« 前立腺癌の確率論的推理 | トップページ | 前立腺針生検 »

PSA検査の意義

今まで、このブログの中で前立腺癌とPSA値の関係を述べてきました。
PSA値が高いために実施された無謀な前立腺針生検の実態を解説してきたつもりです。
では、PSA検査に全く意義がないのでしょうか?私は次のように考えています。

PSA値は、その発生由来から、前立腺の組織構造の乱れを反映しています。ですから、組織構造が乱れている、あるいは破壊されている場合に限り、PSA値は高くなるのです。
前立腺組織構造の乱れの原因には次の3つがあります。
1.前立腺癌
2.前立腺の炎症
3.前立腺肥大症や膀胱頚部硬化症などの排尿障害

ですから、PSA値が高い=前立腺癌ではありません。ところが泌尿器科専門医をはじめ一般の医師は「PSA値が高い=前立腺癌」と思い込んでいるのです。その結果、他の原因を調べもしないで安易に前立腺針生検に固執するのです。
こういうことを述べると、「前立腺癌の可能性があるから患者さんには利益ではないか!」という声が聞こえてきそうです。前立腺癌が早期発見されるなら素晴らしいことです。また、早期発見された前立腺癌が適確に治療されて、前立腺癌が完治できるのなら素晴らしいことです。しかし、次の事実から根拠を疑わざるをえません。

Lectureevidencepca年間4万人~5万人近くの前立腺癌患者さんが新たに発見されています。年々増加の一途です。
当然、早期発見ですから、前立腺癌で亡くなる方は減らないまでも平衡状態にならなければなりません。

Lectureevidencepca3death残念なことに、年間8千人~1万人近くの前立腺癌患者さんが亡くなっています。やはり毎年増加の一途です。
つまり、毎年、前立腺癌と診断された患者さんの20%の方が確実に亡くなっているのです。

Lectureevidencepca4stageまた、PSA検診を盛んに実施し前立腺針生検を行えば行うほど前立腺癌の早期発見は少なくなっているのです。不思議な現象です。早期発見を目的に実施している前立腺癌PSA検診が、本来の目的を果たせないでいるのです。

Lectureevidencepca27stage実際には検診のステージA(早期前立腺癌)の比率は減少傾向です。
その反面、特にステージBの前立腺癌の比率が高まっています。
また、進行前立腺癌(転移・浸潤)の比率は減少傾向にあります。おそらくステージBの前立腺癌から進行前立腺癌への移行が、PSA検査により妨げられているのです。
つまり、PSA検査では早期の前立腺癌はますます発見できないことになります。ただし、ステージBの前立腺癌を早期と考えれば、目的を達しています。

では、PSA検査が無意味かというと、必ずしもそういう訳ではありません。
1.早期の前立腺癌を見つけることは出来ないかも知れませんが、多少進行した前立腺癌か悪性度の高い前立腺癌は発見できます。発見された時点で前立腺癌の治療を積極的に行えば、5年近くの延命効果はあります。ところが前立腺針生検を実施すれば、それほど悪性でもない前立腺癌が暴れ出し、死ななくてもよい方が5年以内に亡くなる可能性があるのです。治療は針生検なしの見切り発車が理想的です。医学常識から考えれば暴挙でしょうが・・・。

2.膀胱頚部硬化症などの排尿障害も発見できます。膀胱頚部硬化症は前立腺肥大症を促進させる病態です(個人的見解)から、早期に治療すれば、前立腺肥大症を避けることも可能です。

3.もちろん、前立腺肥大症も発見でできます。前立腺肥大症は前立腺癌の温床と思われます(個人的見解)から、早期に前立腺肥大症を治療すれば、前立腺癌を回避できる可能性があるかも知れません。

|

« 前立腺癌の確率論的推理 | トップページ | 前立腺針生検 »

コメント

医学には素人ですが、高橋先生のお考えには共感しています。
ところでPSA検診による、がんの増加のご説明で、次の記述があります。
「進行前立腺癌(転移・浸潤)の比率は減少傾向にあります。おそらくステージBの前立腺癌から進行前立腺癌への移行が、PSA検査により妨げられているのです。」
これは、PSA検診の効罪と言う視点で見た場合、どのように考えれば良いのでしょうか?
【回答】
ブログの記事を良く読まれていますね。
前立腺癌で死ぬ運命の患者さんにとってはPSA検診は有益です。
浸潤や転移する前に発見できるからです。
一方、発見されなくても良い大勢のラテント癌の患者さんたちは、PSA検診で偶然に発見され、「前立腺癌」と診断され、一生「前立腺癌」を背負うことになります。
言い換えれば、進行性前立腺癌の患者さんを救うために、多くのラテント癌の患者さんたちが犠牲になる訳です。
前立腺癌の現在の治療が完璧で、発見した前立腺癌を生涯に渡って100%治療できるのなら、全く問題のない事象です。
しかし、そうではないので問題になるのです。
統計とは、ある特定の意図を科学的な手法によって証明しているに過ぎません。
その意図に悪意や思惑が隠れていると、私たちの思考はミスリードされるのです。
データを客観的に読むことは難しいのが現実です。

投稿: | 2014/09/13 13:28

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: PSA検査の意義:

« 前立腺癌の確率論的推理 | トップページ | 前立腺針生検 »