メール相談 前立腺肥大症編#2
「前略
初めてお便りさせて頂きます。
私は現在○○○○に長期在住の57歳の日本人男性です。 約3年程前にここで中等度(moderate)のBPHと診断されました。 それ以降 saw palmetto などの市販の薬を常用して来ましたが、BPHの症状は徐々に進行している様で外科治療を受けたいと思っています。
インターネットなどで調べた文献や比較試験の結果を見ますと、私はレーザー治療などの新療法を受けたいと思っています。今でも主流のTURP療法はリスクが高すぎる様で受けるのは躊躇します。 ここ○○○○では、TURP療法や薬物療法(Alpha-blocker等)は可能ですが、レーザーや高温度による治療は未だ行われておりません。 それで今月又は来月、一時帰国してこの様な新療法を受けたいと思っております。 先生のクリニックは、レーザー療法を提供出来るクリニックとしてインターネットで検索いたしました。 このメールは、帰国する事を決める前に、先生に治療に関して四つ程質問がありますので書かせていただきました。
1.手術前の検査で中等度のBPHが確認され、他の基本条件が揃えば、患者の選択肢としてレーザー療法を受けられますか?
2.費用は大体はどれほどですか?(私は、現在日本の健康保険に入ってないので全額実費となります。)
3.手術後の経過が良好であれば、何日くらい日本に滞在する必要がありますか?(日本滞在中は○○○○がベースになります。)
4.手術の予約は私の意思決定後、何日くらいで出来ますか?
お忙しい中申し訳ございませんがご返事を宜しくお願いいたします。 草々 ○○○○」
【解説】
1.手術前の検査で中等度のBPHが確認され、他の基本条件が揃えば、患者の選択肢としてレーザー療法を受けられますか?
もちろんOKです。しかしレーザー手術はTUR-Pに比べてとても大雑把な手術になります。レーザー光線が光なのでどこまで組織内に浸潤しているかは把握できないからです。TUR-Pの電気メスの場合は、切除したところが明確に把握できます。レーザー手術の欠点を補うために、私はレーザー手術とTUR-Pの併用で行っています。
2.費用は大体はどれほどですか?(私は、現在日本の健康保険に入ってないので全額実費となります。)
保険が利かなければ、約20万円になります。
3.手術後の経過が良好であれば、何日くらい日本に滞在する必要がありますか?(日本滞在中は○○○○がベースになります。)
一週間です。
4.手術の予約は私の意思決定後、何日くらいで出来ますか?
手術の予約が1ヶ月先まで埋まっていますので、意思決定からというと1ヶ月先になり現実的には難しいですね。
「高橋先生
さっそくのご返事大変に感謝しております。
ご返事の内容は良く理解致しましたが、一つだけ補足質問がございます。 先生の治療では、レーザー療法とTUR-Pを併用すると言うお話でしたが、TUR-Pのみの療法では、色々の副作用が出るとの事、数種類の文献で読みました。 特に心配なのは、インポテンツ(文献によりますが13%位)と無精子射精(同30%-40%位)です。 又TUR-Pは術後の合併症の確率が高いとも読みました。 先生が併用なされるTUR-Pも同様のリスクがあると考えるべきでしょうか?
ご返事を宜しくお願いいたします。 ○○○○」
【解説】
インポテンツ(文献によりますが13%位)
電気メスを使用したTUR-Pで、大きな前立腺肥大症を時間を掛けて延々と手術をすれば、勃起神経を電気メスの高周波で何べんも暴露するのでED(インポテンス)になる可能性は高いのです。例えば、40ccの容積の前立腺肥大症を全部残らず電気メスで削ろうとすると、熟練の泌尿器科医で急いでも約40分以上かかります。その間、電気メスを持続的に使い続けるのです。これで勃起神経が無事である訳がありません。
しかし、この患者さんの前立腺容積が30ccの時には排尿障害がなかったと考えれば、10ccだけ削って上げれば済むのです。それも同じ時間をかけて電気暴露を間歇的に行うような削り方をすれば、勃起神経の負担ははるかに少なくなるのです。私はレーザー光線で大雑把に前立腺肥大症を蒸発させ、後はTUR-Pで排尿しやすいように細かく成形するので、電気暴露はとても少なくて済みます。
無精子射精(同30%-40%位)
これは「逆行性射精」のことをおっしゃっているのでしょう。尿路を圧迫している前立腺組織を十分に切除すると、精液の噴出する精丘が尿道口向きから膀胱向きになってしまいます。この時には射精感はあるのですが、精液が膀胱に流れてしまい、尿道口からは出てこなくなるのです。これを「逆行性射精」と呼びます。逆行性射精が合併症として出てしまったということは、逆に言えば排尿障害が改善されたともいえるのです。TUR-Pの場合、ミリ単位のギリギリまで切除することができるので、このような合併症が生じます。逆にレーザー手術の場合は、1cm単位の手術ですからこのような合併症が起こりにくく、その分、排尿障害も改善しにくいといえます。
TUR-Pは術後の合併症の確率が高い
TUR-Pは細かい手術なので、細かいなりの合併症があり、レーザー手術は大雑把な手術なので、大雑把なりの合併症があります。レーザー手術で多い合併症が、手術後の膀胱頚部硬化症と術後の大出血です。それと時間が経過してからの前立腺被膜の穿孔(穴が開くこと)です。手術直後はどこまで熱が浸透しているか分からないからです。以上のようにレーザー手術にもTUR-Pにもそれぞれ長所・短所が存在していますから、それらを組み合わせて行う手術を私は行っているのです。
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