« PSA値:65.2がPSA値:1.84へ | トップページ | イギリス医師会雑誌BMJから 前立腺癌検診の有無で前立腺癌死に有意差なし! »

PSAマジック

Psamechaテレビ番組でマジックの種明かしを披露している見ていました。客の思い込みを利用して、マジシャンはマジックを楽しませているという内容でした。
ある思いが頭をよぎります。PSA検査と前立腺癌の関係に感じる感覚と同じに思えてなりません。
以前にもPSAが高くなる理由を解説しましたが、新たな考えが湧きました。
教科書的には、上のイラストのように、前立腺癌の腺腔構造において基底細胞・基底膜が脆弱な(不完全でもろい)ため、腺腔内に貯留しているPSAが周囲の毛細血管に漏出し、血液中にPSAが高濃度に流れるとされています。初期の前立腺癌のこの時点でPSA漏出をPSA検査でいち早く見つければ、PSA検診の本領発揮になる訳です。この理論は明瞭で一見正しいように思えます。

しかし、前立腺癌細胞が既存の存在である基底細胞や基底膜を打ち破って、腺腔構造の外に出ようとするのは構造的に無理があります。
強固な基底細胞や基底膜を破って外へ外へと増殖するよりも、腺腔という疎な空間が存在している訳ですから、内へ内へと増殖する筈です。(イラストでも内側に増殖しているように描かれています。しかし、基底膜が外側に凹んでいる描き方には、構造的には間違った描き方です。)ですから、前立腺癌は進行すると腺腔構造が次第に小さくなり、最終的には腺腔構造が消滅して細胞がギュッと詰まった実質構造に変化するのです。Gleasonスコアの8~10がそのような組織型になります。
つまり、初期の前立腺癌は基底細胞や基底膜を侵害することはないのです。しかし、腺腔構造の消滅した悪性度の高い前立腺癌組織では基底細胞や基底膜が不明瞭であることを根拠に、初期の前立腺癌も同様という思い込みがPSA神話のマジックなのです。

Psamecha2上のイラストを画像ソフトを使って改変しました。
前立腺癌細胞を赤く染めています。本来なら強固な基底細胞や基底膜を犯すことなく、空間として存在している腺腔側に癌細胞は増加します。ですから、PSAは腺腔へと流れる筈です。また、前立腺癌細胞は、正常の前立腺細胞に比較してPSAを産生する能力は劣るので、なおさら前立腺癌細胞の場所からはPSAは漏れません。

「前立腺癌の早期発見」にPSAを利用しようと考えた著名な頭脳明晰な医師たちは、組織学や病理学の知識が表面的で静的・刹那的なシーンしか想像できなかったのでしょう。組織学や病理学の変化は、生理学的・物理学的・構造学的支配下にあり、時間の経過とともにダイナミックに変化をしているのです。このような見識のない、ただただ生化学的分野に長けていた人たちの集まりが考案した、机上の空論が巷の「PSA神話」あるいは「PSAマジック}を作ったのです。

|

« PSA値:65.2がPSA値:1.84へ | トップページ | イギリス医師会雑誌BMJから 前立腺癌検診の有無で前立腺癌死に有意差なし! »

コメント

いつもブログ診療楽しみにみております
PSAマジックの種明かし、解説と図を見ると素人ながらわかります、他のドクターはマジックのネタを見破られないのでしょうか?それとも見破ろうと考えないのでしょうか?先生の着眼点に驚嘆です!
【回答】
詳しく考えないのです。
人が考えたエビデンスをそのまま鵜呑みにしているからです。


ところで、高密度焦点式超音波療法が前立腺手術にありますが、先生の見解は如何でしょうか?
【回答】
前立腺癌の治療としては、侵襲が少ないのでOKでしょう。
しかし、事前に針生検を行っているのであれば、侵襲が少なくても無意味です。

投稿: 納豆 | 2011/07/26 17:03

2013.7.19 10時頃お電話しました、北海道登別市在住66歳です。透析暦15年。透析半年で尿停止(1日に米粒大数滴は出る)。2008年頃左睾丸痛で通院。前立腺炎疑いで1ヶ月薬服用(抗生剤だと思う)。症状変化なく、通院治療中止。2010.6.21健康診断PSA測定3.88泌尿器科受診、経過観察指示。2011年健康診断PSA測定4.07泌尿器科受診、針生検要診断、2011.9.15針生検、陰性。このときの前立腺27cc,経過観察指示。2012.9.3PSA4.61.2013.3.11PSA5.50、2013.6.17PS6.54。2013.7.2泌尿器科受診、触診異常ないが、PSA値上昇から2回目の針生検必要との診断。この日のPSA8.41(採血は触診後)。エコー検査及びMRI検査を要望、受け入れてもらった。2013.7.16お尻からのエコー検査、前立腺34cc,その他コメントなし。MRIは2013.8.1に予約。前立腺肥大の治療はできない。理由は、症状がないからとのコメントあり。2回目の針生検で陰性の場合の治療方針を確認するも、答えは「ない」。すごく不安です。その他として2013.5頃からあまり気にならなかった左睾丸痛が姿勢に関係なく高頻度発生。大豆イソフラボンを7.20から服用予定。先生の診察を希望しています。アドバイスお願いします。
【回答】
排尿に関係なく前立腺が大きければ、PSA値は高くなります。
触診で前立腺癌が触れなければ、顕在癌ではないので心配無用です。

投稿: tekka | 2013/07/20 10:56

高橋先生。コメント確認しました。先生の診察を受けたいのですが、北海道在住という地理的ハンデがあり、出来ましたら、室蘭・苫小牧・札幌圏で先生ご推薦の泌尿器科医(病院)を紹介いただければうれしいです。
【回答】
いません。』

また、今かかっている医師に、どよのうなことをお願いすべきかご教授ください。
【回答】
私の考え方は学会の通念からすると非常識なので、お願いすることはできません。』

針生検なしで、治療をしてもらうことが出来ないようです。本当に困っています。お願いします。
【回答】
今の泌尿器科学会の常識ですから、日本中どこへ行っても、貴方の受けた診療内容と同じです。

投稿: tekka | 2013/07/20 16:36

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: PSAマジック:

« PSA値:65.2がPSA値:1.84へ | トップページ | イギリス医師会雑誌BMJから 前立腺癌検診の有無で前立腺癌死に有意差なし! »