早期前立腺癌統計のデータ解釈 #2
【2】事前の前立腺針生検で認めた癌の病理組織検査所見グレソン・スコア(GS)と、前立腺手術後の再発率を検討したグラフです。
グレソン・スコアは、悪性度を1~5に分類し、一番多い組織の悪性度と2番目に多い組織の悪性度を加算して表記します。例えば、一番多い悪性度が2で2番目に多い悪性度が3の場合、2+3=5と表記されます。
グレソン・スコアGS・5以下の359人のほとんどの方(85%以上=300人)が再発がないことを示しています。
【3】前立腺手術で採取された前立腺を詳細に病理検査し、正確なグレソン・スコア評価とその後の再発を検討したグラフです。
前立腺全体でグレソン・スコア評価を実施すると、前立腺針生検時のグレソン・スコアのあいまいさが認識できます。
前立腺針生検でグレソン・スコア5以下359人だったのが、正確には138人になり、グレソン・スコア6だった622人が、正確には534人になります。針生検でGS・5以下だった359人のうち211人(359人-138人)は、GS・6やGS・7に悪性度が増したことになります。
針生検でGS・6だった622人は、GS・7やGS・8に抜けた数とGS・5以下から加わった数の合計です。誤差はあるでしょうが、単純に考えれば、針生検GS・5以下の211人が正確なGS・6に加わり、針生検GS・6の299人がGS・7やGS・8に移行すれば、正確なGS・6は534人になります。
【4】事前のPSA検査結果と手術後の再発率を検討したグラフです。
PSA値4以下261人の場合、手術後85%以上の人(220人)が再発しません。PSA値4~10までのいわゆるグレイゾーン729人の場合、手術後75%の人(540人)が再発しません。
PSA値10以下990人すべてでは、77.6%約768人が再発しないことになります。
【1】~【4】のグラフから全体的に考察してみましょう。
T1(566人)の術後10年再発率は15%以下です。(【1】のグラフから)
グレソン・スコアGSのうち、Gs・5以下とGS・6を合わせた672人の術後10年再発率は、15%以下です。(【3】のグラフから)
術前PSA値10以下の990人のうち、術後10年の再発率は、20%前後です。(【4】のグラフから)
要するに、PSA10以下で前立腺癌で発見される患者さんのうち、70%近く(672人÷990人)はGS・6以下であり、そのほとんど(84%=566人÷672人)がT1であるということが推理できます。
もちろん例外はあるでしょうが、グレソン・スコア6以下は癌細胞の発育速度が遅く、その分、浸潤も転移も少ないと考えられます。ですからグレソン・スコア6以下はT1という前立腺に限局した早期癌であり、PSA検査では10以下である可能性も高くなります。
PSA検査値が4以下ならば、グレソン・スコア5以下の可能性がもっと高くなるのです。
前回の統計データ解釈で論じたように、手術を行わない待機治療と前立腺手術との比較検討で、両者の長期再発率がほとんど変わらないことが分かりました。前回の対象者は、T2というT1よりも進行している前立腺癌患者さんがほとんどでした。そんなT2患者さんの待機治療が前立腺手術の予後とほとんど変わらないのであれば、今回提示したT1患者さんの待機治療は、前立腺手術患者さんよりもさらに予後が良い可能性が出てきます。(もちろん同じかも知れませんが)
【関連ブログ】
早期前立腺癌の解釈 #1
早期前立腺癌の解釈 #3
【参考文献】
「早期前立腺癌モノグラフ」
ニューヨーク市スローン・ケタリング記念癌センター
前立腺癌センター副所長 大堀理 著
泌尿器科主任教授 ピーターT.スカルディーノ 著
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コメント
画期的な分析だと思います。リスクやQOLの視点から考えますと、手術はなるべく避けたいところです。この分析は、PAS検査の結果に悩む多くの人に希望を与えてくれるものと確信致します。
【回答】
ご感想ありがとうございます。
投稿: | 2010/03/04 14:30