イギリス医師会雑誌BMJから 前立腺癌検診の有無で前立腺癌死に有意差なし!
医療サイトからの記事で、権威あるイギリス医師会雑誌に下記の報告が掲載されました。
下に、取りあえずの訳を付けました。
まず初めに、翻訳をすべて読んで下さい。
その後に【備考】をお読み下さい。
BMJ 2011; 342:d1539 doi: 10.1136/bmj.d1539 (Published 31 March 2011)
Cite this as: BMJ 2011; 342:d1539
Research
Randomised prostate cancer screening trial: 20 year follow-up
Gabriel Sandblom, associate professor1,
Eberhard Varenhorst, professor2,
Johan Rosell, statistician3,
Owe Löfman, professor4,
Per Carlsson, professor5
+ Author Affiliations
1CLINTEC, Karolinska Institute, 141 86 Stockholm, Sweden
2Department of Urology, Linköping University Hospital, Linköping
3Oncology Centre, Linköping University Hospital, Linköping
4Department of Mathematical Science and Technology, Norwegian University of Life Sciences, 1432 Aas, Norway
5Center for Health Technology Assessment, Linköping University, Linköping
Correspondence to: G Sandblom gabriel.sandblom@ki.se
Accepted 24 December 2010
Abstract
Objective To assess whether screening for prostate cancer reduces prostate cancer specific mortality.
Design Population based randomised controlled trial.
Setting Department of Urology, Norrköping, and the South-East Region Prostate Cancer Register.
Participants All men aged 50-69 in the city of Norrköping, Sweden, identified in 1987 in the National Population Register (n=9026).
Intervention From the study population, 1494 men were randomly allocated to be screened by including every sixth man from a list of dates of birth. These men were invited to be screened every third year from 1987 to 1996. On the first two occasions screening was done by digital rectal examination only. From 1993, this was combined with prostate specific antigen testing, with 4 µg/L as cut off. On the fourth occasion (1996), only men aged 69 or under at the time of the investigation were invited.
Main outcome measures Data on tumour stage, grade, and treatment from the South East Region Prostate Cancer Register. Prostate cancer specific mortality up to 31 December 2008.
Results In the four screenings from 1987 to 1996 attendance was 1161/1492 (78%), 957/1363 (70%), 895/1210 (74%), and 446/606 (74%), respectively. There were 85 cases (5.7%) of prostate cancer diagnosed in the screened group and 292 (3.9%) in the control group. The risk ratio for death from prostate cancer in the screening group was 1.16 (95% confidence interval 0.78 to 1.73). In a Cox proportional hazard analysis comparing prostate cancer specific survival in the control group with that in the screened group, the hazard ratio for death from prostate cancer was 1.23 (0.94 to 1.62; P=0.13). After adjustment for age at start of the study, the hazard ratio was 1.58 (1.06 to 2.36; P=0.024).
Conclusions After 20 years of follow-up the rate of death from prostate cancer did not differ significantly between men in the screening group and those in the control group.
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BMJ2011。 342:、d1539 doi: 10.1136/bmj.d1539(発行2011年3月31日)
BMJ2011。 342: d1539を引用
研究
無作為試験の前立腺癌検診治験: 20年間の追跡調査 OPEN ACCESS
ガブリエルSandblom、準教授1、エーベルハルトVarenhorst、教授2、ジョハンRosell、統計編集3、Owe L--fman、教授4、Perカールソン、教授5
+ 著者略歴
1CLINTEC、カロリンスカ研究所、141 86ストックホルム、スウェーデン
2泌尿器科、Linköping大学病院、Linköping
3癌センター、Linköping大学病院、Linköping
4科学技術の統計学、生命科学、ノルウェー大学1432Aas、ノルウェー
5健康技術評価センター、Linköping 大学、Linköping
2010年12月24日受付。
要約
前立腺癌検診が前立腺癌死亡率を減少させるかどうかを客観的に評価。
対象母集団は無作為化比較試験を元にした。
泌尿器科、Norrköping、および南東地区前立腺癌登録を設定。
治験参加者は全て50-69歳の範囲のNorrköping、スエーデン在住の男性で、1987年にNational Population Register(n=9026)で選定された。
調査対象集団から調整し、すべての誕生日リストから必ず6番目の人を無作為に選抜し1494人の男性を割り振った。 これら男性は1987年から1996年までに3年毎に検診招へいされた。 最初の2回は直腸指診だけで検診した。 1993年からはPSA検査(カットオフ値4μg/L)を同時に行った。 4回目の時(1996)には調査時点の69歳以下の男性だけが選ばれた。
【備考】
外国の文献を読むと、日本人には理解しがたい統計処理をします。
例えば、この例では、何故に6番目の人を候補に挙げるのでしょうか?候補を採取した行政地域が4か所あり、1ヵ所につき365人とすれば、365人×4=1460人と考えられます。あるいは、行政地域が5か所あり、同じ誕生日の6番目の人を候補とすれば、同日に5人しか生まれていなければ、その日は6番目の人がいません。そのような計算でおおよそ80%の人に絞られるので、365人×80%×5か所=1460人(≒1494人)になっているのかも知れません。』
主な結果は、癌のステージ(病期)、グレード(悪性度)、治療について南東地区前立腺癌登録からデータを抽出し、 2008年12月31日までの前立腺癌死亡率である。
1987年から1996年の4回の検診率は、それぞれ1161/1492(78%)、957/1363(70%)、895/1210(74%)、446/606(74%)でした。検診群で85人(5.7%)、対照群で292人(3.9%)が前立腺癌と診断された。
【備考】
ここでも全体像が分かりにくくされています。
検診群が1492人(初めは1494人でしたが)で85人が5.7%になりますから、対照群は、292人÷3.9%=7487人になります。
対照群は、全ての誕生日の5番目まで人間を含みますから、1492人×5倍=7460人(≒7487人)になります。計算した数字と実数が異なるのは、6番目がいなかった誕生日も含んだからでしょう。』
検診群の前立腺癌死のリスク比は1.16(95%信頼度0.78~1.73)であった。検診群と対照群の前立腺癌の生存
を比較するCox危険分析では、前立腺癌死の危険比は1.23(0.94~1.62; P=0.13)であった。 研究始めの期間調整後には、危険比は1.58(1.06~2.36; P=0.024)であった。
【備考】
私は統計学者ではないので、とても分かりにくい部分です。
検診群を1.0と考えた対照群のリスク比(危険率)でしょう。この研究調査は、定期的に実施する前立腺癌検診群の方が非検診群と比較して優位と考えて始めた調査でしょうから、検診群を1.0と考えます。すると、非検診群つまり対照群は、1.23と高くなります。つまり23%ほど前立腺癌の死亡する率が高くなるようです。しかし、(・・・)の中を見ると0.94~1.62という範囲です。対照群の方が癌死亡率が低かったデータもあった可能性もあります。』
前立腺癌の死亡率を20年間追跡調査した検診群男性と対照群男性との間では有意差がないという結論が出された。
【備考】
無作為抽出で選ばれた1494人の前立腺癌検診群と、検診を実施しない対照群7487人を前立腺癌死亡率において20年間追跡調査を行った結果、顕著な差はなかったという結論です。
しかし、この調査は検診群の優位性を確認するつもりで実施した調査の筈ですから、検診群に有利なバイアスはかかっていた筈です。にもかかわらず、有意差を認めることができなかったのですから、いかにPSA検診が無意味だということが容易に理解できます。
でも、この調査結果は日本では無視されるでしょう。それが今の医学です。』
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コメント
先生のブログ診療いつも頼もしく読んでおります
針生検はしない過程で前立腺癌で摘出手術やHIFE・放射線治療を必要とする基準は何でしょうか?先生のブログではほとんど薬治療で(αブロッカー・抗男性ホルモン)
治られてるようですが よろしくお願いします。
【回答】
組織を採取して病理学的診断を行い、治療するというのは、ここ100年~200年以上の医学の常識です。
しかし、常識はいつの日か非常識になったり、例外になったりするものです。
おそらく、前立腺の早期診断で針生検というのは、非常識になる運命の常識でしょう。
困るのは、病理を確認しないまま積極的な治療を行う根拠です。
針生検で直接的な診断法なしで、前立腺癌と診断する訳ですから、治療する側も、それなりの覚悟が必要です。
現時点では、直腸診での硬結確認、排尿障害の否定、PSA値の相当の値(10以上)で、状況証拠が「黒」と判断します。
この根拠(状況証拠)だけで、針生検なしに積極的な治療を実施してくれる医療機関があれば紹介しますが、今はありません。
ですから、今の私の治療程度しか進めない訳です。
投稿: 太陽の塔 | 2011/08/01 11:13
先生回答有難うございます、先生の提唱される非常識が早く泌尿器科全体の常識になると患者には利益だと思います、もしPSA10で硬結確認無し・排尿障害少しありの場合はどうでしょうか?
【回答】
同じです。
α-ブロッカーと抗男性ホルモン剤です。
投稿: 太陽の塔 | 2011/08/01 13:45