PSA高値の場合の治療方針
前回のテーマでPSAと前立腺癌の関係をかなり詳細に論じました。
では、健康診断や人間ドックでPSAが高いと診断された場合に、どのような手順を踏んで診断・治療?をすればよいのか考えてみましょう。
前回解説したように、前立腺肥大症の増加が前立腺癌の増加を後押ししているように思えてなりません。
このグラフは前立腺肥大症の平均寿命時の割合%と前立腺癌実数を示したもので、科学的な表現としては「如何なものかな?」という評価でしょうが、だいたいのイメージは把握できるでしょう。
前立腺肥大症という「場」がなければ、前立腺癌は存在しないと想像できます。さらに極論すれば前立腺という「場」がなければ前立腺癌は存在しません。「空間」という三次元の「場」がなければ「時間」は存在しないのと同じです。
PSAが高値で前立腺肥大症や膀胱頚部硬化症などの排尿障害が原因と考えられても、潜伏癌の存在も含めた前立腺癌の可能性がある場合には、前立腺癌の「場」である前立腺・前立腺肥大症を小さくあるいは委縮させることは、前立腺癌の治療に「十分条件」を満たさないかもしれませんが、「必要条件」は満たすでしょう。
そこで、たまたま検査でPSAが高い場合には次のようなことを考えます。
年齢が50歳以上であれば、PSA高値の原因が前立腺肥大症と思われても、潜伏癌が存在する可能性があるので(50歳12%、60歳20%、70歳30%、80歳50%)、前立腺肥大症を小さくする方向の治療を積極的に実施します。抗男性ホルモン剤であるプロスタールやアボルブです。
しかし、一度治療を始めたら延々と死ぬまで治療を続けるのか?という疑問が出ます。私は次のように考えます。
まずは、「場」である前立腺の大きさ(体積)の縮小率を観察します。
・前立腺の大きさが初診時40cc以下であれば、前立腺の大きさが治療始めから50%(2分の1)の時点で休薬します。
・前立腺の大きさが初診時50cc以上であれば、前立腺の大きさが治療始めから33%(3分の1)の時点で休薬します。
・前立腺の大きさが初診時40cc~50ccの場合は、適宜判断します。
なぜ、40ccと50ccの区別をするかを解説します。
前立腺の大きさ・体積は20ccを正常としています。しかし、若い男性を超音波エコー検査をすると、臨床現場では15cc前後が本来の正常の大きさと私には思えて仕方がありません。なぜなら、例え若い20歳代の男性であっても、膀胱頚部硬化症などがあると前立腺の大きさは20ccを超えます。つまり20ccを超える前立腺の大きさは正常とはいえません。
前立腺癌が存在しえない「場」としての前立腺の大きさは20cc以下であるべきです。できれば、15cc前後です。すると、治療前の前立腺40cc以下の大きさであれば、50%(2分の1)が20cc以下になります。
治療前の前立腺50cc~60ccの間であれば、33%(3分の1)が20cc以下になります。60cc以上である場合は・・・予想できるでしょう?つまり前立腺大きさの目標を20cc以下に設定して治療に励むのです。前立腺の大きさが20cc以下になった時点で治療は休止(中止でなく休止)になります。通常半年くらいかかります。
その後、経過を追って再び前立腺の大きさが20ccをはるかに超えるほど大きくなったら、治療を再開します。
では薬の投与量について考察しましょう。
プロスタール25は前立腺肥大症の処方量が1日2錠、前立腺癌の場合が1日4錠です。前立腺癌を疑うのであれば4錠を服用すべきだとお思いでしょう?しかし2錠でいいんです。いや、2錠がおすすめです。なぜなら、前立腺癌を治療する訳ではなく、前立腺癌の「場」である前立腺・前立腺肥大症の治療をするからです。
アボルブの場合も同じで、前立腺肥大症の処方量である1日1錠で構いません。(海外の臨床試験でアボルブ1日1錠で前立腺癌の抑制結果が出ているそうです。)
前立腺癌の処方量を初めから投与すると、癌細胞が驚いて身構えたり悪性度を増すかも知れません。ですから前立腺肥大症の処方量で、秘かにジワ~と責めるのが戦略的には得策でしょう。
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