« 選択の科学 | トップページ | PSA検診でがん疑い急増 »

がん・統計白書2012から

Bookgantoukei2012_2「がん統計白書2012年」によれば、2010年~2014年で年平均65,400人(延べ人数で5年間に32万7千人にもなります。)が前立腺癌に罹患する予想です。1990年~1994年の年平均9,827人の罹患数からすれば、その伸びは20年間で何と666%です。
死亡数は1990年~1994年の年平均4,027人から、20年間で2010年~2014年の年平均11,600人(延べ人数で5年間に5万8千人)に増加しています。
Pca2012deathrate単純な死亡率計算(参考1)では、1990年から2010年までに61.9%から25.6%に減少しています。死亡率が半分以下に減少している訳ですから、PSA検診で前立腺癌早期発見を積極的に実施するべきという判断になるでしょう。
しかし、1990年頃から前立腺癌罹患数が増加したのは、前立腺癌そのものが自然発生的に増加したのではなく、一般内科医がPSA検査を抵抗なく実施するようになり、単純にPSA検診の増加→針生検の増加で癌の発見が増加したに過ぎません。なぜなら、ラテン前立腺癌は400万(参考2)人も潜在・存在している筈ですから。

【参考1】
罹患したら即死亡する訳ではありませんから、タイムラグが存在し、正確な死亡率の計算は難しいのが現状です。ここでは、ある年の死亡数は、それよりも5年前の罹患数の影響下にあると考えて計算しています。つまり5年平均の死亡数をその5年前の5年平均の罹患数で割って死亡率を算出しています。具体的に、1990年~1994年の年平均死亡数は4,072人、1985年~1989年の年平均罹患数は6,574人ですから、4,072人÷6,574人=61.9%になります。あくまでも比較するための概算です。
【参考2】
国内外の文献によれば、40歳以上の男性のラテント癌の潜在率は20%以上です。このデータから単純計算で、40歳以上の日本人男性には400万人を超える男性に前立腺癌が既に存在していることになります。
【参考3】
1987年にStameyらがPSAに関する重要な論文を報告し、その後、1991年にPSA検査によるスクリーニング(PSA検診)の最初の報告がなされています。当然、日本でもPSA検査熱は伝わり、PSA検診が増加しました。1990年台から前立腺癌患者さんが増加したのはそのためです。また、泌尿器科学会で前立腺癌撲滅キャンペーンもされていましたから、前立腺癌患者さんはウナギ登りに増加しました。

Pca2012nodeath前立腺癌の罹患者数と死亡数を単純計算すれば、この20年間で死亡率は61.9%から25.6%に、つまり半分以下の41%にまで低下しています。死亡率の低下は、もちろん喜ばしいことです。しかし統計のマジックで、死亡数の実数は、この20年間で年平均4,027人から11,600人に、つまり7,573人も増加しているのです。288%もの増加です。
原因不明とされている自然発生的な前立腺癌の増加が、前立腺癌罹患数増加の本当の原因であるのなら、死亡実数の増加は止む無く、死亡率の低下を喜ぶべきです。
しかし、PSA検診による無理やりの前立腺癌発見の増加が、罹患数の増加や死亡実数の増加原因だとすれば、死亡率の低下は全く無意味で、死亡実数の増加そのものこそ「憂うべき現象」と考えます。
前立腺癌を早期に発見したいあまり、短絡的にPSA検査を盲信し、結果的に前立腺癌で死ぬ人を増やしているに過ぎないと考えられます。

もしも、40歳以上の日本人男性の全員がPSA検診を行い、たまたまPSA値が高いことで針生検を行い、前立腺癌が発見されたとしたら、一体何人の人に前立腺癌が見つかるでしょうか?
40歳以上の日本人男性のうち400万人に前立腺癌が潜在している訳ですから、上記の流れで恐らく毎年40万人に前立腺癌が見つかるかもしれません。すると、治療法が進んで死亡率が改善したとしても、15%(現在25.6%)と考えても、毎年6万人の方が前立腺癌死するでしょう。
医師が良心と善意で実施しているPSA検診でしょうが、癌死する絶対数を増やしているのでは本末転倒です。厚労省と泌尿器科学会との間でPSA検診の有効性について議論していますが、データを見る限りコストパーフォーマンスのことだけに終始し、本質的な部分に触れていないので、両者とも滑稽です。

【まとめ】
日本人男性400万人の中に眠っている「ラテント前立腺癌」から、PSA検査という色メガネを利用して、針生検という破壊検査の機会を与え、無理やり「顕在化前立腺癌」に仕立て上げ治療している。不完全な治療だから、前立腺癌と診断された人のうち、必ず20%前後は5年~8年で癌死する。

|

« 選択の科学 | トップページ | PSA検診でがん疑い急増 »

コメント

今年80歳になった父の件です。
70歳の時に前立腺癌摘出の手術を受けました。その後長年ホルモン剤治療を続けていたのですが、
先生のブログに感銘して
今年の春から大学病院へはPSA検査だけやりにいくこととして(数値0.1~2位)処方されたいた薬を飲むのを止めていました。
すると、体調がとても良くなり血液検査の他の数値も見違えて良くなったのです。
ところが、本日PSA検査の結果をもらいに診察室へ入った父がアゴニスト製剤のリューブリンを打って戻って来ました。薬の怖さ、副作用についてろくに読まず、医師にすすめられるままに打ってしまったようです。
その後父は私や家族から、いかにこの薬が怖いか説得され、今は打ってしまったことを後悔しています。
長くなってしまいましたが、
この注射は一回打ってしまったら
続けて打たないとかえって悪くなるというのは本当でしょうか?
父は持病に糖尿病を患っていて、それもこの注射一本で劇的に悪くなってしまうのでしょうか?
注射を止めても、この一本により寿命が縮んでいまうのでしょうか?
お忙しいところ申し訳ありません。お時間ある時に教えて頂けましたら幸いです。
何卒よろしくお願い致します。

投稿: ご相談 | 2013/09/06 19:22

先日、お電話で80歳の前立腺癌の父のご相談をさせて頂いたものです。(リューブリン注射)お忙しいところ大変失礼致しました。

後日先生のクリニックに父と伺わせて頂きたく思うのですが、またご質問させて下さい。

癌が再発してしまった場合、その時先生はどういう治療のご方針をされていますか?
【回答】
今まで使用していないような抗癌剤を選択します。』

切りますか?その際、先生に手術をお願いすることはできるのでしょうか?
【回答】
再発している場合、まず転移を疑いますから、手術はできません。』

お電話の中で、薬を止めると確実に数値は上がり、癌のリスクが高まるとおっしゃいましたが、リューブリン注射も1回で止めたら癌が進行してしまうのでしょうか?
【回答】
それはないでしょう。』

お忙しいところ大変もうしわけありません。お手すきの時に教えて頂けましたら幸いです。

投稿: ご相談 | 2013/09/08 18:38

お忙しいところご丁寧にお教え頂きましてありがとうございました。
18日水曜の午前中に父と一緒に伺わせて頂きたく存じます。(先程代表のお電話番号に診療の確認をさせて頂きました)
とってもデリケートで傷つきやすい父ですが、何卒宜しくお願い致します。

投稿: ご相談 | 2013/09/10 16:17

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 選択の科学 | トップページ | PSA検診でがん疑い急増 »