4回目の前立腺針生検への躊躇

50代の男性がPSAが高く、相談に来院されました。
PSA値のデータの推移は下記のようです。
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平成18年 9月　 7.2 ng/mL
平成19年 1月　10.6 ng/mL
平成19年11月 11.3 ng/mL
平成21年 8月　5.8 ng/mL
平成21年11月　11.5 ng/mL
平成22年 5月 14.1 ng/mL
平成22年10月　16.0 ng/mL
平成23年 4月　19.2 ng/mL
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さて、この間に前立腺針生検を主治医のすすめで3回も受けましたが、前立腺癌は発見されません。回数を追うごとに、採取する組織の数は増えるのですが、前立腺癌は発見されません。

そして、徐々にPSA値が高くなります。前立腺癌が発見されないのにもかかわらず、PSA値が高くなる理由を説明してくれません。主治医は馬鹿の一つ覚えのように、また高くなったからと、4回目の針生検をしつこく勧めるのだそうです。これでは、患者さんは心配しますし悩みます。そこで、このブログを読まれて遠方から患者さんは来院されました。

主治医の泌尿器科医師が、PSA値の高くなる理由を十分に理解してないところに、今回の患者さんの不幸があるのです。ここで、PSA値が高くなる理由を解説しましょう。
教科書的には、右のイラストのように、前立腺癌の腺腔構造において基底細胞・基底膜が脆弱な（不完全でもろい）ため、腺腔内に貯留しているPSAが周囲の毛細血管に漏出し、血液中にPSAが高濃度に流れるとされています。
この理論は一見明瞭で正しいように思えます。

この考え方からすれば、PSA値の高くなるには前立腺組織内の腺腔構造が「破壊」されれば良いことになります。つまり、前立腺癌に限らず、前立腺炎でも排尿障害でも前立腺肥大症でもPSA値は高くなるのです。
この患者さんの場合、針生検によって前立腺組織は無数に「破壊」され傷が組織内に残ります。PSA値は上がりやすくなります。当然、針生検を繰り返すごとに徐々にPSA値は高くなるに決まっています。この患者さんの主治医は、ご自分で針生検を実施しPSA値が高くしておきながら、PSA値が高いからまた針生検を繰り返そうとしています。何と愚かなことでしょう。

超音波エコー検査では、前立腺の大きさは28ccと正常の大きさよりも大きくなっています。前立腺結石を認めますから、この時点で排尿機能障害を画像で疑えます。

尿流量測定検査（ウロフロメトリー）では、前立腺肥大症の排尿曲線を示しています。残尿は16mLです。

検査結果からは、前立腺肥大症と排尿機能障害を認めます。どちらもPSA値が高くなる原因です。主治医はこの検査もしないで、ただ単に血液検査（PSA値）のみで、針生検を固執したところに問題があります。PSA＝前立腺癌：自動的に針生検という単純なパターンは、素人でも考えられそうなことです。少なくても2回目の針生検で異常が出てこなかった時点で、医学的に熟慮する必要があったと考えます。

この患者さんには排尿機能障害を改善させるα‐ブロッカー（エブランチル・ハルナール・ユリーフ・フリバスなど）と前立腺肥大症を縮小させるアボルブを処方し経過を診ることにしました。もちろん、無謀な針生検は中止です。