PSA値による前立腺癌悪性度の予想
事前の前立腺針生検で認めた癌の病理組織検査所見グリソン・スコア(GS)と、前立腺手術後の再発率を検討したグラフです。
このグラフと下のグラフについては、過去のブログで解説していますので、詳細はそちらをご覧ください。
今回のテーマは前立腺癌の悪性度の予想です。
グリソン・スコアは、悪性度を1~5に分類し、一番多い組織の悪性度と2番目に多い組織の悪性度を加算して表記します。例えば、一番多い悪性度が2で2番目に多い悪性度が3の場合、2+3=5と表記されます。
前立腺の針生検の結果、
グリソン・スコア6以下の良性は、1370人中981人(71.6%)
グリソン・スコア7(3+4)中等度は、1370人中247人(18.0%)
グリソン・スコア7(4+3)以上の悪性度の高いには、1370人中142人(10.4%)です。
PSA値が高く、針生検で前立腺癌が発見された場合、上の確率でグリソン・スコアが分布していることになります。
前立腺手術で採取された前立腺を詳細に病理検査し、正確なグリソン・スコア評価とその後の再発を検討したグラフです。
上のグラフを修正したものと考えればよいでしょう。
針生検だけでは、正確なグリソン・スコアが出ないことが分かります。
【グレソン・スコア分布】
PSA値が高かった場合、グリソン・スコアの正確な分布は、
グリソン・スコア6以下の良性は、1387人中672人(48.4%)
グリソン・スコア7(3+4)中等度は、1387人中490人(35.3%)
グリソン・スコア7(4+3)以上の悪性度の高いには、1387人中225人(16.2%)です。
この確率・危険率は、針生検で前立腺癌が発見されることがなかったとしても、前立腺癌が存在すれば同じと考えられます。
つまり、50歳代で12%、60歳代で21%、70歳代で34%、80歳代で50%の確率・危険率で前立腺癌が存在しますが、その癌すべてに上記のグリン・スコアの確率が分布していることになります。
この考え方を進めると、60歳代でPSA値が高い場合、21%×48.4%=10.2%確率でグリソン・スコア6以下になります。同様の計算で、グリソン・スコア7(3+4)は7.4%、グリソン・スコア7(4+3)以上は3.4%ということになります。
【グリソン・スコア予想のための基礎知識】
ここまでは確率論のお話です。
さて本題に話を戻しましょう。
悪性度の分類であるグリソン分類で1~3は、腺腔構造が比較的保たれていますから、これら癌組織からPSAが血液中に漏れ出ることはとても考えにくいです。
グリソン分類で1~3の癌組織があった場合、PSA値が高くなる理由は排尿機能障害・前立腺肥大症・前立腺炎の3つと考えるのが妥当でしょう。
しかし、グリソン分類4~5の場合には、腺腔構造が消失しますから、PSAが腺腔構造への逃げ場がなくなり、PSAは血液中に容易に漏れ出てしまいます。
さて、PSA値から前立腺針生検をせずに前立腺癌の悪性度を予想できるでしょうか?
私は次のように考えます。
排尿機能障害があれば、排尿機能障害の治療やくであるα‐ブロッカーの服用を勧めます。
大きな前立腺肥大症が存在すれば、前立腺を小さくする抗男性ホルモン剤を勧めます。
前立腺の炎症が明らかであれば、抗生剤・抗菌剤を処方します。
これらの治療でPSA値が容易に減少するのならば、PSA値の高くなった原因は前立腺癌ではないと考えます。
【グレソン・スコア予想のアルゴリズム】
前述のいろいろな治療でPSA値が容易に下がれば、前立腺癌の恐怖はある程度解消されます。
しかし問題なのは、PSA値が容易に下がらない場合です。
【1】前立腺の形態的異常や変形が強ければ強いほど、前立腺組織構造は破壊されますからPSA値はなかなか下がりません。大きな前立腺肥大症もこの場合に含まれます。
【2】抗男性ホルモン剤(アボルブ・プロスタール)は、悪性度の低いグリソン1~3の前立腺癌を消滅させてくれますから、PSA値は下がる筈です。
【3】しかし、それでもPSA値がなかなか下がらないのは、悪性度のとても高いグリソン4~5である可能性があるのです。私も含め前立腺針生検で癌細胞の顔を観て確認したくなります。以前から私が力説しているように、針生検は前立腺癌の悪性度をさらに増すと考えていますから、ここで針生検を実施したら自己矛盾が生じます。
癌の顔を確認しないで前立腺癌の治療する勇気が必要になります。
【一般的なPSA高値の診察手順】
PSA値が高いために泌尿器科を受診すると、すすめられて前立腺針生検を実施します。針生検の結果、前立腺癌が発見されれば、治療のため次のステップに進みます。
しかし、針生検で前立腺癌が発見されなければ、経過観察になり、定期的なPSA検査が行われ、高ければ針生検になります。結局、原因が分からないまま、延々とこの恐怖の針生検サイクルの繰り返しになります。
この手順が正しいためには、PSA高値=前立腺癌という法則が正しい時に限りです。実際にはPSA高値=前立腺癌ではありませんから、この手順=アルゴリズムは机上の空論になるのです。
このブログをお読みの方の中には、この針生検サイクルから抜け出せないで苦しまれている方も多い筈です。まったく疑問を持たずにこの診察手順を続けている主治医の石頭にはあきれるばかりです。ある意味、狂信的なPSA信者です。怖いのは泌尿器科学会全体がこの考え方一色なのです。30%くらいの反対意見があってもよさそうですが・・・。
【前立腺癌の治療】
【1】現在、前立腺癌の標準治療は早期癌と思われれば前立腺全摘出手術です。次に放射線治療が選択されます。変わったところで高エネルギー超音波治療があります。積極的な手術治療などが出来ない場合は、LH-RHホルモン注射があります。
【2】どの治療も大げさで高額で前立腺針生検を前提としている治療です。それが常識ですが・・・。
【3】それでは、悪性度の高い前立腺癌が存在する可能性があるにもかかわらず、針生検しないで、ただただ手をこまねいて観察するしかないのか?・・・では、患者さんにとって不利益です。
【4】そこで、オーソドックスな治療ではありませんが、抗癌剤を低用量投与する方法を採用しています。針生検をしないで治療する分、前立腺癌悪化の誘発を回避できるので、治療のクオリティが高くなります。実際に、現在その治療されている患者さんもいます。
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コメント
現在51歳です。
初めに仕事は、デスクワークが多い方です。
平成25年に行きつけの病院で、PSA検査をし、4,587と(他EOS=12.7)結果が出まして他の病院へ診察、検査内容は超音波・尿検査・再度血液検査でCTやMRI前立腺触診はありませんでした。結果、前立腺肥大ではなく、前立腺炎か前立腺がんの疑いとなりました
また私は過去に肛門周囲膿瘍(完治済み)になったことも診察中話しましてそういうことも重なったのかもしれません。深く考えない方が良いですよと言われ様子を見ることにしました。
平成26年、PSA検査5.111にその時は専門病院受診せず。
平成27年血液検査AST=43,K=6,PSA=7,230となる2ヶ月後専門病院へ受診しました。
検査内容は、平成25年の内容にプラス前立腺触診でした。
専門病院のPSAは6,066と2カ月より下がったようで、さらにEOSは11.0でありました。
今回3年前対応された先生の診察ではありませんでしたが、診断の結果、前立腺肥大となりました。
え!どういう事?
尿が出にくいという症状は全くなく
3年前は、前立腺炎またはガンの疑いその後肥大では、ド素人判断で考えると前立腺炎かガンがひどくなって大きくなっているようにしか考えてなりません。
来週MRI検査で結果は2週間後だそうです。
6日前から足の付け根が重苦しい痛み、腰も気のせいか痛い、背中が痛い(運動不足かも)ちなみにALPは198だから問題ないと思いますが・・・
3、4年前から現在においては、頻繁ではありませんが忘れたころに睡眠中、仕事中、性交中肛門と玉の間(前立腺に向けて)針で刺されたような激痛があります。恐らくこれが前立腺炎なのかもしれませんが・・・
【回答】
前立腺炎症状は、排尿障害の症状です。
診断能力は医師によって差があるので、前回問題ないといっても、前立腺肥大症の場合があります。」
他の病院へ受診した方が良いのでしょうか
投稿: マサアキ | 2015/06/09 19:02