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早期前立腺癌統計のデータ解釈 #1

Monographpca「早期前立腺癌モノグラフ」という専門書を読んでいて、データをいろいろ解釈できることが分かりました。
【1】右のグラフは、早期の前立腺癌と診断されて、前立腺全摘出術(根治手術)を受けたグループと、手術を行わないで保存的治療(ホルモン治療など)を受けたグループに分け、その前立腺癌鑿の死亡率を8年間追跡比較したものです。
5年で2.5%、8年で5%の有為の差が認められます。

Monographpca2【2】このグラフは、同じく前立腺全摘出術を受けたグループと、保存的治療を受けたグループの前立腺癌転移率を比較したグラフです。
5年経過時点で両者には有為差はありませんが、8年経過すると、保存的治療グループの方が15%リスクが高くなります。

Monographpca3【3】このグラフは、両者のグループの単純な死亡率を比較しています。前立腺癌で亡くなられた患者さんもいますし、心筋梗塞や脳出血で亡くなられた患者さんも含まれています。
不思議な結果です。なぜなら、前立腺癌の手術を受けた患者さんも、手術を受けないで保存的な治療を実施した患者さんも、結局は死亡率はほぼ同じなのです。
【1】のグラフでは、手術を受けたグループの方が、前立腺癌での死亡率は少ないのにかかわらず、全死亡原因の観点から見ると、死亡率は変わらないのです。これは前立腺癌の手術を受けたグループの方が、他の死亡原因で死亡する確率が高いことになります。

この専門書の解説には、次のような補足が記されている。
『・・・しかし、彼らの対象は平均年齢が約65歳で多くが臨床病期T2であり、約40%が症状発見契機で、さらに40%以上が血清PSA値10ng/ml以上であった。したがって、今日の我々の対象群とは明らかに異なり、彼らの結果がそのまま当てはまるかどうかは不確かであり、待機療法に比較し全摘出術が癌死を減らし得る効果も薄まる可能性すらある。・・・』
要するに、症状のない50歳以上の男性を対象にしている現代の健診システムのPSA検査で発見された前立腺癌患者さんではなく、もっと進行していると考えられる前立腺癌患者さんを対象にしているにもかかわらず、前立腺癌手術しても、手術をしない待機治療であっても予後は変わらないということです。

【関連ブログ】
早期前立腺癌の解釈 #2
早期前立腺癌の解釈 #3

Monographpca10【参考文献】
「早期前立腺癌モノグラフ」
ニューヨーク市スローン・ケタリング記念癌センター
前立腺癌センター副所長 大堀理 著
泌尿器科主任教授 ピーターT.スカルディーノ 著

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コメント

目からうろこの画期的な解釈には感服です。癌、スワ手術と言う医師の方にも患者の方にも、このような冷静な眼を期待したいと思いました。

【回答】
この専門書は、2003年に出版されていますが、データをじっくり読まないと理解できないことがたくさんあることを私は教えられました。
過去のデータも貴重であり、それが現在・未来に影響を及ぼします。
しかし、データの読みが浅いと、表面的なことしか理解できずに、そのまま次に進んみ、さらに間違った方向に舵が取られてしまう危険性をはらんでいます。
ここで紹介したデータも、読みようによっては、『さらに早期発見を極め、PSA検査を超える腫瘍マーカーを発見し、徹底的な根治手術を励行しなければならない』と、感想を持つ医師がいても不思議ではありません。おそらく、そちらの医師が大多数で常識でしょう。

投稿: | 2010/03/04 15:36

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