前立腺癌の罹患数と死亡数の年次推移
同じく、前立腺癌で亡くなられた患者さんは、2009年現在で1万人(10,036人)を突破しました。
上の罹患数の年度と比較すると、2005年では9千人を超えています。罹患数の伸びと呼応するように死亡数もウナギ登りです。
一般的に前立腺癌が増えたから前立腺癌がなくなられる方も増えるんだという発想です。しかし、よくよく考えてみると、前立腺癌が増えたのは1990年頃からです。なぜならば、前立腺癌腫瘍マーカーであるPSA検査がポピュラーな検査になり、一般内科医がドンドン実施するようになったからです。
PSA値が高い=前立腺癌の疑い=泌尿器科専門医への紹介=前立腺針生検の実施=前立腺癌の発見率30%以上という流れで、前立腺癌の罹患数が増えたことになります。つまり、PSA検査を行うようになったから前立腺癌が増えたということです。
1990年には前立腺癌罹患数8千人くらいだったのが、2005年で4万2997人、つまり5倍以上増えたかことになります。同じく前立腺癌死亡数は1990年には3千人だったのが、2005年で9千人、つまり3倍にも増えたのです。もしもPSA検査を行わなければ、前立腺癌を発見されることもなく、発見されなければ前立腺癌で亡くなられる方もこんなにも増えなかったんではないか?と考えるのは私の誤解でしょうか。
時系列的な考え方からみると、2009年の死亡数約1万人は、さかのぼること5年以上前の前立腺癌罹患数の患者さんの予後の結果です。つまり、2005年に前立腺癌に罹患した患者さんが、4年~5年後の2009年に1万人亡くなられたと考えることができます。前立腺癌の4人に1人(25%)が亡くなられた計算になります。
1990年の死亡数は約3500人です。これは1985年の罹患数約6000人の反映と見ることができます。したがって、1985年の前立腺癌の患者さんのうち、58%の3500人が亡くなられたことになります。死亡率からすれば58%であったのが25%に減少した訳ですから、1990年からポピュラーになったPSA検査が死亡率の減少に役立ったと考えられます。その結果、PSA検査・検診は前立腺癌の予防になるというのが大方の考えになります。つまりPSA前立腺癌検診の存在価値が叫ばれることになるのです。
しかし前立腺癌の死亡数の絶対値からみると、2009年の死亡数1万人は、1990年の死亡数3500人によりはるかに多くなります。1990年よりも2009年の方が、6500人も多くの患者さんが亡くなられた計算になります。母集団(罹患数)の数から見ると死亡率は下がっていますが、死亡数の数そのものはかなり増えているのです。母集団(罹患数)の増えたのはPSA検診の結果ですから、PSA検診が結果的に前立腺癌死亡数を増やしたことになるのです。
日本人男性は2010年統計で6133万5千人です。そのうち40歳上の男性が3337万9千人にもなります。以前にも解説した40歳上の日本人男性の前立腺潜伏癌(ラテント癌)の存在率は21.9%(和田先生の研究報告)ですから、3337万9千人×20%=667万5800人存在する筈です。しかし、実際には4万2997人(2005年)しか前立腺癌の患者さんは発見されてはいない訳ですから、大雑把な計算で4万2997人÷667万5800人=0.64%の方しか前立腺癌が見つかっていないことになります。実に前立腺癌の155分の1しか見つかっていないのです。
これを155分の1の確率で見つかったことをラッキーと考えるか、155分の154の確率で発見されなかったことを不幸と考えるか判断の分かれるところです。155分の1で見つかった初めの根拠はPSA検診ですから、PSA検診で針生検になり、そして前立腺癌が発見され、その内、25%近くの人が前立腺癌が原因で亡くなるのです。155分の154の大多数の人たちは、前立腺癌が発見されませんから、当然前立腺癌と診断されませんし、前立腺癌死亡数にも入らないことになります。
この考えを押し進めれば、前立腺癌を見つけること自体が「悪魔の所業」になるのかも知れません。なぜなら統計上、前立腺癌死を明らかに増やしているからです。前立腺癌PSA検診で前立腺癌罹患数は増えたとしても、早期発見・早期治療ですから、前立腺癌死亡数は過去と同じか、あるいは微増程度であれば納得がいきます。しかし、倍増・3倍増では、PSA検診そのものの価値が疑問です。患者さんの利益よりも、検診ゲーム・針生検ゲーム・治療ゲーム・統計ゲームを楽しんでいるとしか思えません。
直径3cm前後の球体に近い立体的な前立腺を直線的な手技で針生検する訳です。前立腺癌は前立腺の周囲近くの外腺に多く存在しますから、直線的な針生検では、前立腺の接線方向に前立腺癌は存在することになり、当たることが少なくなります。その結果針生検で前立腺癌を補足する可能性は低下し、100分の1~155分の1になるのかも知れません。
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コメント
先生の言われる通りですね。私も肝臓癌へ以前治療していて、以前はエタノール注入っていのがあって、肝臓癌でさえ隔壁があってそこに入れていたのですが、それでも一時的には治癒ですが、もしかしたらその時の細胞が残っていて、また出たのかと思う症例がありました。今ではCTではっきりわかるものは検査より治療です。先生の前立腺癌の話をみると、まずは総合的に判断して「寝た子をおこす」ことだけはしないようにする眼が必要と思います。データが満ちてきたら、診断目的施行の弊害に目を向けるのが流れだと思います。父が針生検を数回されていただけに、今後はお断りしていこうかと思います。
【回答】
ご意見ありがとうございます。
投稿: とほほ | 2012/05/08 15:04
前立腺がんを見つけなければ死亡数は増えないのに見つけたせいで死亡数が増えるという言葉の意図がはっきり読み取れませんでした。
【回答】
前立腺癌のすべてが寿命に影響するわけではありません。
別の病気で亡くなられた80歳代の解剖で、50%以上の人に前立腺癌が発見されます。
その人が生きていた40歳・50歳・60歳・70歳の年齢の時にも、前立腺癌は存在した可能性があるわけです。
つまり、眠っている前立腺癌を前立腺針生検でお越し、刺激している」可能性があるわけです。
しかるに前立腺癌の現在の治療法は不完全なものです。
その結果、眠っていた前立腺癌を暴れるような前立腺癌に変身させ、中途半端な治療するものですから、死亡数が増えてくるのです。」
①今までは心不全とかいってよくわからなかったのが、PSA検査のおかげでわかるようになったとお考えなのか、
【回答】
本来、PSA検査は前立腺癌の転移推移を観察するための検査法です。
早期発見のための検査法ではないのです。」
②がん治療をする抗がん剤の副作用などが人を余計に殺しているとお考えなのか、どちらでしょうか?
【回答】
抗がん剤そのものが、不完全なものですから、眠っている前立腺癌を起こすだけの価値があるとは思えません。
投稿: 寝たきり坊主 | 2016/11/25 21:32