前立腺肥大症の3D画像
最近の私のマイブームは、3D・4D超音波エコー検査を利用して、膀胱出口の表情を観察することです。
思いついたきっかけは「慢性前立腺炎」に、購入するまでの経緯に関しては「開業医こぼれ話」に掲載していますから、詳細はそちらをお読み下さい。
さてさて、膀胱出口の表情を見ることに何の意味があるのかお分かりにならないと思いますから、下に実例を上げましょう。
【実例】
この写真は、63歳前立腺肥大症の患者さんの超音波エコー検査の普通の側面像です。
一般的に超音波エコー検査は2D画像で2次元写真になります。見慣れている医師であれば、前立腺の大きさだけではなく膀胱出口付近の硬さを想像できますが、素人には分からない写真でしかありません。
右の写真は、同じ患者さんの超音波エコー検査3D画像(立体画像)です。
真ん中の洞穴のように見える中心が、膀胱内から見た膀胱出口です。
膀胱出口は単純な穴ではなく複雑です。周囲も堤防状のようになり、まるでドーナツかカルデラ火山のようです。
【宇宙から見たカルデラ火山の代表:阿蘇山】
上記の超音波エコー検査写真よりも立体的で、膀胱出口周囲の表情が分かりやすくなっています。
しかし、初めてこの写真を見せられて、尿が出にくいと即理解はできないでしょう。そこで下の写真を見てください。
【実例】
この写真は、50歳代の排尿障害のない男性の膀胱出口周囲の3D画像です。
正常な画像と考えてよいでしょう。上の前立腺肥大症の3D画像と比較して、中心に見える膀胱出口が小さくありませんか?本来、膀胱出口は排尿中以外は閉じているべきものですから、小さくて当たり前です。
しかし、前立腺肥大症の患者さんの写真で、膀胱出口が大きく観察できます。それは膀胱出口が大きくなっている訳ではなく、膀胱出口周囲が前立腺肥大症のために隆起して、相対的に膀胱出口が落ち込んでしまい、一見膀胱出口が大きく見えるだけなのです。
【実例】
50歳男性で健康診断で前立腺癌腫瘍マーカーPSAが4.9(正常値4以下)と指摘されて来院した患者さんの3D画像です。
前立腺肥大症特有のドーナッツ状あるいはカルデラ火山状の膀胱出口の所見です。
排尿障害が存在するために、PSAが上昇するのです。前立腺癌のためではありません。
ちなみに前立腺の大きさは37cc(正常25cc以下)ですから、前立腺が大きいことも理由になります。
上の正常の形態と比べても、一目瞭然でしょう。明らかに硬いという印象です。
この2D画像は、上の3D画像の側面像です。この普通の2D画像から、3D画像の立体的な画像を想像できますか?私は想像できません。
通常、超音波エコー検査の場合、その特徴を一番強く表現している画像を忙しい診察・検査中に記録として残します。すると残した画像に患者さんの病気の状態を印象付けられてしまいます。これが誤診の原因になるのです。
PSAが上昇する原因として、前立腺癌の他に、前立腺肥大症や慢性前立腺炎が上げられます。
前立腺肥大症が原因の場合は、前立腺の大きさがPSA上昇と検討されますが、私は大きさよりも3D画像のようにオシッコが出にくい形をもっと議論した方が的を得ているのでは?と思っています。
【実例】
68歳男性の2D画像の前立腺の所見です。
夜間頻尿が6回、日中15回以上の頻尿です。前立腺が膀胱内に突出しているのが分かります。
前立腺の大きさは33ccと中くらいの大きさです。前立腺の大きさからいえば、気のせいですと言われてしまいかねない大きさです。
上の写真の2D画像と側面像は似ていますから、カルデラ火山を想像できますね。
上の写真の3D画像では、予想に反してカルデラ火山ではなく、富士山を上空から眺めたイメージでしょう?膀胱出口が硬くすぼまっているのが容易に理解できます。
【国際宇宙ステーションから見た富士山】
2D画像では同じように観察できても、立体的には全く異なる印象になります。
富士山とカルデラ火山では外見上は全く異なる火山です。2D画像と3D画像の表現する目的が異なるのです。
前立腺を大きさしか判断しない検査に疑問を感じませんか?
【実例】
手術するにはタイミングがあります。
この3D写真は何か分かりますか?
実は89歳の男性です。ある国立病院で前立腺がとても大きく(100cc以上)手術を選択されずに、膀胱カテーテル留置になった患者さんです。
3週間から4週間に1回カテーテル交換を行なっています。前立腺が100cc以上とかなり大きく、年齢のこともあり、現時点では私も手術に積極的にはなれません。
通常の2D画像です。
膀胱・前立腺を側面で観察した所見です。
この患者さんは国立病院で前立腺肥大症用の尿道ステントを留置しましたが、結局思うように排尿できず、尿路感染が取れず、ステントを留置したまま膀胱カテーテルを設置されたのです。
棒のように上から降りているのが、膀胱留置カテーテルの先端部です。
その下に白い塊は膀胱内にできた膀胱結石です。高橋クリニックに来院当初から結石は認めています。
何でしょう?
回答は、ここをご覧下さい。
【実例】
77歳男性の前立腺肥大症の2D画像です。前立腺の大きさは58cc(正常25cc以下)とかなり大きな前立腺肥大症です。
3D正面画像です。
盛上がっていて、どこに膀胱出口があるのか分かりにくいですね。
まるでバラの花のようです。何重にも重なっているシワは、肉柱といって膀胱平滑筋の肥大した束です。排尿障害が強く病歴が長いと、このシワが形成されます。
上図の3D画像からゲイン(感度)を下げると、表層粘膜の表情が透けて、深部の組織(筋肉・靭帯)が描出されます。
するとナルトのような渦状の膀胱出口が確認できます。
3D背面画像では、前立腺組織は透けて、膀胱出口の厚くなった膀胱平滑筋が確認できます。
前立腺肥大症の大きさで医師は排尿障害を推測します。しかし実は、この膀胱平滑筋の厚さが排尿障害の原因かもしれません。
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