。
単純計算で、前立腺癌患者さんのうち13%(12,200人÷93,400人)の人が前立腺癌で亡くなられています。
ここで、疑問が出てきます。上記のグラフから割出した死亡率38.5%と、日本全体で割出した実際の死亡率13%の数字のギャップの原因は何なのでしょうか?

上のグラフの高分化(良性型)が少な過ぎるのです。実際には、高分化の患者さんは、最と多く存在する筈です。
つまり、全国レベルで考えると、予後の良好の高分化の前立腺癌を必要以上に発見しているという事です。前立腺癌と一度診断されると、患者さんは、前立腺癌で亡くなることはないのですが、何十年も精神的トラウマになるのです。患者さんを救うはずの医師が、患者さんを不幸にするとは、何という事でしょう!
前立腺癌の組織を確認し確定診断するのは、泌尿器科医として常識です。医師が病理組織を観察したいという気持ちの結果です。しかし、前立腺癌を発見しようとする余りに、過剰診断・過剰治療(過ぎたるは及ばざるが如し診断・診療)が問題になっていますが、場合によっては、命に危険を伴う診断と治療になる可能性があります。

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最近、話題になっているが、アオリ運転による交通事故や交通トラブルです。大人しい人間が、ひとたび車運転をすると、横柄で横暴な気の短い人間に変身して交通トラブルを起こすのです。
長い年月、人の前立腺の中に潜んでいた癌細胞を針生検により刺激して、突然として横柄で横暴な気の短い前立腺癌に変身するのかもしれません。

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PSA値が高くなる要因

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PSA検査結果が高いと言うだけで、前立腺針生検を強引に迫られ、悩まれる患者さんがとても多くおられます。今までも、PSAについてたくさん解説して来ました。そこで、イラストを使って、PSA値が高くなる要因を分かり易くまとめました。言葉で解説しても、なかなか理解できない方が多いので、イラストで表現しました。
それでは、1つ1つ解説しましょう。

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