1日4回の自己導尿
福島県在住の74歳の男性患者さんです。
人間ドックで両側の水腎症(すいじんしょう:尿の流れに障害があり腎臓がパンパンになること)を指摘され、地元の有名な病院の泌尿器科で精密検査したところ、「神経因性膀胱」と診断されました。
要するに膀胱に力がないための排尿障害と診断されたのです。治る病気ではないと告げられ、今年の4月から毎日4回~5回の自己導尿(じこどうにょう:自分で尿道から膀胱へカテーテルを挿入して排尿すること)を指導されて行なっているそうです。
患者さんは何とかならないものかと高橋クリニックを受診しました。
2D超音波エコー検査では大きな前立腺肥大症を認めます。
その大きさ、何と77cc!、正常の大きさが25cc以下ですから普通の男性の3倍以上の容積です。
誰が何と言おうと押しも押されぬ立派な前立腺肥大症です。
3D正面画像です。
ゲイン(感度)を調節して前立腺組織は透けていますから、大きな洞窟が見えます。
メジャーで洞窟の中ごろを間口と高さで測ると、4.37cm×2.65cmです。手前の方がもっと広いですから、膀胱内に突出した前立腺肥大症ということが分かります。
上図を線画風に強調したのがこの写真です。
★印が膀胱平滑筋の肥厚した部分です。
前立腺内にまで膀胱平滑筋が浸入しているようにも見えます。
3D背面画像では、最大径で同様に4.78cm×4.36cmというかなりの広さです。
さらに詳細に観察すると、2時と10時~8時の位置にシコリが確認できます。恐らく膀胱平滑筋の肥厚でしょう。
上図を線画風に強調した写真です。
★印が膀胱平滑筋の肥厚したと思われる部分です。
膀胱側から尿道側まで肥厚した膀胱平滑筋が浸入しているように見えます。前立腺内の平滑筋が肥厚したという話は聞いたことがありませんし、前立腺肥大症そのものが3D画像では透明になるので、このようには描出されません。
前立腺肥大症というと、前立腺の大きさしか議論されませんでしたが、3D画像の登場により、画像による前立腺肥大症の分析が詳細にできます。
これにより、きめ細かい治療法が確立するかも知れません。
例えば、肥厚した膀胱平滑筋にボトックス注射をするのです。むやみやたらに注射するに比べたら、効果も絶大でしょうし、副作用も出ないでしょう。
排尿障害は神経因性膀胱が原因ではなく、容積77cc(重量77g)という前立腺肥大症からくるものでしょう。
たとえ、神経因性膀胱があったとしても、結論を出すのは前立腺肥大症の治療を行なってからの判断です。
この主治医は初めから神経因性膀胱という誤診で治療した可能性があります。1日4回の自己導尿を患者さんに科すという重大な過ちを犯したことになります。
取りあえずα-ブロッカー(ユリーフ)を1ヶ月処方して様子を見ることにしました。
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