前立腺癌の5年生存率
平成29年8月25日号の週刊ポストに、「実施してはいけない手術」というテーマがありました。
その記事の中に前立腺癌の手術の記載がありました。前立腺癌の手術をしたグループと、手術をしなかったグループに分け、ステージ別に5年生存率を比較したものです。(千葉県癌センターのデータ)
このデータを観察すると、前立腺癌の手術を実施したグループと、そうでないグループとでは、ステージⅢまでは、5年生存率がほとんど同じなのです。前立腺癌が転移しているステージⅣの患者さんだけは、5年生存率が手術した方が良好だったのです。(手術なし59.8%と手術あり80.8%)
したがって、前立腺癌の手術をすべきは、転移が認められているステージⅣの患者さんだけだということが分かります。
さらに詳細に観ると、ステージⅠに関しては、手術しないグループの方が5年生存率がわずかながら悪いのです。(手術なし95.2%と手術あり100%)
これには、次の理由が考えられます。ステージⅠと判断するためには、前立腺針生検が必要です。針生検したために、前立腺癌を刺激したかも知れません。そのため癌細胞の悪性度が増し、それが生命に関わる癌になったと考えられます。手術したグループは、針生検で刺激したにもかかわらず、増殖する前の早期に前立腺を摘出したので、生命に影響を与えないと考えられます。
さらに、ここでデータの盲点があります。手術なしが576例、手術ありが97例です。手術ありが、手術なしの6分の1です。要するに選ばれたステージⅣの患者さんだけが手術をしたということです。選ばれた理由は、癌転移の数が少ないという事でしょう。手術なしの癌転移の多いステージⅣの患者さんは、リスクが高いのに決まっています。
見方を変えると、前立腺癌で亡くなるのは、極論すればステージⅣの患者さんだけだと言えます。ステージⅣの患者さん総数673例でステージⅠ~Ⅳの全症例数5732例ですから、前立腺癌で亡くなるステージⅣの患者さんは前立腺癌患者さんの11.7%になります。
前立腺癌の死亡数を年代別にグラフにしたものです。
死亡数の増加率は、3つの直線に分類することができます。
緑の直線が1980年までの増加率を示すものです。黒い直線が1990年までの増加率を示します。赤い直線が1990年以降の増加率を示します。それぞれの年にエピソードがあります。
1980年はPAP検査(PSA検査以前の前立腺腫瘍マーカー)が泌尿器科医師で始まりました。1990年は、PSA検診が一般医にも普及し始めました。そして、速効性のあるハルナールが発売され始めてから、前立腺癌の抑制作用を持つ前立腺肥大症治療薬プロスタールの売り上げが激減しました。さらに、2002年になり前立腺癌撲滅キャンペーンが始まり、それと同時に前立腺ガン死亡数が増えたのです。
初めの緑の直線増加率は、高齢者が増加するとともに増えたと思える自然増加率です。次の黒い直線増加率は、PAP検査やPSA検査が出現したための医原性の増加率と思われます。三番目の赤い直線増加率は、プロスタールの不使用とPAP検査の普及による医原性でしょう。患者さんのために早期発見・早期治療をと願いながら懸命に検査・治療すればするほど、前立腺ガン死亡数が増えているように思えてなりません。
2016年予想(国立がんセンター)では、前立腺癌死亡数12,600人の予想となっています。グラフの赤い直線増加率よりも、一層急な角度で増加していることが分かります。原因不明の急な自然増加率という認識ですが、泌尿器科学は、なぜ疑問に思わないのでしょう。PSA検査➡︎前立腺針生検➡︎前立腺ガンの発見➡︎治療という流れが、絶対的に確立されたものと考えているからでしょう。過去の医学常識で覆された真理はたくさんあるのに、いつまで立っても勉強していない事が分かります。
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