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早期前立腺癌に対する針生検の功罪

Monographpca6前立腺手術で採取された前立腺を詳細に病理検査し、正確なグレソン・スコア評価とその後の再発をPSA値で検討したグラフです。

グレソン・スコア5以下は、手術後の再発(PSA値を指標とする)が、ほとんどなく(5%未満)経過しています。
グレソン・スコア6(3+3がほとんどでしょう)は、再発が3年で10%程度で、その後横ばいです。
グレソン・スコア7(3+4あるいは4+3)の場合は、3年~10年でグッと高くなり35%~50%になります。
グレソン・スコア8を超えると、10年で再発率は75%近くにもなります。

ここで疑問を持ちます。
この統計に出てくる患者さんは、すべてステージT1(A)の症例ばかりです。つまり、前立腺触診で触れることのできない、前立腺に限局した早期の前立腺癌になります。

そんな早期の限局性の前立腺癌を前立腺全摘出術を実施したにも関わらず、なぜ、再発するのでしょう? おかしいとは思いませんか?
手術の際には、前立腺と周囲の組織を一塊で摘出します。手術は極めて慎重に繊細に愛護的に行われます。それに引きかえ、術前検査である前立腺針生検は、何と暴力的で破壊的でしょう。最近の学会報告では、前立腺針生検を何ヶ所実施して癌をいくついくつ発見したと競っています。以前は6ヶ所だったのが、8ヶ所になり12ヶ所、24ヶ所、26ヶ所と数を争っています。

本番の前立腺手術をどんなに愛護的に進めても、術前検査でこんな破壊的なことをされてしまっては、前立腺癌が手術前からどこかに転移していても仕方がないことでしょう。
例えば、サソリがギュウギュウ詰めに入った段ボール箱に、サソリの存在を確認するために針生検と同様に直径10cmの穴を開けたらどうなると思いますか?その穴を何か所も開けるのです。サソリはゾロゾロ這い出てくるでしょう。
前立腺癌細胞の直径から比較すれば、針生検の針の直径は100倍以上です。サソリから見れば、1m以上の穴を開けてもらったに等しい蛮行です。何回も行われる針の出し入れにも、癌細胞も付着している可能性も高いのです。

S07985091f002では、グレソン・スコアが低い症例は再発が少なくて、グレソン・スコアが高い症例はなぜ再発が多いのでしょう?

グレソン・スコアが低い癌細胞は、正常な前立腺細胞に近い組織構成をしています。細胞の分裂速度も遅く、たとえ前立腺の外に放出されても、前立腺組織外では生きてはいけません。癌細胞が生きていくための環境が整備されていないので、ほとんどが死滅してしまうのでしょう。

Pcapathoiizaka3ところが、グレソン・スコアが高い癌細胞は、正常の前立腺組織には程遠い組織構造を形成しています。つまり正常組織のように十分な血液供給がなくとも、癌細胞は無人島のサバイバルゲームのように生き抜く力を初めから獲得しているのです。
このスライドは、グレソン・スコア10(5+5)の前立腺癌患者さんの組織像です。濃く染まっているのが癌細胞です。前立腺特有の腺腔構造は見当たりません。また、この組織内には毛細血管も見つけることができません。これら癌細胞は血液供給なしで生きていたのです。
ですから、針生検で前立腺の外に放出され、前立腺の組織でなくても(血液供給がなくても)生き抜くことができ、さらに分裂速度も速く増殖していきます。増殖することでコロニーを形成し、さらに癌細胞は生き抜く環境を自分で作ることができるのです。

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コメント

鋭い洞察に拍手です。PAS検査で高値となっても、触診で触れない限りは、生検も手術も、やってはいけないと言う理屈でよろしいのでしょうか。
【回答】
グレソン・スコアの高い(GS・8・9・10)ことが予想される場合には、もちろん針生検はせずに、前立腺手術を行うという勇気が必要です。
なぜなら、悪性度が高いと、保存的治療では太刀打ちできない可能性があり、転移や浸潤を許してしまう可能性があるからです。

泌尿器科学会の統一見解としてもらえれば、命を落とす人も減ると思います。しかし、これを提案する方も、命がけの覚悟が必要かも知れません。常識に捕らわれない良識的な医師が少しずつでも増えていくことを期待しております。
【回答】
おそらく、無理でしょう。
「長いものには巻かれろ」の精神は、医学界にも厳然として存在します。
私の考え方は、異端的な考え方です。マイノリティはマジョリティに飲み込まれるのです。

投稿: | 2010/03/09 12:44

すでにご存知かもしれませんが、高橋先生のように、医学界の常識にとらわれない「異端医師」が他にもいらっしゃるようです。

高橋先生と同様な根拠からなのかどうかはよくわかりませんが、その先生も、前立腺生検には否定的です↓
http://blog.livedoor.jp/leeshounann/search?q=%C1%B0%CE%A9%C1%A3%B1%EA

投稿: レイニーブルー | 2012/06/27 21:28

高橋知宏先生

木々の色も日毎色濃くなってきておりますが先生におかれましては院の診療の他、多岐にわたるお仕事で多忙な毎日をお過ごしのことと推察いたします。
この度は先生に嬉しいご報告です。
過日と申しましても家内と共に高橋クリニックに参り初めて先生にお会いし、懇切丁寧に触診して頂きましたのが三月十七日でかれこれ二ヶ月と十日、七十日を過ぎました。
そこで、地元の掛かり付け医、〇〇〇〇クリニックにて先日五月十八日に採血し、
結果を今日聞きに行きまして、驚きました。
結果同封の通りPSA数値 1.96と下がりました。
〇〇〇〇クリニックでは以前のPSA検査の時は18.87でしたので、約10/1に
これは高橋先生の指導のたまものですとおっしゃって下さいまして、
〇〇〇〇クリニックの先生も共に喜んで下さいました。
そして、この検査結果を高橋先生に報告後も、引き続き先生の指導を続けて下さいと、仰せになりました。
今日もいつもの通りお薬を飲んでおりますが、それで良いのでしょうか、?
【回答】
OKです。

先生の診断を仰ぎ、ご指導賜りたく存じます。
素人考えでもこれで前立腺ガンは消えたとは思えませんが、それにしてもこんな嬉しいことはありません。
これは本当に先生のお蔭です。あの日思い切って熱海から東京に出向き高橋クリニックの門をくぐり先生の診療を受けなければこの様な結果はあり得ないと事です。
先生本当にありがとう御座いました。
この間お薬を送って頂いたりして、大変お手数をお掛けして重ねて有り難くお礼申し上げます。
薬局の先生にも宜しくお伝え下さい。
簡単ですが取り敢えずご報告まで、引き続きご指導を賜りますよう宜しくにお願い致します。
先生もご多忙のあまり身体を壊すことのない様にご自愛なさって下さいませ。
ご活躍をお祈り致しております。

2013.5.30 政春拝

追伸、先生の著書「もうおしこで悩まない」と「ガンからの生還」インターネットで見つけやっと手に入れました。只今読ませていただいてます。
「もうおしこで悩まない」の方は引っ張りだこの様ですよ…・・

投稿: 〇〇政春 | 2013/05/30 20:01

高橋知宏先生
先生のブログを拝見させていただき、PSA増加に対する対処法をご教示くださいますようお願いいたします。
相談させていただく内容は、PSA検査の結果、PSAの値が一昨年(H24.12 ; 2.94、H25.11;3.23)から上昇しはじめ、今回(H26.10.10実施)のPSA値が4.1とPSAの基準値を超え、MRI検査を行うことになり、このMRIにて「前立腺がんの疑いあり」の診断が出た場合の適切な対処法をご教示くださいますようお願いいたします。また、先生のブログでは、「グレソン・スコアの高い(GS・8・9・10)ことが予想される場合には、もちろん針生検はせずに、前立腺手術を行うという勇気が必要です。」との記載がありますが、「グレソン・スコアの高い(GS・8・9・10)ことが予想される場合」を判定するためにはどのような検査が必要なのでしょうか、ご教示くださいますようお願いいたします。
【回答】
触診と超音波エコー検査所見です。

投稿: WAKOO | 2014/10/11 08:09

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