PSA値から前立腺癌治療までのアルゴリズム
健康診断などでPSA値が高いと診断されて来院される患者さんが多くいます。
私の考える診断と治療の流れを右の図で示します。
以前にも「グリソンスコアの予想」のテーマでアルゴリズムを解説しましたが、複雑だったので簡単にしました。
健康診断などでPSA値が高いと診断されて来院される患者さんが多くいます。
私の考える診断と治療の流れを右の図で示します。
以前にも「グリソンスコアの予想」のテーマでアルゴリズムを解説しましたが、複雑だったので簡単にしました。
アステラス・ネット・プレスに紹介された記事です。
地域医療連携でPSA検診を導入したら、「前立腺癌の疑い」患者さんが急増したという内容記事です。この通りにPSA検診を積極的に押し進めれば、「前立腺癌の疑い」数が記事のように増え、針生検数も増え、結果として前立腺癌罹患数はさらに増えます。前立腺癌の母集団の増加は、ひいては前立腺癌死の増加を促すのです。
一見して、とても良い事業を推し進めていますが、結果として癌で亡くなる方を増やしているだけです。『癌をたくさん見つけて治療している!』と善意で行っていることだけに、誰も疑問を感じないのが盲点です。
『見つけてはいけない癌を見つけている?』という可能性を危惧します。
「がん統計白書2012年」によれば、2010年~2014年で年平均65,400人(延べ人数で5年間に32万7千人にもなります。)が前立腺癌に罹患する予想です。1990年~1994年の年平均9,827人の罹患数からすれば、その伸びは20年間で何と666%です。
死亡数は1990年~1994年の年平均4,027人から、20年間で2010年~2014年の年平均11,600人(延べ人数で5年間に5万8千人)に増加しています。
単純な死亡率計算(参考1)では、1990年から2010年までに61.9%から25.6%に減少しています。死亡率が半分以下に減少している訳ですから、PSA検診で前立腺癌早期発見を積極的に実施するべきという判断になるでしょう。
しかし、1990年頃から前立腺癌罹患数が増加したのは、前立腺癌そのものが自然発生的に増加したのではなく、一般内科医がPSA検査を抵抗なく実施するようになり、単純にPSA検診の増加→針生検の増加で癌の発見が増加したに過ぎません。なぜなら、ラテン前立腺癌は400万(参考2)人も潜在・存在している筈ですから。
【参考1】
罹患したら即死亡する訳ではありませんから、タイムラグが存在し、正確な死亡率の計算は難しいのが現状です。ここでは、ある年の死亡数は、それよりも5年前の罹患数の影響下にあると考えて計算しています。つまり5年平均の死亡数をその5年前の5年平均の罹患数で割って死亡率を算出しています。具体的に、1990年~1994年の年平均死亡数は4,072人、1985年~1989年の年平均罹患数は6,574人ですから、4,072人÷6,574人=61.9%になります。あくまでも比較するための概算です。
【参考2】
国内外の文献によれば、40歳以上の男性のラテント癌の潜在率は20%以上です。このデータから単純計算で、40歳以上の日本人男性には400万人を超える男性に前立腺癌が既に存在していることになります。
【参考3】
1987年にStameyらがPSAに関する重要な論文を報告し、その後、1991年にPSA検査によるスクリーニング(PSA検診)の最初の報告がなされています。当然、日本でもPSA検査熱は伝わり、PSA検診が増加しました。1990年台から前立腺癌患者さんが増加したのはそのためです。また、泌尿器科学会で前立腺癌撲滅キャンペーンもされていましたから、前立腺癌患者さんはウナギ登りに増加しました。
今私が読んでいる本で「選択の科学」が面白く興味が持てます。コロンビア大学教授で盲目のインド人女性です。【写真:アマゾンHPより】
動物園の動物は、自然界の動物に比較して短命だそうです。例として、野生のアフリカ象の平均寿命は56歳ですが、動物園のアフリカ象は17歳だそうです。環境からいえば動物園の方が恵まれていますが、野生環境での様々な選択肢がないので、それが逆に寿命に影響しているのです。
老人ホームの実験で、一つのグループは「選択権のない」グループです。鉢植えを渡しますが看護師が世話をし、映画は木曜日か金曜日にあると告げただけのグループです。二つ目のグループは「選択権のある」グループです。鉢植えは自分で世話をすることを条件とし、映画は木曜日か金曜日のいずれかを選択できると告げただけのグループです。
前立腺癌におけるActive Surveillance(積極的な未治療・監視法=待機療法)は安全か?
Monique J. Roobol
Erasmus University Medical Center, Department of Urology, Rotterdam, The Netherlands
掲載日: 2012年8月1日(TTMed-Urology アステラス製薬情報から)
To cite this content: Timely Top Med Uro Jap. 2012 Aug 01; Vol. 11; 5-91443
【要約】
PSA前立腺特異抗原に基づいたスクリーニング活動により、現在では多くの男性に低リスクの可能性のある前立腺癌が検出されている。癌が検出されたのに治療を行わないということは矛盾するように思われるが、前立腺癌においては積極的な治療は必ずしも自明の選択ではなく、active surveillance戦略が適切となるような場合もある。
しかし、前立腺癌には多様な特質があるため、このようなアプローチが適する患者群の選択はきわめて重要である。現在、active surveillanceプログラムへの組み入れ基準は、国により、あるいは施設によっても異なり、主として個人的な好みおよび科学的エビデンスのない臨床的な専門知識に基づいている。
積極的治療へと切り替えるきっかけとなる要因の基準については、それぞれのactive surveillanceプログラムによってさまざまである。このように患者選択およびモニタリングに不明確な部分があることは、active surveillanceが現実的でないという印象を与えるかもしれない。しかし、現在得られている8年後までの追跡データから、疾患特異的生存率は97~100%であることが示されている。
剖検研究に基づいた発生率のデータおよび早期検出による発生率上昇をみると、active surveillance戦略に適した、生検で検出可能な前立腺癌のサブセットが存在するはずである。もし前立腺癌患者のリスク分類を適切に行うことができれば、active surveillance戦略による5~10年間の進行データは、現在得られているものよりもさらに良好になる可能性が高い。
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