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TUR-P手術後の排尿障害 「年のせい?」「気のせい?」

前立腺肥大症の内視鏡手術(TUR-P)を行なっても、10%~20%の確率で、排尿障害などの症状が改善しないことがあります。
その原因を「年のせい」「気のせい」「神経因性膀胱」とされています。しかし、内視鏡手術する前に「前立腺肥大症」だからと診断され、内視鏡手術すれば治ると断言された挙句に、「年のせい」「気のせい」では、手術を受けた患者さんも怒るでしょう。しかし、それが現実です。この10%~20%の患者さんを何とか救わなければ、意味もなくただ内視鏡手術しただけにしか過ぎません。医師から見れば、排尿障害の患者さんを手術することで『前立腺肥大症ではなかったのだ?』程度の原因チェックの手段でしかなりません。患者さんにしてみれば、たまったものではありません。

さて、今回、TUR-P内視鏡手術をおこなったが、尿意切迫感と排尿障害が治らないで、精神的に落ち込み、死すら考えた患者さんを紹介しましょう。
Bph22748m63letter2Bph22748m63letter_2
ある日、上記の内容のお手紙をいただきました。
お手紙の内容からは、医師は「機能的な障害だから治らない!」の一点張りです。これではお手紙の主も堪りません。まるで「自動ドアが壊れたから(機能的障害)、ドアが開きません」と言っているようなものです。一見正しいのですが、現実は、壊れた自動ドアでも直接手動で自動ドアは開くものです。「機能性=治療はお手上げ」などと考えないで、積極的に治療を行なうべきです。

まず、携帯電話で現状をお聞きしました。12月に入り、患者さんは来院されました。
確かに、患者さんの言われるとおり排尿障害を認め、3D画像で前立腺の削り残しと思われる所見を得ました。
後日、奥様同伴で来院され、再度の内視鏡手術を決め、12月17日に手術となりました。

Bph22748m632d右の写真は2D画像の超音波エコー検査の所見です。
一般の人が見ても分からないでしょうから、下の写真をご覧下さい。

Bph22748m632dpp三角で示された部分が、内視鏡手術で削り取られた部分です。TUR-P術後の一般的な超音波エコー検査所見です。十分に削られたと考えられます。

Bph22748m633d3ppこの画像は、膀胱側からの視点で観察した膀胱出口の3D画像です。
しかし、3D画像で確認すると、前立腺肥大症の腺腫が残っていることが分かります。

Bph22748m633dpp上の写真の反対、つまり尿道側からの視点でも、腺腫の残存を確認できます。
前立腺肥大症の腺腫には、柔かいタイプの「線維腺性過形成」と硬いタイプの「線維筋性過形成」に分類することができます。3D画像超音波エコー検査では、硬いタイプの「線維筋性過形成」しか描出されませんから、残存している腺腫は、硬い腺腫ということになります。ですから、排尿障害があったとしても不思議ではありません。

Bph22748m63op実際に内視鏡検査を行ったのが、この写真です。
正面の半円の針金が、直径5mmの電気メスのループです。6時方向に見えるのが、精液の噴出孔である精丘です。電気メスのループが当っているのが、左右に残された前立腺肥大症の腺腫です。3D画像のとおりの所見です。中央のすき間が尿路です。ループの針金の太さが0.4mm程度ですから、いかに狭いか理解できます。

Bph22748m63op2TUR-P手術直後の所見です。
余分な腺腫は除去しましたから、尿路は十分確保されました。「機能障害だ!」と主張していた医師の顔が見たいものです。

Bph22748m632d2術後の2D画像です。
術前の2D画像と比較して、顕著な差異は認められません。よ~く観察すると、削った部分が、術前と比較して深くなっています。前立腺石灰(結石)の位置と比較すると分かります。

Bph22748m633d4しかし、3D画像で比較すると、ハッキリ違いが分かります。
膀胱側からの視点では、術後、左右から突き出ていた腺腫が消失しています。

Bph22748m633d2尿道側の視点でも、わずかに腺腫が残っているのみで、術前と比較して、膀胱出口は十分に開放されました。

患者さんは、それまでトイレの便器の前で尿を出そうと息んでも、実際に出るまで5分以上かかっていました。それが手術後5日目では、30秒ほどの息みで排尿できるようになりました。常に感じていた残尿感も消失しました。

Bphmicrotissue2手術中に採取した組織は、右写真の前立腺の腺組織はほんの一部(全体の10分の1以下)だけでした。

Bphmicrotissue3採取した組織のほとんどは、線維と平滑筋がビッシリと詰まった「線維筋性過形成」でした。薄紫が線維組織で濃い紫が平滑筋です。「ビッチリ」という感じでしょう。この組織がほとんどあれば、硬いのもうなずけます。3D画像で予想したとおりです。

Bphmicrotissue【標準病理学 医学書院より】
前立腺肥大症の2タイプの組織像です。図aの腺性過形成が「線維腺性過形成」で、図bの間質性過形成が「線維筋性過形成」を意味します。腺組織の集合体はスポンジのようなものですから、柔かいはずです。この患者さんから採取した組織は、硬い「線維筋性過形成」であることがわかります。

有名病院などで前立腺肥大症の内視鏡手術の結果、症状がまったく軽減しない方々、あきらめないで下さい!ご覧のように治る可能性はあります。機能性の代表的な排尿障害の病気である神経因性膀胱も手術で治しています。(正確には、機能性は治りませんが、機能性が原因の排尿障害は治せます。壊れた自動ドアを手動で開けるイメージです。)

【補足】
今回の原因は、過去の内視鏡手術で精丘の周囲の腺腫を残したことに原因します。柔かい「線維腺性過形成」であれば、問題ないのですが、硬い「線維筋性過形成」の場合には、排尿障害の原因となります。
精丘のそばには、尿道括約筋が存在するので、術後尿失禁を警戒する余り、削り残すことがあります。今回の患者さんの例も、その典型でしょう。もしも、術後尿失禁が心配で精丘周囲を執刀医としてどうしても残したいのであれば、残しても良いですから、もっと薄く削り残せばよかったのです。いかんせん残った腺腫が厚過ぎました。しかも二人の医師が診察・検査して「機能性」と断言している訳ですから、ある意味、単純なデジタル思考(前立腺肥大症を削って治らないのは機能性と短絡的に思考する)の未熟な医師だったのでしょう。しかし、患者さんにとってみれば、未熟では済まされません。もっと論理的に思考し、手術の技術を研鑽すべきです。未熟な技術を机上の空論でカバーするのは止めましょう・・・私も気をつけなければ・・・明日は我が身ですから。

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