ラテント癌疫学的考察 前立腺癌診療ガイドライン2012年から
前立腺癌診療ガイドラインがwebで公開されたので、ここで一部紹介します。
疫学
CQ2 ラテント癌の性質と頻度はどのくらいか?
ラテント癌は加齢に伴い増加し,50歳以上では約20~30%に認められる。臨床癌と異なり地域差が少ない。また,一部の癌が長い期間を経て臨床癌に進展するが,多くは臨床癌とならずに経過すると考えられている。
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解説
ラテント癌とは,生前,臨床的に前立腺癌の徴候が認められず,死後の解剖により初めて確認される癌である。ラテント癌の頻度は加齢に伴い増加し,50歳以上では約13.0~26.5%に認められるとの報告がある1-4)。また,欧米と本邦における前立腺ラテント癌の頻度の差は,罹患率の相違に比較して小さいことが知られている。
米国の黒人,白人,コロンビア人,ハワイ移住の日本人および日本在住の日本人を対象とした同一の検索方法,組織判定基準での比較研究がなされており,50歳以上における年齢調整(5集団の全対象症例の年齢分布で調整)後のラテント癌の頻度はそれぞれ,36.9%,34.6%,31.5%,25.6%および20.5%であった1)。さらにラテント癌を浸潤型と非浸潤型に分けた場合,非浸潤型腫瘍の頻度は各国で有意差はなかったが,浸潤型腫瘍の頻度は,日本在住の日本人は,米国の黒人,白人,コロンビア人より有意に低く,ハワイ在住の日本人と比較しても低い傾向があった。ハワイ在住の日本人は,米国の黒人とは浸潤型腫瘍の頻度に有意な差があったが,白人,コロンビア人とは差がなかった1)。同一施設での1955年~1960年および1991年~2000年における剖検例の比較検討では,40歳以上での前立腺ラテント癌の頻度が4.8%から1.2%へ有意に減少したとの報告があり,PSA検査の普及によりラテント癌の頻度が低下する可能性が示唆されている5)。
前立腺のラテント癌が臨床癌に進展するまでの期間の解明は難しい。若年者の剖検による検討で,微小なラテント癌は30歳代から認められると報告されている6)。ラテント癌から臨床癌へ進展する期間は11~12年と推測している報告がある一方で7),発癌から癌死に至るまでの期間は45年以上と推測している報告がある8,9)。前立腺癌は比較的ゆっくり増殖するものが多いが,稀に数カ月のうちに急速に進行するものがあり,ラテント癌から臨床癌になるまでの期間は非常に幅が広い。いずれにせよ,一般的にラテント癌の多くは臨床癌にならずに経過し,一部は緩徐な経過をたどって臨床癌に進展すると考えられている。
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