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前立腺癌の分類 グリソン分類

S07985091f002前立腺ガンの分類はいくつか存在します。
細胞の悪性度を観察して、高分化型、中等度分化型、低分化型の3タイプに分ける方法が昔からありました。
しかし、必ずしも臨床の悪性度と一致するわけではなかったので、今回紹介するグリソンGleason分類が一般的です。

前立腺ガンの疑いがある患者さんは、来院した時点ではガンの浸潤も転移も分かりません。しかし、前立腺針生検で、それが予測できれば治療に多大に貢献してくれます。それが、グリソン・スコアです。

まず採取した前立腺組織の細胞の悪性度と組織の異常さから、次の5つに分類します。
【グリソンgrade1】ガン細胞を認めるが、前立腺本来の姿に近い組織構造をしている(図の①とB)
【グリソンgrade2】上記とほとんど同じだが、腺構造(腺房)が不均一である(図の②とC)
【グリソンgrade3】腺房が変形し、腺構造のガン細胞の層が厚くなっている(図の③とD)
【グリソンgrade4】腺房の変形が進み、ふるい(篩)構造に見える(図の④とE)
【グリソンgrade5】腺房構造が消失し、全面ガン細胞だけである(図の⑤とF)

針生検で採取した前立腺組織を観察し、このグリソンgradeで分類します。しかし、組織の中は一つのGradeで均一とは限りません。そこで、一番多いGradeと2番目に多いGradeとを併記し、そのGradeを加算してグリソン・スコアとします。
例えば、組織の検査したら、どこを見てもグリソンgrade2しか観察できなければ、【2+2=4】となり、グリソン・スコア4点になります。
例えば、一番多いのがグリソンgrade2でしたが、2番目に多かったのがグリソンgrade4だとすれば、【2+4=6】となり、グリソン・スコア6点になります。グレソン・スコア4点と6点とでは、グリソン・スコア6点の患者さんの方が、臨床上悪性度が高い(予後が悪い)と予測します・
この算出法では、スコアは最低で2点から最高点10点で分類できます。このスコアと臨床経過の予後が一致傾向にあるので、臨床に多く使用されています。

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前立腺癌の潜在率?

昨年暮れ、都内の泌尿器科医のクローズの食事会があり、私の1年後輩の和田鉄郎先生(現在、慈恵医大助教授)と久しぶりに話す機会がありました。
彼の研究テーマは前立腺ラテント癌についてです。ラテント癌とは潜伏癌のこと云います。他の病気が原因で亡くなられた方を病理学的調査をおこなってみると、相当数の前立腺潜伏癌が見つかったという研究です。
現在の前立腺癌の早期発見の状況について疑問を投げかける研究結果でしたので、皆さんにご披露しましょう。
(和田先生には許可を得ています。)

 

【最近の日本人の前立腺潜伏癌(ラテント癌)の臨床病理学的検討】
(日本泌尿器科学会誌78卷12号1987年)
Latentpcawada私の出身大学の病院で、2年間に不幸にも病気で亡くなられ、医学研究のため献体下さったご遺体で、解剖検査を行なった男性283人の前立腺病理学的精密検査を行なった前立腺潜伏癌の結果です。
亡くなられた原因である病気に、前立腺癌は含まれていません。
この研究は、彼がコツコツと地道な努力で得られたとても価値ある結果です。
大学で臨床ばかり行なっていて勉強や研究をおろそかにしていた私としては、とても頭が下がる思いです。
さて、この研究の結果、和田先生は現在の前立腺癌増加の理由について、(一般の泌尿器科医が信じて疑わない、PSA検査などの前立腺腫瘍マーカーの信頼性と前立腺癌の発見について)疑問を感じたそうです。

 

Latentpcawada2この表で示すように、80歳以上の男性では、50%の人に前立腺癌(潜伏癌)が存在していることが判明したのです。
40歳以上で前立腺癌の存在率は、何と24.2%です。今回の調べた男性が極々標準の人だと仮定すると、40歳以上の男性5人に1人以上の確率で前立腺癌が存在することになります。
50歳以上では、26.5%です。4人に1人以上です。これは恐るべき数字です。私は今年で55歳になりますから、このデータは人ごとではありません。
 
S07985090f007人間ドックや健康診断の際に、前立腺癌検診を50歳以上から勧められています。
通常、PSAという前立腺癌腫瘍マーカーの血液検査です。
しかし、50歳以上の男性でPSA検査陽性率が25%というのは聞いたことがありません。
Nlpcaそうなのです。前立腺ガンを的確に判断できる究極の血液検査であるPSAといえども、ラテント癌に関しては、陽性率はおそらく20%以下でしょう。当るも八卦当らぬも八卦の50%を下回ることになります。また、PSAは排尿障害で容易に高くなりますから、前立腺肥大症でPSAが高くなった患者さんで組織検査したら、たまたまラテント癌が見つかることがあります。
主治医は「さすがPSA!」とPSAに対して絶大な信頼を置くことになり、前立腺肥大症=排尿障害=PSA上昇をすっかり忘れ、PSAの信奉者になります。ラテント癌は放置しても良い可能性の癌ですが、一度見つかってしまったら鬼の首を取った如く、泌尿器科医は積極的な余分な抗がん治療を行なうでしょう。放置しても問題ないガンであれば、予後が良いのは当たり前で、無駄な抗がん治療を受けながら主治医に感謝することになります。
逆に私のような考えでラテント癌を放置したとすれば、常識的な泌尿器科医(PSA信奉者)からは非難轟々でしょう。真実は必ずしも受け入れられないのです。無知が幸せということもあります。

 

2009年12月に、この考え方を中心にある講演会で発表しました。興味のある方はご覧下さい。

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