小さな前立腺肥大症?
前立腺が大きくなければ前立腺肥大症といわないと誤解している医師の何と多いことか!専門の泌尿器科医でさえ、そのように誤解しているばか者がいるので嘆かわしい限りです。癌の診断や治療に長けていても、基本的な病気である前立腺肥大症をも十分に理解していないのであれば、癌の専門家といっても高が知れている思うのは私だけでしょうか?
さて、前立腺肥大症が大きくないと、排尿障害などの症状があっても慢性前立腺炎や神経性頻尿などの汚名?(病名)をつけられてそのまま放置されてしまうケースがよくあります。ハッキリ言って誤診です。
今回、実例としてあげるのは、63歳の男性患者さんです。福島県在住の方で、平成7年に膀胱腫瘍で内視鏡手術をしてから、平成8年・9年・11年・13年と4回も膀胱腫瘍再発のために内視鏡手術を行っています。
平成7年の最初の手術を行ってから、排尿障害と頻尿を訴えていますが、慢性前立腺炎と診断されて抗生剤と漢方薬を処方されるのみで、一向に治りません。
何とかしようとインターネットで高橋クリニックを見つけ、わざわざ東京までいらっしゃいました。
様々な検査で排尿障害を確認して膀胱頚部硬化症と診断しました。ハルナールというα-ブロッカーを処方しましたら、排尿障害は改善しましたが、ご本人が手術を強く希望されたので、日を改めて手術になりました。
超音波エコー検査では前立腺の大きさは11ccで前立腺容量としては小さい方です。この所見だけからは前立腺肥大症は否定的です。
尿流量測定ウロフロメトリー検査では、ご覧のように勢いのないギザギザ山の曲線です。明らかな排尿障害曲線のグラフです。この後の残尿量測定検査では、残尿が27ml確認されました。
手術直前の内視鏡所見です。前立腺中葉肥大が特徴的に認めます。膀胱頚部硬化症でも認められるbar inn the sky 柵形成所見を認めます。6時の位置に前立腺中葉が迫り出していて尿路を狭くしています。この膀胱出口の広さは3mm×2mm程度です。前立腺そのものが全体的に大きくなくても、このように効率的に尿路を狭くするタイプの前立腺肥大症があることに医師は注意が必要です。
蛇足ながら、膀胱内には膀胱腫瘍の再発は認められませんでした。
前立腺部尿道が1.5cmにわたって不完全に閉塞された所見です。左右から迫り出しているのが前立腺の左葉と右葉です。
手術後に、上記と同じ位置から膀胱を覗いた所見です。尿路を邪魔する前立腺はなくなりました。手術後が楽しみです。
結果的に、次のように考察できます。今まで5回もの膀胱腫瘍内視鏡手術にあたって、前立腺中葉肥大型の所見が見えていた筈です。しかるに主治医は膀胱腫瘍のみに目が奪われ、前立腺肥大症を見逃していたのでしょう。患者さんは排尿障害を強く訴えていたのに慢性前立腺炎という診断で誤魔化していたと思われても仕方がありません。
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