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局所前立腺癌に対する根治的前立腺全摘除術と経過観察の比較

局所前立腺癌に対する根治的前立腺全摘除術と経過観察の比較

Radical Prostatectomy versus Observation for Localized Prostate Cancer

局所前立腺癌患者に対する根治的前立腺全摘除術の有効性を経過観察と比較するランダム化試験を実施した。過去12ヵ月以内に診断され、前立腺特異抗原(PSA)値が50ng/mL未満で75歳以下の患者を根治的前立腺全摘除術364例(手術施行群、平均67.0歳)と経過観察367例(観察群、平均66.8歳)にランダムに割り付けた。PSA値は中央値7.8ng/mLであった。

そのうち281例が根治的前立腺全摘除術を施行し、292例が経過観察となった。一次評価項目は全死亡率、二次評価項目は前立腺癌死亡率とした。その結果、追跡期間は中央値10.0年、全死亡率は手術施行群で47.0%、観察群で49.9%であり(ハザード比0.88、P=0.22)、生存期間中央値は各13.0、12.4年であった。
前立腺癌または治療起因の死亡率は全体で7.1%であり、うち前立腺癌死亡率においては両群間で差を認めなかった。骨転移は、手術施行群の4.7%、観察群の10.6%に認めた(ハザード比0.40、P<0.001)。死亡率に対する手術の有効性は、年齢、人種、共存症、自己報告全身状態、腫瘍の組織学的特徴による群間での差はなかった。

しかし、治療前のPSA値またはD’Amico腫瘍リスク分類と交互作用を認め、PSA値が10ng/mL超の患者、中等度リスク腫瘍患者で全死亡率が手術により有意に低下し(各ハザード比0.67、0.69)、前立腺癌の死亡率においても、手術施行群は観察群と比べて、PSA値が10ng/mL超の患者、高リスク腫瘍患者で有意に低値であった(各5.6 vs 12.8%、9.1 vs 17.5%)。
術後30日間に創傷感染を含む合併症を21.4%に認め、1例が死亡した。
以上から、根治的前立腺全摘除術は経過観察と比べ、全死亡率と前立腺癌死亡率を有意に低下させなかった。

著者 : TJ. Wilt, M.D.,
出典 : N Engl J Med 2012; 367:203-213July 19, 2012
アストラゼネカHPから

【備考】
局所前立腺癌で根治的手術を受けた訳ですから、術前も術後も癌の浸潤も転移はないと判断されていることになります。しかし、手術治療例も経過観察例も前立腺癌死亡率に有意の差はなく、7.1%です。573例(281例+292例)中41人が前立腺癌で亡くなっています。

様々な術前検査で局所前立腺癌(早期癌)と診断されているにもかかわらず、全体の7.1%が前立腺癌で亡くなったということは、局所ではなかった、つまり術前診断が誤診だったということになります。
もしも術前診断が正確無比なものであるのならば、この7.1%はどういうことを意味するのでしょう。局所前立腺癌を針生検によって、局所ではなくなったとも考えられませんか?たとえ局所前立腺癌であっても、針生検をすれば、7.1%人の癌が浸潤したり転移したりする可能性を秘めていることになります。

前立腺ラテント癌のうち、悪性度が高いもの(グリソン・スコア7以上)が統計上14.5%存在します。40歳以上の日本人男性の20%にラテント癌が存在し、その14.5%に悪性度の高い前立腺癌が存在するのです。今回の研究でも前立腺癌の患者さんのうち、少なくても14.5%は悪性度の高い前立腺癌ですが、亡くなった7.1%の方は、悪性度が高い方と考えられます。つまり、悪性度の高い前立腺癌のうち49%(7.1%÷14.5%=49%)の方が亡くなる計算になります。

この数字49%を「悪性度が高いのに死亡率が低くなった」と見るか「高い」と見るかは意見の分かれるところです。

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