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ヨーロッパ前立腺癌PSA検診の大規模調査 ERSPC

ErspcERSPC(Screening and prostate-cancer mortality in randomized European study)という大掛かりな臨床統計研究がヨーロッパ7カ国で行われました。
研究は2006年12月に終了して、2009年のニュー・イングランド・ジャーナル・メディシンというとても権威ある雑誌の5月号に掲載されました。
この文献はとても有名で、全世界の前立腺癌PSA検診の重要な根拠の一つです。同時期にアメリカでも同じような臨床統計研究が報告されましたが、こちらはPSA検診の優位性が認められませんでした。
このERSPC報告の内容を根拠に、日本の学会でもPSA検診の有用性が声高に訴えられています。

内容をかいつまんで言えば、次のようです。

182000人の男性(50歳~74歳)が候補に挙がり、研究の条件にあった男性が162243人(55歳~69歳)でした。そして、そのうちこの研究の趣旨に賛同していただけた男性が82%(単純計算で133039人)でした。
研究を行っている期間中に前立腺癌が発見された方が、PSA検査を利用した検診グループでは8.2%、非検診グループでは4.8%でした。
それぞれのグループの死亡率の比較では、検診グループは非検診グループに比較して0.80(80%)と優位に死亡率が少なかったことが判明しました。
検診グループと非検診グループの死亡率の差は、実数として1000人当たり0.71人でした。1410人の男性のPSA検査スクリーニングで、48人の前立腺癌が発見され、1人が前立腺癌で死亡するという結果です。

この研究に参加した最初の133039人のうち、検診グループのガン死亡率と非検診グループのガン死亡率の比は0.73でした。

【この文献の問題点】
この文献は、読んですぐに分かる通り、何でもかんでも比率と比率の比率で比較しています。具体的な実数が掲載されていません。こういう場合、実数では希望する逆の数字が出現したので、統計的手段で、研究主旨の意向を反映させようとします。(一般的にです・・・)
したがって、この率や比から実数を割り出してみましょう。
検診グループの前立腺癌死亡率をX%、非検診グループの前立腺癌死亡率をY%とします。
133039人の50%50%が検診グループ・非検診グループ同数と考えて、半分の人数66519人がそれぞれの母集団になります。(母集団をほぼ同数にするのが、このような大規模臨床研究の常識です。)
「検診グループは非検診グループに比較して0.80(80%)と優位に死亡率が少なかったことが判明しました。」という根拠から、
X=0.8Y・・・①

「検診グループと非検診グループの死亡率の差は、実数として1000人当たり0.71人でした。」という根拠と、
各集団の死亡実数を計算して、多いグループの5454人に補正換算すると、(検診グループの前立腺癌実数は、66519人×8.2%=5454人で、非検診グループの前立腺癌実数は、66519人×4.8%=3192人ですから、)
3192人×Y×5454人÷3192人-5454人×X=66519人÷1000人×0.71人・・・②

この①と②の連立方程式を解きます。
すると、X=0.0346、Y=0.0433になります。
つまり、検診グループの前立腺癌死亡率は、3.46%
非検診グループの前立腺癌死亡率は、4.33%になります。
この時点で、明らかに前立腺癌死亡率はPSA検診グループの方が低いことになります。

ところが、この数字を利用して、各グループの前立腺癌死亡実数を割り出してみると、違う印象を持つことになります。
検診グループの前立腺癌実数は、66519人×8.2%=5454人です。検診グループの観測中の前立腺癌死亡実数は、5454人×3.46%=189人
非検診グループの前立腺癌実数は、66519人×4.8%=3192人です。非検診グループの観測中の前立腺癌死亡実数は、3192人×4.33%=138人になります。

どうです?おもしろい結果になったでしょう。
つまり、検診グループは、この臨床研究の目的通り、前立腺癌発見患者実数は多くなりましたが、前立腺癌死亡実数までも多くなったのです。たとえ死亡率が低くても、死亡実数が高いのでは本末転倒です。私たち人間は統計数学のバーチャルな世界に生きているのではなく、現実の世界で息をしているのです。検診グループに参加した男性の51人(189人-138人)は死ななくても済んだのかもしれないのです。
検診グループは非検診グループよりも、前立腺癌で死亡するリスク(危険率)が37%(189人÷138人)も高いことになります。

ゴルフじゃあるまいし、グロススコアを全く見ないで、ネットスコアだけで勝敗を決めているように思えてなりません。・・・ヨーロッパの研究だから仕方がないか・・・。

【後記】
何分にも私の英語の読解力が誇れるものではないので、もしかすると文献の内容を間違って解釈しているかも知れません。
そのような場合には、忌憚なくご指摘下さい。

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