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前立腺ガン統計の疑問

Nihonnaikazassi本日届いた日本医師会雑誌(平成21年5月号)に「前立腺がんと前立腺肥大症の疫学」という生涯教育記事があり、読んでいて面白いことに気づきました。
その記事に掲載されていたデータをここでご紹介しましょう。
Ganyosokuガン患者数予測では、胃がん・肺がんに続く第3位です。
このままでは、前立腺ガンが第1位になるのもあと少しです。
胃・大腸などの管腔臓器(ホース状の臓器)と違い、前立腺は腎臓・肝臓・膵臓と同じく実質臓器(身が詰まった臓器)です。1990年までは、前立腺ガンの推移は、他の実質臓器のガン(腎臓ガン・肝臓ガン・膵臓ガン)と同じような推移をしています。ところが1995年から急激に増えています。

Ganranking平成17年各年代別ランキングでは、65歳以上の年齢層の第1位が前立腺ガンになっています。

Ganpca前立腺ガン死亡数の推移です。
死亡曲線の角度が、1980年と1990年の2か所で急激に変化しています。

Ganpcastage群馬県の前立腺ガンの確定診断割合の統計推移です。確定診断された患者さんの数について注目すると、
1990年300人未満
1995年400人未満
2000年600人未満
2005年1100人未満
となっています。つまり年を追うごとに確定診断されている患者さんが多くなっています。この推移は、おそらく日本全国で同じでしょう。
確定診断された患者さんの数が多くなった理由は、前立腺ガン腫瘍マーカーであるPSAが手軽に検査されたことと、前立腺針生検が頻繁に実施されて、組織診断が正確になされているからなのでしょう。
しかし、この統計をよく見ると、前立腺ガンの初期であるステージAの患者さんの割合が増えていないことに気付きます。増えていないどころか、割合的にはステージAの患者さんが減っているのです。これは不思議な現象です。
その反面、前立腺に広がっているステージB(赤い棒)の患者さんが、他のステージをはるかに抜いてダントツです。数も割合も増加の一途です。
上の死亡者数の推移とステージBの推移を比較してみて下さい。確定診断されてから患者さんがお亡くなりになるまでの目安を5年と考えて、確定診断患者さんの推移と5年ずらした死亡数の推移とが、微妙に一致しませんか?

内科でも安易に実施しされているPSA検査の数が増え、泌尿器科での針生検の数が増えるほど、前立腺ガンが原因で亡くなる患者さんの数が増えている証明のように思えてなりません。私は統計学は素人ですが、私の誤解であってほしいものです。前立腺ガンの診断技術が向上し、治療法が飛躍的に進歩しているにも関わらず、死亡者数が増えていくのは合点がいきません。泌尿器科医の努力が、前立腺ガン患者さんを増やし、前立腺ガンで亡くなる方を増やしているのであれば、恐ろしいことです。

例えば、天皇陛下は前立腺ガンで前立腺全摘出手術をお受けになりました。おそらくステージB以下の診断で、前立腺ガンが前立腺内にとどまっていると判断したのでしょう。しかし、結果は浸潤あるいは転移となり、現在ホルモン治療をお受けになっています。前立腺ガンと診断するためには、現在の常識では前立腺針生検を必ず実施しなければなりません。針生検を実施した時点では、少なくてもステージB以下だったのでしょう。しかし、針生検を実施したために、前立腺ガンは前立腺の外に放出されステージC・Dにアップグレイドしたのです。過去のステージを根拠に前立腺ガン手術を行いましたが、過去は過去ですから、時間の経過とともに再発・浸潤・転移という結果になったと考えても論理の飛躍にはならないでしょう。
触診あるいは超音波エコー検査・CT・MRI検査のみの診断で手術を行えば、ステージBのままで治療できた可能性があります。組織診断を行わない治療は、泌尿器科医にとってはあり得ない治療です。ハッキり分からなくても治療する勇気が必要になります。
Ganyosokuところが腎臓ガン・肝臓ガン・膵臓ガンなどは針生検を実施しないで手術になります。超音波エコー検査・CT・MRI・血管撮影だけで手術に踏み切ります。ですから、腎臓ガン・肝臓ガン・膵臓ガンの死亡者数の推移(患者数の推移とほぼ同じと考えて)はなだらかなのでしょう。前立腺は簡単に針生検ができることが裏目に出たのかも知れません。肺ガンも組織生検が気管支鏡で容易に行えますから、患者数が増加し、おそらくは死亡者数も同様に増加しているでしょう。

上記の統計から、前立腺ガンの死亡者数が増えたのは、単純に「前立腺ガンの自然増」だと言い切れるかどうか、統計の専門家の方で教えていただければさいわいです。自然増であれば、前立腺ガンのステージBだけが数においても割合においても増えるのは疑問です。とくにステージAの数が増えていないということは、PSA検査は初期の前立腺ガンに無力だということになります。
その際に、潜伏ガンの存在ガン転移についての考察を参考にしてください。

EBM(医学的根拠)を型どおり追求するあまり、患者さんに不利益を与えてしまったのであれば、本末転倒です。前立腺ガンの可能性が濃厚であれば、確定診断せずに見切り発車の治療を行っても許されるのか?と思えてしまう今日この頃です。

【補足】
現在、私が実施している新しい前立腺ガンの治療法をご紹介しています。

ビタミンCが、なぜ前立腺ガンに効果があるのかも解説しています。

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コメント

ステージ分類も複雑です。わが国ではA~Dの分類が使用されることが一般的です。ステージAとは前立腺がんを疑わず、前立腺肥大症の手術の結果、がんが発見された場合であり(T1a,b)、特に「早期がん」であるという意味ではありません。
http://ganjoho.jp/public/cancer/data/prostate.html#prg6
【回答】
その通りです。
しかし、一般の方に前立腺癌を啓蒙しているこのブログの中で、専門家が理解している狭義の言葉の定義を事細かに解説すればするほど、問題点がぼやけてしまいます。
結局は、一派の方に理解されない内容になるので、このようにしています。
また、群馬県のグラフはPSA・針生検の有用性を啓蒙している結果です。つまりPSA・針生検による結果でステージAと診断したことを示唆しています。
最近のこの手のデータでは、ステージAの狭義の定義にしたがって、ステージAは省かれているのが現実です。

投稿: | 2011/06/05 19:33

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