前立腺ガンの検査・診断・治療
前立腺腫瘍マーカーであるPSAが少しでも高いと、猫も杓子もみんなそろうように前立腺針生検を行っています。その結果、前立腺癌の発見される患者さんが増え、PSA検査の価値が高まっています。PSA検査を健康診断のルーチン検査に入れているところも少なくありません。
PSA検査による前立腺癌の早期発見患者さんが増加した結果、前立腺癌の治療方法が格段に進歩した昨今にも関わらず、なぜか前立腺癌で亡くなる方が右肩上がりに増加しています。まるで前立腺針生検の数だけ前立腺癌で亡くなる方が増加しているように思えてなりません。
この不思議な現象を以前に解説しました。むやみに前立腺針生検を行わない勇気も必要だとまで述べました。
前立腺癌は前立腺針生検によって、悪性度を増し転移や周囲の臓器に浸潤させてしまうのではないかと私は考えています。医学的常識で考えれば、癌の組織検査を実施し組織像を正確に把握してから治療するのが当たり前です。しかし、組織検査をすることで、ガン患者さんを窮地に陥れるのであれば、本末転倒です。
そこで、前立腺針生検の適応を私の考えで上の表にまとめてみました。
あくまでも私の持論・自論・時論・痔論であって、泌尿器科学会の常識ではありません。誤解しないようにして下さい。
前立腺針生検を実施してもよいのは、全身の骨転移が無数に存在するステージDの患者さんのみです。グレソン・スコアが低い(2~6点)と考えられる場合は原則として組織検査を実施しないで治療に踏み切るべきでしょう。なぜなら、グレソン・スコアが低い=潜伏前立腺癌の場合は、前立腺癌組織の体積が2倍に増加するまで20年近くかかります。その間全く治療しなくても生存率には影響ないのです。組織検査を実施し、証拠をつかんでから治療を始めるのが常識の医師からすれば非常識な愚行です。しかし、患者さんサイドから考えれば、前立腺針生検で、前立腺癌細胞の悪性度が増し(ただしハッキリしたエビデンスなし)、全身骨転移を促す可能性(ただしハッキリしたエビデンスなし)のある前立腺針生検は、患者さんにとって不利益な可能性のある検査です。
前立腺針生検により、前立腺癌の悪性度を判定するグレソン分類ができます。またグレソン分類をもとに臨床上の予後を予想するグレソン・スコアが決定します。要するに前立腺針生検の結果で患者さんの予後があらかじめ予測できるのです。予後を予測できるということは、治療の内容にかかわらず、結末が決まっていることになります。
逆転の発想で、患者さんの現時点での臨床所見から、グレソン・スコアを予測することは100%できないかも知れませんが、ある程度可能ですし、それによりグレソン分類を予測できますから、前立腺針生検を実施しなくても前立腺組織の悪性度を予測できると考えられます。
グレソン・スコアが高い(9点10点)の患者さんが、前立腺触診で硬結が触れずに、骨転移がなく、PSAの値が4前後である可能性が0%とはいいませんが、おそらくその確率は極端に低いでしょう。それよりも前立腺針生検によるリスクの方がはるかに高いと考えます。
世の中では膨大の数の前立腺針生検が実施されています。その組織検査結果で、治療方針が左右されることは実質的にありません。前立腺針生検の結果ではなく、骨シンチやMRI検査結果で、骨転移や浸潤を判定し、前立腺全摘出術を実施するか放射線治療するかホルモン治療するかを決めています。どの時点であっても転移が著しい場合には抗癌剤に治療方針が変化するだけです。前立腺癌の組織学的悪性度が、臨床上役立っているとは実際考えにくいのです。
PSAが少しでも高いからといって、前立腺針生検を実施しなければならない理由が薄らいでいます。
例として日本で最高のVIPである天皇陛下を日本最高の頭脳集団である東大病院泌尿器科の最高のスタッフが、陛下の前立腺癌の病状をステージAまたはBと判定しました。その結果、前立腺全摘出術を行ったのは記憶に新しいことです。ところが数年後、骨転移もしくは浸潤(正確には報道されていないので不明ですが)を示唆する所見(PSAが高くなった)があり、ホルモン治療を始めたことも周知の事実です。この経過をタマタマと思われるか、いかに診断精度を高めてもこの程度の結果かと、判断するのは読者にお任せするとして、前立腺針生検の危うさを物語っているように思えます。
(つまり、陛下の前立腺針生検時点では、癌組織の悪性度は中等度以下であって、転移も浸潤もないステージA・Bの診断だったのでしょう。手術後経過とともに、悪性度が増し?ステージがC・Dにアップしたのです。この変化は前立腺針生検が関与している可能性が高いと考えます。)
前立腺針生検を実施してもよいのは、骨転移が無数に存在しているステージDの予想グレソン・スコアがおそらく高いだろうと推測される患者さんのみです。前立腺針生検でこれ以上悪化する恐れがないからです。その場合でも絶対的適応はありません。なぜなら組織検査を実施してもしなくても、悪性度が高いのは決まっているからです。
極端な話し、PSAが少し高く前立腺触診で硬結が触れなければ、PSAが高いのは排尿障害が原因と考え、排尿障害の治療を始めましょう。その結果、PSAが低下すればOKとします。
排尿障害を治療してもPSAが改善しなければ、グレソン・スコアが低い(2・3・4点)の前立腺癌の可能性があるとして、状況証拠だけで抗男性ホルモン剤(プロスタールなど)の治療を始めればよいでしょう。
硬結が触れる場合には、骨シンチを実施し骨転移を確認します。そしてホルモン治療(LH-RH注射)を始めるべきでしょう。
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