フリバスとハルナールとユリーフ
前立腺肥大症の排尿障害治療薬であるα-ブロッカー(アルファ受容体阻害剤)は、各社様々な同系統の薬剤を製造しています。
一番新しく発売されたのがユリーフ(キッセイ薬品)です。
この種の初めての薬として発売されたのがハルナール(アステラス製薬)です。現在ジェネリック医薬品としてたくさん発売されているのが、このハルナールのゾロ(ジェネリックの別称、後から後からマネをしてゾロゾロ出現するので)です。
同じアルファ受容体でも様々なサブタイプがあり、チョッと異なるアルファ受容体に効くのがフリバス(旭化成)です。
ユリーフとハルナールはアルファ1A阻害剤です。特にユリーフはアルファ1A選択性が高いのが売りです。
フリバスはアルファ1D阻害剤です。前立腺にはアルファ1A優位の男性とアルファ1D優位の男性に2分されます。ですからユリーフとハルナールが効かなかった患者さんが、フリバスがよく効いたということもあるのです。同じアルファ-ブロッカーでも同じではないということに注意する必要があります。
さてここで、なぜアルファ1受容体(レセプター)のサブタイプについて、細かく解説したのかというと、アルファ1D受容体の組織分布に興味がわいたからです。1Aも1Dも前立腺に同等に分布しているのですが、1D受容体は、膀胱にも多く分布していることが分かったのです。1A受容体は膀胱にわずかしか分布していません。
以前から解説しているように、前立腺肥大症の頻尿や慢性前立腺炎の会陰部痛・尿道痛は、膀胱刺激症状の別の顔と考えることができます。排尿障害で敏感になった膀胱や膀胱三角部を落着かせれば、頻尿や関連痛がおさまると考えられませんか?
実際、一番新しいユリーフは、1A受容体を特異的に阻害して、排尿障害を改善させますが、夜間頻尿などの膀胱刺激症状は回数的に減りません。
ハルナールは、1A受容体の他に1D受容体もわずかに阻害するので、膀胱刺激症状である夜間頻尿にも効果があります。ですから慢性前立腺炎の関連痛にも効果があるのです。
フリバスは夜間頻尿に優位に効果があることから、膀胱に分布の多い1D受容体に効果が期待でき、慢性前立腺炎の関連痛に期待が大です。
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アルファ1受容体選択性 α1A α1D
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ユリーフ ++++ -
ハルナール +++ +
フリバス - +++
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純粋に前立腺肥大症の排尿障害症状だけであれば、ユリーフが良いでしょう。ただし、逆向性射精という合併症が高頻度で出現します。薬を中止すれば元に戻る一時的な現象ですから、心配入りません。
排尿障害と夜間頻尿の両方の悩みであれば、ハルナールがよいでしょう。
排尿障害はそれ程苦でもなく、夜間頻尿などの膀胱刺激症状が主体であれば、フリバスがよいでしょう。
同じような薬でも、このように細かく使い分けることができます。
【文献的考察】
【1】α受容体サブタイプの無常
(資料:The Journal of Urology vol.167,1513-1521,2002)
ここに興味ある文献を入手したのでご紹介します。
ネズミを使った基礎実験タです。下部尿路閉塞(排尿障害)を手術で人工的に作ったネズミ6匹の膀胱(赤い棒グラフ)と手術はしたが排尿障害を作らない正常に近いネズミ4匹の膀胱(斜線の棒グラフ)を採取して、そのα1受容体のサブタイプの量(メッセンジャーRNA量として)を比較した実験です。
実験結果では、排尿障害を作ったネズミの膀胱では、α1Aサブタイプに関しては、正常膀胱よりも量が減り、逆にα1Dサブタイプでは正常膀胱よりも量が増えたのです。
ネズミの実験ですから、100%人間に当てはまるか分かりませんが、少なくともα1受容体サブタイプは、病気(排尿障害)に応じてかなりダイナミックな動きがあることが示唆されます。
排尿障害の初期は、α1Aブロッカーが効いても、経過が長いとα1D受容体が増加してα1Aブロッカーが効かなくなる可能性もある訳です。その場合α1Dブロッカーが効くようになるのかも知れません。
この実験の逆で、α1D受容体優位の患者さんが、治療経過中にα1A優位になる可能性もあるかも知れません。
【2】α1受容体の姿
(資料:The Journal of Urology vol.160,937-943,1998)
排尿障害の治療薬がαブロッカーでα1受容体(レセプター)を阻害(ブロック)していると解説されても、α1受容体の姿を見たことがないので、絵空事のように思えて仕方がないのは私だけではないでしょう。
そこで、α1受容体の姿をお見せしましょう。
図の中で緑の部分が細胞膜です。細胞膜を境に上が細胞外、下が細胞内です。細胞膜を何度も貫いて蛇のようにクネクネと蛇行した構造がα1受容体のタンパク質です。タンパク質ですからアミノ酸の鎖のような構造になっています。
部分的に赤く太く示している部分が、サブタイプの部分になります。ご覧の様にサブタイプとは、α1受容体のパーツに過ぎません。パーツなのですが、生体の中では不思議なことに一定のパーツだけが機能している状況になっています。
細胞内の奥深い所にあるのが、α1Aサブタイプです。
細胞膜を何度も交差している部分が、α1Bサブタイプです。
α1受容体の真ん中に位置している部分が、α1Dサブタイプです。
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