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PSA値が高い場合の診断と治療の流れ

Ratentpcaage今まで、過去のデータから様々な解釈をしてきましたが、実際にPSA検査値が高い患者さんが紹介されてきた場合、どのような手順を踏めばよいのでしょう。

【観点1】
60歳男性でPSA検査値が7.8ng/mLと高い値で前立腺癌を疑われた患者さんが紹介されたとします。
直腸触診で硬結を触れません。するとステージT1=ステージAの早期前立腺癌の可能性がある訳です。
60歳ですから、上の表で示されたように21.7%(0.217)の確率でラテント癌が存在することになります。

Ratentpcavolume【観点2】
前立腺の大きさを超音波エコー検査で調べたら、40cc≒40グラムありました。
右の表から、22.2%(0.222)の確率でラテント癌の存在が疑われます。

年齢と大きさには相関関係はないとして、それぞれの確率を加算すると、
21.7%+22.2%=43.9%(0.439)の確率で、この男性にはラテント癌の可能性があることになります。

Ratentpcadiffer【観点3】
ラテント癌のうち72.6%(45÷62)がグレソン・スコアGS・4以下の可能性が高いですから、0.439×0.726=0.319、つまり、この男性は31.9%の確率でグレソン・スコアが低いラテント癌=臨床的に意義のない前立腺癌である可能性が高いことになります。

Gspsadensity【観点4】
さらに、PSA-density観点から、PSA-density=PSA値7.8ng/mL÷前立腺容量40cc=0.195ng/mL/cm3<0.23ng/mL/cm3(カットオフ値)であることより、定量的にもグレソン・スコアが低いことが示唆されます。

【治療】
この4つの観点から、限りなくグレソン・スコアが低いラテント癌が存在するか、あるいは前立腺癌そのものが存在しないことが示唆されます。疑り深い泌尿器科医にとってはそれでも絶対的に安心できる訳ではありません。
そこで、前立腺癌の存在するために必要な「場」である前立腺肥大症(40ccですから肥大症は確定)を小さくするあるいは委縮させれば良いことになります。前立腺肥大症の根本治療であるマイルドな抗男性ホルモン製剤、プロスタールやアボルブを投与することにより、できれば前立腺の大きさを若者と同じ大きさ≒15cc前後まで委縮させることができれば、ラテント癌は消滅するでしょう。

Monographpca3【蛇足】
この手順でも、グレソン・スコアの高い(GS・7・8・9・10)が潜んでいる可能性はゼロではありませんが、可能性としては0.1%以下でしょう。なぜなら、グレソン・スコアが高い前立腺癌が、直腸触診で硬結の触れないステージT1(A)である可能性が極めて少ないからです。針生検を実施しなくても予想可能な、この極めて少ない前立腺癌の可能性のために、針生検・前立腺手術をワンパターンで実施する愚行は、針生検・前立腺手術の被害者をただひたすらに増やすだけです。

Psahighalgorithm【アルゴリズム】
手順の流れを右のように作成しました。
大方の診断ができても、治療をどのように進めたらよいかに関しては、未だに言及できません。グレソン・スコアGSが高い場合に、待機治療を選択すべきだという根拠がまだ不十分だからです。しかし、針生検を実施することにより、正確な病理診断=グレソン・スコアは得られますが、それと引き換えに、針生検そのもので癌が悪化したり拡散することを危惧しています。これでは本末転倒です。医師の知識欲のために癌の進行度を上げてしまう可能性、何と恐ろしいことでしょう。これについても、後ほど解説しましょう。

Ratentpcacover【参考文献】
最近の日本の前立腺潜伏癌(ラテント癌)の臨床病理学的検討
和田鉄郎 著
1987年日本泌尿器科学会誌

Monographpca10_4【参考文献】
「早期前立腺癌モノグラフ」
ニューヨーク市スローン・ケタリング記念癌センター
前立腺癌センター副所長 大堀理 著
泌尿器科主任教授 ピーターT.スカルディーノ 著

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コメント

いつも貴重な記事を有難う御座います。さて、肥大症の治療に、プロスタールかアボルブと言うふたつの薬剤の名前が挙がっていますが、以前の先生の記事によれば、それぞれ作用機能が異なっているようです。その場合、同時に服用することで効果を促進することは可能なのでしょうか。興味本意の質問のようで恐縮ですが、参考までにご教示を頂ければ幸いです。

【回答】
プロスタールは、テストステロン(男性ホルモン)を抑えるお薬です。
アボルブは、テストステロンの代謝産物であるDHT(ジヒドロテストステロン)だけを抑えるお薬です。前立腺細胞の増殖には、このDHTのみが関与するので、プロスタールよりも前立腺に対して特異的に作用します。テストステロン全体を抑制しないので、その分、男性ホルモン抑制による副作用が少ないようです。
服用するとしても、どちらか一方です。併用は意味がないでしょう。

投稿: | 2010/03/10 18:17

高橋先生へ
私は大阪府在住の62歳の者です。30歳代より前立腺が少し大きいと言われておりました。
3年前より人間ドッグで行った病院で診察してもらっています。その間PSA値が右肩上がりで先日8.7になりました。それと少し残尿感があったので今回ザルティア5㎎、フリバスOD錠25㎎を処方してもらいました。いつもPSA値を計った時に針生検を勧められていますが頑なに断ってきました。それ以外にもかかりつけ医でニフェジビンCR40㎎(血圧降下剤)を服用しています。1度先生に診てもらいたく思っています。今月の11日(月)にお伺いしたいのですが先生のご都合はどうですか?
【回答】
OKです。」

そして今、服用してる薬は持参したほうが良いでしょうか?
【回答】
結構です。」

投稿: T.I | 2016/07/01 15:37

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